ここはとても速い川 の商品レビュー
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施設で暮らす小学生の俺。 同じ施設で暮らすひじりと、近所のアパートに住む大学生のモツモツと、知らない花を密かに植え替えたこと。 施設の妊娠中の先生は、つわりがひどいと唾をペットボトルに吐き出しながら、仕事をしている。 入院中の唯一の親族のおばあちゃんのお見舞いに行くこと。 病弱のお父さんと一緒に暮らせるようになったひじりとの別れ。 もう一つ短編。 アドレスホッパーとして家を持たず、ゲストハウスを転々とする塾講師。 恋人の千里との不安定な関係。 実家の片付けで、同じアドレスホッパーの子連れの2人を泊めて、いなくなった子供のウオ。 読んでいてなんだか不穏なことが起こるんじゃないかという不安。でも作者の話は優しい。
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『ここはとても速い川』 集中しないと読み逃してしまう。とりとめない詩みたいな。だからこそ、いつの間にか引き込まれて、呼吸を合わせている。だからこそ、集君の息遣いと体温まで感じるようだ。胸に迫る場面がたくさんあり、たくさん泣いた。p83は、声を出して、ものすごく泣いた。どの登場人物...
『ここはとても速い川』 集中しないと読み逃してしまう。とりとめない詩みたいな。だからこそ、いつの間にか引き込まれて、呼吸を合わせている。だからこそ、集君の息遣いと体温まで感じるようだ。胸に迫る場面がたくさんあり、たくさん泣いた。p83は、声を出して、ものすごく泣いた。どの登場人物も知っているような気がした。 『膨張』 アドレスホッパーが主人公。 心がザワザワした。 背中は誰のもの?
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子供の頃は自分のいる環境が世界の全てで、その中で疑問を持つこともなく淡々と生きる。読んでいて悲しいのに穏やかな気持ちになるのが不思議。
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淡々と日常の些細なことが細かく語られる。 最近ミステリを多く読んでたから、いつ何か起きるのかと思ってたら何も起こらない。つまらないかなあと思って読んでたら、だんだん語られる内容が心に刺さってくるようになった。大きな川に一人流されてるように日常が過ぎていく。周りにいた人は突然いなく...
淡々と日常の些細なことが細かく語られる。 最近ミステリを多く読んでたから、いつ何か起きるのかと思ってたら何も起こらない。つまらないかなあと思って読んでたら、だんだん語られる内容が心に刺さってくるようになった。大きな川に一人流されてるように日常が過ぎていく。周りにいた人は突然いなくなる。懐いても無駄なんだろうか、聞きたいことがあっても聞けない。自分の思いを言葉にできない。迷惑をかけないように暮らさなくてはいけない。 読んでて何気ない記述に、突然涙が出てくるようになった。家具になりたい子どもがいるのか。殴られても一緒にいたい人って何。心が凍り付くような気がする。
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児童養護施設で暮らす少年の目から見た日常が淡々と綴られる。大きな事件も起きず、派手なクライマックスもない。当然人情話にもならない。しかし何も起こらないからこそ、読者を少年と同じ目線に引き込み、その生きる姿には何か胸に迫るものがある。自分の感受性を信じてアンテナをビンビンにはって読...
児童養護施設で暮らす少年の目から見た日常が淡々と綴られる。大きな事件も起きず、派手なクライマックスもない。当然人情話にもならない。しかし何も起こらないからこそ、読者を少年と同じ目線に引き込み、その生きる姿には何か胸に迫るものがある。自分の感受性を信じてアンテナをビンビンにはって読まないとキビしい作品だと思った。
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新聞かなにかの書評を見て読んでみる。 短編二つだった。一つ目は児童養護施設で暮らす小学五年男子の目線で、ある日常が語られる。 二つ目はアドレスホッパーと呼ばれる生活をしている塾講師の女性の話。同じくアドレスホッパーのパートナー(女性)がいる。どっちかというとこちらの話の方が読みや...
