いずれすべては海の中に の商品レビュー
美しい表紙に惹かれた。 すでに読まれた方々の感想を覗き見ると、これは自分好みの本である気がする。 早速、図書館で予約。本書の到着を待つ間、同じ著者の「新しい時代への歌」を借りることができたので、そちらから読むことにする。結果、それがとても良かった。 本書は短編集だ。 タイトルを...
美しい表紙に惹かれた。 すでに読まれた方々の感想を覗き見ると、これは自分好みの本である気がする。 早速、図書館で予約。本書の到着を待つ間、同じ著者の「新しい時代への歌」を借りることができたので、そちらから読むことにする。結果、それがとても良かった。 本書は短編集だ。 タイトルを読む。まっさらな紙の上に、一筆一筆、鮮やかな色が載せられていき、物語の世界が少しずつ見えてくる。情景描写は多くないのに、気付けば確固たる映像が浮かんでいて、まるで映画を観ているようだ。次へ次へと夢中で読み進めているうちに、最終ページがやってくる。その繰り返し。 最後に本を閉じた時、良質で毛色の異なる短編映画を観た心地がした。すごい満足感。 読後感は各話で違うが、どれも心に残り、わたしはとても好きだった。 「新しい時代への歌」も含め、サラ・ピンスカー氏の描く世界と離れがたく、結局本屋で購入することにした。
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なんて言うか、もう、10冊分くらい読んだようなエネルギーを使いましたし、そのくらいの満足感に満ち満ちた読書でありました。 13篇収録。 話それぞれにみんな違ってみんな良い、想像力をフル稼働させないとあっという間に置いてけぼりにされそうな、とにかくひとつひとつの話にギュムッと想...
なんて言うか、もう、10冊分くらい読んだようなエネルギーを使いましたし、そのくらいの満足感に満ち満ちた読書でありました。 13篇収録。 話それぞれにみんな違ってみんな良い、想像力をフル稼働させないとあっという間に置いてけぼりにされそうな、とにかくひとつひとつの話にギュムッと想像の海が押し固められていて、その寒天状の海を分け入って分け入って、どうにかようやく理解が追いついた時にパァッと視界が開けるような、繰り返してばっかりですが、とにかく密度が高い一冊でありました。 以下、13篇全部の感想を書きたいのですが私の不徳の致すところ、ピックアップして記載致します。 《一筋に伸びる二車線のハイウェイ》…農場で働く21歳の〈アンディ〉は不慮の事故で右腕を喪ってしまう。目が覚めたときには、彼の腕は「ロボットアームで、頭にはインプラントが埋め込まれていた。」(p8)。痛みと発熱に耐えた後に彼が視たのは「自分の腕がハイウェイだという夢」(p13)だった。「アンディは道路になりたがっていた、というか、彼の右腕がなりたがっていた。」(同)のだ。どうです、訳わからんでしょう。そんな「道の手」(p16)と同居することになったアンディが過ごした青春のひととき。 これが出会い頭の一篇目ですよ。 《そしてわれらは暗闇の中》…捉えどころが少ない話。「夢のベビー」(p28ほか)、ひいては「わたしたちのベビー」(p36)を追い求めて海岸へ集まって来て「岩の上の子供たち」(p33)を見つめる人々。マスコミなどの好奇の目に晒されても飢えても屈せず、ただただ海の向こうに目をやる人々。〈わたし〉を含めたこれらの人々は、おそらく同性愛者のカップルであったり不妊に悩む夫婦であったり、何らかの事情で子宝と縁が結べないでいる人達であろうと推察できる。子どもを持ちたくても叶わない、そんな遣り場のない懊悩はまさしく闇の向こうを睨むかのよう。他者からすれば「集団幻覚」(p36)と映るかもしれないが、当事者からすればとにかく必死で懸命で、雑音に耳を傾けているゆとりなどない。 《深淵をあとに歓喜して》…老夫婦のあゆみと、増築だらけのツリーハウスが垣間見せる家族の断景。建築家として大成する事を志した夫が若かりし頃に子ども達の為にこさえた「蛍のようにちらちらと光る」(p148)ツリーハウスはまさに老いと共に薄れゆく記憶の象徴、そして諦めざるを得なかった夢を標する灯台のよう。夫が軍に属していた頃に設計した建物は人々が生き生きと暮らす街並みではなく、人を押し込めて望みを奪い去る「刑務所みたいなもの」(p145)だった。以来、固まってしまった夫の心をほぐしたのは妻が重ねた手だった。 《イッカク》…個人的に一番好きな話。疾走感と不思議。「クジラのシルバーブルーのボディはファイバーグラスのようだった。ステーションワゴンのシャーシに載っているらしく、幅広な後部から尾が弧を描いてはね上がっている。」(p331)とある通り、例えとかでなく本当にクジラの見た目の車に乗った、ヨガインストラクター風の女〈ダリア〉に助手として雇われたわたし〈リネット〉。女ふたりの奇妙な旅は目的もよくわからないまま、寂れた小さな町へ辿り着く。その町の博物館に展示されているジオラマにはなんとあのクジラの車が…!全体的に気怠い感じが漂いつつもどこかコミカルな一篇。ボタンを押したら車からツノが生えてきてイッカクになるシーンは笑っちゃった。読み返せどよくわからん、妙ちきりんな話。「事件」とはなんなのか。 拡がるイマジネーションの中へ。 これ以上難解だといよいよもって疲労と不完全燃焼感しか残らない気がするので、心地よい塩梅の作品集でしたね。 3刷 2024.10.24
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個人的に好きなのは「記憶が戻る日」「死者との対話」 読み終わってから改めてそれぞれの作品を見ると風景がブワッと浮かび上がってきてくれるような感覚がして どれも自分にとって面白い作品だったとはっきり言える本 普段本を読まなかったりこういう不思議な世界観っぽいのを説明もされずに飛...
