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行く、行った、行ってしまった の商品レビュー

4.3

17件のお客様レビュー

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2023/11/13

難民問題に対してモヤモヤしていたことをうまく言語化してくれている 人生って結局運だよなって思う  神にすがりたくなる気持ちもわかる

Posted byブクログ

2023/08/17

退官した大学教授、リヒャルトはふとした興味からアフリカからの難民と付き合うようになるが、そこで目の当たりにするのはみんなそれぞれの人生を生きる一人の人間であり、できれば難民問題などには触れたくない国家の本音という制度であり、国という枠組みの隙間に落ちてしまう難民たちの苦難と困難だ...

退官した大学教授、リヒャルトはふとした興味からアフリカからの難民と付き合うようになるが、そこで目の当たりにするのはみんなそれぞれの人生を生きる一人の人間であり、できれば難民問題などには触れたくない国家の本音という制度であり、国という枠組みの隙間に落ちてしまう難民たちの苦難と困難だった。 「難民は、制度が定めるゆえに難民なのではなく、難民ゆえに難民なのである」 そんな言葉を、最近どこかで読みました。UNHCRとかそのへんの人だったかしら。 災害や戦火で地域を追い出された人たちは命の危険にさらされるがゆえに、慣れ親しんだ土地を離れなければならない、そんな困難な状況に陥った人を助けるべきなのは、特に経済的に豊かな国には当然の義務とされています。日本は難民の受け入れには非常に後ろ向きで、そのことに批判が多いのはよく知られたことです。ところがウクライナ戦争が起きてからは積極的に受け入れる姿勢を見せるようになりました。ただし、難民ではなく「避難民」と言い換えて。さて、何が違うのだろう。難民は難民ゆえに難民であるならば、ウクライナで焼け出された人とシリアで焼け出された人は、何が違うから名称が違って受け入れ態勢が違うのだろう。 どの国も難民問題については基本的に目を背けたい。その中で、比較的難民の受け入れに積極的だったのがドイツのメルケル政権でした。シリアの人道危機の際には100万人規模の受け入れを行ったといいます。この本は、そんなドイツ・ベルリンのお話です。 登場する難民たちはアフリカ、リビアやニジェールなどからエスニッククレンジングや紛争の混乱から逃れ、あるいは追い出され、命がけで地中海を渡り、一度イタリアに入国し、そこからドイツへ向かいました。そういうケースの場合、難民申請をするにはとても高いハードルになるのだそう(ダブリンII規約)。そして彼らがたどりついたベルリンのオラニエン広場から滞留施設に収容され、行政から滞留の検討結果が出されるまでの経過や、難民ひとりひとりがどんな目にあったか、どんな暮らしをしていてどんな将来を夢見ているかなどを、東ドイツ出身で、東西ドイツ統一で彼らと同じように国を失った元大学教授のリヒャルトの目を通して見ていくのです。 結末はとても悲しいもので、国の制度が(ドイツといえども)とても一人の人間を見て作られたものとは思えない冷たさで、困難に直面した人がどうしていいのかわからない絶望に叩き込まれてしまう過程は本当に胸が痛くなりました。しかしまた、逆に主人公を含む一般の市民ひとりひとりが難民と接する暖かさのようなものが対比的に描かれているのが印象的です(怖がる人ももちろんいるのですが)。こうした「困った人を助ける」という当たり前のことすら難しくしてしまう国家という枠組みって、いったい何のため、誰のためにあるんだろうか、と、素朴に思ってしまう悲しさがありました。 以上のように、お話自体は社会派で重量感があるのですが、文章はとてもリズムがあって読んでいてストレスがなく、主人公リヒャルトの造形も、不倫してたりドイツ語教師に老いらくの恋を発揮したりと等身大に描かれていて、(難民たちを含め)一人一人が浮き立ってくるような丁寧な描写でとても良かったです。こうした表現の部分などは訳者の浅井さんの腕もあるのかもしれませんが。 文章の巧さや読者に提起する問題とテーマ性など、総合的に見てもすごく良い出来だと思いました。

Posted byブクログ

2023/04/23

 久しぶりに翻訳小説を読みました。「行く、行った、行ってしまった」という、この作品の題名に、なんだこれ?思って読み始めたのですが、エルペンベックという作家が1967年に東ベルリンで生まれた人だということが、作品の内容とその不思議な題名とに 強く結びついていたことに納得して読み終え...

