おんなの女房 の商品レビュー
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「おんなの女房」という題を見て女性同性愛者の話かと勘違いした。しかしここでいう"おんな"とは歌舞伎における女方を指しており、物語は日常でも女性として振る舞うその役者を夫にもつ女房視点で描かれている。 物語が進む上でさまざまな困難が主人公を待ち受ける。常に女性を演じている夫の存在、歌舞伎に関する知識の欠如、そして夫と相方の男役者の間にある夫婦には無い特別な友情への嫉妬などだ。 特に印象的なのは、夫が主人公に対し愛情を伝えたいのに、女方としての矜持とプライドがそれを許さないもどかしさである。その抑制された感情描写が2人の絆の芽生えと、どこか微笑ましい温かさを生んでいる。 舞台と家庭の狭間で自分の性が揺らいでいく夫。しかしこれは女方という特殊な職業に限らず起こることではないだろうか。誰しもが他者と共に生きることで徐々に自分の輪郭が溶けていく。相手の考えや行動がいつの間にか染み渡り、境界が曖昧になっていく。夫にとってそれが「性」という形で現れただけであり、普遍的な他者との共生の形だったのではないだろうか。 エピローグの清々しさとどこか侘しい雰囲気も備えた主人公は今後どうなるのだろうか。呆気ないラストではあったが、夫に役者人生を全うさせるという主人公の決断は力強く、美しい。物語の中で最も心を打つシーンである。おそらくその決断は人として1番正しい選択ではなかっただろう。しかしその正しい選択が欲望と一致するとは限らないし、1番良い判断になるとも限らないのだ。 作中にこのような言葉があった。「圧倒的な才や美しさとは誰かを傷つけるもの」と。夫は女方としての才をもち、主人公は役者の女房としての才能をもっていたのだろう。夫を傷つけても、人々から非難されようとも彼を最期まで役者として生きさせたーーその姿は鬼のように力強く、恐ろしい存在に見えたのではないだろうか。
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人の心の厄介さ 初めは役者ならではのエピソードかと思いきや。役者やってようがなかろうが人の心って面倒くさっだから、重く受け止めないに限るなと思わせる話になってた。今の時代の人が読んだら、びっくりしそうな親子関係だしで。結末はあれで良かった!
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むちゃくちゃ面白かった。こんな素晴らしいものがこの世にあるのか。 歌舞伎の女形に嫁いだ武家の娘の話。 色んなものが少しずつ歪。夫は自分よりも美しくて”女らしい”。互いに少しずつ惹かれ合うんだけれども、それは女形を”男”にしてしまう。 役者として生きるのか、人として生きるのか...
むちゃくちゃ面白かった。こんな素晴らしいものがこの世にあるのか。 歌舞伎の女形に嫁いだ武家の娘の話。 色んなものが少しずつ歪。夫は自分よりも美しくて”女らしい”。互いに少しずつ惹かれ合うんだけれども、それは女形を”男”にしてしまう。 役者として生きるのか、人として生きるのか。 その狭間で揺れて苦しむ夫を見て、自分は愛されているのだと納得する。 自分の中に巣食う蛇を確かに自覚する。人の情と業がとても精緻に描かれている。 とてもパワフルで素晴らしい。様々な夫婦の在り方が愛おしい。
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加藤シゲアキさんが薦めてた本。難解な単語に挫折しそうになりながらも読み進めると面白い。でも結末しのさんの決意はしのさんのエゴじゃないのかなぁなんて思ってしまった。
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武家の娘志乃は父親が決めた縁談で芝居小屋で女形を演じる燕弥に嫁ぎます。家でも女のまま過ごす燕弥。 実は燕弥は次の芝居の時姫役の参考にするために武家の娘である志乃を娶ったのでした。 父親に命じられ疑問も持たず嫁ぎ、嫁いだ先でも淡々と旦那様の役に立とうとする志乃。芝居のことを全く知らなかった世間知らずの志乃が、同じく芝居役者の女房お富やお才と知り合い、燕弥にも徐々に惹かれていきます。 結婚して変わった燕弥を芝居の相手役の仁左次は苦々しく思っていました。志乃も二人の仲を疑います。そして決定的な現場を見ることによって燕弥を諦めようと思い、二人の逢引の現場に乗り込みます。 結局、仁左次と燕弥は芝居の稽古をしていただけで色恋は無かったのですが、志乃は女形としての燕弥の将来を思うと自分の存在が妨げになると分かっていながら、燕弥が自分を好いてくれているのを知り嬉しく思う気持ちもあるのでした。 どうなってしまうの? とハラハラしながら読みましたが、何かを極めることと恋愛を成就させることの両立は難しいのでしょうね。 特に燕弥や仁左次のように役に没頭するようなタイプは。ましてや燕弥は女形なのですから。 予想通りの結末を迎えましたが、ある意味では志乃は永遠に燕弥と共にいて幸せなのかもしれないなと思いました。
