やまいだれの歌 の商品レビュー
貫多のクズっぷりにめちゃくちゃ笑ってしまった。 貫多は本当にどうしようもないのに、どこか憎めないところがあり、なぜか惹かれてしまう。 貫多はどうしようもない人間のままだし、作中で分かりやすい成長もしないが、そういうどうしようもなさすら、見つめ続けて誠実に書けば一つの作品として成...
貫多のクズっぷりにめちゃくちゃ笑ってしまった。 貫多は本当にどうしようもないのに、どこか憎めないところがあり、なぜか惹かれてしまう。 貫多はどうしようもない人間のままだし、作中で分かりやすい成長もしないが、そういうどうしようもなさすら、見つめ続けて誠実に書けば一つの作品として成立しうるんだなぁ。文学は幅広い。 巻末の「苦役列車」映画化の山下監督による解説もよかった。貫多が田中英光の私小説に救われたように、西村健太の私小説に救われる人もいるだろうなぁと思う。
Posted by
とっても面白かった。 「文学」の意味を改めて確認できるような作品だったと思います。 北町貫多版「こころ」みたいな雰囲気すらありました。 ほんとうによかった。 胸が締め付けられる思いです。
Posted by
体調不良になるとなぜか読みたくなる西村賢太作品。お決まりのパターンで、相変わらずのクズっぷりだが、新しい職場に馴染み始めて、新生活に希望を持つ姿にはどこか応援したくなる気持ちも感じさせる。
Posted by
横浜に移り住んだ貫多のあまりに痛すぎるストーリー。滅茶苦茶面白い、けれどページを捲るのが居た堪れるほどにイタイ、貫多の行状にどこか感情移入する自分がいるのが不思議である。
Posted by
故・西村賢太の長編。 西村自身をモチーフにした北町貫多が19歳の頃。西村自身が生きたのと同じ時代という設定なので、もはや40年近くも前。 携帯電話などほとんど普及しておらず、少子化も今ほど深刻ではなく、サラリーマンの夫と専業主婦の妻という夫婦に二人以上の子どもというのが「家族」の...
故・西村賢太の長編。 西村自身をモチーフにした北町貫多が19歳の頃。西村自身が生きたのと同じ時代という設定なので、もはや40年近くも前。 携帯電話などほとんど普及しておらず、少子化も今ほど深刻ではなく、サラリーマンの夫と専業主婦の妻という夫婦に二人以上の子どもというのが「家族」のイメージとして成立していた時代。そうした時代に、多くの人たちとは異なるところで生きることを余儀なくされた貫多。もはや、これは時代小説と言えるだろうか。
Posted by
安定の北町貫多シリーズ。相変わらず職と寝床を転々としていたが、本作では心機一転横浜桜木町へと住まいを移し、新たなスタートを切るが、いつもの癇癪で破綻のカタルシスを読者は味わうこととなる。 ただ一つ重要な点は、藤澤清造同様、師と仰ぐ田中英光の私小説との出会いがあり、人生の支えを得る...
安定の北町貫多シリーズ。相変わらず職と寝床を転々としていたが、本作では心機一転横浜桜木町へと住まいを移し、新たなスタートを切るが、いつもの癇癪で破綻のカタルシスを読者は味わうこととなる。 ただ一つ重要な点は、藤澤清造同様、師と仰ぐ田中英光の私小説との出会いがあり、人生の支えを得る点。 貫多は作中「これはどこまでも、その後に続く流れに、ただ身を委ねているより他はないのだ。(中略)陳腐な例えだが、流れているうちにはいつか掴まる枝もあろうし、浮かぶ瀬だってあるだろう、と云うやつだ。で、その時になって、実こそ自身の立て直し、新規蒔き直しのきっかけが何によっていたのかが、初めて判るものなのであろう。」と語っているが、田中英光とのこの時の出会いこそ正にそれであったのでしょう。
Posted by
本は好きだけど金も無く、同僚を見下し職場も上手くいかず、一方的な恋愛(風俗は好む)を押し付けるなど、プライドと閉塞感の塊のような貫太は中卒だった事もある自分には舞台が桜木町という事もあり他人とは思えぬ感情が湧き立つ。この卑小さをどう見るかで作品の捉え方が変わる、つまり読者の人生も...
本は好きだけど金も無く、同僚を見下し職場も上手くいかず、一方的な恋愛(風俗は好む)を押し付けるなど、プライドと閉塞感の塊のような貫太は中卒だった事もある自分には舞台が桜木町という事もあり他人とは思えぬ感情が湧き立つ。この卑小さをどう見るかで作品の捉え方が変わる、つまり読者の人生も問われていると言ったら大袈裟か。 作者の実体験なのかは分からないけど魂を切り売りしている様な文書には妖しい魅力が放たれていると思う。 解説も故人との悪い思い出が記されており、現代には珍しい破滅型の作家であるような気がしてならない。
Posted by
「告白(町田康)」の熊太郎、トリプルファイアーの吉田靖直、そして北町貫多。どうしようもない人たちにしか出せない魅力がある。 小心者なのにも関わらずプライドだけは人一倍高く、世間とモノの見方が若干ズレている。普段鬱憤を溜め込んでいる故に、お酒が入ると悉く失態を晒してしまう。 なん...
