誤作動する脳 の商品レビュー
「ケアをひらく」はお気に入りのシリーズ。たぶんこれが7冊目。 この本ではレビー小体型認知症の当事者である著者が、その症状や治療、生活について書いている。 著者は41歳(2004年)のとき不眠をきっかけに精神科を訪れ、誤ってうつ病と診断される。その後、うつ病の薬を6年間飲み続けるが...
「ケアをひらく」はお気に入りのシリーズ。たぶんこれが7冊目。 この本ではレビー小体型認知症の当事者である著者が、その症状や治療、生活について書いている。 著者は41歳(2004年)のとき不眠をきっかけに精神科を訪れ、誤ってうつ病と診断される。その後、うつ病の薬を6年間飲み続けるが症状は改善せず、副作用にも悩まされる。 7人目の担当医のときに薬を減らしていき体調が徐々に回復。レビー小体型認知症と診断されて抗認知症薬による治療を開始する。 当時はまだ医療関係者でもレビー小体型認知症について知らない人が多かった。高次脳機能障害や発達障害、アルコール依存症、うつ病などと似ている症状もあり、最初は誤った診断をされる人も多いらしい。 著者は五感の不調を感じる。目や耳や鼻の機能がおかしくなるのではなく、脳が誤作動を起こす。これが本のタイトルにつながる。 匂いを失う。他人が匂いについて話しているのを聞いて、自分がその匂いを感じていないことに気づく。 幻視や錯視、幻聴も。幻視はそのものが消えてから初めて幻視とわかる。 著者は運転中にみかんサイズの巨大クモを車内に見つける。著者は幻視ではなかったことを証明するために必死に探す。普通ならクモがいなくて安心する場面だが、逆に納得できずに涙してしまう。 散歩中に見かけた芋虫に「お前、本物か?」と声をかける。 かつては認知症といえばアルツハイマー病しか知られていなかった。ネットでレビー小体型認知症について調べても、誤情報や嘲笑の書き込みが多く悩まされた。 あるテレビ局の取材では「認知症に見えないから映像では使えないかも」と言われた。 時間感覚を喪失し、過去や未来の距離感がつかめない。スマホの地図アプリを読めない。駐車場所を忘れて車を探しまわる。連日の打刻漏れでタイムカードには空白の広がる。 『美女と野獣』の食器のダンスや『カメラを止めるな!』のカメラの疾走シーンで酔う。ノートPCの小さい画面で見た方が全体を把握できて疲れない。脳内の手ぶれ補正機能が働かなくなる感覚。 洗濯機やふたつのコンロでの料理など、複数の作業ができなくなる。それぞれにタイマーをかけて、あとで思い出すように仕掛ける。 冷蔵庫もタンスも鍋もフタを閉めた途端に、中に何を入れたかが頭から消える。手前だけにものを置き、定位置を決め、ラベルを貼る工夫をする。 タイマーやメモで記憶の外部化。家族も口頭ではなくメモでの伝達に協力する。残された「できる」能力を使って、「できない」を「できる」に変える。 人は鳥のように飛べないことや魚のように水中に留まれないことを不便に思わない。自分が生まれつき持っている能力を持たない人がいると、その人の生活を想像して不便そうだと感じてしまう。最初から「できない」人は、それが当たり前の世界に生きている。「できない」を異常視せずに共存する大切さが必要になる。 終盤では精神科医・中井久夫の言葉が引用される。「診断とは治療のための仮説です。最後まで仮説です。『宣告』ではない」「きみの側の協力は、まず第一に都合の悪いことを教えてくれることだ」 認知症の人の感覚は当事者にならないとわからない。アンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』を見たときも感じたが、当事者の目線で描かれた作品は、医療関係者の言葉とは違った角度から自分の理解を深めてくれる。
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「レビー小体型認知症」と診断された女性が、幻視、幻臭、幻聴など五感の変調を抱えながら達成した圧倒的な当事者研究。
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【琉大OPACリンク】 https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB30077683
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レビー小体型認知症といっても症状は様々で、困りごともいろいろと分かりましたが、前駆症状の抑うつ感の治療で、精神科薬を服用したら余計に症状が悪化したというのが衝撃的でした。最後に引用されていた中井久夫先生がいうように、診断は治療のための仮説に過ぎないということに深く頷けました。仮説...
レビー小体型認知症といっても症状は様々で、困りごともいろいろと分かりましたが、前駆症状の抑うつ感の治療で、精神科薬を服用したら余計に症状が悪化したというのが衝撃的でした。最後に引用されていた中井久夫先生がいうように、診断は治療のための仮説に過ぎないということに深く頷けました。仮説なら見直しも可能ですから。
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昨年4月に逝った母はレビー小体型の認知症と診断されていました。聞きなれない診断名に色々調べましたが詳細がわかりませんでした。症状は人それぞれでしょうが母は辛かったんだろうなと胸が苦しくなりました。
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50歳でレビー小体型認知症と診断された著者が、自分の病歴とこれまでの心の変化を綴っている。 「できない」から「しない」のではなく、自分の「できる」を使って、「できない」を違う形の「できる」に変えて生活を続けていると語っている。うつ病と誤診されて、薬漬けにされ、闘病の戦場で医師だけ...