新聞かなにかの書評を見て読んでみる。 短編二つだった。一つ目は児童養護施設で暮らす小学五年男子の目線で、ある日常が語られる。 二つ目はアドレスホッパーと呼ばれる生活をしている塾講師の女性の話。同じくアドレスホッパーのパートナー(女性)がいる。どっちかというとこちらの話の方が読みやすかった。自分の心情的に結果オーライなエンドもしっくり。 どちらも改行のない、思いがつらつらと語られる文体で、起伏も少な目なので、読みやすい本が好きな人には向きません。読んでいて、芥川賞受賞作などから良く感じる文学的素養高めオーラありました。 文章は美しいので、そこは個人的に良かったです。 アドレスホッパーの生き方はやはり日本社会にはそぐわない気がしますが。でも一つの選択肢としてあるのかなぁ。椋鳩十が初期に書いていた山窩の生き方とか、海外の海の上で暮らしている人、モンゴルの放牧民なんかだとわかるけど、そんな時代じゃないし。ちょっとアンテナはって実際の生き方例知りたいなと思いました。
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私には理解できない世界観。それでも興味深く読ませてくれた、繊細な文章の力は、さすがに詩人のものだと納得。基本的に、独り言が続く。説明は何もない。何かが解決するとか、わかりあうとか、納得のいく結末とか、そういう小説的な終わりはないと思って読むべき。
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知らない世界ではあるけど…~「ここはとても速い川」お祖母ちゃんと生活していたけど入院しちゃって児童養護施設で生活している集とお父さんの病気が良くなってきて出ていくひじり。「膨張」塾の講師としてあちこちに勤めているあいりはアドレスホッパーの懇親会でイブとウオという親子連れと知り合う。~孤児院って書いて貰うと分かりやすいんだけどね。ホームレスだけど,収入はあるんで,ネットカフェやゲストハウスで寝泊まりする人。読みにくいなぁ,もう少し文章力を磨いてほしい
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2つの短編が収められている。2編に共通するのは「寄る辺なさ」。表題作はそれに加えて、子供の頃の、無垢ではないが純な心持ちを思い出させてくれて特に良い。
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著者、井戸川射子。やや変わった名だが、「いどがわ・いこ」と読む。本名かペンネームかわからないが、なかなか尖った名である。 高校の国語科教師をしていて、詩が最も教えにくく、自分で書いたら理解できるかと書き始め、私家版で出した詩集で中原中也賞を受賞。 本書は、著者初めての小説集。野...
著者、井戸川射子。やや変わった名だが、「いどがわ・いこ」と読む。本名かペンネームかわからないが、なかなか尖った名である。 高校の国語科教師をしていて、詩が最も教えにくく、自分で書いたら理解できるかと書き始め、私家版で出した詩集で中原中也賞を受賞。 本書は、著者初めての小説集。野間文芸新人賞受賞。 本文170ページほどに、表題作「ここはとても速い川」と、小説第一作の「膨張」を収める。 さほどボリュームのある本ではない。が、するする入ってくるかというとそうではなく、咀嚼に少し時間がかかる。 比較的短めの文が改行なしでぽんぽんぽんと綴られる。 例えば、表題作の冒頭はこんな感じ。 抜けていった乳歯は昔バザーで買った、カバン型の指輪ケースに入れていってんねん。水色で金色のビーズが付いて、開く音が気持ちいいやつ。溜まったんを両手に出して時々トイレで洗ってるん。福田先生がこの前授業で自分のへその緒を見してくれたけど、あんなんただの黒いかたまりやんな。全部がそろってるわけちゃうけど根もとの尖りがそれぞれ違って、ばあちゃんが見せてくれたことある象牙のブローチみたいな色やわ。・・・ 本作の主人公・語り手は児童養護施設で暮らす少年、集(しゅう)である。少年の独白がこの調子で延々と続く。 取り立てて大きな事件は起こらない。少年の父も母も出て行ってしまい、祖母は病院暮らし。それで少年は施設で暮らしているわけである。けれどもその境遇を恨むとか苦しむとかではなく、彼は日々を生きる。生き生きと、というほどエネルギッシュではないが、淡々と、というほど達観している感じでもない。ただ何だろうか、彼は「現実」を「ありのまま」に生きている。 友だちの「ひじり」はどうやら父親に引き取られるようだ。施設の女の先生の中で、「ひじり」にだけ性的な話をしたがる人がいて集はちょっと気になっている。セクハラかというと微妙な感じ。そこが逆に生々しい。 少年の日常はさまざまな事柄で彩られる。 池のカメに餌をやる。ベーブ・ルースやファーブルの伝記を読む。「ひじり」と一緒に川で足を取られて流される。病院に見舞いに行くとばあちゃんが小銭ばかりでお小遣いをくれる。 子供の視点は揺らがない。集の話をそうか、そうかと聞く。 1文1文が詩のようでもある。 動画ではなく、ばばばばばと撮られた連続写真をずっと見ているような印象も受ける。 2作目「膨張」は1作目よりざらりとした触感である。 主人公は、住所不定で塾講師として働く若い女性あいり。同性愛者である。今の恋人はサディスティックなところがあるが、あいりは彼女に陶酔している。親族との関係は切れてはいないが、母親はあいりの生き方(アドレスホッパー)が理解できずにいる。恋人が女性であることも親族には告げていない。日々漂い、漂い続ける毎日。ある時、母に頼まれて実家に泊まった際、アドレスホッパーの懇親会で知り合った親子も一晩泊めてやる。だがその晩、子供が行方をくらませてしまう。そのあたりから、あいりの人生の軸が揺らぎ始める。 「膨張」とは、身体に溜められた想いが膨らみ張りつめ、やがて破裂を予感させるタイトルである。 1作目同様、短文が改行なしで綴られる。濃密さがやや息苦しい。 全体にやはり、「詩」のような小説だろうか。 その区分そのものに意味がないのかもしれないが。 著者は言葉で、一瞬一瞬、世界を描き取ろうとしている。 言葉が流れる。風景が流れていく。
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