「告白(町田康)」の熊太郎、トリプルファイアーの吉田靖直、そして北町貫多。どうしようもない人たちにしか出せない魅力がある。 小心者なのにも関わらずプライドだけは人一倍高く、世間とモノの見方が若干ズレている。普段鬱憤を溜め込んでいる故に、お酒が入ると悉く失態を晒してしまう。 なんでこんなにもダメな人(自分はどうなのかは棚に上げて)に惹かれるんだろう…… 一つの理由は、やはり怖いもの見たさだと思う。 上で挙げていた人たちの動向を追っていると、ほぼほぼ「あぁダメだよ〜」と思う方向に行ってしまう。普段私はそんな状況は全力で避けているので、逆にそっちの方向にレールが行ってしまったらどうなるんだろうとエキサイトしながら読んでしまう。 もう一つは心の中に彼らと共通する部分を見出しているからなのかなと思う。 彼らが物語の中で対峙している(または迎合している)欲や無精さは、みんながそれぞれ持っていてるけど、理性であったり社会通念で無意識に蓋をしているモノなのかなと思う。彼らはそれらが原因で間違いを起こし、葛藤する。私はその葛藤の中にふと、グッと共感する瞬間を見つけることがあった。普段、私が無意識に抑えている感情を明け透けにしている彼らだからこそ、私は心の根っこに近い部分で共通したものを感じるんだと思う。 もっといろんな貫多を見てみたいなと思った。これから貫太シリーズを読み進めてみたいと思う。 めちゃくちゃ良かった!
Posted by
惨め 初読み賢太がこの作で好かったなと思へたのは、心底貫多の惨めな境遇に共感したからである。さすがにここまでの人間の屑、下等な片恋や妄想で目茶苦茶に人をこき下ろした事はないが、その心情は過去幾度となく味はった事がある。作中の田中英光の作のやうにどこか突き放した書きぶりで、滑稽さ...
惨め 初読み賢太がこの作で好かったなと思へたのは、心底貫多の惨めな境遇に共感したからである。さすがにここまでの人間の屑、下等な片恋や妄想で目茶苦茶に人をこき下ろした事はないが、その心情は過去幾度となく味はった事がある。作中の田中英光の作のやうにどこか突き放した書きぶりで、滑稽さともども自身を丸裸にしてしまふ覚悟。私は正直な人が好きである。本来あるべき貫多に対する不快感もここまで客観的に書かれると面白く、小説の終盤では明かに貫多が原因の騒動でありながら、一緒に仕返ししてやりたい同情心がわいてくる。私もまた屑なのである。
Posted by
昨年から夢中になって読んでいる西村賢太の作品。 長編は初めて読みました。 主人公は、ご存知、北町貫太。 中卒で、日雇い仕事をしています。 十代も終わりに近づいたある日、貫太は一大決心をします。 長年、住んでいた東京都内を離れ、横浜桜木町に居を移すのです。 日雇い仕事も辞め、造園会...
昨年から夢中になって読んでいる西村賢太の作品。 長編は初めて読みました。 主人公は、ご存知、北町貫太。 中卒で、日雇い仕事をしています。 十代も終わりに近づいたある日、貫太は一大決心をします。 長年、住んでいた東京都内を離れ、横浜桜木町に居を移すのです。 日雇い仕事も辞め、造園会社に就職します。 そこへ、事務のアルバイトとして、貫太と同い年の女の子がやってきて物語が展開します。 彼女に恋焦がれる貫太。 一方通行の恋は、痛々しくも滑稽で、貫太には申し訳ないですが、何度も吹き出しました。 ただ、既視感もあるのです。 私もモテないという点においては、貫太に引けを取らなかったわけですから。 彼女の一挙手一投足に一喜一憂する貫太。 私にも確かにあった、青春の甘酸っぱい日々を思い出しました。 終盤に、社員らとの仕事納めの忘年会があります。 もちろん、件の事務の女の子も出席しています。 白眉は、忘年会がお開きとなった後に貫太が告白する場面。 果たして、貫太の恋は成就するのでしょうか。 そこはネタバレとなるので敢えて書きませんが、妙に胸が高鳴り、ページを繰る手が止まらなくなりました。 それにしても、貫太とは何と愛おしい男なのでしょう。 西村賢太が昨年2月に急死し、貫太の物語がもう生まれ得ないのが何とも惜しい。 でも、ぼくには未読の貫太作品がまだあります。 既読の作品も含め、一生かけて熟読玩味したいと思います。
Posted by
- 1
- 2