50歳でレビー小体型認知症と診断された著者が、自分の病歴とこれまでの心の変化を綴っている。 「できない」から「しない」のではなく、自分の「できる」を使って、「できない」を違う形の「できる」に変えて生活を続けていると語っている。うつ病と誤診されて、薬漬けにされ、闘病の戦場で医師だけが頼りというのはファンタジーだと知り、自分で自分を救うために医療情報をあさる能動的な患者になったという。 引用した中井久夫の「なによりも大切なのは「希望を処方する」ということ」「予後については医療と家族とあなたとの三者の呼吸が合うかどうかによって大いに変わる」という言葉もグサッと心に響いた。 私と同年代の著者の頑張りにエールを送る。
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もしも認知症になったら、世界はどう見えるのか? 本書は、50歳でレビー小体型認知症を患った著者が体験した、認知症の世界を描いた本だ。本書を読むと、外側から観察しているだけでは見えてこない、患者の内面世界について知ることができる。 著者は、自分が体験している世界をできるだけ適切に表...
もしも認知症になったら、世界はどう見えるのか? 本書は、50歳でレビー小体型認知症を患った著者が体験した、認知症の世界を描いた本だ。本書を読むと、外側から観察しているだけでは見えてこない、患者の内面世界について知ることができる。 著者は、自分が体験している世界をできるだけ適切に表現しようとしている。このような行動は、不安や焦りといった負の感情から身を守るのにとても有効であると感じる。適切な言語化は、主観的な世界から自分を連れ出し、客観的に世界を見られるようにするのだろう。 本書でもっとも印象に残った記述は次の部分だ。「心に希望があふれると世界は美しく光り輝いて見え、絶望に覆われていると美しい花すら美しいとは感じなくなる。そんなことを経験すると、脳は、世界をありのままには認識していないこともわかります。「私たちは目の前にある同じ世界を見ている」というのはただの錯覚で、世界は人の数だけ存在しているのでしょう。そしてその世界は、その人のなかでも大きく変化していきます。」私たちはつい、自分の世界の捉え方の延長に、他者の世界があると思い込んでしまう。だが、それは勘違いだ。自分が当たり前にできることができない人もいるし、心地よいと感じることが気持ち悪い人もいる。自分とはまったくちがった世界の見方をしている人間がいることに気づくことができる能力。それこそが想像力であると、私は考えている。 印象に残ったところメモ。 ・病気や障害の名前が違っても、この人は自分と同じ痛みを経験している。ただそう知るだけで救われる気がするのはなぜでしょう。 ・(今も幻視があることを)一度言ってしまえば、喉につまっていた重いものは溶けるのです。恐れるようなことは起こりませんし、人はそのままに受け止めてくれると分かります。不安のほとんどに実体はないのです。(多くの人が抱える不安に対する強力な処方箋となる言葉であると感じた。不安は幻想であり、過剰な思い込みにすぎない。) ・全力で集中していてもミスは出ます。おかしな言動をすれば、自分では何が変なのかがわからなくても、周囲の反応から伝わります。何も言われなくても、いえ、何も言われないからコソ、よけい堪えるのです。
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レビー小体型認知症の患者である著者による、多様な症状の実体験記。病気だと嘆くだけで終わらせず「これはこういう脳機能の誤作動なんだろう」「こういう工夫で何とか乗り切ってる」みたいな、自分なりの分析や対処法が飾らずに書かれている。自分自身が医療者だが「認知症」と一括りに認識し、長谷川...
レビー小体型認知症の患者である著者による、多様な症状の実体験記。病気だと嘆くだけで終わらせず「これはこういう脳機能の誤作動なんだろう」「こういう工夫で何とか乗り切ってる」みたいな、自分なりの分析や対処法が飾らずに書かれている。自分自身が医療者だが「認知症」と一括りに認識し、長谷川何点、不穏予備軍、みたいな見方しかできていないことを反省させられる。脳の症状はこんなにも多様だったのか! 鬱と誤診されていた6年ほどの日々の記述は、ご本人にとっても相当重かったろう。乗り越えた、などと気軽に言えないが、全て認めて背負って生きている筆者の生き様は、素直に素晴らしいと感じた。
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ルピー小体型認知症というのだそうだ。 認知症という言葉から連想できるような、記憶力の低下などからは随分様相が違う。だが、「認知」が壊れていく怖さはガチだ。 知覚の認知。 認知の処理。 無意識に脳が行っているさまざまな情報の処理の能力が低下していく。 赤裸々に語る著者に感謝。 そ...
ルピー小体型認知症というのだそうだ。 認知症という言葉から連想できるような、記憶力の低下などからは随分様相が違う。だが、「認知」が壊れていく怖さはガチだ。 知覚の認知。 認知の処理。 無意識に脳が行っているさまざまな情報の処理の能力が低下していく。 赤裸々に語る著者に感謝。 そうして、いつまでも、しんどくても、元気で明るくあっていただければと願う。
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著者はレビー小体型認知症を患っており、そのために起きる脳の誤作動を非常に分かり易く説明している。 一度病気になってしまったら、常に幻覚や幻聴に悩まされるのかと思ったらそんなことはなく、一人で講演に出かけるなど普通の生活をすることができる。 ただし、そのために著者は様々な努力をして...
著者はレビー小体型認知症を患っており、そのために起きる脳の誤作動を非常に分かり易く説明している。 一度病気になってしまったら、常に幻覚や幻聴に悩まされるのかと思ったらそんなことはなく、一人で講演に出かけるなど普通の生活をすることができる。 ただし、そのために著者は様々な努力をしている。 時間の感覚をつかみにくくなったため、講演ではストップウォッチを使ったり、方向感覚もつかみにくいため、地図アプリを使って移動している。 著者は非常に聡明だと思う。 何故なら、自身の脳で起きていることを冷静に分析し、非常に分かり易く我々に説明しているからだ。 本書は医学的にかなり価値のあるものだと思う。 正常な状態ではない脳は、どのように誤作動を起こすのか、その一端を知ることができ非常にためになる内容だった。 また、著者が悲観的でないこともこの本の価値を高めていると思う。 こちらもフラットな気持ちで読むことができた。
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