世襲の日本史 の商品レビュー
何かと批判的に扱われることの多い世襲制、中国の科挙や西洋的な能力主義を横目にどうして日本においては血筋や家系のような封建的価値観が重視されるのかを歴史家の視点から紐解いた本。 日本における究極の世襲とは天皇制であり、万世一系という神話の時代から連綿と続く皇室の永続性が国家統治の...
何かと批判的に扱われることの多い世襲制、中国の科挙や西洋的な能力主義を横目にどうして日本においては血筋や家系のような封建的価値観が重視されるのかを歴史家の視点から紐解いた本。 日本における究極の世襲とは天皇制であり、万世一系という神話の時代から連綿と続く皇室の永続性が国家統治の根幹とされた。しかし現在も含めて天皇が実際の権力を持った期間は短く、ほとんどは臣下の藤原氏や武家政権が意思決定をしていた。豊臣秀吉のように突出した能力によって下克上をなし得る人もいるが、「近衛家の養子」といった形で旧守の権威を活用する方がリーズナブルに支配権を獲得できる。 おおもとは土地など財産権の継承にこの世襲制度が活かされ、やがて経済的な繋がりを持つ共同体にとって階層構造を維持することは合理的となっていく。とくに荘園のような、遠隔地の利権を確保する上では皇室や貴族といった権威を用いて在京領主たちが支配権を維持するようになり、それに倣った鎌倉幕府が守護地頭という遠隔支配構造を守ったことで、日本の封建制度が確立していった。 現在においても、政治家は選挙区としての国許を秘書に任せ、国会議員は永田町で遠隔支配するのが当たり前となっている。そしてその下に紐づいた経済的な結びつきとしての後援会構造は、世襲による安定を好む。「和を以て貴しとなす」という闘争よりも根回しや妥協がコミュニケーションの主流である日本では、世襲という構造的安定性を示す状態こそが非言語的な説得力を持ち、ブランドとなるのだ。
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地位より人、人というのは血、むしろ血より家、これが日本の大原則。 ヤンキーにあこがれる精神は、階級意識の裏返し。 かつての日本では、頭頂部を人に見せるのは恥だった。烏帽子をかぶる。寝ているときも。 社会で世襲が存在感を持つ。総理大臣や社長も左右する。 ウルトラマンは、最終的には家族ができてファミリー化した。記紀神話も同じように神様をファミリー化していった。 日本では科挙がなかった=家を単位にした世襲で役人が決まった。遣唐使の吉野真備は例外。 和同開珎は流通していなかった=蓄銭叙位令でたくさん蓄えた者に位階を与える法律。銭は、鎌倉時代に中国の銅銭が貿易に使われるようになって流通するようになった。 国司は地方官=守。中央は、下から参議、権中納言、中納言、大納言、大臣(内大臣、右大臣、左大臣、太政大臣)、天皇の代行者としての摂政関白。 摂関期から院政期は、純婿取婚=女系の家で結婚生活を送る。家制度との矛盾がある。男性で受け継ぐ系図が描けない。 院政は、中世の始まり=律令制の形骸化していた公地公民に変わって、荘園・公領制へ移行した。 核家族から直系家族へ変化。長子相続だが、遊牧民では末子相続も見られる。そののちに、家父長制=結婚しても親の世帯に残る。大家族。 日本には後宮がなく、婿取婚なので子供は母方の実家で育てられる。 摂関政治の基本は、招婿婚を利用した家族。家族に比べて家は、永続的になりやすい。 在地地主は、有力者への寄進=名義貸し、によって守ってもらう。 延久荘園整理令は、上皇の監督権を高めたため、上皇への寄進が増えた。これによって院政が可能になった。 寄進しないで公領となる道を選ぶ在地地主もいた。実質的には同じこと。 頼朝の力の源泉は、所領安堵。武士となった在地地主をまとめる手段。 家は血縁性を超越している。血がつながらないだけでなく、高貴な血筋が喜ばれた。高貴な血が入っているほうが箔がつく。 三位以上を公卿といい、貴族の証。北条家は下の四位までに留めて、階位を求めなかった。 政治をやるのは徳川の家来がすること。大きな家の譜代大名は政務に関わらない。本多も榊原も老中にはなれなかった。 ツリーとリゾーム。 ツリーは家制度と同じ主従関係。縦関係で結ばれる。リゾームは、横ともつながる非階層性のネットワーク。一向宗や浄土真宗。一神教に近い。 徳政令は、借金の棒引き=徳政=民にとっていいこと、の意味。 南北朝で南朝の存在は、尊氏には都合がよかったのではないか。北朝の天皇を相対化できた。 天皇の存在は否定しない=天皇が変わるのは易姓革命=古代中国の王朝交代。天の声、という正当化要素があったが日本にはその概念がない。天皇が変わらなかった理由。 秀吉の段階で、職の体系による支配から、一職支配へ変わった=土地を与えることはすべての権限を与えること。それを秀吉が保証する。 家康は、関ヶ原の直後、論功行賞を行っている=支配権を確立した。これを徳川政権樹立とみるべき。 明治政府は外圧で世襲を辞めた。それまでは、安定した世の中だった。ただし天皇は世襲。中国で、皇帝は世襲、官僚は科挙によるものと同じ仕組み。 日本の現代も平和が崩れてくる状態=世襲ではやっていけなくなる。人口減少という黒船によって実力主義になる。
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鎌倉幕府の成立が1192年じゃなくなったのは知ってたけれど。 1185年でもないなんて…! けれども、私は研究者ではない。 昔年号を丸暗記したけれど、それは無駄じゃなかった。 世界史の勉強したとき、いつも日本は何してたのかなーなんて比較できるから。 歴史は変わらないはずなのに、解...