 久しぶりに翻訳小説を読みました。「行く、行った、行ってしまった」という、この作品の題名に、なんだこれ?思って読み始めたのですが、エルペンベックという作家が1967年に東ベルリンで生まれた人だということが、作品の内容とその不思議な題名とに 強く結びついていたことに納得して読み終えました。  題名は動詞の時勢変化ですが、時間とともに空間もまた変化せざるを得ない「行く」という動詞を使った結果、当然、浮かんでくる「来る」というイメージが引き起こす現実を描いたところが卓抜だと思いました。  個人的な好みの問題に過ぎないのかもしれませんが、国家であるとか宗教であるとかいう、共同的な大きなものに疑いの眼差しを持つことを促す作品が好きですが、現代のヨーロッパ社会が政治的、宗教的な理由を抱えた難民や移民の問題を「真面目に」考えざるを得ないのでしょうね、小説でも映画でも作品のテーマとしてよく出てきますが、この作品も、そこを一つの主題として描かれていることに強く惹かれました。   ブログにもあれこれ書きました。覗いてやってくださいね(笑)。   https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202209230000/

Posted byブクログ

2022/09/05

私は、さっきまでの私ではない。 何かを知ってしまった時、 もう知らなかった私には戻れない。 新しい私の意志に身を任せるのだ。 古い私の観念にこだわってはいけない。 そうやって日々、私を更新するのだ。

Posted byブクログ

2022/08/29

ドイツ・気鋭の作家による、移民問題が題材の小説。 主人公リヒャルトは大学を定年退職した古典文献学の元教授。東ドイツ出身である。 妻は亡くなり子供はいない。かつて愛人もいたが、今は一人だ。 住まいのある湖畔は、普段ならボート遊びや釣り人で賑わっているが、男が事故で溺死したため、今...

ドイツ・気鋭の作家による、移民問題が題材の小説。 主人公リヒャルトは大学を定年退職した古典文献学の元教授。東ドイツ出身である。 妻は亡くなり子供はいない。かつて愛人もいたが、今は一人だ。 住まいのある湖畔は、普段ならボート遊びや釣り人で賑わっているが、男が事故で溺死したため、今シーズンは人も少なく静かである。 退官して時間が出来たリヒャルトは、新しい生活になかなか慣れない。落ち着かない暮らしの中で、近くに住むアフリカ系難民のことを知る。彼らは宙ぶらりんな立場に置かれていて、ずっとここに住み続けられるわけではなさそうだ。 リヒャルトは彼らに興味を持ち、元大学教授の肩書を利用して、彼らにいろいろと話を聞くことにする。 一口に難民というが、ここにたどり着くまでには、それぞれの背景があり、経緯があった。 彼らと徐々に親しくなっていく中で、リヒャルトは自身の専門の古典とも絡めて、様々に思索を巡らせる。 ときには彼らに仕事を与え、ときにはピアノを教えてやり、ときにはドイツ語を教える。 だが彼の「思いやり」は時にピントが外れており、時にこっぴどく痛い目に遭う。 アフリカ系難民をあからさまに差別する者もいる。それはよくないことだが、だが善意の者の「善」が本当に難民のニーズにあっているのかというとそこもまた難しいところだ。 様々な出来事が起こる中で、湖で死んだ男のイメージが、心に吊るされた錘のように、そこここで顔を出す。 行く・行った・行ってしまった。 語学を学ぶときには、文法や格変化や時制を学ばなければならない。 不安定な立場の難民たちは、国から国へと転々とするたびに、またあらたに一から言葉を学ぶ。それまで学んだことは次の国では得てして役には立たない。 浮草のような暮らしの中で、心を病む者がいるのも、痛ましいことだが、意外とは言えない。 どこへ行けばいいかわからないとき、人はどこへ行くのだろう? 物語は、リヒャルトの過去のエピソードで締めくくられる。 それまで、学者肌で「好々爺」の印象が強かった彼の像がここで大きく揺らぐ。 なるほど人間とは一面では語れない。意気地なさも優しさも冷酷さも狡猾さも善意もすべてひっくるめて、一人の人間を形成するのだ。 そしてそんな私たちは誰しも、強固な地盤の上にいるわけではなく、いつ何時、足元が崩壊するかもわからぬ世界の中で、それに気づかぬまま、あるいは敢えて目を向けぬまま、日々を何となくやりすごしている。 袖すり合うも他生の縁と言う。 私たちは、たとえひとときだとしても同じ時制を過ごす人たちと、通じ合あおう、わかりあおうと努めるべきなのだろう。 違う言語を話していても、違う歴史を背負っていても、違う記憶を宿していても。 さらには、共に暮らす人たち、同じ言語、同じ歴史、同じ記憶を共有する人たちとも本当にわかり合えているのか、時には胸に手を当ててみるべきなのかもしれない。 それは決して簡単でもないし、きれいごとで済むわけでもない。 それでもなお、あきらめず、投げ出さず、少しずつ歩み寄る。 大きく動く世界の中で、そうした姿勢が求められるのではなかろうか。

