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八月の銀の雪 の商品レビュー

3.9

279件のお客様レビュー

  1. 5つ

    67

  2. 4つ

    123

  3. 3つ

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  4. 2つ

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    3

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2021/01/11

科学ネタを小説に取り入れて化学反応を起こしてみました、っていう作品集なのですが、それだけで終わるんじゃなくて、ちゃんとした人間ドラマが基底にあったのが良かったです。 どの作品も作者の優しさが滲み出ているのが読んでいて感じられました。 とはいえ、同様に科学ネタを扱う東野さんのガリレ...

科学ネタを小説に取り入れて化学反応を起こしてみました、っていう作品集なのですが、それだけで終わるんじゃなくて、ちゃんとした人間ドラマが基底にあったのが良かったです。 どの作品も作者の優しさが滲み出ているのが読んでいて感じられました。 とはいえ、同様に科学ネタを扱う東野さんのガリレオシリーズを読んできた身からしてみると、やはりいささかインパクトに欠ける面は否めないかなと。 「八月の銀の雪」 表題作は就活中の大学生とコンビニ店員のベトナム人の交流を描いた作品です。 全然雪と関係ないなあと思って読んでいたら、こういうオチですか。 「海へ還る日」 バツイチの母と娘が、満員電車の中で出会った老婦人と出会ったことでクジラの世界を知ることになるお話です。 クジラの発する超音波については以前どこかで聞いたことがあったので割と有名なのかなと理解していますが、うまく取り入れていると思います。 「アルノーと檸檬」 老婦人にアパートからの立ち退きを迫る不動産会社の男が語り手です。 伝書バトの帰巣本能の話に主人公自身の境遇を重ねているところがうまいですね。 本書の中ではこれが一番面白かったです。 「玻璃を拾う」 ガラスの殻を持つ微生物「珪藻」のアートをめぐる作品ですが、登場人物がちょっと類型的かな。 「十万年の西風」 かつて原発に携わった男が福島で凧揚げをする気象研究者の老人に出会い、父親が関わった戦時中の風船爆弾について語るお話です。 科学の功罪がテーマでしょうか。

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2021/01/02

『月まで三キロ』が凄く良かったので、今回も期待して読みました。サイエンスの部分がとても面白く興味を惹かれ、そして人間の物語が交差するところ。とても良かった。『月まで三キロ』が良かったと感じた方には読んで欲しいですね。

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2020/12/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

伊与原さんの紡ぐ、科学と人間を絡ませた物語にはいつも癒やされる。 母なる大地・地球。 5つの短編を読みながら自然に浮かんでくるこの言葉の意味を、読了した今、しみじみ噛みしめる。 そして地球上に棲む全ての生き物を愛しく思えた。 地球上の自然を全身で感じ取り、自然と対峙することは本当に素晴らしい。 数多いる地球上の生き物の中で、何故人間だけが些細なことに惑わされるのか。 何故もっとおおらかにシンプルに生きられないのか。 ちっぽけなことに悩む人間たちをそっと優しく包み込んでくれる母なる大地。 私も静かに耳を澄ませ、大地の声を聴いてみたくなった。

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2021/01/20

空はなぜ青いとか、クジラはとても大きくてすごいとか、子どものころに感じた自然に対する純粋な疑問や驚きは、大人になるとただの知識になっていた。知識は、ほかに何かを得るための手段で、それ自体は面白くもなんともない。 自然科学の醍醐味は、知らないことを知って知識にすることではなくて、...

空はなぜ青いとか、クジラはとても大きくてすごいとか、子どものころに感じた自然に対する純粋な疑問や驚きは、大人になるとただの知識になっていた。知識は、ほかに何かを得るための手段で、それ自体は面白くもなんともない。 自然科学の醍醐味は、知らないことを知って知識にすることではなくて、知らないことを「知らなかった」と知る瞬間だと思う。 主人公たちはみな、腹にいちもつを抱えている人たちだ。自分の人生に苛立っていたり、諦めを感じたりしている。でも、「知らなかった」何かに出会うことで、世界の見え方が変わり、彼らの人生の捉え方も変わっていきそうな予感で毎話幕を閉じる。 人はこうして、人以外の自然からパワーをもらうこともあるんだな、と思った。 また読み直したい。人生に寄り添ってくれる一冊になる気がする。

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2021/01/30

前作に比べると、サイエンスの面は抑え気味で少し物足りないが、人間味は増して心温まる。不器用だからこそ、じっと耳を傾けてみる。新しいことが見つかったり、心が癒されたりする。そんなことを感じた作品。まだ二冊しか読んでないけど、好きな作家になった。

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2020/11/15

優しく温かい話です。 内定を一つも貰えず詐欺もどきに手を出しかけた就活中の男子学生が、偶然知り合った優秀なベトナム人女子留学生との交流の中で前向きに変わって行く姿を描く表題作など5つの短編。 何といっても伊与原さんの特長は、各編の中にとても興味深い科学技術の話が入っていうことです...

