犬のかたちをしているもの の商品レビュー
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レコメンドしてもらったので読んでみた。セックス、出産、社会での立場などを通じて男女間の性差についてじわじわと炙り出していく物語でオモシロかった。 男性の立場で読むと胸が痛いというか、子どものことについて決定権を持っているのは多くの場合女性であり、それに対して男性はあまりに無力かつ無知。また、その苦労を理解していないがゆえに身勝手な行動を取る生き物なのだということもわかる。また女性間での「子どもを産むこと」への認識の違いや子供がいる人生/いない人生、その確率の話など知らないことも多かった。これを「知らないこと」と片付けている、その姿勢へのカウンターが本著の果たす役割だと思う。仮に「子どもが欲しい」と男性が主張しても実際に生まれるまでに献身、思考しなければならないのは女性であり、社会の仕組みとしてもフォローしてもらえるようになっていない。この非対称性についてどこまで意識的でいられるのかを読んでいるあいだ延々と問われているように感じた。 一番痛烈だなと思ったのは以下のライン。社会において「子どもを持つ親」という立場が果たす無双さとその残酷さが表現されていた。これだけ見ると何を言いたいのか分からないと思うけど読後に読むとエッセンスが凝縮されているように感じた。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------- わたしのほしいものは、子どもの形をしている。けど、子どもではない。子どもじゃないのに、その子の中に全部入ってる。*
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分からない、分からない、分かる、分かる、分かる、分からない、って感じで、展開意味わからなすぎたけど薫に死ぬほど共感してる自分がいた。分かりすぎて何回か泣きそうになった。 都会に憧れ田舎に帰りたくはないけど、故郷の家族を人並み以上に愛している。「子供」の話が出て、浮かんでくるのは親...
分からない、分からない、分かる、分かる、分かる、分からない、って感じで、展開意味わからなすぎたけど薫に死ぬほど共感してる自分がいた。分かりすぎて何回か泣きそうになった。 都会に憧れ田舎に帰りたくはないけど、故郷の家族を人並み以上に愛している。「子供」の話が出て、浮かんでくるのは親や祖母の喜ぶ顔で、自分の存在意義とまではいかないけど、自分が上の世代の人にできることは子供を産んで新しい世代を育んでいくことだって本気で思ってる。 どうすれば飼い犬のロクジロウを無条件で愛せたように、子供を、恋人を愛せるんだろう、と真剣に考える「わたし」。自分の中にある無償の愛にすでに気付いているぶん、そんなのは未来永劫無理なんじゃないかっていうところまできてる。 昔卵巣の手術をして「子供を産む」というレールから外れた自分にどんな価値があるんだろう。恋人の郁也は可哀想な私だから一緒にいてくれているんじゃ。主人公がいろいろ考えて考えて考えてるのに、自分から出る言葉とかリアクションとかって案外普通で。自分を大事にしたいのか、家族を大事にしたいのか、目の前の人を大事にしたいのか、分からなくなる。そういうのがすごく分かりやすく描かれてて、読みやすくて、だから泣けた。 なんでこんなに共感できるのかって思ったら、高瀬さんも愛媛出身の大学からの上京組だった。選択肢がありすぎて、困る。何を大切にすればいいのか、天秤にかけなくていいはずのものたちを天秤にかけなくちゃいけない。決められないままダラダラ生きてて、女だから結婚して子供産んで、っていうルートがチラつく。他人の子供より犬の方が可愛い、と思うことは悪ではないはずなのに、薫が先輩にラインでそれを送ってしまった時にヒヤヒヤしてしまった。差はないはずなのに、子供と犬を一緒にしちゃいけない気がする。出産って結婚って、愛って、人生ってなんだろう。 すぐ読めちゃう簡単な文章なのに、自分の人生についてすごく考えてしまった。また読みたい。
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で、どうなるの、どうするの?と自分の娘世代を心配しつつ、どんどんお話に引き込まれていくのだけれども、ちょっと設定が不自然で、でも小説だからどう設定しようが自由な訳で、で、その結論なの、それもかまわないけど、と個人的にはストーリーに不満はありますが、文章も上手でできのよい小説だと思...
