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喜べ、幸いなる魂よ の商品レビュー

4.2

23件のお客様レビュー

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2024/04/29

18世紀、フランドル地方の小都市シント・ヨリスが舞台。父の死後、亜麻商人のファン・デール氏に引き取られた少年ヤンと、ファン・デール氏の娘であるヤネケの物語。18世紀のヨーロッパといえば、産業革命や啓蒙思想からのフランス革命など激動の時代であり、そのような歴史的要素が作中にも散りば...

18世紀、フランドル地方の小都市シント・ヨリスが舞台。父の死後、亜麻商人のファン・デール氏に引き取られた少年ヤンと、ファン・デール氏の娘であるヤネケの物語。18世紀のヨーロッパといえば、産業革命や啓蒙思想からのフランス革命など激動の時代であり、そのような歴史的要素が作中にも散りばめられていることで、物語の背景的解像度が上がっているように思う。 本作でもっとも重要な登場人物はヤネケだ。ヤネケは数学をはじめ自然科学分野で特別な才能を持っていて、ヤンや弟のテオの名前を使って自分の研究成果を発表する。すると当然、研究に対する評価・名声は、名前を貸しただけの男たちが浴することになるのだが、ヤネケ自身はそれを気にする素振りを見せない。もちろん男尊女卑的な世間を肯定しているわけではなく、家父長制度をハックしてヤネケ自身の研究が邪魔されることのないよう周囲の人間を動かしていくような女性である。 このヤネケというキャラクターに対して親しみを感じるか、反感を覚えるか。作中にもヤネケのような女性を憎悪する人物が登場するが、現代を生きる私たちにとっても、じゅうぶんに当てはまるテーマだと思った。ちなみに私は、(性別や年令に関わらず)世間の旧弊を鼻であしらいながら、自分自身の興味関心を最優先するような人物に共感を覚えるタイプの社会不適合者なので、ヤネケのような人物はたいへん好みである。なので、ヤネケとヤンの活躍が好意的に展開する本作は、最後まで楽しく読み進めることができた。 ところで、本書には目次の次に「18世紀フランドル地方」という地図が掲載されている。そこで示されている「シント・ヨリス」の場所と、現在GoogleMapで表示される「シント・ヨリス」の場所が、だいぶずれていると思うのだが・・・、どうなんだろうか。

Posted byブクログ

2024/02/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

●18世紀のフランドル地方。とある商家の子供が大人から中年になるまで見つめた家族の有り様、そして町の変化とともに産業革命や隣国の革命が迫ってくるさまを描いた話であり、女性の自立を描いた物語でもある。 …………なーんてな! 純愛小説ですねこれ!(白目) ●読んでる最中、ヤネケに学生時代の同級生が重なるのなんの。や、天才ってことではなく(賢い人ではありましたが)、やたらと取捨選択が明確なリアリストなところが。 しかしレオたんはなー。かわいかったのになー。そらひねくれるわ。まあアホだけど。 ●18世紀フランドルかあああ見たことがあるようなないような、と思ってグーgル先生にお伺いしましたが、ルーベンスもブリューゲルもレンブラントもフェルメールも17世紀の人じゃったよ。近い時代ってことで許されますかねえ。 ●とにもかくにもヤンはいいやつでしたで賞。結婚するならああいうのにしなさいおばちゃん悪いこと言わないから。←って作中の人物も言ってたような気がする とはいえ佐藤亜紀作品の紹介で“大きな愛の物語”とは。うわあはずかしいよう。←なんでや純愛小説とか言っといて。カテゴライズが似合わない作風だとは思うんですけどね。ジャンル佐藤亜紀みたいなもんで。自分がそこまで小説を読んでないもんで、知らないだけかもしれませんが。

Posted byブクログ

2024/01/17

読書会課題本。著者は本書で昨年「読売文学賞」を受賞。ヤンとヤネケの関係性は、多くのキリスト教に対してネガティブなイメージを持つ日本人にはわかりづらいのではないか?と思ったので、本書が文学賞を受賞したのは意外であった。

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2023/10/29

3.8。この作家さんの話はいつも独特な面白さがある。出だしはとっつきにくいが後半は一気読み。舞台の空気感は相変わらず上手いし、しんどさ少なめ読後「よかったね」と主人公に言える感じも良く(惚れたというより魅入られたといった執着心も読み進めるうちに腑に落ちる)同じ著者の話の中でも比較...

3.8。この作家さんの話はいつも独特な面白さがある。出だしはとっつきにくいが後半は一気読み。舞台の空気感は相変わらず上手いし、しんどさ少なめ読後「よかったね」と主人公に言える感じも良く(惚れたというより魅入られたといった執着心も読み進めるうちに腑に落ちる)同じ著者の話の中でも比較的人に薦めやすい作品な気がする。退廃臭も無いし。

Posted byブクログ

2023/12/30
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

なかなか分厚い本だったけど、すらすらと読めた。 何人もの人生が通り過ぎる。 40年の恋と書いてあったけど、 執着したような描写もなかったのに (でも40年も思い続けていれば執着になるのかな) ヤンがここまでヤネケを想い続けていたのは 本物の恋と言えるのかもしれない。 でも、その間にできた奥さんや子供は… とも思ってしまった。 ヤネケの女らしくない逞しい生き様がかっこよかった。 理性を失くしてできた子供はダメだ みたいな台詞、ヤネケらしくて刺さりました笑

Posted byブクログ

2023/04/28

1700年代のフランドル地方。幼馴染みの二人。当時の市民の生活、亜麻糸の商い、ベギン会と呼ばれる女性の共同体、産業革命などにも触れながら、男女の関係の本質を見つめるよい本。

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2023/02/17

18世紀後半のベルギーを舞台にした小説で、ヤンとヤネケという主人公の男女2人の人生を描いている。 まず、ベルギーを舞台にした小説を日本人が書いているということが、とても珍しいように思う。私は以前ベルギー企業の日本支社に勤めていて、たいへん馴染みのある国なので、ベルギーが舞台という...

