あめつちのうた の商品レビュー
"阪神園芸さん" 野球好きなら多くの人が知っている呼び名。甲子園球場で行われる試合では、アナウンサーや解説者たちがリスペクトをこめてたびたびそのように紹介する。 みんながそうやって阪神園芸の仕事ぶりを話すので、新たな野球ファンたちも無意識に"阪神園...
"阪神園芸さん" 野球好きなら多くの人が知っている呼び名。甲子園球場で行われる試合では、アナウンサーや解説者たちがリスペクトをこめてたびたびそのように紹介する。 みんながそうやって阪神園芸の仕事ぶりを話すので、新たな野球ファンたちも無意識に"阪神園芸さん"を尊敬する。裏方でありながら、テレビ画面を通してこれほど多くの人から仕事をリスペクトされる園芸会社はなかなかないと思う。 私もイチ野球ファンとして、"阪神園芸さん"はすごいと知っていたけれど、甲子園球場の土や芝が、実際どんな作業によって素晴らしく維持されているのか、何がそんなに他の球場と違うのかなど、詳しいことはほとんど知らなかった。 この本は、阪神園芸に入社しグラウンドキーパーになった青年のお話。もちろんグラウンド整備の話もしっかり書かれている。 阪神園芸の方々は、グラウンドの芝や土を1年かけて育てている。私は趣味で畑をやっているが、畑の作物の美味しさを決めるのは土。畑での作業と全く同じように、自然と向き合い、天気を見て、チームプレーであの広いグラウンドの"土"を耕し、育て続けている。その奥深さと作業の大変さは、予想を超えるものだった。 そして、主人公の青年や同僚、家族など、野球に対する何らかの強い思いを持った人たちが作るストーリーもとても面白かった。青年たちの成長と共に、自分自身も前向きに励まされていくような気持ちになった。 甲子園球場の土は、その上でプレーする選手たちをまさに育てている、最高の土なのだと改めて思った。 とても分厚い本だったけれど、あっという間に読み終えてしまった。甲子園球場に関する知識も、さわやかな読後感も得られる良い本だった。野球ファンでなくてもじゅうぶんに楽しめると思う。 余談ではあるが、この本を読んでから、以前なんとなく思っていた、甲子園球場に屋根をつけたら良いのになどという考えは全く無くなった。
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いやー、面白かった。 雨降って、地固まるの話。 甲子園球場が舞台、グラウンド整備を請け負う阪神園芸のお仕事小説。 絶望的に運動神経がないため、野球をプレーすることを早々に諦め、裏方になる道を選んだ雨宮大地。家族への鬱屈した思いや友達のセクシュアリティの問題に悩みながらも、阪神...
いやー、面白かった。 雨降って、地固まるの話。 甲子園球場が舞台、グラウンド整備を請け負う阪神園芸のお仕事小説。 絶望的に運動神経がないため、野球をプレーすることを早々に諦め、裏方になる道を選んだ雨宮大地。家族への鬱屈した思いや友達のセクシュアリティの問題に悩みながらも、阪神園芸に入社し社会人生活をスタートさせる。 怪我で野球を諦めた元甲子園優勝投手の同僚の長谷に意地悪され、ビールの売り子で歌手を目指す真夏に恋心を抱きつつ、持ち前の真面目さと明るさでグラウンドキーパーとして成長していく。 その姿がなんとも眩しい。 高校野球ファンは読むべき青春小説。 自分の中では、勝手に2021本屋大賞のノミネート候補作。 来年の夏は甲子園に野球を見に行きたいな。 高校野球の独特の雰囲気を味わいながら、阪神園芸のグラウンド整備する姿をしっかり楽しみたい。 晴れれば芸術的な水撒きが見られるし、大雨ならば、もしかしたらグラウンドを甦らせる奇跡の技を拝むことができるかもしれない。 尊い仕事をまた一つ教えていただきました。
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高校時代にわだかまりを持ったまま卒業してしまった若者たちの青春小説。東京から離れて阪神園芸に就職した「大地」が関西で揉まれて独り立ちしていく姿を描いてみせる。通勤電車で読んでいて、思わず涙ぐんでしまう場面もあった。 若い人たちはもちろん、昔若かった人たちも共感できる部分が多いので...
