神様には負けられない の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
義肢装具士。名前は聞いたことがあるけれど実際にその仕事に就いている人には会ったことがない。 パラ競技の中継で義足や義手、つまり義肢をつけたアスリートを見ることはあっても、「あぁ、すごいなぁ」と思うだけでその装具について考えることもなかった。 義肢はオーダーメイドである。そりゃそうだ。それぞれの身体に合うものはそれぞれ唯一無二なのだから。それぞれの身体や用途に合わせて一番無理なく無駄なく動かせるものを作る。そしてそれを適合させメンテナンスする、それが義肢装具士の仕事で、合格率約80パーセントの国家資格が必要な医療職だということも今回初めて知った。 その義肢装具士を目指して専門学校に通う、三人の、物語。 この三人がいいんだ、すごくいいんだ。7年間インテリア関係の仕事をしていて、とある出来事がきっかけで仕事を辞めて年若い同級生たちの間で奮闘するさえ子、ド派手な髪の色とヤンキーのような服装の真純、誰よりもうまく装具を作れるのになんとなくうっそりとした戸樫。それぞれに義肢装具士を目指す理由を持っていて、その理由もそのきっかけとなった出来事にもエピソードがある。 お仕事小説、といってもまだお仕事ができる段階ではない三人の、お仕事ができるようになるまでの日々の奮闘や、学校外のあれこれが、とても豊かで面白い。 人のためにがんばる単なるいい話、ではなく、説教じみた小うるさい話でもないところが読んでいてとても心地よかった。 どこにでもいる若者たち(さえ子はアラサーだけど)の、自分のすぐそばにあるような出来事たちと、めったに出会えない仕事の内容との濃度が絶妙で新鮮さと共感が同時にこみあげてくる。 とくに単なる名前順で組まされた三人のグループが少しずつお互いに理解し支え合っていく過程が、すごくすごくいい。さえ子のアレは、もう、なんていうか、思わず声を出して笑ってしまったほど。いや、まさか、それをあの人に習っていたとは!!グッジョブさえ子! そして、ラスト。いやぁ、もう心からこの三人にスタンディングオベーションを贈りたい。 10年後の、その日を楽しみにしていますわよ。私も物語の外から。 あ、そうそう。タイトルもいいよね。なぜ「神様」が出てくるのか、読んでのお楽しみ。
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