Posted byブクログ

2022/06/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

難民の人々がドイツにたどり着くまでのストーリーは強烈で、ただの物語ではなく、実際にも起こっていることだと思うと、やるせなくなった。 国内・外という狭い枠ではなく、今ある国は「世界という国」の中の「州・県」みたいな感覚になったら、もう少し互いに手を差し伸べる体制ができてくるのだろうか。 難民たちのおかげで、時間を持て余していた退官後も活力を取り戻したリヒャルト。何も解決してはいないけれど、人と人との繋がりの温かさを感じた。 国、立場、年齢などのバックグランドが違っても、私たちは同じ人間であることを示唆する終わり方もとても素敵だと思った。

Posted byブクログ

2022/04/20

ここ数年全然小説を読んでなかったんだけれど、これは読んでよかった〜〜となっている とにかくいろんな視点を与えてくれる感じとか、脳内にあった色々を整理されていく感じが心地よかった 「ケニアの同性愛者万歳」のくだりだけ、どのように取っていいのか分からない棘のようにウグッときているけ...

ここ数年全然小説を読んでなかったんだけれど、これは読んでよかった〜〜となっている とにかくいろんな視点を与えてくれる感じとか、脳内にあった色々を整理されていく感じが心地よかった 「ケニアの同性愛者万歳」のくだりだけ、どのように取っていいのか分からない棘のようにウグッときているけど…あれどういう話…? 難民というものについて、特権というものについてぐつぐつ考えたい考えている人におすすめ

Posted byブクログ

2022/02/22

退職後のリヒャルトが送るおひとりさま生活(諸事情あり)に妙な憧れを抱きつつも、それを取り巻く不穏な空気にいつしか意識が傾いていた。 恐らく現役時代から活動的な人ではなくて、使う言葉もあまりアップデートされていないのかな。差別用語と分かっていてもいつまでも記憶に残る「ネーガー」の...

退職後のリヒャルトが送るおひとりさま生活(諸事情あり)に妙な憧れを抱きつつも、それを取り巻く不穏な空気にいつしか意識が傾いていた。 恐らく現役時代から活動的な人ではなくて、使う言葉もあまりアップデートされていないのかな。差別用語と分かっていてもいつまでも記憶に残る「ネーガー」のワードに、東ドイツ時代に培われたと見られるロシア語。 名誉教授リヒャルトの専門は古典文献学であるから途中ゲーテやらの(全く守備範囲外の)言い回しが矢継ぎ早に飛び出してくる。ある程度本題に関わりはするものの気を取られさえしなければ、やがて霧が晴れるように核心が"visible"になっていく。 色んな意味でクラシカルな彼が(本当に沸いて出たような)好奇心からアフリカ難民達と交流、時にはドイツ語も教える。(普段は彼らが理解できる英語かイタリア語、時々ドイツ語で意思疎通を図っている) この活動が報道されてもボランティアかと流すだろうけど、物語にしてしまうと奇妙なコントラストに映るから不思議だ。 「天国に行く権利さえもが労働するかどうかにかかっているようなこの国で、あの男達はなぜ、働く権利を拒否されるのだろう?」 アフリカから文字通り海を渡ってヨーロッパに逃げ場を求める難民の話は聞いたことがある、だけだった。ここで目の当たりにするのは追い立てられるように国を出る前後の、もっと詳しい話。無事に流れ着いても遂には自分が何者なのか分からなくなるという、想像を絶する体験談。「戦争中には戦争が見え、戦争以外はなにも見えない」 何か劇的な展開が待っているのかと思いきやそうでもない。それどころか、僅かな晴れ間さえ拝むことができないストーリーラインに若干イラつくことも…政治色も濃厚めで、現に政府がどのような支援や対策を進めているのか知らないのもあって読み辛さはあったが、理想通りに運んでいないであろうことはよく伝わってきた。 読後、意識は近所に向いていた。遠くない将来、迎えるに留まらず彼らの人生・未来は"visible"なのだと思ってもらえるのだろうか。 「楽じゃないよ(イッツ・ノット・イージー)」