高校時代にわだかまりを持ったまま卒業してしまった若者たちの青春小説。東京から離れて阪神園芸に就職した「大地」が関西で揉まれて独り立ちしていく姿を描いてみせる。通勤電車で読んでいて、思わず涙ぐんでしまう場面もあった。 若い人たちはもちろん、昔若かった人たちも共感できる部分が多いのではないか。 久しぶりに良い作家に巡り合えた!
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高校野球と言えば甲子園球場。 高校球児が憧れる華やかな舞台裏で、地道にコツコツと選手のことを一番に考えてグランドを整備するプロ集団・阪神園芸。 トンボがけに三年、散水に三年、すべての仕事をマスターするのに十年かかる、という。 一人前になるまでに相当な修行が必要な職業で驚いた。 ただグランドの土を均せばいいのではなく、そこには独自の理論と緻密な計算がなされていた。 今までテレビでグランド整備をされている姿を何気なく見ていたけれど、こんなにも神経の使う大変な仕事だとは初めて知った。 常に湿度や気温、日照、風向きに気を配り、土や芝生の管理から校旗の掲揚等、選手や観客のために最高の舞台を整える黒子集団。 選手に寄り添う姿勢に好感を持った。 新米グランドキーパーの大地。 慣れない仕事に四苦八苦し何度も失敗を繰り返しながらも、仕事に誇りを持ち少しずつ成長していく。 大地の名前の由来「雨降って、地固まる」の話が良かった。
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とても読みやすく面白かったけれども残念ながら何度も読みたくなる、ずっと本棚に並べておきたくなるような小説ではなかった。 阪神園芸のグランド整備についても既に知っていたという認識です。
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父親との確執、弟への嫉妬 最初から本人がそう言ってる気がしたので「今気が付いたけど俺は実は!!」みたいな発言にはビックリ 雨上がりの整備で観客の人達が拍手してくれたシーンではほろっとした
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あぁ、なんなんだこの完全無欠の小説は! アタクシの中の全方位向けおススメ本に新しく加えますよ!! 野球に詳しくなくても、甲子園に行ったことがなくても、スポーツが苦手でも、あるいは今まで働いたことがなくても、学校に行ってなくても、私は私のプロだ、そしてあなたはあなたのプロだ。生き...
あぁ、なんなんだこの完全無欠の小説は! アタクシの中の全方位向けおススメ本に新しく加えますよ!! 野球に詳しくなくても、甲子園に行ったことがなくても、スポーツが苦手でも、あるいは今まで働いたことがなくても、学校に行ってなくても、私は私のプロだ、そしてあなたはあなたのプロだ。生きている限り誰もが人間のプロだ! 中高大とマイナーなスポーツに励んでいた身としてはいつも高校野球というものの巨大さや特別さにひがみをもっていた。甲子園の放送もよほど見るものがない時以外は観ることもない、知り合いの学校が出ていなければ新聞で結果を見ることもない。 だから阪神園芸という会社のことも初めて知った。彼らの仕事が、「甲子園」にとってどれだけ大切なものなのかなんて、本当にかけらも知らなかった。 いや、驚いた。すごいな、阪神園芸。試合が終わった後に単にグランドを整備するだけじゃなかったんだ。 ネットにたくさんの動画がアップされているのも驚いた。こんなにも人気者だったのか阪神園芸。 見ていて飽きない彼らの動き。無駄のないその仕事ぶり。まさに職人。 世の中には、誰かのために誰かが輝くために一生懸命働いている人がたくさんいるんだな。 日の目を見なくても、目立たなくても、うまくいって当たり前で失敗した時には取り返しのつかないことになるとしても、それでも誰かのために、明日の、明後日の、ひと月後の、誰かのために、真剣に仕事に向き合う人たち。彼らのすべてがカッコいい。 これは、青春とスポーツとお仕事と家族とセクシャリティと、そして、あきれるほどのすがすがしさが詰まっている。そう、つまり、完全無欠の小説なのだ!
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