で、どうなるの、どうするの?と自分の娘世代を心配しつつ、どんどんお話に引き込まれていくのだけれども、ちょっと設定が不自然で、でも小説だからどう設定しようが自由な訳で、で、その結論なの、それもかまわないけど、と個人的にはストーリーに不満はありますが、文章も上手でできのよい小説だと思います。
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すっごい面白かった!! 正直、あらすじを知ったときは、ふーん、という感じだったけれど、読み出してみれば、ほぼ一気読み。(途中で来客があった) ……………………………………………………… 主人公の間橋薫は同棲中の恋人田中郁也とセックスレス。 実は薫は、セックスが苦手で、恋人ができてもしばらくするとしなくなってしまう。 それでもいい、と、言ってくれている郁也と長く恋人関係を続けていた薫だったが、ある日郁也にドトールに呼び出される。 そこにはミナシロさんという女性が一緒にいて、彼女は郁也の子を妊娠していた。 そしてこう言う。 「間橋さんが育ててくれませんか、田中くんと一緒に。つまり、子ども、もらってくれませんか?」 ………………………………………………………… 素っ頓狂なお願いから幕を開けるこの小説。 もしかしたら、主要登場人物みんなに嫌悪感を覚える人もいるかもしれない。 まるで、犬の子を里親に出すように人間の子を扱っているように見える。 知人に、子供はかわいいよ、と言われたことがある。 猫みたいに?と、聞いたら、それより、何倍も。と答えられて、私は、わかんないな、と、思った。 近所の同級生の女性が子供を産み育てている。 その子は大の猫好きだったのだが、子供が生まれてから子供が一番になっちゃった、と、そう話してくれた。 わかんないな、と私は思った。 思えば、私にとって、他者の子供は、その他者自身に感情移入しないと「かわいい」に、ならないんだな。 子供そのものが、かわいいという感じではない。 この小説の主人公薫も、子供より犬の方がかわいい、と思っている。 その薫が、どういう結論を出すのだろう、と、気になって気になって。 ラストのミナシロさんの思いも、薫の決意も、なんか分かるような気がする。 世間の常識からすると不自然な展開のように思えるのに、何となく自然に思えてくる高瀬さんの手腕は確かに素晴らしい。 子供を産むことの出来る性として、生れついた人間なら、思うことがあると思う。 文庫の帯で優しく微笑む高瀬さんに感謝。 この感想を書いたら、奥泉光さんの解説と皆さんのレビューを読みにいきます。←引きずられるので我慢していた。 楽しみ!
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すごい、これは、「BOOK OF THE YEAR2022」ノミネートだ! …いい! もう最初っからぐいぐい持っていかれっぱなしで、通勤電車を降りたくなかったくらい! 以前読んだ高瀬さんの作品『水たまりで息をする』より全然いい! 『水たまりで息をする』は、もっと夫に壊れてほしい...
