ANTHRO VISION 人類学的思考で視るビジネスと世界 の商品レビュー
人類学の方法論と思考法の有効性を説く。 異文化理解を旨とする人類学的思考が、異なる文化圏でのビジネス展開に役立つとか、感染症を分析するのに資するとか、そういった実践例だけでも十分に面白い。 でも本書の面白さはもっと先に進んでいて、広範に未知の領域への探求法として人類学の手法を応...
人類学の方法論と思考法の有効性を説く。 異文化理解を旨とする人類学的思考が、異なる文化圏でのビジネス展開に役立つとか、感染症を分析するのに資するとか、そういった実践例だけでも十分に面白い。 でも本書の面白さはもっと先に進んでいて、広範に未知の領域への探求法として人類学の手法を応用するということだ。 「経済や金融のことなどさっぱりわからず、専門用語はあまりに理解不能で退屈で、放り出したくなった。(中略) だがしばらくして、そんな自分の反応は主に恐れと偏見から生じていることに気づいた。大学では人類学を専攻する学生は、金融業界を志す学生とは異なる社会的「部族」に属しており、後者の使う言葉は私にはまるでわからなかった。そうした文化的ギャップを飛び越えるには、人類学者と同じようなスキルが必要だった。 2008年に金融危機が勃発した後、イギリス人ジャーナリストのローラ・バートンからインタビューを受けた私はこう話した。「ここもタジキスタンと変わらない、新しい言葉を学べばいいだけじゃないか、と思った。投資銀行の人々も、さまざまな儀礼と文化的パターンで自らの営みを彩っているに過ぎない。タジク語を学ぶことができたなら、外国為替市場の仕組みも絶対に学べるはずだ、と思った」。(122ページ) こうして著者はリーマンショックの前に警鐘を鳴らした。 その後はアドテックやESGに目を向けたとのこと。 なんかよくわからない専門用語で煙に巻かれるような事象に対処するのに人類学の思考法が役立つというのだ。 あるいは、ビッグデータがどれだけ充実して定量的分析が充実したとしても、その文化の中での「意味の網目」を読み解くような定性的分析が果たせる役割がまだ残っているという主張だ。 すごく刺激的な一冊。
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筆者のジリアン・テットはFTの看板記者、アメリカ版編集長。ジャーナリストはヒストリアン(歴史家)の視座が必要ということは言われますが、アンソロポロジー(人類学)の素養、視座もとても重要とのこと。かつアメリカ中心に企業からのニーズも増えているというのがよくわかりました。素直におもし...
筆者のジリアン・テットはFTの看板記者、アメリカ版編集長。ジャーナリストはヒストリアン(歴史家)の視座が必要ということは言われますが、アンソロポロジー(人類学)の素養、視座もとても重要とのこと。かつアメリカ中心に企業からのニーズも増えているというのがよくわかりました。素直におもしろい! しかも彼女はこんど母校ケンブリッジ大のキングスカレッジの学長になるとか。 記者の取材テーマが人の人生はわかりやすいですが、クルマやスマホなどの可視的なもの、哲学という概念的なもの、AIのような最新テクノロジー、のどれをとっても動かすのは人間ですね。テック全盛と思われがちな現代だからこそ、人類理解はスクープや深い解説記事につながるのかと。英語のこの本の解説を見ても、ブラインダーを取り除くなど評価されてました。 さらにアンソロポロジーとひとことで言っても、調べると霊長類学、人間古生物学、有史前の考古学、人類の進化、人類学的言語学、民俗学、民族歴史学、社会文化人類学など広範に含まれるようです。うーん、今回はジャーナリストの本だが、また別の本も読んでみたい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
サイロ・エフェクトの内容が勉強になったので最近の著作である「Anthro Vision」も読了。 まえがきの「魚は決して水の存在に気づかない」は頭に残る文章である。 アンソロビジョンの重要なエッセンスは上記の一文に凝縮されているように思える。 著者のジリアン・テッド氏が文化人類学者としてタジキスタンの婚礼儀式の参与観察を行っていたことは知っていたが、当時のタジキスタンがイスラム文化とソ連による支配文化の狭間の世界であって、支配構造の変化がどのように婚礼儀式が影響を与えたか、という視点で研究が行われたのは知らなかった。 序盤にネスレジャパンによるキットカットの日本でのマーケティングの話が展開され、とっつきやすい内容になっていた。