鎌倉幕府の成立が1192年じゃなくなったのは知ってたけれど。 1185年でもないなんて…! けれども、私は研究者ではない。 昔年号を丸暗記したけれど、それは無駄じゃなかった。 世界史の勉強したとき、いつも日本は何してたのかなーなんて比較できるから。 歴史は変わらないはずなのに、解釈が変わるってすごく面白い!
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「家」の継続、「血筋」の上下、「世襲」の有り無し、などの観点から日本史を記述。何年に何があった、などの普通の記述方式ではあまり語られることのない細部が語られるので、いままで気づかなかった事に気づけた。というか、今まで歴史って、年表の字面しか頭になかったな、というのが分かった。 ...
「家」の継続、「血筋」の上下、「世襲」の有り無し、などの観点から日本史を記述。何年に何があった、などの普通の記述方式ではあまり語られることのない細部が語られるので、いままで気づかなかった事に気づけた。というか、今まで歴史って、年表の字面しか頭になかったな、というのが分かった。 参考図書として「文明としてのイエ社会」1979刊 経済学者・村上泰亮一、社会学者・公文俊平、政治学者・佐藤誠の共著、をあげる。そのテーマは日本がなぜ明治以降の近代化、産業化に成功したのか。それは日本独特の「イエ型集団」であったとする。古代の「ウジ社会」、「イエ社会」であり、11世紀から16世紀まで500年にわたり重複しながら衰退と交流を交差させたのだという。 そして本郷氏はその軌跡こそが、古代から中世にかけての日本の歴史の躍動であったと見られるかもしれない、という。 メモ ・「招婿婚」の矛盾 「道長が娘寛子を敦明親王と娶らせた」の実態は「道長が敦明親王を婿にとり、自邸で夫婦生活をさせた」ということ。ただし系図(家の継承)は男系であることが矛盾。 ・「寄進地系荘園」の職の体系:東国を中心とした地域の開拓が進んだ11世紀に現われる。 本家:皇族、摂関家、藤原本家、大社寺。国司より上位の国主に対しても租税を免除させたり、干渉を拒否したりする特権を持つ。 領家:有力貴族や有力寺社。国司に対して影響力を行使することで、下司を保護する。その見帰るとして年貢から一定歩合を得る。 下司(在地領主):現地で土地を管理する。荘園の開拓者やその子孫。国司の影響をかわすために、荘園を領家、本家に「寄進」(名義貸し)し見返りを払う。 ・「荘園・公領制」(網野義彦氏) 下司が支配・管理する荘園と、国司が支配する公領が国を二分する形で並立する状態。 ※荘園も公領も経営の実務は下司(あるいは郡司等)=在地領主が担っている。 2019.9.10第1刷 図書館
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人が動くのは、何によるのか、ということを時々考えるんだよね。上司からの命令だからか?その人が怖いからか?あるいは、その人に心服しているからだろうか。いろいろな要素があると思う。本書の主張によれば、組織で人が動くのは、役職とか階級以上に、その人個人の人間関係によるものであり、日本の...
人が動くのは、何によるのか、ということを時々考えるんだよね。上司からの命令だからか?その人が怖いからか?あるいは、その人に心服しているからだろうか。いろいろな要素があると思う。本書の主張によれば、組織で人が動くのは、役職とか階級以上に、その人個人の人間関係によるものであり、日本の社会システムとして考えるなら、個人よりもさらにはその血筋なのだという。他の本でも読んだことだけど、海外の軍隊であっても、士官学校出たての少尉よりも、古兵の軍曹の方が小隊をうごかせるということは現実にありそうな話。役職や階級よりもその人個人がものを言う、というのは今の社会でもあるのだろう。そこで、組織を連綿と動かすファクターとして、血筋、世襲があるのだよ、というのが本書の骨子と言っていいのかな。 時々マニアックに感じられるくらい、歴史的事実が出てきてちょっと挫けそうになったけどさ。全体的に、読みやすくて楽しかったと思う。まぁ、まどかマギカを出してきたあたり、著者がよほど好きなのか、読者に阿っているのか、と感じてしまったけど。俺、まどかマギカってアニメは見てないし、ピンとこなかったんだよねぇ。まぁいずれ、まどかマギカは見たいと思うけどさ。
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世襲をメインに考察した本だが、律令制度を中国から導入した古代日本が、我が国の実情に合わせて融通無碍に改定していった過程を解説した「第1章 古代日本でなぜ科挙は採用されなかったか?」が面白かった.また「家」をベースに人事が決定されていた武士の世界を概括した「第3章 鎌倉武士たちはな...