すごい、これは、「BOOK OF THE YEAR2022」ノミネートだ! …いい! もう最初っからぐいぐい持っていかれっぱなしで、通勤電車を降りたくなかったくらい! 以前読んだ高瀬さんの作品『水たまりで息をする』より全然いい! 『水たまりで息をする』は、もっと夫に壊れてほしいと、少し欲求不満に終わってしまったんだった。だけど、この2作品には共通点もあって。 いずれも、”主人公がマトモで、そのマトモな主人公のもとに訪れる不穏でリアルな日常”がテーマとなっている。 この「マトモ」って部分を少し考えてみたのだけれど。 解説ではP150「『わたし』が読者と等身大の、リアリズム小説の主人公にふさわしい、『平凡』な人物であるところに本小説の力動点はあるのだ」 としていて、あくまでこの主人公に対して、P148「『わたし』は平凡、とはいえぬまでも、常識的な人物として造形されている」と描かれている。 確かにそうだ。でも、どうなんだろう。この主人公「わたし」は常識的な考え方なんだろうか。個人的には、現実から少し距離をとっている人物と思ったのだけれど、どうなんだろう。 少なくとも、『水たまりで息をする』よりも。 この「わたし」の人物像を表現するならば、普段は隠し持ってる、護身用のナイフのようなもの。 わたしの場合、その護身用ナイフを常に振りかざしちゃってるので、たぶんマトモをこじらせちゃっているばかりか、逆に無防備になっているのだけれど。 当所人物が要所要所で吐き出す言葉には、悪意ではない、毒のある本音があって、これはたぶん誰しも抱えてて、でもそれは普段はしまわれてて、それを登場人物に言わせてる。 特にそのしまわれてるものの塊が、ミナシロさんの存在だ。 なぜかわたしの頭の中で、ぶっ飛んでた元同僚のイメージとぴたりと重なってしまって、その後も訂正することなく、そのまま読みすすめた。 『犬のかたちをしているもの』 このタイトルから、誰がこんな内容だと推測できただろう。 川上未映子さんの『夏物語』の時に考えた「産む、産まない問題」が再浮上してきて、またわたしの中をぐるぐると駆け回る。 自分の中に渦巻く、「こう思ってるけど、こんなこと思ってちゃいけない」というのを、その目線で語る主人公。 一方ミナシロさんは「こんなこと思ってるとやばいと思われるかもしれないけど私はこう思う」ってしれっと人に言えちゃう人で、その対比がとにかく面白い。 このミナシロさんの存在によって、ちょっと現実から距離を置いてるように見える主人公が「マトモ」に見えるのだ。 真面目に生きてると言えなくなるいくつかのこと。 だけどそれを閉じ込めてると苦しくて、でも飼い慣らすこともできない。 そんな感情の持っていきどころを、ミナシロさんが全部抱えていて、嫌な役割を背負わされてる。でもそれも、生きてる人間である以上、感じることであって、否定できない負の感情。見逃すと余計に苦しくなる。 やっぱり小説っていいね。 なんで自分がこんなに小説が好きで、小説を読み続けているのか、わかった気がする。
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物語としては、‘普通’は悩んで、展開していって解決に導かれるが、この小説の主人公は流されていく。ただ流されている訳ではなく、自分で思考しているのに流されていく。それがとてもリアルな人間に感じられる。だから、不妊の女性という自分からかけ離れた存在なのに近くに感じられた。
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初っ端から展開がめちゃくちゃ重いのにさらさらと流れていく、読み終わったらずっと残る感じ。私だったらどうするだろう。きっとこれは、まさに今ノンフィクションでもあるんだろうなんて考えたりした。主人公が思う全ての重みまでは分からないけど、どうしたってあの、他人の子どもが可愛いと思えない...
初っ端から展開がめちゃくちゃ重いのにさらさらと流れていく、読み終わったらずっと残る感じ。私だったらどうするだろう。きっとこれは、まさに今ノンフィクションでもあるんだろうなんて考えたりした。主人公が思う全ての重みまでは分からないけど、どうしたってあの、他人の子どもが可愛いと思えない犬の方が可愛いと思う感情と、それだけで成り立つ会話が受け入れられない、違和感。きっと変わってるだなんて一言で遠ざけられるんだろうけど、こんな感情だって当たり前のことで。誰彼構わず子供が可愛いと思う人とそうでない人がいて当たり前だ。あの違和感というかむかつきは、あ、そういうことねってなんか今、私にも腑に落ちた気がする。それをこんなに側からみたら人生の絶望に近い出来事をさらりと、でも丁寧に書きあげているこの作品は他にない。誰にもおすすめできない、けど私自身にはこの先もおすすめしたい。
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興味を持つ前にただ風景として受け流していく 卵管と大腸が癒着してしまっていると言われた 全部、「それで良いの?」という言葉に行き着く為の思考だ。クリア、という言葉が頭の中に浮かぶ。 覚醒と地続きになったような微睡だった 実家の納屋で干涸びて死んでいた蝙蝠に似ている そこには何のリ...
