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バグダードのフランケンシュタイン の商品レビュー

3.6

21件のお客様レビュー

  1. 5つ

    3

  2. 4つ

    4

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    7

  4. 2つ

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2024/07/23
  • ネタバレ

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2005年、自爆テロが頻発するバグダードで、テロ犠牲者の遺体の欠片から造られた一人分の遺体に魂が宿り、自分たちを殺した者たちへの復讐を開始する。相棒をテロで喪ったショックから〈名無しさん〉を生み出してしまった古物屋、息子の戦死を受け入れず20年以上帰りを待ち続けている老婆、地元の有力者を敵に回し故郷を逃れた若きジャーナリスト、そして占星術師たちを使って治安維持を図りつつ権力中枢への返り咲きを夢見る元バアス党政権情報局将校―――〈名無しさん〉と彼に関わった人々、それぞれの正義の行方と人生に訪れた変化を街の喧騒とともに描いた群像劇。 衝撃的な設定にイラクの現状に対する作者の怒りと悲しみを感じるが、筆致はどこまでも軽妙で、ときに戦慄すべきシーンにもおかしみが漂っていたりする。登場人物は大勢いるが主人公はバグダードの街かもしれない。死と破壊が至る所に転がっていて市民が次々逃げ出していくのに妙に活気があって訪れてみたいとすら思えてしまう。 幕切れは苦い。いつの日か〈名無しさん〉=イラクの彷徨に終止符が打たれますように。

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2024/03/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

粗筋に書いてある内容ではあるし、イラクという文化背景やその展開は、決して読み易いとは言い難いのだが、虚実不明な語り、それぞれ勝手な登場人物、現実と魔術的な内容が入り混じり、つい読み進む。 文学的にも自爆テロの位置付け、名無しさんの存在の根源的意義など、文学的に追求すべきものはありそう。 「百年の孤独」とか「悪魔の詩」「哀れなるものたち」とか、記憶にある感じだとそんな系統。

Posted byブクログ

2023/02/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

2005年、イラク、バグダード。爆弾テロが多発する町に住む人々と、「名無しさん」と呼ばれる怪物の話。 息子の帰りを待つ老婆ウンム・ダーニヤール。爆発で友を失ったほら吹きの古物屋ハーディー。雑誌社で働き、社長のサイーディーに強く憧れるマフムード。占星術師を雇っている追跡探索局のスルール准将。 それぞれの身に起こった出来事の裏で、ハーディーが爆発でばらばらになった遺体を寄せ集めて作った「名無しさん」の犯罪が全編に渡って描かれる。 造主であるハーディーが単なる通過点でしかない、と断じられていたのが良かった。 罪なき人の寄せ集めであり、それぞれの復讐のために行動していたはずの「名無しさん」が、意義を見失っていく過程がグロテスクだった。魂よりも存在に執着していく。死にたくないと強く思う。 「完全な形で、純粋に罪なき者はいない。そして完全なる罪人もいない」 訳者あとがきがとても分かりやすかった。顔のない人々。魂を圧倒する肉体=存在。それらが2005年のイラクの混乱を表している。 愛する人や思い入れ深い場所なんかへの追憶は確かにあるが、そうした記憶は弱いもので、目の前に存在し直面する物体や状況に簡単に圧倒されてしまう、というのが良かった。端的に言うと心の弱さ、不確かさ、が前提にある。

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2022/10/17

手塚治虫氏の「どろろ」をイメージして手に取り、もっとグロくユーモアがあると思っていて。。。作品というよりも、イスラム圏というのがネックになってるのかもしんない。本の内容も自爆テロだし、要するに冗談だ通じない連中が背後に絡んでいるので、作品を面白おかしく提供することに必要以上に慎重...