キットカットが受験に絡めてマーケティングを展開した裏には、まず九州の学生が「きっと勝つとぉ≒きっと勝つよ」というゲン担ぎを始めて広がっていったというのは驚きであった。これをしっかりと捉えてマーケティング戦略に生かすにはアンソロ・ビジョンがないと難しいというのが趣旨(ネスレ本社は従来の味やイメージといったマーケティング戦略が前提となっている訳なので) エボラ出血熱がアフリカで発生した際、遺体の埋葬儀礼を巡って医師団と現地住民の対立が起こった話も興味深かった。原住民は伝統に即した儀礼(遺体に口づけをしたりといった、極めて感染リスクの高い行為)を行わないと、魂が永遠に救われないという考えから、医師団の定めた埋葬マニュアルを守らず対立構造が発生していた。このような構造は社会の至る所で散見されることから、肝に銘じておきたい(構造に気付くのが最も難易度が高いのだが) 総じて事例紹介の色が強いが、ユースケースを通じて「Anthro Vision」のエッセンスを感じることができたのは収穫である。
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人類学、すごいな。無縁と思い込んでいたビジネスに役立てているなんてさ。それにしても人類学者を採用するグローバル企業、すごいな。同質を尊しとする古色蒼然たる我が勤務先と大違いだわ。というのが、本書についてのストレートな感想で、、、 それよりも自分ならではの気づきとしては、 人類...
人類学、すごいな。無縁と思い込んでいたビジネスに役立てているなんてさ。それにしても人類学者を採用するグローバル企業、すごいな。同質を尊しとする古色蒼然たる我が勤務先と大違いだわ。というのが、本書についてのストレートな感想で、、、 それよりも自分ならではの気づきとしては、 人類学といえば上橋菜穂子先生のバックボーンなのです。大好きな上橋菜穂子先生が学んだ学問「人類学」の アプローチが本書を読むことで分かってよかったし、 とりわけ「虫の視点」と「鳥の視点」の両方を 駆使する人類学の態度および世界の見え方は 決してひとつではない、というテーマは、 まさに上橋先生の作品の核じゃないですか! 自分の中の上橋先生像の輪郭を ちょっと書き足せたように 感じます。 いい読書でした。
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・多様かつ複雑性の増す社会で他者と気持ちよく生きていくためには、他者・他組織の振る舞いを先ずは観察し、自らの振る舞いとの違いを知る事、そしてその理由に思いを巡らす事が重要である事が書かれている。 ・組織運営や自己キャリアの形成においても大切な心構えと振る舞いだと思う
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今の世の中、経済抜きには語れない。 豊かさの指標も、成長も進歩も、力関係も、経済で測られている。 でも、何か、納得がいかない。 このモヤモヤを言葉にして、突破口を開いてくれるのは、、、、ひょっとして、、、人類学かもしれない⁉︎? あとがきP323「人類学者には、自分たちの意見を...
今の世の中、経済抜きには語れない。 豊かさの指標も、成長も進歩も、力関係も、経済で測られている。 でも、何か、納得がいかない。 このモヤモヤを言葉にして、突破口を開いてくれるのは、、、、ひょっとして、、、人類学かもしれない⁉︎? あとがきP323「人類学者には、自分たちの意見を社会の主流派の議論に反映させる力を、高めてほしい」 経済、権力の側は、自分たちの世界は、特殊専門用語を理解するエリートの世界で、自分たちのことばや慣習を解さない下々から、観察され、分析対象として客観化相対化されることなど想定していない。 そこに切り込んでいけるのは、人類学なのかもしれない、と感じることができる、面白い本でした。
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人の動きや考え方に焦点を当てるのは大賛成 どんな素晴らしい計画や理論も実行されてなんぼ 自分のレンズがバイアスで汚れているということは意識していたい、経験が邪魔をすることがあることに注意したい
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p17 ビッグデータは何が起きているかは説明できるが、それが何故起きているかはたいてい説明できない。相関関係は因果関係ではない 相手と直接あって話すことでしか得られない知識もある。予断を排し、コンテクストを理解し、そして何よりも相手が話すことだけでなく、話さないことに注意を向け...
