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次の夜明けに の商品レビュー

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7件のお客様レビュー

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2025/06/30

この小説は、台湾の歴史について知らなくてはいけないのではないかと思い、ここ数週間、台湾史の本を読むに至ったきっかけの本。これ一冊で、日本統治時代から2012年までの台湾の歴史を一望したような気になる。一望したというのはただの気のせいなのだが、ただ、これから台湾の歴史について読むと...

この小説は、台湾の歴史について知らなくてはいけないのではないかと思い、ここ数週間、台湾史の本を読むに至ったきっかけの本。これ一冊で、日本統治時代から2012年までの台湾の歴史を一望したような気になる。一望したというのはただの気のせいなのだが、ただ、これから台湾の歴史について読むときには、この『次の夜明けに』の誰々世代の時代だな、という風に思い返してしまうとは思う。 戦前新聞社で記者をしていた日本人の男とその妻春蘭、二人の息子である平和と起義、さらに起義の息子哲浩に至る親子三代の物語である。台湾で発行されていた新聞の日本語面を担当していた父は、二・二八事件後、会社の副編集者であった呉金錬という人物が連行されてから、何も語らず、何もしない彫像のようになってしまう。春蘭は、台湾南部の高雄に引越し、田畑を買い、二人の息子と植物状態になってしまった夫の世話をする。やがて、平和は社会的弱者を守る弁護士となり、起義はおばに育てられたのち、社会運動家となって獄中生活を経験する。 ここまでの二代の物語が、二・二八事件や美濃の反ダム建設運動といった歴史的事件に直接的に絡みながら語られるのに対して、三代目の起義の息子、哲浩の物語はやや毛色が違う。哲浩はゲイであり、ボーイフレンドの傑森との関係と、父との対立、そして和解が描かれる。 一番印象的だったのは、やはり植物状態になってしまった父が、最後に書き残した手記を春蘭たちが見つけたところだった。日本語で書かれたその手記を読めたのは、家族の中で、戦前=日本統治時代の「国語」教育を受けた春蘭だけだったことが、大きな歴史と一つの家族の間にあるつながりを端的に示していて、印象的だった。というより、知識としては知っていたけれど、戦前生まれの人たちが日本語を話すことができ、日本語の読み書きができるということの意味を、物語として初めて実感した。改めて、文字の読み書きというのが、自然に身につく知識ではないことに、驚いたと言ってもいい。 この物語に一貫している分かりやすいテーマは、親子間の断絶とそのつながりの復活である。最初の父と子は、父が植物状態になるということで、コミュニケーションが根本的に断絶している。唯一書き残された手記も、言語の壁によって断絶していて、通訳者を介さない限り、父の言葉を直接受け取ることはできない。起義は、息子がゲイであることを認められない。平和の子どもは、結婚した女性書記官の連れ子である。 この物語に出てくる三代の親子は、言葉が、血が、価値観が、何かしら一度断絶する。しかし、それらは、何の前触れもなく、別の価値を与えられることでつながり直されるのである。それは、父の書き残した手記を真実だと受け入れることで、ゲイカップルでも老後死後の世話をするという約束を交わすことで、長い間拒んできた結婚をすることで果たされる。そして、そのつながりは、絶妙に歴史の変化と呼応している。 時々挟まれる三代の家族と関わりがありながらも、家族から見れば周縁にいる人々は、どれも大きな歴史を代表する人物である。家のお手伝いさんである阿美に、ダム建設に雇われた外国人労働者、少年Yの母親。こうした人たちと、三代の家族との関係も、やはり、それぞれ三代の世代の時代に呼応するように異なっている。 ちょっと面白かったのは、この言い方が適切かどうか分からないけれども、どの語り手も、自身が語り手になっているときは、とても知的(?)に見えることだった。特に、母の春蘭は、「阿美! 阿美!」のところがそうだが、息子たちから見れば、すこし困った老いた母という感じである。ただ、最初の「次の夜明けに」のときには、とても良妻賢母(?)な語りをしている。こういったところにも、ジェネレーションギャップのようなものがある。 最近、有吉佐和子の『青い壺』を読んだときも思ったが、世代による価値観の違いというのは、すごく小さな体験の違いの積み重ねで生まれている。物語を読めば読むほど、これはたしかに、ギャップが生まれるよな、というように、ジェぇねレーションギャップの存在にすごく納得してしまう。 その差が大きな歴史とつながったとき、「次の夜明けに」のような親子の物語が生まれるのだと思った。

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2024/04/30

台湾文学にふれてみたくて。 大きな時代の流れの中で、一人一人の持つささやかな願いと家族のつながり。台湾の歴史を学びながら、ある人はじっと耐え、ある人は声をあげてきたのだろうと静かに考えてみる。とてもいい物語だった。 同時に、日本はどうなのか?という疑問が浮かぶ。小説に描かれて...

