網内人 の商品レビュー
著者は香港の推理・SF・ホラー小説家。 2017年に邦訳が出た『13・67』は、「華文ミステリ」として日本でも各賞を受賞し、注目を浴びた。 本作は、インターネットを題材にしたミステリである。 タイトルの網内人(もうないじん)とは、著者の造語で、文字通り、「ネット」の「内」の「人...
著者は香港の推理・SF・ホラー小説家。 2017年に邦訳が出た『13・67』は、「華文ミステリ」として日本でも各賞を受賞し、注目を浴びた。 本作は、インターネットを題材にしたミステリである。 タイトルの網内人(もうないじん)とは、著者の造語で、文字通り、「ネット」の「内」の「人」を指す。ただ、この「ネット」は、インターネットだけでなく、人間関係の複雑な網も連想させるところがミソである。 主人公アイは、香港中央図書館で嘱託職員として働いている。 父母を早くに亡くし、大学進学はあきらめた。今は、中学生の妹、シウマンとの生活を支えようと気を張る毎日だった。 シウマンは地下鉄とバスで学校に通っていた。ある日、彼女は電車内で痴漢に遭う。自分では声を上げられなかったが、目撃者がいて、男は捕まった。 事件そのものや一連の取り調べだけでも、多感な年頃の少女には、酷な体験だったが、話はそこで終わらなかった。 事件のほとぼりが冷めた頃、インターネットの掲示板に、シウマンを告発する匿名の文章が寄せられたのだ。 投稿者は犯人の甥を名乗っていた。「犯人とされた叔父は実は冤罪だった。事件の直前に少女と叔父の間にちょっとしたトラブルがあった。それを根に持った少女に嵌められ、叔父は無実の罪で刑務所行きになった。この少女がとんでもないやつで、飲酒やドラッグ、援助交際もやっているらしい」との文面だった。 ネットは騒然となった。シウマンの身元が明かされ、学校も巻き込む一大事となった。 シウマンを気遣うアイだったが、妹はなかなか心の内を明かさなかった。 数ヶ月が経ち、少し様子も落ち着いたかに見えた頃、妹は突然、飛び降り自殺をしてしまう。 アイは憤った。ネットの匿名の告発者がシウマンを殺したのも同然だ。 だが、警察は取り合わなかった。 アイは自力で探偵を雇い、復讐を果たすことにする。 知り合いの探偵から紹介されたアニエという男は、取っつきにくい変人だった。身なりはだらしなく、話しぶりも横柄で、部屋は散らかり放題。 アイの話を聞いたアニエは、最初はすげなく断るが、アイの必死さに根負けした形で、依頼を引き受けてくれることになる。要求された報酬はアイが持つ全財産だったが、アイに迷いはなかった。 アニエはただの探偵ではなく、凄腕のハッカーだった。ネットの掲示板に痕跡なく忍び込み、メッセージの発信者を探るだけでなく、携帯電話の位置情報を読み取ったり、ルータを乗っ取ってパソコンや携帯電話の接続先を変更したり、指向型スピーカーで特定の人物にしか聞こえない音声を発したり、アイには思いもよらぬ技術を駆使し、アニエは真犯人に迫っていく。ぶっきらぼうでつれないアニエだが、アイは徐々に彼を信頼するようになっていく。 事件の背景は単純ではなかった。調査が進むにつれ、アイはそれまで知らなかった妹の別の顔を目にすることになる。 事件の真相は。そしてアニエの正体は。 まずは、ネット技術に関わる蘊蓄が非常におもしろい。 著者はもともとはシステムエンジニアで、小説は余技として書き始めたのだという。 アニエが使っているトリックがすべて実際に使えるものなのかはよくわからないが、細かい描写にリアリティがあって、なるほどこういう天才ハッカーはいるのかもしれないと思わせる。 物語も非常に凝っていて、事件は二転三転する。思春期特有の人間関係のつらさ、少女を食い物にする悪いやつなど、重い事情も絡むが、ラストは、きょうだい愛や、人の良心が垣間見える、救いのある展開となる。 500ページを越える2段組でかなりのボリュームである。ミステリとしては、最後の種明かしはかなり説明調で、若干泥臭いというか、力技な感は否めない。が、個人的には全体に好印象で読み終えた。 著者は本作で、実は、アルセーヌ・ルパンをイメージしているという。善悪を併せ持つ、探偵であり怪盗でもある人物。現代の舞台設定で、富豪から宝石を奪うのは現実的ではないが、それに匹敵するような存在といえば、なるほどハッカーかもしれない。 事件の終盤で、謎めいたアニエの別の顔が姿を現すのもおもしろい。 あとがきによれば、プロットもテーマも白紙ではあるが、著者はこの物語のシリーズ化も考えているらしい。 善なのか、悪なのか、どちらとも言い難い天才ハッカー。さらには、現在進行形で激動しつつある香港をより深く描くものになるならば。 次作が出るのを期待して待ちたいと思う。
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ハッカーをまるで魔法使いのように描いてしまう作品もありますが、本作品はネットに疎い主人公を通してどうしてこんな事が出来るのかをしっかり描いており、それでいて冗長になり過ぎない絶妙さが凄く良かった。 13.67で見せた社会性を織り交ぜた作風は今作でも健在。今回のテーマである「イン...
ハッカーをまるで魔法使いのように描いてしまう作品もありますが、本作品はネットに疎い主人公を通してどうしてこんな事が出来るのかをしっかり描いており、それでいて冗長になり過ぎない絶妙さが凄く良かった。 13.67で見せた社会性を織り交ぜた作風は今作でも健在。今回のテーマである「インターネット」は日本にも通ずるテーマでとても身近に感じられた。一方で「香港」という特殊な歴史を持った都市の風合いは13.67と比べるとかなり抑え目。 2段組500ページと決して短くない作品で、厚さに尻込みして長く積ん読にしていましたが、読み始めたらあっという間でした。作者の次回作も早く読みたい!そして違和感なくスラスラ読める素晴らしい翻訳をした翻訳者にも感謝!!