18世紀後半のベルギーを舞台にした小説で、ヤンとヤネケという主人公の男女2人の人生を描いている。 まず、ベルギーを舞台にした小説を日本人が書いているということが、とても珍しいように思う。私は以前ベルギー企業の日本支社に勤めていて、たいへん馴染みのある国なので、ベルギーが舞台ということだけでもかなり嬉しい。しかも、ヘントやコルトレークという滞在したことのある街も出てきて、風景や空気感を思い浮かべながら読めたのも楽しかった。ベギン会の修道院跡も訪れたことがあるのだけれど、いまいちどういう場所なのか理解しないままだったので、この小説を読んで、納得ができたこともとても良かった。そしてベギン会を先進的と感じた。 物語の本筋、主人公の男女2人の関係もとても現代的に感じたが、実在のモデルなどはいるのだろうか?女性を蔑視する男性も多いなか、人として敬意をもって接してくれ、女性であってもその意志を尊重してくれるヤンの懐の深さがとても素敵。18世紀後半という時代の話だけれど、登場人物たちの話し言葉も現代的(少しアニメっぽい?)なので、とっつきにくさもない。特にヤネケの話し方が、彼女の人間性をよく表現しているようで、良かった。

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2022/12/29

またまた読み応え抜群の小説を読んでしまいました。「今年の○冊」みたいな今年の書籍を振り返ってる記事なんかにも、よく登場しているだけある! ページをめくるとまず18世紀のフランドル地方の地図。たくさんのカタカナの登場人物一覧。あれ、これ佐藤亜紀さんの小説だったよね?と表紙に戻る。...

またまた読み応え抜群の小説を読んでしまいました。「今年の○冊」みたいな今年の書籍を振り返ってる記事なんかにも、よく登場しているだけある! ページをめくるとまず18世紀のフランドル地方の地図。たくさんのカタカナの登場人物一覧。あれ、これ佐藤亜紀さんの小説だったよね?と表紙に戻る。そして不思議な気持ちで、注意深く登場人物を追いながら読み進めると、あっという間に18世紀のヨーロッパへ飛べた。 いやあ、ヤネケというとんでもなく聡明な女性が、かっこいい。自らの研究を広めたいために男性の名前で本を出すのだけれども、その本に対する質問が俺にきちゃうのでイヤだ、と名前を貸している男性が愚痴るとヤネケは、 「知識なんて別に誰のものでもないんだし、正しい筋道は誰が言ったって正しい筋道だからね」p208 とスパッと言い切っちゃうんだから! 当時の様子を想像しながら読めるのも楽し、ヤネケに翻弄されるヤンとのやりとりも興味深く、ユーモアもあっておもしろい。 大昔の他国の話なのに、十分に伝わってくる人々のくらし、家族、思想、宗教、ジェンダーの問題。大昔の他国でも、抱える悩みや心配はいつの時代も誰の心にも同じように住まい、それらを受け止めて自分の力で考え、生き抜いていかねばな、ヤネケのように。

Posted byブクログ

2022/10/27

本のタイトルの感性が私には無理です。全編を通して「アラスジ」を読まされているような気分でした。または、出来の悪い「操り人形芝居」残念ながら登場人物の誰一人して感情移入出来なかった。収穫があったとすると、それは「佐藤亜紀」さんの本はチェックする必要がないことが分かったことかな。

Posted byブクログ

2022/09/21

舞台は18世紀のフランドル地方。知性と自立心を持つヤネケと、彼女を想い、時代に翻弄されながら生きるヤンの半世紀にわたる物語。 歴史小説であり、背景の地方都市や商業に関する部分は史実を元にしている。また、女性差別や家族関係などの現代に通じるテーマを扱っている。 登場人物が魅力的で、...

舞台は18世紀のフランドル地方。知性と自立心を持つヤネケと、彼女を想い、時代に翻弄されながら生きるヤンの半世紀にわたる物語。 歴史小説であり、背景の地方都市や商業に関する部分は史実を元にしている。また、女性差別や家族関係などの現代に通じるテーマを扱っている。 登場人物が魅力的で、中でもヤネケは「人でなし」ではあるが、制度や価値観に縛られずあらゆる障害を軽々と乗り越えてゆく。一方ヤンは男性という役割から逃れることが出来ず、家族や仕事のためにがんじがらめになる。しかしどこまで行っても「まとも」である彼も、苦労人として共感を誘う。 半世紀にわたる物語なので、途中子供が生まれることもあれば、誰かが死ぬこともある。だが、そこに必要以上の悲壮感は無い。作者はエモーショナルになり過ぎず、軽やかな文体でそれらを書き紡いでゆく。その文章のリズムは読んでいて非常に心地よかった。 クライマックスにはある事件が待ち受けているが、どこかユーモラスな雰囲気があり、読む側に豊かな喜びを与えてくれる。 読み終えて心に、体に、温かいものが広がるのを感じた。ふたりの理性的な魂が最後に行き着く先を多くの人に味わってほしい。

Posted byブクログ