優しく温かい話です。 内定を一つも貰えず詐欺もどきに手を出しかけた就活中の男子学生が、偶然知り合った優秀なベトナム人女子留学生との交流の中で前向きに変わって行く姿を描く表題作など5つの短編。 何といっても伊与原さんの特長は、各編の中にとても興味深い科学技術の話が入っていうことです。地球内核の表面にある銀色の鉄の結晶の森とそこに降り積もる鉄の結晶の雪の幻想的風景。博物館の女性スタッフが割烹着姿で描く鯨のスケッチと鯨たちの歌(国立科学博物館の「世界の鯨」ポスター)。地磁気を見、一度飛べば陸標を記憶し、臭覚や音の地図まで使って帰巣する伝書鳩の能力。1㎜にも満たぬ珪藻のガラスの殻を顕微鏡で並べて作る珪藻アートの美しさ(奥 修[著, 写真]『珪藻美術館』)。第2次大戦中に作られた風船爆弾の元になった気象観測の話など。東大大学院を卒業し地球惑星科学の博士である伊与原新さん、そんな話をとても判り易く、しかも本線である「優しく温かい話」の邪魔をすることなく物語の中に織り込んで行きます。 ただただ「優しく温かい話」を書く人は沢山いますが、理系出身の私にとっては(そして多分そうでない人にとっても)良い作家さんだと思います。

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2020/11/09

何かしらの過去をもつ登場人物が、理科にまつわる出来事に出会い、そこから得た教訓から、少しでも前に進もうとする物語です。 理系というと、どちらかといえば陰のようなイメージを持つのですが、この作品は理科にまつわる情報と登場人物の傷ついた心が融合して、温かみのある雰囲気にさせてくれま...

何かしらの過去をもつ登場人物が、理科にまつわる出来事に出会い、そこから得た教訓から、少しでも前に進もうとする物語です。 理系というと、どちらかといえば陰のようなイメージを持つのですが、この作品は理科にまつわる情報と登場人物の傷ついた心が融合して、温かみのある雰囲気にさせてくれます。 シリアスさはあるものの、良い具合に会話の面白さで緩和してくれるので、全体的に冷たさは感じず、程よい優しさを感じました。 全5篇の短編集で、各エピソードには、地球やクジラ、珪素など高校の理科で学んだような知識が登場します。 なんとなく憶えていたような憶えていないような情報でしたが、改めて学ぶと、「なるほど、そうなんだ」と思うようなことばかりでした。難しい知識を柔らかく噛み砕いて説明してくれるので、読みやすかったです。 普段あまり触れることのない自然科学に出会うことで、地球や自然の凄みや素晴らしさを学ぶことができ、普通に勉強になりましたし、興味を湧きさせてくれました。 知識もそうですが、この作品の要は、そこから得る教訓でした。今置かれている登場人物の心の状況と相まって、何かしらに心に響いていきます。 どのエピソードもスーッと心に浸みていくようで、癒されました。 各エピソードに登場する主人公の表情が、最初と最後で変わっていくのが想像できました。 周りの環境は、前と変わらないけれども、自分が変わることで、もしかしたら変わるかもしれない。後ろからポンと優しく背中を押してくれるような作品でした。

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2020/11/03

短編集。ちょっと弱っている人たちがちょっと元気になる話。クジラもレース鳩も珪藻も興味深い。とはいえ鳩は苦情出るでしょ。

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2020/10/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

まずタイトルがいいよね。雪、銀、なのに八月?って。気になる。読む前から気になるよね。 装丁も素敵だ。美しい。 『月まで三キロ』で伊予原新を知った読者には文句なしでお勧め。 科学とか物理とか、理系ってなんとなく「冷たい」イメージがある。優しさとか柔らかさとか温かさとか、そういうのと対極にあるというか。 そういう理系の世界に住む人とひょんなことで接点を持った、いわゆる傷ついた人たち。 あいまいで目に見えない傷って、もしかすると理系の世界の未知の中にその傷をふさぐ何かがあるのか。 やさしさって数字では表せないけど、その数字を扱う人の手でしか癒せないものなのかもしれない、なんて思ったり。 5つの物語の中で一番好きだったのは『玻璃を拾う』。多分、それぞれに心に響くのは違う物語なんじゃないか。それを誰かと語り合うのもいい。 どの物語も自分がいままで知らなかったことばかりで、もっとたくさん知りたい、もっといろんなこと知りたい、って気持ちが湧き上がってくる。 あぁ、早くもっと読みたい。伊予原さん、次、いつ出ますか?

Posted byブクログ