1,800円以上の注文で送料無料

喜べ、幸いなる魂よ の商品レビュー

4.2

23件のお客様レビュー

  1. 5つ

    10

  2. 4つ

    4

  3. 3つ

    3

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    1

レビューを投稿

2022/08/28

激動のフランス革命のただ中ではなく、余波に揉まれる地域を舞台に、したたかに生きている人間たち。 フランドル自体がそうであるし、その中でのベギン会がそうで、その中のヤネケがそうである。 「したたか」というイメージが強く残るのが著者の作品の特徴だなと改めて思う。 時に激しい水の流れ...

激動のフランス革命のただ中ではなく、余波に揉まれる地域を舞台に、したたかに生きている人間たち。 フランドル自体がそうであるし、その中でのベギン会がそうで、その中のヤネケがそうである。 「したたか」というイメージが強く残るのが著者の作品の特徴だなと改めて思う。 時に激しい水の流れに、意固地に抗って結局流されてしまったりへし折れてしまうのではなく、葦のようにのらりくらりと、しかし誰よりも地に足をつけて飄々と乗り切るしたたかさ。 いちおう宗教的な集まりであるベギン会もヤネケにとっては快適な住処以上でもそれ以下でもない。嘘も方便。超合理的。 サイコパスにも見える彼女が、唯一、非合理的に、いわゆる人間らしい心の揺らぎを垣間見せる対象が他でもない息子レオなのだが・・ヤンとヤネケ以上に「常識」を逸脱したこのふたりの特殊な関係性!ラストにかけての一連の流れのとんでもない面白さを導入材に、この作品の言わんとすることがぐわーっと体内に流れ込んでくるというか。 ある程度の「自由」を手に日々を送っていると思われる今の時代のこの国の私たちの中にもいろんな色眼鏡やレッテルが溢れているわけで、それよりもっともっと不自由な価値観だらけだったはずのこの小説の舞台でこんなにも生々しい人間のそのものを描いてくれる佐藤亜紀さんが好きです。色眼鏡を放りなげ、全ての衣を脱ぎ捨ててぶつかってほしい一冊。 経済も政治も、人間の愚かさも計算に入れて軽やかにコントロールできてしまうヤネケはかっこいいなあ。

Posted byブクログ

2022/08/19

この内容をよくこのページ数(約300P)におさめたものだ。500Pオーバーの上下巻になってもよさそうな大河小説である。 強く印象に残るのがヤネケの強烈なキャラクターだ。今なら、俗な言い方をすればサイコパスとなるのだろう。そのドライで突き抜けた性格と独学で論文まで発表するような才能...

この内容をよくこのページ数(約300P)におさめたものだ。500Pオーバーの上下巻になってもよさそうな大河小説である。 強く印象に残るのがヤネケの強烈なキャラクターだ。今なら、俗な言い方をすればサイコパスとなるのだろう。そのドライで突き抜けた性格と独学で論文まで発表するような才能は清々しいほどで、女性ながら登場人物中、最も頼もしい。ヤンとついに一緒にはならなかったが、この二人は最高に相性の良いパートナーだと思えてくる。 淡々と物語が進みつつも所々に感極まる場面があり、ラストは何十年もの歴史を辿ったからこそ味わうことのできるなんとも言えぬ感動に包まれる。 是非海外で映画化してほしいと思う。実際、二言三言で応酬される会話はまるで外国映画の字幕を読んでいるようだ。読了後、ふとジョン・アーヴィングの『ガープの世界』を思い出して改めて読んでみたくなった。 作者の作品を読むのは初めてだったが、是非他の作品にも触れてみたいと思った。

Posted byブクログ

2022/08/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

今年読んだ本の中の暫定一位。 最初の方から、ヤネケとヤンの世界から離れたくないと思う。この本は、読み終わるのが寂しくなる本だぞと。なかなかそういう本に出会えないのだ。この出会いは嬉しいな。 本当ならこの3倍くらいの長尺の内容だが、時間経過の処理が上手く、この長さに仕上げた佐藤亜紀は凄腕。 お陰で、二人に寄り添ったまま最後まで一気に読める。 通常の親子関係、通常の恋人関係ではないのに、常識や理屈の入り込む隙を作らないばかりか、むしろそこに人物の魅力がある。 最後の二人の会話のシーンで泣けた。私もヤネケの魅力にヤン同様やられてたんだな。ヤネケに帰ってきてもらって私も嬉しくて泣いたのだな。

Posted byブクログ

2022/08/10

2022年8月 スイスイ読める。フランドルの歴史の空気感が新鮮で面白かった。 ヤネケはぶっ飛んでいるが、共感も多い。

Posted byブクログ

2022/07/19

この時代設定の物語には触れたことがなかったため、読み切れるだろうかと不安に感じながら読んだが、淡々とした文章構成が時代背景に馴染んでいて読みやすかった。 男女二人の、一般的な恋愛観では計り知れない繋がりと人生が描かれていた。登場人物は戸惑うほどに多いのだが読み進めるうちにそれぞれ...

