行く、行った、行ってしまった の商品レビュー
先日、死刑についてのルポを読んで、死刑制度について考えた。そして、本書を読んで難民問題について考えた。日本にいると、ヨーロッパには難民が多数押し寄せていて社会問題になっているということをニュースでは見聞きしたことはあっても、よりリアルなものとして感じることはない。こういうテーマを...
先日、死刑についてのルポを読んで、死刑制度について考えた。そして、本書を読んで難民問題について考えた。日本にいると、ヨーロッパには難民が多数押し寄せていて社会問題になっているということをニュースでは見聞きしたことはあっても、よりリアルなものとして感じることはない。こういうテーマを扱った小説を通じて初めて身近に感じるのだと気付かされた。 主人公は旧東ベルリンに住む定年退官したばかりの大学教授。ベルリンにやってきたアフリカ難民の抗議活動でその存在に気付き、興味を持って接するうちに支援者となっていく。難民となってやってきた者たちの苦難の真の姿を知り、彼らに同情し、助力するとともに、一部の市民の難民に対する敵意や無関心にも心を痛めていく。そして、難民たちの消された過去を思うと同時に、自らの過去についても振り返ることになる。 難民たちは、未来が見えない中で、困窮の中で、必死に生きていく。主人公ならずとも彼らに心を寄せるのは自然なことだろう。
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gehen ging gegangen ドイツ語は分かっても、難民が沢山いる事をニュースなどで見知っても、アフリカから命がけでやってくる人々についてはあまりに知らなすぎました。 物語の初めは、この調子で最後まで続くのかな、っとちょっと退屈を予感してしまったのですが、もちろんそんな...
gehen ging gegangen ドイツ語は分かっても、難民が沢山いる事をニュースなどで見知っても、アフリカから命がけでやってくる人々についてはあまりに知らなすぎました。 物語の初めは、この調子で最後まで続くのかな、っとちょっと退屈を予感してしまったのですが、もちろんそんな事は無くて、しっかり後半揺すぶってきます。 翻訳の本は、どうしても世界観に浸りにくいものですが、(と言うか、何故英語に訳す?) 何だかんだと結局結末が知りたくて読み切りました。 それどころか、派生したお話もあったらいいのにとか思っちゃいました。
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摩擦、文化、宗教、生活様式、価値観、搾取、善意、偽善、傲慢、援助、制度、法律、極右、人権、命。 難民という問題を考えたとき、たくさんの言葉が浮かんでくる中、読者は主人公の元老教授とともに、彼らが、「難民」という大きな言葉ではない様々な背景を持つ一人の人間であることを知り、その姿...
摩擦、文化、宗教、生活様式、価値観、搾取、善意、偽善、傲慢、援助、制度、法律、極右、人権、命。 難民という問題を考えたとき、たくさんの言葉が浮かんでくる中、読者は主人公の元老教授とともに、彼らが、「難民」という大きな言葉ではない様々な背景を持つ一人の人間であることを知り、その姿に私たちはいっそう考えざる得ない。 難民認定がほぼゼロの世界の片隅、日本から。
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退官した独り身のベルリン郊外に住む大学教授が、アフリカ難民に興味を抱きインタビューしながらも手を貸し親交を深めていく話。現実のドイツでの難民問題が背景にあり、紛争や飢餓に苦しむ地域が未だに多く存在している。物語の中で、『自分が、関わる現実を選び取ることのできる、この世界で数少ない...
退官した独り身のベルリン郊外に住む大学教授が、アフリカ難民に興味を抱きインタビューしながらも手を貸し親交を深めていく話。現実のドイツでの難民問題が背景にあり、紛争や飢餓に苦しむ地域が未だに多く存在している。物語の中で、『自分が、関わる現実を選び取ることのできる、この世界で数少ない人間のひとりであることを、リヒャトルは自覚している』とある。本当にその通り。持っているものを自覚し、厳しい状況に置かれている人を支えていきたい。
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主人公リヒャルトのモノローグのような文章で物語は進む。その淡々としたトーンにドイツが舞台なのにフランス映画を見ているような読書だった。時折描写される難民たちの肌の色(黒)への言及もそのイメージを強くさせる。しかしリヒャルトの難民たちへのかかわりが強くなるのにつれてそのイメージの一...
主人公リヒャルトのモノローグのような文章で物語は進む。その淡々としたトーンにドイツが舞台なのにフランス映画を見ているような読書だった。時折描写される難民たちの肌の色(黒)への言及もそのイメージを強くさせる。しかしリヒャルトの難民たちへのかかわりが強くなるのにつれてそのイメージの一部に色彩が浮かぶ。難民たちが燃やす炎の色、故郷の思い出の語りの中で出てくる布地の青、小さな裏切りのような出来事の後リヒャルトと地元の友人たちと難民たちがが行きついたところでリヒャルトの過去についての真実が明るみにされ、そこに浮かぶ血の色。それらの色が出てくるまでに語られるそれぞれの過去ー東独の時代、アフリカの故郷の暮らし、リビア内戦やシャリーア紛争と思しき描写、故郷を逃れてからのの体験(海を渡る人々、ランペデゥーサ島、オラニエン広場)ドイツでの難民受け入れと排斥のせめぎあいと右翼の台頭等々。アラブの春以降アフリカと欧州で起きていることを思い出させてくれた物語。何か国の言葉が出てきただろう。時折挟み込まれるギリシャ神話やシェークスピアなど古典の一説がリズムを作る。そして繰り返されるドイツ語の動詞の活用Gehen,ging,gegangen。「どこへ行けばいいかわからないとき、人はどこへ行くのだろう?」(pp.321,322)。湖の底に沈んだ男は難民に関わる前のリヒャルトを意味してるようにも、どこにも行けない難民たちでもあるように思った。
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国とは何なのか。 国を追われ、または逃れ、流れ着いた場所では恐れられ疎ましがられ差別される人々。 かたや祖国がある日突然消失するという経験。 翻弄される運命と交錯する人生を、切実な難民問題を主軸に置いているのに意外にもおかしみさえ漂わせながら描かれる老教授とアフリカ系難民との交...
国とは何なのか。 国を追われ、または逃れ、流れ着いた場所では恐れられ疎ましがられ差別される人々。 かたや祖国がある日突然消失するという経験。 翻弄される運命と交錯する人生を、切実な難民問題を主軸に置いているのに意外にもおかしみさえ漂わせながら描かれる老教授とアフリカ系難民との交流。 登場人物の個性が粒立っていて、目の前に現れそうなほどの描写力。 湖に沈む死体が象徴することについて考える。考えていく。
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浅井晶子訳は今のところハズレなし、なのだけれど、これも例に漏れず。退職した教授がアフリカ難民に興味を持ち、だんだん近づいていくのが、ちょっと滑稽で軽妙で笑ってしまったりもするのだが、読んでいくうちに、難民の1人1人に苦しくつらい過去や重たい人生やかなえられるのか心もとない希望があ...
浅井晶子訳は今のところハズレなし、なのだけれど、これも例に漏れず。退職した教授がアフリカ難民に興味を持ち、だんだん近づいていくのが、ちょっと滑稽で軽妙で笑ってしまったりもするのだが、読んでいくうちに、難民の1人1人に苦しくつらい過去や重たい人生やかなえられるのか心もとない希望があることがわかってくる。この教授も単なる軽妙ないい人ではなくて、なんだか訳ありな過去があることも。どんな人も、いいだけじゃないし、わるいだけでもない。湖がいつまでも心に残る。
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