セロトニン の商品レビュー
ウエルベックによる2019年の作品。訳者解説にあるように、『服従』で描かれたイスラムへの改宗では解決できず、また性への逃走によっても解決できないほどに悩みを抱えて袋小路に陥ってしまった主人公による人生からの蒸発、死への逃走。 フランスの農業従事者は2日に1人という。それほどまでに...
ウエルベックによる2019年の作品。訳者解説にあるように、『服従』で描かれたイスラムへの改宗では解決できず、また性への逃走によっても解決できないほどに悩みを抱えて袋小路に陥ってしまった主人公による人生からの蒸発、死への逃走。 フランスの農業従事者は2日に1人という。それほどまでに自由貿易やEUの東欧への拡大へのインパクトが大きいわけでその意味ではまだ日本は守られているといっていいのかもしれない。黄色ベスト運動とか全く理解できなかったけど、ここまでかと思うと理解できなくもない。 夏と冬の長いバカンスもリア充ではない人たちには社会的関係性の欠如を痛感させられるつらい時期というのも逆説的で日本とは異なるつらさがある。 それにしてもここまで希望がないかといえばそんなことはないと思いたく、事実ウエルベックも生きてかきつづているわけだし、本当はそこを掘り下げるべきなのかとも思う。
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※このレビューにはネタバレを含みます
上流階級のセックスが全てだったフランス人おじさん。 加齢とともに性欲減少になってきた時期に、若い日本人彼女の「不倫」が発覚し、それをきっかけに現実社会から蒸発、放浪の旅に出ます。 放浪の中で、過去に関係を持った女性達のことを思い出し、その中で女性を真っ直ぐに愛した日々があったことに気づき、愕然とします。 幸せって何なんでしょう。シンプルだけど抽象的で何をどう考えたらいいのか。考えれば考えるほどこんがらがってきて、結局途方にくれてしまいます。 でも、シンプルに、 愛する信頼できる人とつながり、その人を愛すこと やっぱりそれだったんすね、セックス大好きおじさん。 幸せは、若い時にはなかなか認識することができません。幸せは、かつてあったものという形で私たちの認識にたどり着いて、失われた時にようやくそれが幸せだったと気づきがちです。 なんでかというと、若い時は残念ながらものごとを知らず、未来はもちろん一度たりとも経験したことはなく、精度の高い未来予測の方法はどこにもなく、若さは漠然と未来に希望を持たせる傾向があるからです。 特にお金とか地位とか名誉とかを幸せと勘違いしがちですが、そんな「幸せな」人でも、不幸を感じているんですよね。 私たちが幸せに過ごすためにできることは一体なんなのでしょう。愛すべき人を愛し続けるためにはどうしたらよいのでしょう。 素敵な相手がいたらとにもかくにも結婚してしまう。 お酒は控える。自分の信念に凝り固まりすぎない。神の恩寵を受けられることを祈る。 少なくとも、頭の良さ、育ちの良さ、知識、実務力、経済力といった世間で羨望の対象とされるものは、いやはや幸せを掴んで離さないためにはそんなに大した役にも立ちそうもありません。 私は今が幸せだと思えているのか、幸せと寄り添って歩んでいけるのか、失った幸せはまたこの人生に現れるのか。 旅はまだ続く。
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先進国の第一次産業の袋小路、自発的蒸発、引きこもり(フランス語でも”Hikikomori”なのだとか)を通じて救いようのない孤独を募らせていく主人公を描くが、これはセックスを中核に置いたロマンチックな幸福を至上のものと考える西洋的価値が敗北していく様を示すものに思える。 ウェルベ...
先進国の第一次産業の袋小路、自発的蒸発、引きこもり(フランス語でも”Hikikomori”なのだとか)を通じて救いようのない孤独を募らせていく主人公を描くが、これはセックスを中核に置いたロマンチックな幸福を至上のものと考える西洋的価値が敗北していく様を示すものに思える。 ウェルベックの最新作は『服従』や『プラットフォーム』のようなネガティブなカタルシスさえ提示しない。さて、これからどこへ向かうのか、かえって楽しみですらある。
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訳者あとがき等を読む限り、やはりというか、現代西欧的価値基準(SDGs的とでも言おうか)からの本書に対する微妙な受け止めが伺えるわけだが、ヘテロ白人男性の鬱病的世界観に基づく露悪的恋愛小説…本書をこのように受け止めてしまうことまでを含めて、著者によるメタ小説的な仕掛けではないかと...