Posted byブクログ

2022/01/03
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

いきなり今年ベストワン候補。 アフリカからヨーロッパへの移民問題についての小説。めちゃくちゃテーマが重いのに、とても読みやすかった。帰省前に大垣書店で購入し、実質ほぼ3日で読んだ。 主人公は退官した大学教授リヒャルト。ベルリンに暮らす。妻に先立たれ孤独であるが、社会的名声や経済的な安定は得ている。 退職後の、予想された平坦な日々は訪れず、アレクサンダー広場でハンガーストライキをやっているアフリカからの難民とかかわるようになる。 リヒャルトは東ドイツの市民であったがベルリンの壁崩壊を体験し、西ドイツ=新ドイツ連邦共和国の一員となった背景がある。 リヒャルトはアフリカ難民を気に掛ける心優しい市民であるが、愛人のいた過去があり、ドイツ語を難民達に教える女性の教師に思いを寄せたりする、なんというか良い言葉で言うと人間くさく、悪く言うと、負の側面を抱える人物である。 ビアノを弾きたいという願いを叶えるための約束を難民の一人が忘れてたりすると内心腹を立てたりもする。 リヒャルトのそのようなところがリアリティを感じさせ、この本を読み進めさせる原動力なのかもしれない。 ドイツ語の学習がなかなか進まないという教師に、リヒャルトは発音も耳慣れないだろうし、(ドイツ語の)不規則動詞がね、と言うが教師はこう返す。 「それが理由じゃありません。あの人たちの生活は、あまりにも不安定なんですよ。だから、頭のなかに新しい単語を覚えるための余裕なんかないのです。(略)なんの役に立つのかわからないまま、言葉を学ぶというのは大変なことなんです。」 相手の立場に立つというのは何と難しいことだろう。 「自分たちがこれほど恵まれた暮らしをしているのが自分たち自身の功績でないならば、同様に、難民たちがあれほど恵まれない暮らしをしているのも彼ら自身の責任ではない」 「自分が、関わる現実を選び取ることのできる、この世界で数少ない人間のひとりであることを、リヒャルトは自覚している」 自己責任とか自助とか、寝ぼけた話だと思う。 そして一方、自分はどうすれば良いのか、とも。

Posted byブクログ

2021/12/31

文学ラジオ空飛び猫たち第64回紹介本。 社会派なテーマを扱う小説ですが、ユーモアある魅力的な登場人物がいて、物語の展開もよく、おもしろく読めました。難民に対する予備知識がなくても読んでいけると思います。難民の人たちとの交流を通じて、国や境界について、また自分自身についてなど、多く...

文学ラジオ空飛び猫たち第64回紹介本。 社会派なテーマを扱う小説ですが、ユーモアある魅力的な登場人物がいて、物語の展開もよく、おもしろく読めました。難民に対する予備知識がなくても読んでいけると思います。難民の人たちとの交流を通じて、国や境界について、また自分自身についてなど、多くのことに考えを巡らせます。この小説を読むと、難民について、自分が知らなかったことについて考えてしまいます。 ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/64-e1at3tl

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