個人的に好きなのは「記憶が戻る日」「死者との対話」 読み終わってから改めてそれぞれの作品を見ると風景がブワッと浮かび上がってきてくれるような感覚がして どれも自分にとって面白い作品だったとはっきり言える本 普段本を読まなかったりこういう不思議な世界観っぽいのを説明もされずに飛び込めるタイプじゃないとちょっと読むのは難航しそうかな
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完全にジャケ買いで中身をなんも気にせずに買ったら、異色短編集で、めんくらった。こういうことがあるからジャケ買いも面白い。13編の短編の方向性はてんでバラバラでTHEなSFもあれば、ミステリやサスペンスっぽさもあるし、近未来もあればがガチ未来もあるし、ロボット的な何かもあれば、ディ...
完全にジャケ買いで中身をなんも気にせずに買ったら、異色短編集で、めんくらった。こういうことがあるからジャケ買いも面白い。13編の短編の方向性はてんでバラバラでTHEなSFもあれば、ミステリやサスペンスっぽさもあるし、近未来もあればがガチ未来もあるし、ロボット的な何かもあれば、ディストピアっぽい世界もある。ただ、こう明るい未来という感じではなく、影やアンダーグランド方向な印象が残る。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
好きなYouTuberさんが「海外SF」として紹介していて、表紙も素敵だったので読んでみた。 作者がまさかのシンガーソングライター。音楽の話が多数あって嬉しかった。ラッキー。 1話目はなんだか気持ち悪かったけど、2話目からは大体ずっと好きな世界観だった。 そしてわれらは暗闇の中 記憶が戻る日 いずれすべては海の中に 深淵をあとに歓喜して 孤独な船乗りはだれ一人 風はさまよう オープン・ロードの聖母様 イッカク そして(Nマイナス1)人しかいなくなった が良かった。(ね、本当に大体全部でしょ。) すごく引き込まれて「で、どうなるの?どうなるの?」と思いながら最後まで読むと、これといって明確なオチがなくて、「…それで?」みたいな作品が多い印象。しかしそういう余白のあるラストは好みだし、そもそもラストまで引き込んでる時点で面白い。 最後の「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」も犯人わからずじまいで終わるのかと思いきや、判明したのでスッキリした。 昔、奥田民生がインタビューで 「人生に分岐点がとか言うじゃないですか、あのときああしてればとか、いまこっちとこっちがあってどうしようかなとか。絶対どっちでもいいと思うんですよ、その人はどっちいっても同じだったと思うんですよ。」 「『どっちの料理ショー』ぐらいのもんなのよ、人生も。あれこれ考えてるけど、なんかおもしろいことがあったときは、そのことを忘れて楽しいわけじゃないですか。だからたいしたことない、そんなことで忘れるぐらいだからたいしたことない料理ショーなわけですよ。」 と言っていて、励まされたのを覚えている。 が、この話はこの発言を覆すものではないだろうか笑 でも、この話の馬の件みたいに、あの時自分がしなかった選択をした別の自分がちゃんといるのなら、それはそれでまぁいいか、と考えることもできる。 考えもしなかったことを考えるきっかけになるよね、SFって。 そして本当、よく思いつくよね、設定。尊敬だわ。 根っからの音楽ファンなので音楽系の話は特に好き。「オープン・ロードの聖母様」はライブ行きたくなった。 「イッカク」誰か映像化してくんないかな。いいロードムービーになりそう。
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SFだけど登場人物の心情が丁寧に描かれているので、自分と関係のない世界の話という感じがしないのがよかったかな。
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本作は短編集だが、まずは収録作全般から受けた印象について述べる。 総じて、特殊な状況が前提として存在し、語り手は自明のこととして多くを語らないために、ぼんやりとして、歪んだレンズを通じて、その特殊性を掴み取ろうとするような読み方になる作品が多かった。すっと状況が飲み込める作品...
