雪麻呂 の商品レビュー
小島ゆかりさんの歌集ですね。 小島ゆかりさん(1956年、愛知県名古屋市生まれ) 歌人。宮柊二さんに師事。歌人の小島なおさんのお母さん。 家族愛にあふれた、ソフトな柔らかい親しみやすい作風です。初めて、小島ゆかりさんの歌集を読みましたが、とても感じがいいので、気持ちよく読めま...
小島ゆかりさんの歌集ですね。 小島ゆかりさん(1956年、愛知県名古屋市生まれ) 歌人。宮柊二さんに師事。歌人の小島なおさんのお母さん。 家族愛にあふれた、ソフトな柔らかい親しみやすい作風です。初めて、小島ゆかりさんの歌集を読みましたが、とても感じがいいので、気持ちよく読めました。この歌集は、第三回大岡信賞を受賞されています。 歩くさへ全力の母すぐそこの はるけき夏の郵便局へ のどの奥の奥まで見せてあくびせり 猫は一度も嘘をつかねば すずかけのまだらの幹のつづく道 けふ全天のうろこ雲なり 冷えわたる夜の澄みわたるかなたより もうすぐ天の雪麿呂が来る 蝶がきて風がきて蝶と風がきて 翁は春のベンチとなりぬ 菜の花の丘やたる風の源流に 紀元前といふ時間はありき 降るまへの雨の香濃ゆし武蔵野を おほふ樹林のつばさふくらむ 歳月に入り江あるらし飛ぶ蝶を 見失ひたる夏空の岸 ふるさとの雪ふる夜の思ひ出は 野火はしるごと犬が走れり 風鳴りのかなたから来るしづかなる 濃きひかりありたちまち燕 あかるすぎる秋のまひるま百円の 老眼鏡をあちこちに置く 一群のとんぼ飛ぶとき鳴り出でて 釣鐘となる秋のおほぞら 母がもう忘れたるわが誕生日 未生以前の秋のかぜふく 小島ゆかりさんの十五冊目の歌集だそうです。 「2018年夏から2020年秋までの、おおよそ二年間の作品のなかから、四百五十一首(長歌一首、反歌二首を含む)を収めました。」とあるように、読みごたえのある歌集です。とても素直な気持ちの善い歌集ですので、ある面読んでいて癒される思いがしました。 ほんとうに良い歌集ですね。
Posted by
小島ゆかりさんの十五冊目の歌集。 フォロワーさんたちがお読みになっていて、私も読みたーい、と思っていたら、我が市立図書館に所蔵されているのを発見。お取り寄せしてもらう。 マイナス、ネガティブな感情も読ませる歌になっていてさすがだと思った。 虫や鳥、植物に向ける視線が人間に向ける視...
小島ゆかりさんの十五冊目の歌集。 フォロワーさんたちがお読みになっていて、私も読みたーい、と思っていたら、我が市立図書館に所蔵されているのを発見。お取り寄せしてもらう。 マイナス、ネガティブな感情も読ませる歌になっていてさすがだと思った。 虫や鳥、植物に向ける視線が人間に向ける視線と同等に感じて、そこに共感した。 ひらがなに開く単語の効果的な使い方も勉強になった。 タイトルの『雪麻呂』ってかわいらしい響き。 小島さん御本人は「架空の名前」「雪の気配とともに胸に降りてきた言葉」「不思議な懐かしさを感じる」と、あとがきで書かれている。 曇り空から降り注ぐ真白の雪は、降ってはちり積もる感情や歳月のことみたいに思えた。 積もって積もって、やがて跡形もなく消えゆく。 それはひとの一生のことでもあるかもしれないし、ひとの紡ぐ言葉のことであるのかもしれない。 できれば、その雪を見て「きれいだったな」って憶えてくれているひとがひとりでもいればいいですね。
Posted by
張飛さんのレビューを拝見して図書館から借りてきました。 お母様の歌、お姑様の歌がそれぞれの関係性も含めて共感する歌が多いと思いました。 ちなみにお母様は90歳だそうです。 ○地下鉄のあをきシートにみどりごは予言者のごとく立ち上がりたり ○ひつひつと夜の雨降り、十万人、否...
