台所太平記 改版 の商品レビュー
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一応、千倉磊吉(ちくららいきち)という作家の家で働く女中さんの話というフィクションの態を取っているけど、これは谷崎純一郎宅で働いていた女中さんたちの話。 すべてがすべて完全実話じゃないかもしれませんが、この突拍子もなさは多分ほとんど実話。 だからとても愉快に読んだ。 今のご時世、女中さん(お手伝いさん)を雇っている家となれば大金持ちでしかありえないけれど、昭和の初めころのそれは、わりとよくある職業の一つだった。 何せ原作マンガのサザエさんでさえ、ご近所のお手伝いさんとして働いていたことがあるのだから。 しかしさすがは文豪谷崎潤一郎。 彼の家には複数人の女中さんたちが入れ代わり立ち代わり雇われては、家族のように己をさらけ出しながら暮らしていた。 その様子を面白おかしく書いたものなのだから、これがおもしろくないわけがない。 折々挟まれる挿絵がまたいい。 それぞれの女中さんの特徴を見事少ない線で書き表しているのだが、谷崎がモデルの千倉磊吉だけがうさぎの被り物をした三頭身に描かれているのはなぜだ?笑 あくまでも雇い主の眼で書かれたものなので、本人たちにはもっと言い分があるのかもしれないが、主人にマッサージを頼まれると嫌そうな顔をしてしぶしぶ行うなど、案外好き放題にやっている様子である。 恋愛にかまけて家のことをさぼるとか、台所でこっそり飲み残しの酒を飲むとか。 一番驚いたのは、子どもの名前を付けてくれと頼んでおきながら、候補の名前が気に入らないからもう一度考えてくれという銀。 彼女は文豪谷崎潤一郎…じゃなかった千倉磊吉が彼女の店の暖簾に染める短歌にダメ出ししたうえに、こう変更したらどうでしょう?などと提案までしてくる。 そして、実際そのとおりに暖簾は作られた。 自尊心が強すぎる勘違い女中の百合が付き人になったのは(そもそも大女優の付き人になりたいから紹介してくれと主人に言う女中というのが…)、国民的女優の高嶺飛騨子(たかねひだこ)というのだが、これは高峰秀子のことですよね、きっと。 これを読むと彼女もまた、とても鷹揚としてよい人でした。
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作家の千倉磊吉(ちくら らいきち)が昭和10年に50歳で二度目の妻の讃子と所帯を持ってから、戦後の昭和30年代まで、たくさんの女中さんたちが千倉家で暮らした。 前の職場で、あるじに手篭めにされそうになって逃げてきた子などもいたが、磊吉はそんなことはせず、女中たちにも美味しいものを...
作家の千倉磊吉(ちくら らいきち)が昭和10年に50歳で二度目の妻の讃子と所帯を持ってから、戦後の昭和30年代まで、たくさんの女中さんたちが千倉家で暮らした。 前の職場で、あるじに手篭めにされそうになって逃げてきた子などもいたが、磊吉はそんなことはせず、女中たちにも美味しいものを食べさせ、妻の讃子も、困っている者があればすぐに雇った。 そういう家風(?)のせいか、女中さんたちは存分すぎるほどにに個性を発揮する。 さほど厚い本ではないけれど、「女の一生」を何冊も読んだ気分になる。まさに、女の博覧会のよう。そのリアルな描き方はさすがに谷崎ではあるけれど、視線は働く若い女性に対するエールにあふれている。 磨けば「お嬢さん」になれる資質を持っているのに、生まれた場所によっては満足な教育を受けられないという不公平を嘆くなど、女性に対する眼差しは温かい。 筆頭はなんといっても、40代になるまで千倉家に仕え、故郷の鹿児島から吟味した人材を呼び寄せては千倉家に斡旋し、教育もしてきた、「初(はつ)」。 他には、美人だけど目に星が無い「鈴(すず)」、恋愛に翻弄される「銀(ぎん)」、女優の付き人になった驕慢な「百合(ゆり)」、電気パーマの刺激で癲癇(てんかん)になった「梅(うめ)」、夫と共に店を大きくした働き者の「定(さだ)」など。 千倉夫妻が親代わりとなって結婚の面倒を見た女中さんも多く、時代を描いている。 磊吉は谷崎自身がモデル?最晩年に発表されたパワフルでユーモラスな、女中さん列伝である。
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谷崎潤一郎の、文豪、磊吉の家で働く代々の、個性豊かな女中たちを描いた話。 癇癪までもが結婚で治るなど、女性の幸せは結婚で決まる的な、古い考え方満載だが、当時の捉え方、地域による文化や考え方の違いなどがよくわかる。 磊吉夫妻は、迎えた女中たちの結婚の仕度など面倒をみたり、後々まで彼女たちのことを気にかけたりしてくれる雇い主で、彼らのもとで働けるのは女中たちにとってはラッキーだったことと思う。
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→「坊津と谷崎潤一郎」 https://blog.goo.ne.jp/mkdiechi/e/082486d52563f99b24073ca686dda4dc
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純文学の谷崎などと気構えず、気軽に読める、個性豊かで楽しい女中さん列伝。 山口晃さんによる挿し絵が楽しい。 特にウサギ耳の被り物をしている磊吉がクセになる可愛らしさ 笑 文豪千倉磊吉の屋敷で働く女中さんたちが主役。 姉御肌で、困っている同郷の娘を放っておけずに、次々と女中部屋に...