この時代設定の物語には触れたことがなかったため、読み切れるだろうかと不安に感じながら読んだが、淡々とした文章構成が時代背景に馴染んでいて読みやすかった。 男女二人の、一般的な恋愛観では計り知れない繋がりと人生が描かれていた。登場人物は戸惑うほどに多いのだが読み進めるうちにそれぞれに魅力を感じていく。人の死も感情の動きも、激しくは書かずに日常の出来事の一つのように書いているのに心が揺れる。この人の書き方が好きなんだと思う。

Posted byブクログ

2022/07/07

18世紀フランドル地方のファンデール家の天才の娘ヤネケと引き取られた子ヤンとの強い絆変わった愛の40年を描いた壮大な物語。一族の歴史でもあり、ぺギン会、産業革命、フランス革命など時代の流れも息づいて面白い。また女性であるため才能を制限されるヤネケの破天荒な試みとヤンの純愛には感動...

18世紀フランドル地方のファンデール家の天才の娘ヤネケと引き取られた子ヤンとの強い絆変わった愛の40年を描いた壮大な物語。一族の歴史でもあり、ぺギン会、産業革命、フランス革命など時代の流れも息づいて面白い。また女性であるため才能を制限されるヤネケの破天荒な試みとヤンの純愛には感動しました。

Posted byブクログ

2022/06/08

舞台は18世紀ベルギー、フランドル地方。 この時代この地域を舞台にした小説を読んだことも知識もなかったので、わくわくしながら読んだ。 主人公は親を亡くし、父の同業者だったファン・デール家に引き取られたヤン。 義父となったファン・デール氏は、ヤンを家に迎える道中、ヤンが来ることでう...

舞台は18世紀ベルギー、フランドル地方。 この時代この地域を舞台にした小説を読んだことも知識もなかったので、わくわくしながら読んだ。 主人公は親を亡くし、父の同業者だったファン・デール家に引き取られたヤン。 義父となったファン・デール氏は、ヤンを家に迎える道中、ヤンが来ることでうちの子たちも鍛えられるかもな!と言ったが実際に鍛えられたのはヤンの方だった。 というか人生通してヤンは鍛えられた。 ファン・デール家の双子の姉ヤネケと弟テオは優秀で、特に姉のヤネケは異常に頭がいい。 そんなヤネケは生殖行為というか繁殖に興味を示し、ヤンと性的なあれこれを実験のごとく試していく。 そして若いながらに2人の間で子どもができてしまい、彼女は家を離れて子どもを生みその後ベギン会に入り、ヤンはというと自分は働きながらヤネケと子どもと一つ屋根の下で生活することを見据えてファン・デール家の仕事をこなしていくのだが…… ヤネケは医者である叔父に似て人でなしなのだとよく描写されるが(実際たしかになかなか合理的すぎて酷いことを言うな〜と思うこともあるが)、好奇心旺盛で頭が良くて研究が好きで、意志が強くて、とても魅力的な人物だ。口調といい、作中で一番好きなキャラクターかもしれない。彼女の母、ファン・デール夫人も好き。 アンナも好きだ。この時代に女だてらにこの身一つで大工仕事で食っていくなんてカッコ良すぎる。そして勤勉で口が堅くてフランクだ。 ベギン会は作中の架空の団体なのかと思いきや、巻末の解説を見るに実在したらしい。 信仰心を持った女たち(修道女ではない)が集まって暮らしながら互いのプライバシーは守られ、自分たち個人個人で生計を立てて食っていく。お金を貯めて家を買ったりもする。 なんだろう、なんかちょっと、それすごくいいじゃん…と思った。なんなら羨ましいとさえ思ってしまった。 参考文献が載っているので、ベギン会など…ひいては女性史について調べてみようと思う。 作中には女性が集まるベギン会はもちろん、男性修道院もちらりとその名前が出てくる。 しかし(主題じゃないからかもしれないが)男性修道院に嫌がらせがあったり、子どもを作れなんて外から罵られる描写はない。 だが作中でベギン会の敷地に向かって、十数歳頃の少年たちが女性を蔑称する言葉(ここでは書けません苦笑)を叫び、しょんべんを引っ掛けるなどのいやがらせをする描写や、女性だけの集落を快く思わない男たちの、女性だけで暮らすなんて意味がわからないという無理解(というか人として尊重してないからこその発想だろうな)や女性蔑視の心が描写されている。 彼らの(というか主に作中に出てくる、とある男の主張なのだが)女は子どもを産むためだけにある。それ以外は装飾品で、頭を使った学問も手足を使った商いもする必要はない。子どもを産んで産めなくなったら子どもを産む女のサポートに回るか産婆になれ。…というのがその男の主張なのだが…まあ、作中では他の登場人物にもさすがにそれはお前…といった感じであしらわれている。 まあこの怖いところは、現代日本にも割とこういう発想の男(たまに女も)って、まだいるよね…?って話。 数百年経っても変わらないのか…ところは違うが…… ただこの作品に登場する女性たちはなかなか強く、その利発な発言や振る舞いにも心がすく。 ベギン会の女たちも、それ以外の女たちも。 そして彼らの長い長い人生の中で、ヤネケとヤンの関係性にもいろいろと思いながら、どうか2人のその後が穏やかで有りますように。と思ったのだ。 この物語は、男のヤンと女のヤネケの、長い長い物語であったのだから。 いろいろと考察を深めたい物語だった。