張飛さんのレビューを拝見して図書館から借りてきました。 お母様の歌、お姑様の歌がそれぞれの関係性も含めて共感する歌が多いと思いました。 ちなみにお母様は90歳だそうです。 ○地下鉄のあをきシートにみどりごは予言者のごとく立ち上がりたり ○ひつひつと夜の雨降り、十万人、否、二十万人の児童虐待 ○歩くさへ全力の母すぐそこのはるけき夏の郵便局へ 〇夕陽こんなにうつくしけれど、半端ない介護の月日もう二十年 〇朝顔の観察日記 にんげんはなにかを数へつづけて老いぬ 〇孔雀青(ピーコックブルー)の傘が空をとぶ夏のあらしの青山通り 〇ややこしき世に陶然とぶだうあり何の比喩でもなくてうつくし 〇夫よりもわれと親しく手をつなぐ姑(はは)となりたり靴ちぐはぐに 〇あれもこれも忘れし姑(はは)と手をつなぐ三十五年目のさくらのしたで 〇息子にもあなたのやうな嫁欲しと姑言ひ出づるさくらの日なり 〇かつて子が言ひし「自分でできるから」いまは老いたる母が言ふなり 〇おもひの外のもつての外のこともある一生せつなし明日は歯を抜く 〇みづからの病知らねば古猫は怒りに怒るフード変はるを 〇捨てて捨てて生きんとおもふ夕焼けのそらに老母を捨てるときまで 〇晩夏(おそなつ)のうすむらさきのひぐれまへ過去が涼しくなる時間あり 〇母がもう忘れたるわが誕生日 未生以前の秋のかぜふく
Posted by
歌人小島ゆかりの第十五歌集。歌風は、明るくユーモラスで日常の何気ない情景を詠んでいる歌が多い。著者の感性の豊かさを感じるような、はっとさせられる短歌が多く読んでいてとても楽しい。 短歌は文語で詠まれているが、使っている言葉自体は難しい言葉をほとんど使っていないので文語を読みなれ...
歌人小島ゆかりの第十五歌集。歌風は、明るくユーモラスで日常の何気ない情景を詠んでいる歌が多い。著者の感性の豊かさを感じるような、はっとさせられる短歌が多く読んでいてとても楽しい。 短歌は文語で詠まれているが、使っている言葉自体は難しい言葉をほとんど使っていないので文語を読みなれてなくても分かりやすいと思う。いくつか紹介したい。 ブランコは乗るより降りるむづかしくおッとッと さくらももこさん逝く 両足のふくらはぎ攣(つ)る一、二分孤島のごとし春のあけぼの 中日歌壇N氏かつての上司なり慎みてその歌をボツにす ああ五月、未来長者の若者にまじりてさわぐ過去長者われ 感情はけものなるゆゑ夏くれば青葉の闇に毛づくろひする 明日また旅ゆくわれに若猫は気づかぬを古猫は気づきぬ 母がもう忘れたるわが誕生日 未生以前の秋のかぜふく
Posted by
小島ゆかりさんは、日常の中に、見えないものをみて聞こえないものをきく。「遠く近く雨中になにかこゑ聞こえ あるいは雨になりし人々」「地下鉄のあをきシートにみどりごは預言者のごとく立ち上がりたり」「梅雨ふかし地下ホームから地上へとボンベのやうな人体はこぶ」「歩くさへ全力の母すぐそこの...
小島ゆかりさんは、日常の中に、見えないものをみて聞こえないものをきく。「遠く近く雨中になにかこゑ聞こえ あるいは雨になりし人々」「地下鉄のあをきシートにみどりごは預言者のごとく立ち上がりたり」「梅雨ふかし地下ホームから地上へとボンベのやうな人体はこぶ」「歩くさへ全力の母すぐそこのはるけき夏の郵便局へ」「日ざかりをゆらゆら母とわれゆけりたつた二人のキャラバンに似て」「天道虫ぷつととまれば夏の夜の窓にちひさき水輪ひろがる」「ふくよかな熱き空気が脚に触れ盲導犬とすれちがひたる」「おほぞらを雲のまにまにスフィンクスゆけり前方後円墳ゆけり」「朝顔の観察日記 にんげんはなにかを数へつづけて老いぬ」「この坂を自転車でゆきし日々はるか雲の峰まで今日バスで行く」「冷えわたる夜の澄みわたるかなたよりもうすぐ天の雪麻呂が来る」「雪麻呂を待ちつつこよひあかあかとわれは椿の媼となりぬ」
Posted by
- 1