興味を持つ前にただ風景として受け流していく 卵管と大腸が癒着してしまっていると言われた 全部、「それで良いの?」という言葉に行き着く為の思考だ。クリア、という言葉が頭の中に浮かぶ。 覚醒と地続きになったような微睡だった 実家の納屋で干涸びて死んでいた蝙蝠に似ている そこには何のリアルもない。血を出したことがない人間の発想だと思った。 彼等の期待値と私の理想値はいつだって似通っている 己の思考や心の動きを描出する言葉の質の良さで 金銭の授受を媒介にしたセックスをした結果 一蹴して然るべきと判定 奇矯な人間 殊更に意識しない観念を批判し批評するのが それはリアリズムの結構を支えるだけの上質な言葉 完結への不満は逆にテクストがスリリングである事の証で有り得る
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自分も元々赤ちゃん、子供が苦手。 子供の写真見てもかわいい〜♡とは思わないし、結婚していつか授かれたとしてもちゃんと子育てできるか分からない。1人だったら育児放棄してしまうもしれない。それより犬の方が何倍も可愛く思える。 こういう人なので、主人公にとても共感して、他にも同じような...
自分も元々赤ちゃん、子供が苦手。 子供の写真見てもかわいい〜♡とは思わないし、結婚していつか授かれたとしてもちゃんと子育てできるか分からない。1人だったら育児放棄してしまうもしれない。それより犬の方が何倍も可愛く思える。 こういう人なので、主人公にとても共感して、他にも同じような人がいるんだって少し仲間意識を持った。 死んだ愛犬を思い出して必死に涙を堪えながら読んだ。 重いテーマだけど、水のような文章でさらさらと、でも噛み締めながら読みました。 愛とはどんなかたちだろうと考えさせられる本でした。 p38抜粋 この子が助かるならなんでもするのに、っていう祈り。この子が幸せでありますように、この子を幸せにできますように、幸せにしなくちゃ、なにがなんでも、っていう覚悟みたいな決意みたいな。 自分にはなにも返ってこなくていいから、この子にいつもいいものがありますように。気になるにおいのする電柱や、草の間から飛び出してくるバッタ、飛び込みたくなる大きな水たまりのようなものが。 雨の日よりも晴れの日が多くありますように。こわい夢を見ませんように。おいしいものが食べられますように。時々わたしのことを考えてくれますように。でも考えなくても、いいよ。そんな気持ち。 p118 子供を持ったら、世界はわたしに優しくなるかしら。
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淡々とした語り口だけどどぎつい状況 郁也お前なぁ。。。。 と思うww 主人公のクールさの意味も後半見えてきて あぁ、受け入れるってこういうことなんだなぁ 中盤から動き出す人間性 まぁそうなるわなぁ~っていう展開は 読めました。 っていうかそう読まされたと思う。 だってあんな最...
淡々とした語り口だけどどぎつい状況 郁也お前なぁ。。。。 と思うww 主人公のクールさの意味も後半見えてきて あぁ、受け入れるってこういうことなんだなぁ 中盤から動き出す人間性 まぁそうなるわなぁ~っていう展開は 読めました。 っていうかそう読まされたと思う。 だってあんな最後になるんだもん!! 言葉を使う技術が半端ない 別の作品で直木賞?芥川?取るよなぁーと思いました。 綺麗な文章が多くて薄い本だけど 割に時間かけて読んだと思います。 ゆっくり読みにオススメ!
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