本作は短編集だが、まずは収録作全般から受けた印象について述べる。 総じて、特殊な状況が前提として存在し、語り手は自明のこととして多くを語らないために、ぼんやりとして、歪んだレンズを通じて、その特殊性を掴み取ろうとするような読み方になる作品が多かった。すっと状況が飲み込める作品は少なく、読者の側から歩み寄る必要がある。 また、百合(女性の女性に対する感情を扱った作品)として読めるものも、少なくない。 そこと絡めて、描きたい感情が主題としてあって、それを描いた後の、ストーリー的な帰結にはあまり興味がないように思われた。いわゆる、エピローグに当たる部分まで描くことなく、幕を引く作品の多い印象を受けた。 特に冒頭に収録された作品は、小洒落た言葉遊びが多く、それを翻訳でもどうにか残そうとしているように思われた。そうでない部分でも、言葉選びのセンスの良さは随所で感じることができた。 「深淵をあとに歓喜して」が最も好みだった。 コメントにて、それぞれの作品の感想を、簡単に記したいと思う。
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宇宙に旅立ち、持っていった人類の文明のデータが消えた後の世界、船内で音楽を演奏するグループに参加している女性の話が特に良かった。 過去の名曲を再現しようとしても過去の作品全ては拾えない。 今同じ時間に存在しているものにも思いを馳せたり、これから新たに作り出すことに勇気をもらえる話...
宇宙に旅立ち、持っていった人類の文明のデータが消えた後の世界、船内で音楽を演奏するグループに参加している女性の話が特に良かった。 過去の名曲を再現しようとしても過去の作品全ては拾えない。 今同じ時間に存在しているものにも思いを馳せたり、これから新たに作り出すことに勇気をもらえる話だった。 「風はさまよう」の他 クジラを運転して旅する「イッカク」 多元宇宙のサラ・ピンスカーが集うサラコンで起きた殺人事件「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」 夫婦間の謎を妻が理解し進む「新縁をあとに歓喜して」などが良かった。 寝る前に少しずつ細切れに読むと、数日後に話の内容が追えなくなり、何度も止まった…理解力の無さです…いくつか、また読みかえします。
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原題 SOONER OR LATER EVERYTHING FALLS INYO THE SEA 13の物語 静かな世界たちが入れ替わって浮かび上がってくる。 読み終えた世界は心の奥にしまうと同時に海の中へ戻っていく。 またね
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朝焼けを迎える宙なのか、それとも夕暮れに向かう海なのかー淡い彩色の装丁に包まれた物語の世界に浸ると空気の組成が少し変わり始める。忍び込んだ異質な空気が肺を満たすとき、追憶の中の未来-辿り着くことのない、いつかどこか-がゆらゆらと立ちのぼってくる。 それは旅先で目にした知らないはず...
朝焼けを迎える宙なのか、それとも夕暮れに向かう海なのかー淡い彩色の装丁に包まれた物語の世界に浸ると空気の組成が少し変わり始める。忍び込んだ異質な空気が肺を満たすとき、追憶の中の未来-辿り着くことのない、いつかどこか-がゆらゆらと立ちのぼってくる。 それは旅先で目にした知らないはずの風景に感じる懐かしさと、それと同時に決してその風景に含まれることはない哀しみにも似て、心をさざなみが通り過ぎていく。 失われたものへの哀惜と失ったものを語るときの優しさが、“今”を生きる真っ直ぐな力強さと溶け合って余韻を残す、美しい作品が集められた短編集だった。 『一筋に伸びる二車線のハイウェイ』 オートメーション化された大規模農場の傍らでオールドスタイルな農園を営むアンディは農機具の事故で片腕を失う。義手として最新鋭のロボットアームが取り付けられたのち、腕は、自分は遥か遠くコロラドに伸びる全長九十七キロのアスファルト道だと訴えてくる。 テクノロジーとアイデンティティの危機という古くからのモチーフを用いながら、ここでは生物/機械という断絶を超えて、アンディが夢見る腕に共感していく様子が描かれている。 道はー腕はー目的地を目指して移動する車を見送りながら、同じ場所に留まり続けている。山までずっと見通せるが辿り着かないハイウェイであることに満足している。 アンディもまた、恋人が大学へ行くのを見送り、故郷の小さな町の農場で暮らすことを選択する人間だ。結局のところアンディと道は、存在こそ違え似た魂を持っているのだ。 アンディが恋人のために入れたタトゥーの文字を書き換えるシーンが好きだ。 『オープン・ロードの聖母様』 オンボロバンでツアーを回る中年の女性パンクロッカー。時代が変わっても気骨と信念で吠える。ライブシーンの熱さ! “私たちは音楽だ。進みつづける“ 最高。
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