手塚治虫氏の「どろろ」をイメージして手に取り、もっとグロくユーモアがあると思っていて。。。作品というよりも、イスラム圏というのがネックになってるのかもしんない。本の内容も自爆テロだし、要するに冗談だ通じない連中が背後に絡んでいるので、作品を面白おかしく提供することに必要以上に慎重になっているんではないかな。固有名詞もわかりずらいし、世界に入りにくかった。2回目は結構すんなり読めたけど、民族的に思い詰める傾向があり、「なんかおかしくない?」と疑問に持つような創造性が足りていないんではないだろうか?と感じた。

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2022/09/27

「作ったもののせいで自らが破滅していく」という意味でのフランケンシュタインだと思いきや、まんまの怪物側かい、いいよ、嫌いじゃないよ、このホラ吹き老人のヨタ話を物語にまとめました的な展開、むしろ好きだよ

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2022/08/22

自爆テロをフランケンシュタインに繋げるって発想が凄いよなあ… 今のこの時代の方が狂ってるのかもな…と

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2021/09/25

2021.9.12市立図書館 SNSで評判になっていてずいぶん前に予約して、順番がやっと回ってきた。アラビア語からの翻訳小説を読むのははじめてかもしれない。新学期で忙しくなる前に読み終えられますように。 ぶじ読了。おそろしくてぞくぞくした。登場人物名が頭に入りにくく、はじめの三...

2021.9.12市立図書館 SNSで評判になっていてずいぶん前に予約して、順番がやっと回ってきた。アラビア語からの翻訳小説を読むのははじめてかもしれない。新学期で忙しくなる前に読み終えられますように。 ぶじ読了。おそろしくてぞくぞくした。登場人物名が頭に入りにくく、はじめの三分の一をすぎるぐらいまでは何度も何度も巻頭の人物紹介や前のページに戻ってばかりいてなかなか読み進まなかったが、半分ぐらいまで来たらぐっと入りこんで、最後まで完走できた。 「バクダードのフランケンシュタイン」というゴシックかそれともSFか、さまざまなレトリックで重層的に読ませる作品だが、巻末の訳者あとがきのおかげで「バグダード/イラクはフランケンシュタイン」という含意もまた理解した。 彼の地が抱く複雑な成り立ちや人々の感情は自分の理解の到底及ばないものだとあらためて思う一方で、いやいや彼の地にかぎったことではなく、世の中にはこういう「現存しないものへの記憶と執着」をめぐる混乱や問題というのは案外身近なものなのではないかと思い至りもし、自分のいる世界でも他人事ではないのでは…と背筋がゾクゾクしてくる。

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2021/08/27

自爆テロが相次ぐ日常が舞台となれば、このあり得ない設定が逆に良いのかも。なかなか高度な作品かと思う。 ただ、翻訳に少し違和感。エジプト人のしゃべりがいきなり関西弁だったりする。現地の人と差をつけたかったのだろうけど、アレっ?てなった。

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2021/06/29

テロが当たり前にある日常生活の中で起きた不可思議な連続殺人事件。 自分の意志で動く死体の行く末、そして物語の着地点が見事でうわーっ!!と電車の中でひっくり返りそうになった。 一番怖くて泣きそうだったのが「それでも政府の言うことは正しいのだ」という文章だった。 何が起きたとしても、...

テロが当たり前にある日常生活の中で起きた不可思議な連続殺人事件。 自分の意志で動く死体の行く末、そして物語の着地点が見事でうわーっ!!と電車の中でひっくり返りそうになった。 一番怖くて泣きそうだったのが「それでも政府の言うことは正しいのだ」という文章だった。 何が起きたとしても、政府が言ったならそれが全面的に正しいと納得して、皆んなそれぞれの日常に戻っていく。 正しいのか正しくないのか精査しようとしない。 考えない。 何故なら政府が正しいと言ったから。 国民の思考する力が日々起きる自爆テロからの悲しみや疲労、その他の諸々の出来事によって奪われている。 国民がそこで愉快に会話している側から当たり前のように自爆テロが起きて人が死ぬので、その度に顔面を殴られたような衝撃を受ける。 これがこの国の日常。 辛い。 死体が自分の意志で人を殺害して歩くなんて、きっと彼らにとっては日常生活の悲劇のひとつに過ぎないのだろう。 群像劇の中でこの辺の矛盾とか、政府の姿勢とか、そういうのを鋭い眼差しで捉えているのでオススメ。 終盤の畳み方とか面白かったのだが、文体が苦手だったところに私の圧倒的な知識不足で読み終えるのにめっちゃ時間かかってしまった。 私、群像劇があまり得意じゃないんだな〜と今更自分の苦手なことが発覚した。 これだから勉強には終わりがないわけよ。 これからまた勉強する。

Posted byブクログ

2021/06/27

[出典] BOOKMARK Vol.18 (2021 SUMMER) 20210625, 紀伊国屋書店@新宿 P.21

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