罪の轍 の商品レビュー
久しぶりに刑事が主役の小説を読んだ。主人公がステレオタイプで、よくあるストーリーかと思いきや・・・。犯罪の重さと犯人の人間性のギャップに、人間の弱さやもろさ、誠実さを感じ、しみじみと余韻に浸りました。
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※このレビューにはネタバレを含みます
もう、断筆してしまったのかと思わせるぐらい 新刊が出なかった奥田英朗 苗字が同じだからと言う訳ではないんですが 大好きな作家の一人 本書は、待ちに待った長編サスペンス エッセイを含めた、他のジャンル作品も好きですが なんと言っても、長編サスペンスは 過去作が漏れなく秀逸なんで 期待するよねー 時代は昭和38年 アジア圏内で初めて開催される 東京オリンピックの前年 実際にあった 「吉展ちゃん誘拐事件」をモチーフにした事件小説 主に3人の視点で順番に物語は進む 礼文島で昆布漁師をしてる宇野寛治 幼い頃、継父から受けた虐待で 記憶障害を負う 善悪の区別がつかず、お金に困るとすぐ空き巣をする 周囲の人に、馬鹿にされていて 友人はいない 捜査一課所属の落合昌夫 当時は、まだ珍しかった大卒刑事 オリンピックの警備強化のため 異例の人事で捜査一課に配属される 山谷で、母と2人 簡易宿泊所と食堂を営んでいる町井ミキ子 山谷一体を取り仕切っていたヤクザの父が 警察の取り調べ中に亡くなったことから 母は極端な警察嫌い 在日韓国人であることから まともな就職が出来ず、独学で会計士の勉強をしながら 家業を手伝っている 礼文島から、命辛々東京の下町にたどり着いた寛治だが 無一文だったため、空き巣を繰り返しながら ホームレス生活を続けていた 浅草でフラフラしていたところを みき子の弟に声をかけられ 寛治、落合、みき子 それぞれのストーリーが絡まっていく ネタバレになるので 興味がある方は、ぜひ一読していただければと 今回、一番興味深かったトコとして 本書は、サスペンスでありながら 歴史小説的な要素を多分に含んでる点 例えば、当時まだ沖縄がアメリカの占領下だったため 内地へ出稼ぎに行くには、渡航証明書が必要だった とか、 東京から北海道まで、片道30時間かかった とか 当時、公開された黒沢映画「天国と地獄」の影響で 身代金誘拐事件が多発した などなど 交通と通信技術が進み始めたコトで 新しいタイプの犯罪が生まれ それに対して、右往左往する警察 この辺は、ITやSNSが発展したことによって 新しいタイプの犯罪が生まれてきた 現代にも通ずる そう言えば、最近は 身代金誘拐とか、銀行強盗とかあまり聞かなくなったなぁー と、いう訳で 昭和30年代後半の、時代感が随所に盛り込まれていて かつ、 東京と地方との格差 東京の中でも、足立区、荒川区、台東区周辺の人々の 牧歌的なようで、諦めにも似た人間模様が なかなか考えさせられるモノがある 「誰でも事情があるし、勧善懲悪な物語は、自分には書けない」 と、インタビューでも答えてる通り 奥田氏は、物語の中では 決して誰も裁かない だからこそ、見えてくるものは沢山ある 登場人物、一人一人のキャラクターがしっかりと描かれて それぞれの行動原理が浮き彫りになるが故 結果、犯人ですら憎めなくなってくる 法治国家である以上、犯罪は悪でなくてはいけないのに それぞれの事情を、描かれてしまうと 何が善で、何が悪なのか混乱してしまうが… まんまと、筆者の目論見にハマってしまった 笑 諸々含め、秀逸な作品だと思う #罪の轍 #奥田英朗 #東京オリンピック #吉展ちゃん誘拐事件 #読書好き
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本当に最後まで読めない展開が続き、お盆休みに没頭して読み耽りました。 読み始めは、東京オリンピックの前年という時代設定に感情が入り難かったのですが、しばらく読み進めるうちに、全く気にならなくなり、逆にその設定だからこその味があるなぁと感心してしまいました。
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真相が知りたいけど、知りたくないような、そうであってほしくないと願いつつ…読み終えました。ふう。 『オリンピックの身代金』未読なので読みます!
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子供時代の不幸な出来事から怪物になってしまった犯人と執拗に追い詰める警察。当時の時代背景を絡めながら双方の視点で物語は進んでいく。過去の出来事を思い出して未来を決めた犯人の心の動き、逮捕に奔走する人たちの思い、犯した罪の重さ等リアリティをもって迫ってきました。
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タイトルからして、これは重い方のパターンだなと読み始めると、東京オリンピック(2020デハナイ)を迎えようとする60年代始めの時代設定で、一番印象に残ったのが60年間くらいで世の中はこれほど変わるのか、ということでした。『サピエンス全史』読了以来そういう視点がくっついてきます。固...
