失われた岬 の商品レビュー
北海道の日本海に面した小さな岬。ハイマツに陸路を絶たれたその場所へと消えていった者たち。 その岬を巡って、2007年の夫婦失踪から始まり、終戦間近から2029年の近未来までを描く壮大な物語。 600ページに届こうかというその物語は、それぞれのエピソードが散発的で半ば中弛みしかけ...
北海道の日本海に面した小さな岬。ハイマツに陸路を絶たれたその場所へと消えていった者たち。 その岬を巡って、2007年の夫婦失踪から始まり、終戦間近から2029年の近未来までを描く壮大な物語。 600ページに届こうかというその物語は、それぞれのエピソードが散発的で半ば中弛みしかけていたところ、終盤になって一気に引き込まれた。 過去の戦争と、近未来のディストピアが対比するように描かれ、その姿があまりにも似通っていることに暗澹とする。 文明を発展させる事は、破壊に向かっていくことでもあり、欲望はさらなる欲望を生み、他者を苛み、自らを引き返せない場所へと連れて行く。 人生の意味とは。人生に意味を求めることが間違っているのか。人が生きることとは。 作中の登場人物の意見は拮抗し、そのどちらの意見にも頷ける。 それでも、今現在の人間のありように少しでも疑問を感じているならば、この物語は強く、鋭く、深く心に響くに違いない。 年の初めに読むにふさわしい胸に残る物語でした。
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第1章から第3章までは一話完結の連作のようだが、そこから先はシームレスに話が続く。共通して描かれるのは何らかの理由で失踪した人々と、背後に見え隠れする“なにか”だ。それは宗教なのか、あるいは別のものなのか。 物語が進むうちに、設定が近未来であることがわかってくる。世界は現在よりも...
第1章から第3章までは一話完結の連作のようだが、そこから先はシームレスに話が続く。共通して描かれるのは何らかの理由で失踪した人々と、背後に見え隠れする“なにか”だ。それは宗教なのか、あるいは別のものなのか。 物語が進むうちに、設定が近未来であることがわかってくる。世界は現在よりも不穏で、まるで終末期のようだ。そんな時代に人々が望むものはなにか。それがこの作品の眼目のような気がする。読み応えのある作品だった。
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古くからの友人が、少しずつ生活の質を変えていっていることに気づく…。 そのうち連絡も途絶えてしまう。 そこから始まる謎の岬の様子。 不可解な失踪。 これは、人生をどのように過ごすのか…と問われているような気がした。 さまざまな欲望を捨てて生きるのが正解だとは思えないのだが。...
古くからの友人が、少しずつ生活の質を変えていっていることに気づく…。 そのうち連絡も途絶えてしまう。 そこから始まる謎の岬の様子。 不可解な失踪。 これは、人生をどのように過ごすのか…と問われているような気がした。 さまざまな欲望を捨てて生きるのが正解だとは思えないのだが。 無欲に粛々と…自分を律することも厳しい。 現実をしっかりと見て…と言われた気がする。
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親しくしてた友達夫婦が急に質素な暮らしを始め、そして行方不明になった。ノーベル文学賞を受賞した作家が授賞式直前に行方不明になった。調べてみると、北海道の人里離れた所に鍵があるらしい。 スピリチュアル小説なような、現代に充分に起こり得る予言的小説のような。面白いと思う人とつまらな...
親しくしてた友達夫婦が急に質素な暮らしを始め、そして行方不明になった。ノーベル文学賞を受賞した作家が授賞式直前に行方不明になった。調べてみると、北海道の人里離れた所に鍵があるらしい。 スピリチュアル小説なような、現代に充分に起こり得る予言的小説のような。面白いと思う人とつまらないと思う人が両極端にありそう。 私は凄く気に入った。瞑想やマインドフルネスといった心的なことにすごく興味を持っているのと、人が生きる意味なんてないだろうと思ってるのが作者の世界観と合致した感じがした。
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人間が生を受けて生きるとはどういうことなのか。学び、結婚し子供を作り、金を稼ぎ欲しいものを買う、それが集合すれば文化や文明、国家となる。一方、ただ一本の草のように自然の一部となって暮らす、そういう選択もあるんじゃないの? しかしその選択はどうなのか、そんな問いを、北海道の岬にまつ...
人間が生を受けて生きるとはどういうことなのか。学び、結婚し子供を作り、金を稼ぎ欲しいものを買う、それが集合すれば文化や文明、国家となる。一方、ただ一本の草のように自然の一部となって暮らす、そういう選択もあるんじゃないの? しかしその選択はどうなのか、そんな問いを、北海道の岬にまつわる謎とからめ、1945年から2029年と84年の時空を渡り、サスペンスフルに描きだす。 冒頭、慕っていた友の生活がだんだんシンプルになりついには連絡がとれなくなる様に何だ?となり、そして後半の岬の謎が明かされていく様にぐんぐんひかれ、最後の2029年の社会設定にうなる。現在でもいやな片鱗はあるが、それがちょっと進んでしまっている。 篠田氏の短編「エデン」もちょっと思い浮かべた。 北海道の旭川から日本海に抜けたカムイヌフ岬。ここが舞台。 前半は、だんだん物の無い生活になってゆき、愛犬さえも手放した母から「自分の居るべき場所がみつかった」という手紙を受け取った娘、また恋人を追って岬に入り、両目を熊にえぐられた青年実業家、などが出てきて、謎の岬と、物の無い生活、の疑問がふくらむ。岬は戦時中日本軍の毒ガス工場があった、という噂を村人は口にする。 展開は後半、時は2029年、ノーベル賞の受賞式直前に行方不明となった作家が、どうやらその岬にいったようだ、と出版社の社員とフリー記者が作家を見つけ出す過程で、カムイヌフ岬の謎が露わになる。やはり岬には何かあり、ある製薬会社の研究者でアイヌの村にはいった男に行きつく。男に何があったのか、何を見つけたのか・・・ 製薬会社社長の孫、孫と大学院の同窓生、アラスカの植物研究家、などが連なり、戦後の岬の系譜がつながってゆく。 最後に辿り着いた高樹博士の人生語りの報告書が頂点でありこの物語の原点だと思った。戦争にともなう思想がもたらすもの、もたらされたもの、だ。 おもしろかったのが、この近未来の2029年の設定だ。北朝鮮の爆弾は日本に着弾している、池袋ではイスラム系の寺院が増え、そこにテロの爆弾が降る、といった具合。最後にはある火山が爆発するのだ。「ブレードランナー」のあの荒廃した世界をも思わせるが、人々は携帯のアラートにちょっとびっくりはするが、少したつと落ち着いて、日常の生活に戻るのだ。 また、岬に入る者は、物欲や食欲、性欲も無くなっているようなのだ。それが「自然の一部として生きる」といえばそうともいえるが、クラークなどSF小説でかなりな未来になると、子供も生まれなくなり停滞している静かな世界、といった設定がいくつかあり、そんな遠未来もちょっと思い浮かべてしまった。・・が篠田氏の描いた岬はちょっとちがうかな。 2021.10.29初版 図書館 篠田氏インタビュー 本が好き https://honsuki.jp/pickup/50268.html 「肥大化した欲望の先には一体何があるのか。そこを探ってみたくて」 「謎の場所や得体の知れない何かに心惹かれます。それで、自分に近い人が病気や死ではない何かに奪われていくというシチュエーションを、SF的解明ではない手法で書いてみたい、そこに滅びゆく文明や産業問題、資源戦争といった視点を結びつけたいと考えました」 今週はこれを読め (牧眞司)web本の雑誌 https://news.ameba.jp/entry/20211116-1000/
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