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13.67の素晴らしさに圧倒され、次作を楽しみにしていました。それとは全く異なる語り口、香港ノワール感漂う13.67の方が断然重みがありましたが、これはこれで楽しめました。アイ以上にこの手の知識が乏しいので、丁寧な解説は有り難いですね。説明されても理解は出来てないと思いますが。追...
13.67の素晴らしさに圧倒され、次作を楽しみにしていました。それとは全く異なる語り口、香港ノワール感漂う13.67の方が断然重みがありましたが、これはこれで楽しめました。アイ以上にこの手の知識が乏しいので、丁寧な解説は有り難いですね。説明されても理解は出来てないと思いますが。追い込んでいくまでのスリリングさに比べて、ラストがちょっと盛り込みすぎ?片付けちゃった?感があるのは否めないかも。そうじゃないか、と思っちゃったし。でも、振り幅の大きいエンタメで私たちを楽しませてくれたのは確か。次作も待ってます。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ネットでの悪口を苦に自殺した妹の事件の真実を暴こうとする姉と、それに協力するハッカーの物語。 キャラクターが全く魅力的でないのと、ネットの知識についても凡庸。また、古典的な陳述のミステリーの手法が使われており、読後感もあまりスッキリしない。
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はじめの数ページは読むのを躊躇ってしまうくらい暗い描写だが、それ以降はどんどん引き込まれていった。 ネットに潜む悪意だけではない、『人間の物語』としてとても読みごたえがあった。 ぜひシリーズとしての次作を読みたい!
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歴代の翻訳ミステリーで一番良かった。一因は日本人が苦手な外国人の人名が少ないこと。後半の内面描写がやや間延びしたがそれ以外はスリリングで時代も反映した内容だった。
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面白かった!2015年の香港。ネットでの悪意により妹を自殺で失ったアイがネット専門の探偵と共に書き込み主を追う。正直、またネットの誹謗中傷?と思ったが、この探偵に妙な魅力はあるし、ITに無知なアイに逐一説明することで彼のしていることが手に取るようにわかるし、香港の生活も興味深いし...
面白かった!2015年の香港。ネットでの悪意により妹を自殺で失ったアイがネット専門の探偵と共に書き込み主を追う。正直、またネットの誹謗中傷?と思ったが、この探偵に妙な魅力はあるし、ITに無知なアイに逐一説明することで彼のしていることが手に取るようにわかるし、香港の生活も興味深いし、で、あっという間に夢中になった。謎を追う経緯も大変面白かったが、二人の距離感が変わっていくのも、並行して語られていた話が一本にまとまるのも、章末に現れるLINEのやりとりも、そして鮮やかなラストも…!2段組のこのページ数を堪能。
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500ページ超えだが一気読み。 ネットのややこしい話はあるが、ターゲットを絞り込んでいく推理は圧巻で納得感がある。
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たった一人の家族である妹を自殺で失ったアイ。ネットで妹を追い込んだ犯人を突き止めるため、凄腕ハッカーの探偵・アニエに依頼するものの、調査するごとにどんどん明らかになる悪意の数々と残酷な真実。香港の貧困格差、ダークウェブ、ネット虐め、というさまざまな問題が盛り込まれたミステリですが...
たった一人の家族である妹を自殺で失ったアイ。ネットで妹を追い込んだ犯人を突き止めるため、凄腕ハッカーの探偵・アニエに依頼するものの、調査するごとにどんどん明らかになる悪意の数々と残酷な真実。香港の貧困格差、ダークウェブ、ネット虐め、というさまざまな問題が盛り込まれたミステリですが。これは香港に限ったことでもなく、日本でも充分に通用する物語だと思います。 正直ネットの難しい話は、と尻込みしてしまいそうだけれど。主人公のアイがなかなかのネット音痴なのでそのあたりはスムーズについていけました。一見単純なネット虐めによる自殺かと思いきや、その陰に潜む複雑な人間関係とその確執、そこから生まれた疑惑と復讐心、いったい誰が諸悪の根源と言えるのか。そしてその一方で描かれるとあるIT会社員の陰謀に満ちた行動。これがいったいどう関係してくるのかも読みどころです。 ……という社会派ミステリと思って読んでいたけれど。あんな仕掛けがあったとは! まんまと騙されてしまいました。もうこれ以上は語れません。そしてやはりアニエのキャラがいいなあ。敵をとことんまで追い込んでいく様子は実に爽快。たしかにこれを「正義」だなんて言葉で片付けてはいけないのでしょうが。これ以上に「正しい」方法なんてないような気もしました。一方でアイの決断もまた、勇気のある行動だと言えるかもしれません。
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内容(「BOOK」データベースより) ネットいじめを苦に女子中学生が自殺。姉のアイはハイテク専門の探偵アニエの力を借りて、妹の死の真相に迫る―。『13・67』の著者がいま現在の香港を描き切った傑作ミステリー。著しい貧困の格差、痴漢冤罪、ダークウェブ、そして復讐と贖罪。高度情報化社...
内容(「BOOK」データベースより) ネットいじめを苦に女子中学生が自殺。姉のアイはハイテク専門の探偵アニエの力を借りて、妹の死の真相に迫る―。『13・67』の著者がいま現在の香港を描き切った傑作ミステリー。著しい貧困の格差、痴漢冤罪、ダークウェブ、そして復讐と贖罪。高度情報化社会を生きる現代人の善と悪を問う。
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