Posted byブクログ

2022/06/05

佐藤亜紀「喜べ、幸いなる魂よ」https://www.kadokawa.co.jp/product/322102001022/ 読んだ。うおおおもう一生老化しないのは佐藤亜紀だけかもしれない。18世紀ヨーロッパが舞台だけどこれは現代の日本の話です。いやそう思うと18世紀から何も進...

佐藤亜紀「喜べ、幸いなる魂よ」https://www.kadokawa.co.jp/product/322102001022/ 読んだ。うおおおもう一生老化しないのは佐藤亜紀だけかもしれない。18世紀ヨーロッパが舞台だけどこれは現代の日本の話です。いやそう思うと18世紀から何も進歩していない日本よ、いや江戸時代をピークに思想的・社会制度的には退化の一途というべきか…。札幌を見倣え。ところでこの10年くらいで著作内の会話が時代設定に関わらず今の日常会話の口語表現になってるところが大層すきでございます(おわり

Posted byブクログ

2022/05/16

舞台はフランドル地方の小都市シント・ヨリス 生涯単身を選んだ 半聖半俗の女たちが住まう 「ベギン会」という共同体 これはフィクションなのかと 思わずググって しまいましたけど 本当にあったんですね 精一杯自由に生きるヤネケと それを支えるヤン 後半 時代の流れが...

舞台はフランドル地方の小都市シント・ヨリス 生涯単身を選んだ 半聖半俗の女たちが住まう 「ベギン会」という共同体 これはフィクションなのかと 思わずググって しまいましたけど 本当にあったんですね 精一杯自由に生きるヤネケと それを支えるヤン 後半 時代の流れが 二人に思わぬ試練を 投げかけますが これもまた人生 最後には決着らしきものは ないものの 共白髪になるまで 一生懸命に生きた二人の人生を うらやましく感じて 本を閉じました

Posted byブクログ

2022/05/01

面白かった! なんと言っても、ヤネケの「人でなし」がいい。クールさがいい。男とか情とかに全く重きを置かず、自分のやりたい研究ばかり突き詰めていくのも爽快なら、男の名前で発表や出版が叶うならそれでいいじゃんという合理も爽快。 賢くて軽快で。こんな女に40年も惚れ続けてその気持ちが決...

面白かった! なんと言っても、ヤネケの「人でなし」がいい。クールさがいい。男とか情とかに全く重きを置かず、自分のやりたい研究ばかり突き詰めていくのも爽快なら、男の名前で発表や出版が叶うならそれでいいじゃんという合理も爽快。 賢くて軽快で。こんな女に40年も惚れ続けてその気持ちが決して叶わないのも、幸せなのでは。 テレーズの「レース作って、それで自分で生きていけるんだ(略)綺麗なお嬢さん、より全然いいんだよ」のセリフが素晴らしい。 当時の資本や生産性や搾取についても血の通ったリアルな描写。 いろいろ面白かった。

Posted byブクログ