p17 ビッグデータは何が起きているかは説明できるが、それが何故起きているかはたいてい説明できない。相関関係は因果関係ではない 相手と直接あって話すことでしか得られない知識もある。予断を排し、コンテクストを理解し、そして何よりも相手が話すことだけでなく、話さないことに注意を向けるのだ p28 人類学で重要なのは、解釈とセンスメイキングだ p54 21世紀の社会には大規模な統計データやビッグデータをつかったトップダウン型の分析をありがたがる風潮がある。このような高度な演算が重要な洞察をもたらすことも多い。しかし私はオビサフォデ村での経験を通じて、ときには鳥の目でなく虫の目で世界を見て、両方の視点を組みわわせることに価値があると知った。 p59 そこで働く技術者や経営者が世界中の誰もが自分たちと同じようにモノを考える(べきだ)と思い込む傾向があることだ p82 人間は象徴化し、概念化し、意味を求める生き物だ クリフォードギアツ p91 パンデミック抑止案がこれほどうまくいかない最大の理由は、欧米の医学専門家が現地の人々の視点に立たず、ひたすら自分たちの先入観を通して現実を見ているからだ p109 メリンダ・ゲイツ 私達はデータの使用方法を見直さざるをえなくなった。当初ビッグデータへの期待は大きく、今でも統計の質を向上することの重要性、テクノロジーの可能性は確信している。しかし、いつまでもそんな単純な発想ではいられない。社会的コンテクストを理解することが重要だ p151 ホーソン効果 作業員が研究者に観察されていると思うと、パフォーマンスは向上 p268 目標はすべての当事者に、「世界を別の視点から視る」という人類学の大前提を教えることだ p274 デスクの配置を変え、チームメンバーを移動させた 金融市場のデジタル化が進んでも、そこで働く人たちが広い視野を持ち、ただしくセンスメイキングをするためには人と人とが交わる必要があるからだ p276 リモートワーク 最も大きな問題となったのは偶発的情報交換だ。自宅で再現するのが難しいのは、必要であることすら気づいていなかった情報を得る機会だ リモートワークでは若手社員に適切な考え方や行動を教えることも難しくなった p277 回答したエンジニアの半数以上が、オンライン会議は対面式より生産性が低いと回答した。 p278 オンライン会合ではだめだ。対面式の会合で重要なのは実際の議論の場だけでなく、会議以外の交流の場で大勢の人と出会うことだ。 廊下が存在しないこと、つまり偶然の出会いやおしゃべりがないというのは重大な違いだ 有意義な成果を得るには、お互いに顔を合わせる必要がある p284 新たな視点を持つために、異質な他者の思考を理解しようとしていた p306 賢人とは正しい答えを与え者ではなく、正しい問いを立てるものだ レビィストロース
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社会を理解しようとすると、ビッグデータでマクロの兆候を分析をする「鳥の目」だけでなく、対象に入り込み、文化的なコンテキストを理解する「虫の目」が欠かせない。特に変化の激しい現代では、自らも環境の産物であると心得て自分の所属集団も客観視して全体を理解する視点が死活的に重要になってい...
社会を理解しようとすると、ビッグデータでマクロの兆候を分析をする「鳥の目」だけでなく、対象に入り込み、文化的なコンテキストを理解する「虫の目」が欠かせない。特に変化の激しい現代では、自らも環境の産物であると心得て自分の所属集団も客観視して全体を理解する視点が死活的に重要になっている。 後進国の部族から金融市場やハイテク部門の技術者、Amazonの倉庫労働者、トランプ支持者、コロナの蔓延を止められなかった先進国、サスティナビリティを叫ぶ企業や投資家などを理解するうえで、先入観を廃して観察する人類学的アプローチが必要であるということ。 データサイエンスを否定するものではなく、補完し合うものと認識した。
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サイロエフェクトの著者による、「人類学的思考」による世界の解釈のススメ。科学的分析だけでなく、文化的分析を加えて理解を深めようというもの。科学だけでは「何」が起きているかは理解できるが、「なぜ」起きているかは理解できない。「時間」「会議」「家族」など、世界共通のものでさえ、前提が...
サイロエフェクトの著者による、「人類学的思考」による世界の解釈のススメ。科学的分析だけでなく、文化的分析を加えて理解を深めようというもの。科学だけでは「何」が起きているかは理解できるが、「なぜ」起きているかは理解できない。「時間」「会議」「家族」など、世界共通のものでさえ、前提が異なることがあるということ。この他にも、「教育の世界での信頼関係は、権威的より、水平的・分散型で構築される」「Z世代ではなく、C世代(カスタマイゼーション世代)」「バーター経済から貨幣経済という証拠はない」
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