世襲をメインに考察した本だが、律令制度を中国から導入した古代日本が、我が国の実情に合わせて融通無碍に改定していった過程を解説した「第1章 古代日本でなぜ科挙は採用されなかったか?」が面白かった.また「家」をベースに人事が決定されていた武士の世界を概括した「第3章 鎌倉武士たちはなぜ養子を取ったか?」も楽しめた.明治維新で一旦途絶えた世襲制度が、時代が進むにつれて次第に復活してきたが、それを是認する社会の宿痾についても議論が欲しかった.
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世襲からみる日本史。 自分の血統が生まれないと直ぐ脆弱になる本来有り得ない権力摂関政治、血がつながっていなくても血(ブランドと同じように感じる)を尊重する超血縁性、院の権力の意外な小ささなど視点が面白い。 ツリーとリゾームの件で源頼朝が別室で1人ずつに「お前だけが頼りだ」と言って...
世襲からみる日本史。 自分の血統が生まれないと直ぐ脆弱になる本来有り得ない権力摂関政治、血がつながっていなくても血(ブランドと同じように感じる)を尊重する超血縁性、院の権力の意外な小ささなど視点が面白い。 ツリーとリゾームの件で源頼朝が別室で1人ずつに「お前だけが頼りだ」と言ってた話は流石頼朝だと思った。 明治の元勲達の「子孫に美田を残さず」という思想は現代日本に必要な気もする。
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間違いなく今の日本史ブームの立役者の一人、本郷和人氏による氏と家、階級に関する考察。 筆者の作品は語り口調であり実に読みやすい。結構、鋭い指摘も多い。ウルトラマンファミリーだったり北斗の拳、魔法少女☆マギカ、具体例も豊富に日本史について変幻自在に考察する。 中国、朝鮮と異なり...
間違いなく今の日本史ブームの立役者の一人、本郷和人氏による氏と家、階級に関する考察。 筆者の作品は語り口調であり実に読みやすい。結構、鋭い指摘も多い。ウルトラマンファミリーだったり北斗の拳、魔法少女☆マギカ、具体例も豊富に日本史について変幻自在に考察する。 中国、朝鮮と異なり科挙の制度を採用せず、実力のある若者より、世襲を選んだ日本。ある意味全国の英才を首都に集めた実力主義の明治維新政府でも、万世一系の皇室が象徴とされている。 一つ一つの細かい議論の是非はさておき、気楽に読めるが鋭い指摘が多いように思われる。
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述べられている史実(と考えられるもの)自体は有名な話が多かったが「イエ」つまり血のつながりの維持が日本の歴史では重要視されてきた、という切り口が新鮮だった。
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勝手な解釈だけど、律令や科挙といった観念的な制度と、武士や家という現場の対立の歴史の原因を探った本であると感じた 土地の不可分性と、家の構造の非対称性(親は一組に対して兄弟は複数)から直系家族やツリー構造が生じる 不可分であるがゆえに、家を作って直系相続が大事であり、血筋や地位よ...
勝手な解釈だけど、律令や科挙といった観念的な制度と、武士や家という現場の対立の歴史の原因を探った本であると感じた 土地の不可分性と、家の構造の非対称性(親は一組に対して兄弟は複数)から直系家族やツリー構造が生じる 不可分であるがゆえに、家を作って直系相続が大事であり、血筋や地位よりも優先された その相似形として主従関係ができた 遺産が家畜みたいに数字で分割可能であった時代の核家族が基本だった時代から、 土地のように分割を繰り返すと価値が著しく棄損するようなものの相続のため直系家族が出現した あくまで資産を律令のように数字と地位で考える貴族と、土地をまとまりとして保持してくことの価値を知る武士との違いの歴史ともとれる 本筋とはずれるかもしれないが、天帝をいただき世襲を否定し、易姓革命を肯定する皇帝は、世襲を否定するからこそ現世での権力を極め天帝に近づくことを追い求める国との対比は象徴的と思う 教訓臭くいえば、もう一度数字では測れない不可分の価値を考え直す時期に来ているのではないかと思う
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