台湾文学にふれてみたくて。 大きな時代の流れの中で、一人一人の持つささやかな願いと家族のつながり。台湾の歴史を学びながら、ある人はじっと耐え、ある人は声をあげてきたのだろうと静かに考えてみる。とてもいい物語だった。 同時に、日本はどうなのか?という疑問が浮かぶ。小説に描かれていたものと似たような動きや事件があったはず。自分は無関係だからとさらっと流していたこと、きちんと考えてみようと思う。 訳者あとがきのタイトルに関するエピソードも興味深く、改めて言葉の持つ奥深さにハッとさせられた。たった一文字だけど、そこに含まれる意味の大きさ。本を読み終えたあと、もう一度表紙のタイトルをじっくりと読みたくなる。

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2024/03/02

台湾の作家・徐嘉澤さん。 1947年の二二八事件から時代や社会に翻弄されながらもそれぞれの生き方を見つけていく三代にわたる家族の物語。 時代や社会はどうしようもなく、生き抜く姿が切なくて心がぎゅっとなりました。 身動きのできないこのコロナの今も、時代の波に翻弄され...

台湾の作家・徐嘉澤さん。 1947年の二二八事件から時代や社会に翻弄されながらもそれぞれの生き方を見つけていく三代にわたる家族の物語。 時代や社会はどうしようもなく、生き抜く姿が切なくて心がぎゅっとなりました。 身動きのできないこのコロナの今も、時代の波に翻弄されていて、私も頑張っていこうと生きる力がもらえる作品でした。 題名を「次の夜明けに」と訳された訳者の三須さんのあとがきでのお話もよかったです。 「夜明けを待って次になにをするべきなのか」

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2023/07/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

父親ってなんだろうね、男社会な小説だった。民主化の波に飲まれた祖父、飛び込んだ息子。そして歴史政治に無関心な孫。台湾民主化の流れを軸に、3代に渡る家族と近しい人々の暮らしが映像として浮かぶかのような文章。それは歴史的背景や国の違いと言う部分を除けば、日本とは大きな違いがないように感じられ、人が生きる上で起こる問題には大差がないものなのかと思いを馳せてみたりする。最終話で東日本大震災が取り上げられてたのに少し驚いた。「世界の終わりが予定よりも早く襲ったのは、台湾ではなく、遠く日本でのことだった。」この一文で気分は一気に自国に戻り、日本はどこかで終わりに向わずに済む世界線があったのかなぁなんて思ったのは余談。政治や人権問題が日本よりはるかに成熟している印象の台湾だが、そういうのが読み取れるのかな?と思ったけど、飽く迄も家族の話だった。面白かったよ。

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2021/03/07

台湾の三世代の家族の物語。その時代時代に起こる台湾の史実や空気感と絡まり台湾をより深く知ることができる。 台湾の歴史の影にはこんなふうに翻弄されていた市井の人々がいたのだと感じ、いままでそこまで考えが及ばなかった自分の想像力のなさに恥ずかしくなった。 訳者あとがきより、当初天野...

台湾の三世代の家族の物語。その時代時代に起こる台湾の史実や空気感と絡まり台湾をより深く知ることができる。 台湾の歴史の影にはこんなふうに翻弄されていた市井の人々がいたのだと感じ、いままでそこまで考えが及ばなかった自分の想像力のなさに恥ずかしくなった。 訳者あとがきより、当初天野健太郎さんが担当する予定だったそう。天野さんの翻訳も読んでみたかったなぁ。 三須さんの訳文もとても素晴らしく楽しませていただいた。どこがどうと表現する力がないのがもどかしいのだけど、ぴったりはまってる印象。 良い本に出会いました。

Posted byブクログ

2020/12/10

二・二八事件と白色テロに始まり、20世紀後半の台湾が辿ってきた道は語られることも少なかったが、厳しい戒厳令を経て民主化し、さらに自由と権利を求める数々の運動も経て現在に至っている。その歴史を一つの一族に託して描いたこの小説は、あっという間に読めたのだがそれでも読後にはずっしりとし...

