息吹 の商品レビュー
寡作な著者の2作目。前作「あなたの人生の物語」から17年ぶりとなる短編集。今までに発表された18作のうち9篇を収録。それぞれの作品世界の設定は、どれも著者の想像上の産物である機械、技術体系、製品が実用化されている世界における話。短編ではあるが、どれもとても長い時間を描く作品であり...
寡作な著者の2作目。前作「あなたの人生の物語」から17年ぶりとなる短編集。今までに発表された18作のうち9篇を収録。それぞれの作品世界の設定は、どれも著者の想像上の産物である機械、技術体系、製品が実用化されている世界における話。短編ではあるが、どれもとても長い時間を描く作品であり、ヒューマンドラマ。特にバグダッドとカイロを舞台とするタイムトラベルもの「商人と錬金術師の門」は映画を見たかのような読後感あり。
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先日、『あなたの人生の物語』を読んだ時にこの作家を絶賛したのだったが、今回は少し冷静に読み込んだ。 相変わらず、先端的な科学等の知見をフルに活用し大きな想像力で描き出される彼の小説は非常に見事であり、ジャンルを超えて多くの読書人が手にするべきものだということに変わりはない。読んで...
先日、『あなたの人生の物語』を読んだ時にこの作家を絶賛したのだったが、今回は少し冷静に読み込んだ。 相変わらず、先端的な科学等の知見をフルに活用し大きな想像力で描き出される彼の小説は非常に見事であり、ジャンルを超えて多くの読書人が手にするべきものだということに変わりはない。読んで、全く損はない。 が、本書の表題作「息吹」を、全巻読後にもう一度読み返してみたが、この作家の作品の弱い部分に思い至った。 「息吹」はエントロピーの法則を喩的に置換した、非常に緊密な隙のない傑作短編ではあるが、「まさしく芸術」と呼ぶには何か欠けている。例えば人を打ちのめすようなエモーション。 テッド・チャン氏の見事な小説は、磨き抜かれた工芸品のように見事ではあるが、そこには「悲劇」も「喜劇」も生じない。最初に着想された「アイディア」によって丹念に導出された「状態」の理知的な描写はあっても、そこに人間的な情動の機微が無い。 そこが自分には不満に思えた。 言ってみれば、音大の優等生がセオリーに則ってすこぶる上手に書いたフーガが、必ずしも人に訴える力を持っているわけではない。そういうことだ。 ・・・と、ケチを付けておくが、もちろんこの極限まで理知を研ぎ澄ましたような作品世界は非常に面白いものだということを再び強調しておこう。 新刊が出れば、また手に取ろうと思っている。
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SF的な要素がほぼ内包されている、9つの短編集。 根本的にはどれも、 「人間・コミュニケーション・世界ってなんなのか」 って話になっており、SF歴の浅い自分が読んでも 興味をそそる内容でした。 成長していく電子ペットとどう向き合っていくかの葛藤を 描く「ソフトウェア・オブジェク...
SF的な要素がほぼ内包されている、9つの短編集。 根本的にはどれも、 「人間・コミュニケーション・世界ってなんなのか」 って話になっており、SF歴の浅い自分が読んでも 興味をそそる内容でした。 成長していく電子ペットとどう向き合っていくかの葛藤を 描く「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、 過去の自分の行動がすべて記録されている世界で 「残すこと」の在り方について問う 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、 別の世界線の自分と交信できる装置が 普及した中、個々の人間の行動とその責任の可能性を探る 「不安は自由のめまい」 あたりは、読みやすくてお気に入り。
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どれもがかけがえのない物語だった。 科学、SFなのに人の血が通い、心が宿り、物語は個人の人生の内省へと還っていく。 科学に満たされた世界で人の思想や思索、そして愛はどこまで行けるのだろう。科学で満ち足りた世界を人間の愛が覆う優しい物語たち。文章の間を澄んだ風が通り抜けていく。 ...
どれもがかけがえのない物語だった。 科学、SFなのに人の血が通い、心が宿り、物語は個人の人生の内省へと還っていく。 科学に満たされた世界で人の思想や思索、そして愛はどこまで行けるのだろう。科学で満ち足りた世界を人間の愛が覆う優しい物語たち。文章の間を澄んだ風が通り抜けていく。 表題作「息吹」もよかったけど、個人的には「大いなる沈黙」がとても好きだった。鳥ものに弱いんだわたしは…鳥がね、好きなんだよわたしは… 朝の読書にぴったりの、頭が冴え冴えする本だった。装丁もすてき、カバーをめくれば漆黒、すてき。ぜひハードカバー版で手元に置いておきたい本でした。 この本に入っている物語は、きっとそのうち私たちが「追いつく」んだろうなと思う内容が多くて、だからこそ「追いついたとき」に人はテクノロジーとどう共存していくのか、人の感情や良心はどこまで作用できるのか、前もって試されているような感覚があった。 有機体であることを忘れないでいたいね。
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自分の持つ認識が揺さぶられる。最良の読書体験。 登場人物たちは私たちの住む世界とは異なる法則の世界で生きている。けれど、困惑したり問題を解決する姿勢はまったく同じだ。 彼らの生きざまを見ることで、現実の自分はどうだろうと改めて思う。 この作品集のなかでは「不安は自由のめまい...