訳者あとがき等を読む限り、やはりというか、現代西欧的価値基準(SDGs的とでも言おうか)からの本書に対する微妙な受け止めが伺えるわけだが、ヘテロ白人男性の鬱病的世界観に基づく露悪的恋愛小説…本書をこのように受け止めてしまうことまでを含めて、著者によるメタ小説的な仕掛けではないかと思えるほど挑発的な小説である。 本書の主人公とたまたま私も同世代だ。日仏の違いはあれど、冷戦体制が崩壊しリベラルな民主主義と自由主義経済が単一規範として世界を覆う中で青年期を迎え、多様性と自己決定権に基づく現代の価値観が急速に拡散・固定化する中で成長し、行動面においては究極の自由が与えられ(あるいは究極の自由へせき立てられ)ながら、経済や恋愛感情や肉体の節理に縛られて死から逆算する人生(まず管理費を差し引いて…)を強いられる、おそらくは人類初の世代…。 主人公は抗うつ薬の処方と恋愛という極めて個人的な、現代の価値観に抵触しない手法に出口を求めようとするが、そのために完全な狂気に落ち込み、紙一重のところで行動を起こすことを踏みとどまる。ただ、踏みとどまったとはいえ、その後の生に救いがあるわけではない。 途中、主人公の親友を通して農業問題をめぐる閉塞状況が描かれる(もちろん貴族階級の親友は自由貿易と対立する側である)。そこで親友は行動を踏みとどまらなかったわけだが、とはいえ、状況に風穴が開くわけでは、もちろんない。 現代の自由な恋愛観に首まで浸かったきらびやかな青春を謳歌しながら、一方では日本人恋人の自由過ぎる行動には吐き気を催したりもしつつ、中年期の衰えにうろたえて精神に変調をきたしたことで、親の遺産を持って(この両親の死に方も現代の寓話的だ)俗世からの離脱を求め右往左往する中年男の「負け犬の遠吠え」…まとめればそんな話ではあるのだが、私の誤読でなければ、ここで戯画化されているのは何も主人公の属性ばかりでなく、行間から立ち上る不安はどこか捨て置けない読後感を残す。 「文明は倦怠によって死ぬ」 二重三重の強固な見えない檻の中で、最大限の自由が与えられた生の帰結として、著者は非常に悲観的な見通しを示している。
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日本人は顔を赤らめない、精神構造上は存在しているが、結果はむしろ黄土色がかった顔になる。 ←皮肉レベルだんち… 彼女は50キロ以下だから(だいたい彼女のスーツケースと同じ重さだ)、 ←おお… その時ぼくは、「邪魔をして失礼しました」というこの表現が自分の人生を要約していること...
日本人は顔を赤らめない、精神構造上は存在しているが、結果はむしろ黄土色がかった顔になる。 ←皮肉レベルだんち… 彼女は50キロ以下だから(だいたい彼女のスーツケースと同じ重さだ)、 ←おお… その時ぼくは、「邪魔をして失礼しました」というこの表現が自分の人生を要約していることに気がついた。 ←わかり…
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20200814 読み終わるのに時間がかかった。作者の世界に入れずいずれ分かるような展開があると思って読み続けた。結局、断片的にしか話が理解できず。読み終わる頃はまだかまだかと言う感じ。時間を置いても分からないと思うが別の本を読んでみるのもてかな。
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フランスの作家・小説家であるミシェル・ウェルベックの2019年刊行作品。 作品には、過激な性描写や露悪的な語り口、人権や宗教などのセンシティブな問題に関する辛辣な描写なども多く、賛否両論あるようだ。 ムスリムの大統領が誕生する設定の『服従』(2015)は、その出版日がたまたまシ...
