やまいだれの歌 の商品レビュー
昨年から夢中になって読んでいる西村賢太の作品。 長編は初めて読みました。 主人公は、ご存知、北町貫太。 中卒で、日雇い仕事をしています。 十代も終わりに近づいたある日、貫太は一大決心をします。 長年、住んでいた東京都内を離れ、横浜桜木町に居を移すのです。 日雇い仕事も辞め、造園会...
昨年から夢中になって読んでいる西村賢太の作品。 長編は初めて読みました。 主人公は、ご存知、北町貫太。 中卒で、日雇い仕事をしています。 十代も終わりに近づいたある日、貫太は一大決心をします。 長年、住んでいた東京都内を離れ、横浜桜木町に居を移すのです。 日雇い仕事も辞め、造園会社に就職します。 そこへ、事務のアルバイトとして、貫太と同い年の女の子がやってきて物語が展開します。 彼女に恋焦がれる貫太。 一方通行の恋は、痛々しくも滑稽で、貫太には申し訳ないですが、何度も吹き出しました。 ただ、既視感もあるのです。 私もモテないという点においては、貫太に引けを取らなかったわけですから。 彼女の一挙手一投足に一喜一憂する貫太。 私にも確かにあった、青春の甘酸っぱい日々を思い出しました。 終盤に、社員らとの仕事納めの忘年会があります。 もちろん、件の事務の女の子も出席しています。 白眉は、忘年会がお開きとなった後に貫太が告白する場面。 果たして、貫太の恋は成就するのでしょうか。 そこはネタバレとなるので敢えて書きませんが、妙に胸が高鳴り、ページを繰る手が止まらなくなりました。 それにしても、貫太とは何と愛おしい男なのでしょう。 西村賢太が昨年2月に急死し、貫太の物語がもう生まれ得ないのが何とも惜しい。 でも、ぼくには未読の貫太作品がまだあります。 既読の作品も含め、一生かけて熟読玩味したいと思います。
Posted by
中卒タフ・ガイ、自意識過剰な北町貫多は人生蒔き直しを試みて横浜へ。造園会社へ勤務しますが暴走して自爆。心の支えは田中英光の私小説。読んでいると憂さを忘れるという感覚には恥を逆手に取るというある種の技の示唆を得る効能が含まれているといいます。
Posted by
いいよ、貫多。最高のローンウルフだよ。 あの北町貫多がこんなにも愛おしいとはね。 「苦役列車」と「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の間のエピソードを読みたいと思った矢先、たまたま手に取ったのが、ちょうど「苦役列車」の後続の話だったとは!! 「落ちぶれて……」の作中作と同じタイトル...
いいよ、貫多。最高のローンウルフだよ。 あの北町貫多がこんなにも愛おしいとはね。 「苦役列車」と「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の間のエピソードを読みたいと思った矢先、たまたま手に取ったのが、ちょうど「苦役列車」の後続の話だったとは!! 「落ちぶれて……」の作中作と同じタイトルだったから何かしら繋がりがとは思ったけど良かったわ。 ああ、最高だったなぁ。。。 高邁な理想と裏腹に、滑稽さと見苦しさが滲み出てしまう様子は筆舌に尽くしがたいですね。 極端さはさておき、誰しも体験する普遍性を持つ様で、それに苦悩する貫多が実に愛らしい。 そして田中光英との出会い。 思わず夜中に家を飛び出し歩き回りたくなる衝動の何と素晴らしいことか。 この衝動から私小説家としての道のりはまだ20年あるのかと思うと、この思いがどのように醸成していたったのか気になりますね。
Posted by
どうしても生きにくい人間っている。 私もかなり生きにくい人間だけど 北町貫多(というか西村賢太さん)は、私とはまた違う、かなりの生きにくさ、厄介さを抱えて生まれ育ち、不器用にしか生きられず、その業ゆえに早死にしたと感じた。 男尊女卑的価値観が強くて悪口も多くて今出したら時代錯誤と...
どうしても生きにくい人間っている。 私もかなり生きにくい人間だけど 北町貫多(というか西村賢太さん)は、私とはまた違う、かなりの生きにくさ、厄介さを抱えて生まれ育ち、不器用にしか生きられず、その業ゆえに早死にしたと感じた。 男尊女卑的価値観が強くて悪口も多くて今出したら時代錯誤と非難されるに違いなく、汚いと感じるシーンも多いし、誰にでも愛されてヒットする作風でもないから、正直このような小説を一生書き続けるのはかなり大変だったはず。現代ではデビューもできるかどうか。 しかし、生きにくい人間にしかわからない、書きえない苦しみややるせなさ、つらい体験、そこからふと芽生える生きがいやかすかな希望など、わかるなぁと共感する部分もある。 具体的には私小説作家に出会って全ての苦悩がとけるかのようにのめり込むシーンとか。 西村賢太さんおつかれさまでした。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
まあいつものお話だが、「苦役列車」の直後だけあって、まだまだ若い。19歳。ゆえに女に岡惚れする。 《根は眠れるスケコマシ気質》にできてるだけに、《ウルフのポーズで孤狼アクション》をとれば《中卒タフ・ガイ》としての面目躍如。 眼前の女の(呆れ)顔を見て、《(うむ。濡れたな……)との確信》を抱く。 で、まあ結句周囲の面々にさんざほき捨てて逐電、てなわけだ。 しかし今回は田中英光との出会いが描かれ、ここがいい。 《何んだってこの私小説家は、己れの無様な姿を客観的に、こうも面白く、そしてこうも節度を保ちながらの奔放な文章で語れるのか。だが、それが貫多にとっては泣きたいほどうれしく、そして実際に落涙するまでに、ひどくありがたくってならぬ。》 西村読者の多くが思っていたことでもある。 ところで新潮社、何年も文庫化しなかった(関係を断っていた?)上に「苦役列車」の件で愛憎のある山下敦弘監督に書かせるって……そしてこの解説がまた、決して悪くない追悼文になっているって、いい仕返しができたということか。
Posted by
- 1
- 2