二・二八事件と白色テロに始まり、20世紀後半の台湾が辿ってきた道は語られることも少なかったが、厳しい戒厳令を経て民主化し、さらに自由と権利を求める数々の運動も経て現在に至っている。その歴史を一つの一族に託して描いたこの小説は、あっという間に読めたのだがそれでも読後にはずっしりとした重さが残る。折に触れて読み返すことになるだろう台湾の本がまた1冊増えた。

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2020/12/07

かつてポルトガル人がその美しさに「フォルモサ(麗しの島)」とたたえた台湾。その歴史は、林家の人びとの人生そのものだった。  すごい一家だ。日本統治時代以降の台湾史上における数々の重大事件に、家族全員がなんらかの形で関わっているのだから。それは、林(リン)家の男たちが、それぞ...

かつてポルトガル人がその美しさに「フォルモサ(麗しの島)」とたたえた台湾。その歴史は、林家の人びとの人生そのものだった。  すごい一家だ。日本統治時代以降の台湾史上における数々の重大事件に、家族全員がなんらかの形で関わっているのだから。それは、林(リン)家の男たちが、それぞれのやり方で〈公理と正義〉を追求していることに由来する。  夫の太郎は新聞社に勤めていたが、二二八事件後、魂の抜けた〈彫像〉と化してしまった。また息子二人、兄の平和(ピンホー)は弁護士として高雄地下鉄タイ人労働者暴動事件に関わることになり、弟の起義(チーイー)は美麗島事件のデモ参加者として逮捕されている。そして起義の一人息子哲浩(ジョーハオ)は、いじめ事件を調査している指導教授に伴い、謎めいた死をとげた少年Y(葉永鋕)の保護者や学校を訪問したり、ボーイフレンドと一緒に高雄の第一回LGBTパレードに参加したりした。  一方、そんな男たちを支えた女たちも、〈公理と正義のドレスを身にまと〉い、愛する家族を守るために必死に戦っていた。妻の春蘭(チュンラン)は、動かなくなった夫と幼い平和を連れ、お腹の中に起義を身ごもりながら台北から南(高雄)へと引っ越し、生活を安定させる。そしてこの引っ越し先を迅速に手配してくれたのが太郎の姉の桜で、舶来品を売る商売をしながら、起義を預かり育ててくれた。さらには起義の妻となった月娥(ユエオー)も、夫の不安をすべて引き受け「あなたがいればそれでいい」と言い、太郎の世話をしてくれるフィリピン人のお手伝い阿美(アビー)はいつもにこにこ、曇天に差す一筋の陽光のように明るい気持ちにさせてくれる。男たちは、どれだけこの女性たちに救われてきたことか。彼らにとって、家庭こそが誇り高き母なる〈ゆりかご〉であり、愛すべき「フォルモサ」ではなかったか。  本書は、登場人物それぞれの目線で書かれた連作短編形式になっているのだが、林家の人びとの生き方に大きな影響を与えることになった夫、太郎の目線で書かれたものがない。太郎はある出来事をきっかけに、一心不乱に何かを書きためていたが、その手記も提示されない。ゆえに読者は、家族から見た動かない太郎の姿しか知り得ない。ところが、この手記の謎が突如明かされ、林家の兄弟とともに読者も大きな衝撃を受けることになる。私はそこを読んだとき、しばし呆然としてしまった。  これまで、台湾という国にあまり関心がなく、普段とくに意識することもなかった。日本が統治していた歴史のある、日本と関わりの深い国なのに。しかし本書を読んで、私の中でぼんやりしていた台湾が、くっきりと浮かび上がってきた。新聞で台湾に関する記事を見つけると必ず目を通すようになったし、テレビから「台湾」と聞こえてくればハッと目を向けるようになった。この変化があっただけでも、本書を読んだ意義は私にとってとても大きい。  春蘭の「家族そろって暮らしていければそれでじゅうぶんなのよ」という思いが、ずっしりと心に残る。

Posted byブクログ