フランスの作家・小説家であるミシェル・ウェルベックの2019年刊行作品。 作品には、過激な性描写や露悪的な語り口、人権や宗教などのセンシティブな問題に関する辛辣な描写なども多く、賛否両論あるようだ。 ムスリムの大統領が誕生する設定の『服従』(2015)は、その出版日がたまたまシャルリー・エブド襲撃事件と重なり、そうした点でも話題を集めた。 本作を読んでみようと思ったのがなぜだったのか忘れてしまったのだが、タイトルが「セロトニン」だったこと、あるいは主人公がバイオ化学企業モンサントに勤めていた経歴がある点に興味を惹かれたのだったかもしれない(だが読み始めてわかったが、モンサントは本作にはほとんど関係がない)。 セロトニンは精神を安定させる働きを持つ神経伝達物質である。 主人公のフロラン=クロードは抗鬱剤として、セロトニンの分泌を高める<キャプトリクス>という薬を服用し続けている。 薬の副作用として、彼の性欲は減退し続ける。 つまりは、精神の安定と引き換えに、彼は性愛の世界からは脱落していくわけである。 端的に言えば、これは中年男が社会生活から徐々にドロップアウトしていき、最終的には「引きこもり」として沈んでいく物語である。 当初は農業関連の調査の仕事を持ち、日本人の高級コールガールの彼女もいた彼だが、彼女にうんざりしていたのもあって、「蒸発」を決める。仕事も辞めてしまう。 昔の彼女とならやり直せるかと思ってみたり、かつての友人を頼ってみたりするが、いずれもうまくはいかない。彼女には5歳になる子供がいて、自分の入り込む余地はない。友人は農業を営んでいるが、経営は厳しく、抗議活動に身を投じ、結果的には破滅の道をたどる。 フロラン=クロードには、父親の遺産があり、働かなくても当座の暮らしには困らない。ある種の「高等遊民」なのだが、なにせ人生を立て直すことができない。いや、そもそも彼は人生を「立て直し」たいのだろうか・・・? メインストーリー以外も、少女性愛者の鳥類学者とか、両親の死の顛末とか、食えないエピソードも多く、なるほどこういうところが露悪的と評される所以なのかもしれない。 こう書くと何だか救いのないお話のようなのだが(いや、実際、救いはないのかもしれないが)、全体にはシニカルだがユーモアも感じられ、何となく読まされてしまう。 彼の主治医は彼が「悲しみで死にかけている」という。 悲しみで死なないために、彼は、白い楕円形の小粒の錠剤を飲み、セロトニンを絞り出す。 放浪の果て、彼は最終的には小さな自分だけの「城」に落ち着き、そこを想い出で飾る。 まるで、自分の墓に花を飾るかのように。 そこはおそらく彼の終の棲家で、遠からず彼は死を迎えるのだろう。ここは終末の時を待つどん詰まりの場所だ。 孤独といえば孤独だが、そこに一抹の甘美さも見るようにも思うのだ。 賞賛はできないが、現代人の抱える孤独を突き詰めていくと、ある場合にはこんな形を取るのかもしれない。共感というほど強い感情ではないが、うっすらと「わかる」ような思いにもとらわれる。
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内容があるようでないような、でも読んでしまう小説。 鬱々とした内容なのに、どこかカラッと乾いた雰囲気があって、重く感じさせないところが凄い。 初めてウエルベックを読んだけれど、他の作品も読んでみたいと思った。
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現地行ったことがない外国の話のローカルな地名が緻密に描写されているところはもうお手上げ状態だったけど、抗うつ剤による性不能状態になった男の末路の悲しいこと。 フランス情勢と食の文化にも触れながら別れた女に対してのつらつらと女々しい文体が続くのは同じ男としてなかなか否定する事も出来...
現地行ったことがない外国の話のローカルな地名が緻密に描写されているところはもうお手上げ状態だったけど、抗うつ剤による性不能状態になった男の末路の悲しいこと。 フランス情勢と食の文化にも触れながら別れた女に対してのつらつらと女々しい文体が続くのは同じ男としてなかなか否定する事も出来ずわからなくもないw このテーマに興味ある人には細かく書かれた背景に面白みを受けるだろうけど、ただ手に取った本を借りて読んでしまった自分には「2666」を彷彿させる地雷であった。
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ウェルベック 2019年刊行(邦訳も同年)の最新作。「地図と領土」でやりたいことはやり切って、「服従」でその名を確固たるものにしたウェルベックが、新境地というか旧境地を切り拓いて、老年に差しかかった男の女性遍歴を哀しく語る。 EU が推進する自由貿易とフランス農業の衰退も描かれ...
ウェルベック 2019年刊行(邦訳も同年)の最新作。「地図と領土」でやりたいことはやり切って、「服従」でその名を確固たるものにしたウェルベックが、新境地というか旧境地を切り拓いて、老年に差しかかった男の女性遍歴を哀しく語る。 EU が推進する自由貿易とフランス農業の衰退も描かれるが、しかしそれは主題ではない。全体的に凡庸で、今まで読んだウェルベックの中では一番劣るか。
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