自分の持つ認識が揺さぶられる。最良の読書体験。 登場人物たちは私たちの住む世界とは異なる法則の世界で生きている。けれど、困惑したり問題を解決する姿勢はまったく同じだ。 彼らの生きざまを見ることで、現実の自分はどうだろうと改めて思う。 この作品集のなかでは「不安は自由のめまい」が特に印象に残っている。 プリズムがあったらどうなるんだろうと読み終わってからしばしば夢想した。そしてあってもなくても大切なことは、よりよいバージョンのわたしになろうと選択し続けることなのだ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
SF小説、三体を読んで、このジャンルに興味が出たので読んだ。短編を複数含んでおり、時間移動、並行世界の話が多い。基本的な学術知識と、リアルな状況描写のため、それぞれのSF世界に引き込まれてしまった。特に商人と錬金術師の門、はアラビアの世界観と、時間移動がうまくマッチしており、全く止まらずに読み切れた。 ただ、全体としてグッドエンドが少なく、考えさせられる結末がある作品が多い。
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2020/03/20 読み終わった。 「折りたたみ北京」→「三体」からの「息吹」。はずれがない!どれも大変面白いが、その中でも一番だと思った。 「商人と錬金術師の門」、「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、「不安は自由のめまい」がよかった。 現実にはあり得ない設定を含むがゆえに...
2020/03/20 読み終わった。 「折りたたみ北京」→「三体」からの「息吹」。はずれがない!どれも大変面白いが、その中でも一番だと思った。 「商人と錬金術師の門」、「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、「不安は自由のめまい」がよかった。 現実にはあり得ない設定を含むがゆえにSFというジャンルの中にいるものの、全部の作品に、人間らしさとは何か、人が生きるとは何か、という、大河的な軸を感じる。だから読み応えがある。 もしかしたらSFって本来そういうものなのかも、俺が今人生で初めてそれに出会っているだけなのかも。だけどそれが読書の面白いところ。 一番のお気に入りは「不安は自由のめまい」かな。
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どのお話もアイデアの塊だし、読み終わるたびに「いいもの読んだわ〜」という気持ちになる。 実は我々の身近に存在した知的生命体が人間について語る「大いなる沈黙」、神が実在する世界での科学者の話「オムファロス」が特に好き。
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SF世界に馴染みが無いからか、単に無知なだけか、とにかく作中出て来る単語…いや文章全体の恐らく6割近くが理解出来なかった。 それでも、かろうじて理解出来た範囲に限って考えれば、秀逸で非常に稀有な短編集だと思う。 大きなテーマでは人間とその心とテクノロジーと神と神のありかについて...
SF世界に馴染みが無いからか、単に無知なだけか、とにかく作中出て来る単語…いや文章全体の恐らく6割近くが理解出来なかった。 それでも、かろうじて理解出来た範囲に限って考えれば、秀逸で非常に稀有な短編集だと思う。 大きなテーマでは人間とその心とテクノロジーと神と神のありかについて考察されており、普段使っていない脳の部分を触発されながら何とか読み進んだ(休日が取れなかったせいもあるけれど、前述の理由でとにかく時間がかかった!)。 昔、読了を断念してしまったミランクンデラの小説の冒頭、神は人間をただ創っただけでその後起こった事については全て人間が責を負うべきで、神の責を問うなど論外ではないかと(うろ覚え)いうくだりがあった(うろ覚え) 。 果たして…。
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〈古来、空気は生命の源であると言われてきたが真実はそうではない〉 という書き出しから始まる表題作は19ページとは思えないほど芳醇なインテリジェンスを味わえてくらっときた。 こんなの初めて読んだという衝撃。 まだまだ初めては沢山ある。 時間の連続性、意志の作用、運命。 逃れえぬそれ...
〈古来、空気は生命の源であると言われてきたが真実はそうではない〉 という書き出しから始まる表題作は19ページとは思えないほど芳醇なインテリジェンスを味わえてくらっときた。 こんなの初めて読んだという衝撃。 まだまだ初めては沢山ある。 時間の連続性、意志の作用、運命。 逃れえぬそれらを悲観的に捉えず自然なものとして描き出すいくつもの物語。 淡白な文章だし大袈裟に語られる部分は全くないので架空の近未来社会の壮大さ!みたいな感じではないけど、テクノロジーが人間にどれだけ影響を与えるかとか、思いを馳せてみると実際かなり壮大。 どっぷり浸かるようには読めなかったけど、表題作の文章から漂うある種の静けさとかなんかほんと圧倒される...。
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