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女とはかくあるべきっていうステレオタイプが今よりも格段に強かったであろう江戸時代において、逆にこうすべきと型が定まっているから生きやすいというのは納得した。現代でも、自分で思い描いた通りに自由奔放に生きることができる人と、敷かれたレールや固定観念の中で生きるのが合っているひとがいる。自由や冒険には責任が伴う。 この本は最近の女性蔑視がどうだとか男女平等とかの本では全くなくて、1人の女性が都会に出てきて周りとの比較から劣等感を感じたり自我を見失って、色んな人との出会いや手本となる女性を模倣して最終的に自分を手に入れていくっていう話。言うなら女子高生とか女子大生がやることを江戸でやってる。この描写がめちゃくちゃ上手くて、自分よりも物知りで面白くて美しくて、色んな面で優れてる人にであった時、じゃあ自分はどの立ち位置にいるんだろう?自分の価値ってなんなんだろうって思ってしまう瞬間の描写が生々しくてよかった。そうして、その人たちを模倣したり会話していくなかで自分の価値観が変わっていってどんどん別人に変わっていく描写も上手い。そして、志乃が成長していく中でアイデンティティを手に入れていく一方で燕弥は今までの女形として生きてきたアイデンティティを志乃に惚れるが故に変化していくという対比が美しい。2人の人間が関わることで変化していくのが面白い。そして、最終的に役者としてのアイデンティティを病気で失った時、燕弥を鼓舞して理想の死に方をさせる描写も美しかった。 退屈を感じないように色々な人に触れて何でもやってみるのがいい。
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吉川英治文学新人賞受賞作品。文章はちと読み難い。歌舞伎にはまったく無知なので、最初は設定も行先もよく分からず。でも、通して読むとそれなりには面白かった。志乃さん、本当にそれで良かったんかいな???
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吉川英治新人賞受賞作品は面白い作品が多いので期待。 作者おなじみの江戸歌舞伎森田座もの。今回は歌舞伎十八番を不案内な読者に向けてあらすじを示しながら、現実の話が進んでいく連作小説で知らなかった歌舞伎の話が面白かった。情報小説としては良かったが、謎深い女形の燕弥の奇妙さに腑に落ちる...
吉川英治新人賞受賞作品は面白い作品が多いので期待。 作者おなじみの江戸歌舞伎森田座もの。今回は歌舞伎十八番を不案内な読者に向けてあらすじを示しながら、現実の話が進んでいく連作小説で知らなかった歌舞伎の話が面白かった。情報小説としては良かったが、謎深い女形の燕弥の奇妙さに腑に落ちるような納得感を得られなかったのは残念だった。新妻の志乃も成長とともにアクティブになっていくのだが、もう少しエピソードがあればその突拍子のなさに理解が進んだのかもしれないし最後の驚きも倍増したかもしれない。吉川英治新人賞の期待値少し下がったかも。
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タイトルを見て「ん?」と思った。最初の方だけ目を通すと若女形に嫁いだ武家の娘の事らしい。時代小説はよく読んでいて歌舞伎役者もよく出てくるが「女房」という登場人物はあまり出てきた事がない。特に女形に連れ合いはいないと思い込んでいた。厳格な父親から武家の娘として厳しく躾けられた志乃が...
タイトルを見て「ん?」と思った。最初の方だけ目を通すと若女形に嫁いだ武家の娘の事らしい。時代小説はよく読んでいて歌舞伎役者もよく出てくるが「女房」という登場人物はあまり出てきた事がない。特に女形に連れ合いはいないと思い込んでいた。厳格な父親から武家の娘として厳しく躾けられた志乃が人気が出始めた若女形の燕弥に望まれ女房となる。歌舞伎の事など全く知らない志乃は、なぜ自分が選ばれたのかさっぱり検討がつかない。しかも燕弥は家の中でも「役」に漬かっている為、姫様の恰好で「おんな」なのである。 厳しい父親にも反抗する事なく従ってきた志乃だから、疑問に思いつつも素直にヘンテコな変わった状況を受け入れているのが面白い。
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呼込、時姫、清姫、雪姫、八重垣姫、幕引 化け物連作より、こちらのほうが好きかな。 化け物二作で食傷気味で、少し敬遠していたけれど、 すとんと落ちたかな。
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