タイトルからして、これは重い方のパターンだなと読み始めると、東京オリンピック(2020デハナイ)を迎えようとする60年代始めの時代設定で、一番印象に残ったのが60年間くらいで世の中はこれほど変わるのか、ということでした。『サピエンス全史』読了以来そういう視点がくっついてきます。固定電話が普及し始めて「匿名性」を笠に嫌がらせや誹謗中傷をしてうさを晴らそうとする市井の人たちの様子は、使える道具や技術が変わっただけで現代とまったく同じで暗い気持ちになりましたが、山谷の描写とか地方と東京との心理的距離感には、自分が十代だった昭和の頃の記憶を思い出したりして懐かしかったです。物語は、礼文島に生まれ育ち記憶障害を持つゆえに仕事や仕事場での人間関係を円滑に回すことが困難な青年、宇野寛治が主人公と言っていいか微妙ですが主たる人物。もう一人の主たる人物は警視庁捜査一課の刑事、落合昌夫、叩き上げのくせ者が多い刑事のなかで大学出の良識派。感想を書こうと少し検索して初めて、モデルとなった実際の事件があったと知りました。さすがの奥田さんで読み応えたっぷり、出てくる人物像の書き込みも見事で、台詞は声が聞こえてきそうな感じでした。女性の描かれ方が少しむむむと思いつつも、ミキ子が魅力的だったのと、『マドンナ』を書いた奥田さんなので多くは時代背景に負うところが大きいのかもしれない、と思いました。淡々とした筆致でしたが、ズッシリ来ました。
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「オリンピックの身代金」に続く、昭和高度成長期を舞台とした警察小説。 当時の世間を揺るがせた「吉展ちゃん事件」に題材を取ったとのこと。 約600ページの大作だが、巧みな構成、ストーリー展開、こなれた文体に長さを全く感じさせない。 事件を追いかける刑事たちもいいが、普通の人?...
「オリンピックの身代金」に続く、昭和高度成長期を舞台とした警察小説。 当時の世間を揺るがせた「吉展ちゃん事件」に題材を取ったとのこと。 約600ページの大作だが、巧みな構成、ストーリー展開、こなれた文体に長さを全く感じさせない。 事件を追いかける刑事たちもいいが、普通の人?を代表する簡易旅館の一人娘のミキ子がいい。 ヤクザや左翼の活動家を歯牙にもかけない気っぷの良さがある一方、被害者家族を思いやる人情家でもある。 出生届を出しに行った在日韓国人の父親が漢字を知らなかったのでカタカナになったとか、帰化しようとしたら民団に妨害されたとか、細かい部分にリアリティがある。 最後の葬式のシーンで、涙に目をはらす若手刑事、黙って焼香するヤクザの幹部、焼香に来た警視総監をやじるミキ子の母親、彼らを見ているミキ子それぞれがこの物語を象徴している。
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とても読みやすい! 左翼団体・山谷・警視庁・礼文島の漁師たち 登場人物の描写が丁寧で読みやすいが、ストーリーのテンポはとてもゆっくり流れていく。 東京五輪を一年前に控えた時代で、 電話が普及したからこそ起こった誘拐事件。 ある意味新鮮な気持ちで時代の空気感を感じながら、捜査一課...
とても読みやすい! 左翼団体・山谷・警視庁・礼文島の漁師たち 登場人物の描写が丁寧で読みやすいが、ストーリーのテンポはとてもゆっくり流れていく。 東京五輪を一年前に控えた時代で、 電話が普及したからこそ起こった誘拐事件。 ある意味新鮮な気持ちで時代の空気感を感じながら、捜査一課による犯人追跡の推理に思わずナルホドと唸ってしまうのが楽しみポイントでした。人物描写が繊細であるため、犯行動機に関して共感しにくいが理解できなくはないという複雑な感情をもった。罪の轍という点で、小さな罪が重なり連鎖することで凶悪犯に至るということなのかもしれない。
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やっと読み終わった。 戦後、高度成長期の日本という時代設定のせいか、なかなか感情移入出来ず、読み進めにくかった。 当時の警察・ヤクザ・在日朝鮮人の関係性が 描かれているが、結局、虐待・負の連鎖を 描きたかったということだろうか。 奥田英朗の作品はいくつか読んでいて面白いと思っ...
やっと読み終わった。 戦後、高度成長期の日本という時代設定のせいか、なかなか感情移入出来ず、読み進めにくかった。 当時の警察・ヤクザ・在日朝鮮人の関係性が 描かれているが、結局、虐待・負の連鎖を 描きたかったということだろうか。 奥田英朗の作品はいくつか読んでいて面白いと思っていたが、今作は男性が好みそうな内容だった。
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内容紹介 (Amazonより) 刑事たちの執念の捜査×容疑者の壮絶な孤独――。犯罪小説の最高峰、ここに誕生! 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。浅草で男児誘拐事件が発生し、日本中を恐怖と怒りの渦に叩き込んだ。事件を担当する捜査一課の落合昌夫は、子供達から「莫迦」と呼ばれ...
内容紹介 (Amazonより) 刑事たちの執念の捜査×容疑者の壮絶な孤独――。犯罪小説の最高峰、ここに誕生! 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。浅草で男児誘拐事件が発生し、日本中を恐怖と怒りの渦に叩き込んだ。事件を担当する捜査一課の落合昌夫は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を聞く――。世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描く社会派ミステリの真髄。 1963年、4歳児が誘拐、殺害され、日本中の注目を集めた吉展(よしのぶ)ちゃん事件がモデルの作品。 実際の犯人とは設定が違うようです。 犯人の宇野寛治がどこまで脳疾患があったのかは 明確には書かれていないが 読み終えてみて思うことは今まで何度思ったかわからない、子供を育てるということをもっと真剣に考えないといけないということ... 今の気持ちを持って 子育てが出来ていたら大変さが違っていたのかなぁ...子育てって本当に難しかったです。
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