純文学の谷崎などと気構えず、気軽に読める、個性豊かで楽しい女中さん列伝。 山口晃さんによる挿し絵が楽しい。 特にウサギ耳の被り物をしている磊吉がクセになる可愛らしさ 笑 文豪千倉磊吉の屋敷で働く女中さんたちが主役。 姉御肌で、困っている同郷の娘を放っておけずに、次々と女中部屋に泊めてしまう初(はつ)。 「女中部屋と云いましても、せいぜい畳数四畳半くらいで、そこに多い時は七八人もの娘たちが鮪のように折り重なって寝るのですから、その騒ぎと云ったらありません。」 凄い様子だ 笑 彼女たちは鹿児島弁で話すから、方言も紹介されている。 鹿児島弁が分からないのをいいことに、初が磊吉に向かって 「いっけつんもなかじじっこ」(いけすかない爺さん)なんて言ったという話も。 こらこら、ご主人様に向かって 笑 梅(うめ)の癲癇を診察した医者が、電気パーマの熱が発症の原因だと診断するシーン。 そんな診断ってある??笑 しかも「最も完全な治療法は、早く結婚することである」だなんて。 時代だなぁ。。。 他にも、小夜(さよ)の気味悪さや節(せつ)との件に谷崎らしさ?がちょっぴり見え隠れしたり、最後まで飽きさせない。 これって、やっぱり谷崎家のことかな? 永観堂からそう遠くない所に越した…や、熱海の山王ホテルなど、谷崎家がモデルとなっているのは間違いなさそう。 小説の体をなした随筆なのかな。 愛情深い眼差しで女中さん達がのびのびと描かれていた。
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初版は中央公論社、1963年。「夢の浮橋」が後の潺湲亭のオモテ側を美しく描いた作品とすれば、こちらはその舞台裏とも言うべき小説。大所帯だった谷崎家の暮らしを支えた女中さんたちの「活躍」が列伝風に書き込まれる。 ほんとうに久しぶりの再読だったが、谷崎が女中部屋を「鹿児島県人会...
初版は中央公論社、1963年。「夢の浮橋」が後の潺湲亭のオモテ側を美しく描いた作品とすれば、こちらはその舞台裏とも言うべき小説。大所帯だった谷崎家の暮らしを支えた女中さんたちの「活躍」が列伝風に書き込まれる。 ほんとうに久しぶりの再読だったが、谷崎が女中部屋を「鹿児島県人会」と呼ぶほど、鹿児島からの娘たちが次々とやってきていた、という話はやはり興味深い。高峰秀子の付き人の一人が谷崎家からの紹介だったことも記憶しておきたい。 後の潺湲亭は住宅としては決して大きいとは言えないものだったから、最大で7人の家族と5〜6人の女中さんがいたというからには、相当に賑やかな家だったのだろう。「なぜそんなエピソードを知っているのか?」と思わせるほど、微に入り細にわたって彼女たちの「生態」(?)が綴られるあたり、『細雪』の創作ノートにも通じる谷崎の観察力、耳の鋭さが存分に発揮されている。
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谷崎はエッセイが本当におもしろい 「読者に一切苦痛を生じさせず文章を読ませる」技術がとにかく卓越してる
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初は「いけすかない爺さん」と主人に言い放ち、銀は大恋愛に猪突猛進、百合は昭和の大女優をもたじたじとさせ…。文豪の屋敷でのびのび働く女中さんを、愛情とユーモアを込めて描く。
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111108さんのレビューが読むきっかけになりました。ありがとうございました。 谷崎万華鏡で予習していたので、山口晃さんの挿絵が随所に散りばめられて登場人物のキャラの理解に役立つ。「編集部が抜粋し、再編成」とある。小説家の被り物が見慣れると違和感ないのは何故。 「家の中が派手で賑...
111108さんのレビューが読むきっかけになりました。ありがとうございました。 谷崎万華鏡で予習していたので、山口晃さんの挿絵が随所に散りばめられて登場人物のキャラの理解に役立つ。「編集部が抜粋し、再編成」とある。小説家の被り物が見慣れると違和感ないのは何故。 「家の中が派手で賑やかな方が好きな」千倉家一家と個性的な女中の皆さんとの戦前戦後の様子を生き生きと描かれている。女中さんたち、なんとまあしっかりしていること。 どの女中さんも愛嬌があってチャーミング。料理の場面は本当に美味しそう。百合の愛読書を『谷崎源氏』としているのには笑ってしまった。臙脂の着物を着た鈴の美しさやブルーのモヘアのカーディガンが似合っている銀。「私でなければ駒さんを理解できる人はいませんよ」樫村さんかっこよすぎ。頼吉さんとお気に入りの女中さんとの散歩や食事、足裏マッサージの様子などほっこりする。嫁入りやお里へ帰るなどで千倉家から卒業していくまでの女中達に翻弄される様子を一緒に楽しむことができる。 時々磊吉さんが読む歌がまた良い。 さつま潟とまりの浜に漁る日も伊豆のいでゆをわすれざらなん さざなみの滋賀の海女こそかしこけれ捕へし魚を遂にはなさず 湯が原の春吟堂に客絶えずさくら咲く日もみかん実る日も 磊吉さんの喜寿祝いで幕を閉じることになるのだが、とても名残惜しい。1960年代映画化されたよう。出演者の豪華さにびっくり。
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登場する人たちが、それぞれ魅力的。特別な出来事が無くても、ひとの日常の話を聴いて楽しいのと似ている。 会話や描写がおもしろくて笑ってしまう。
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