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アサイラム・ピース の商品レビュー

4.2

17件のお客様レビュー

  1. 5つ

    6

  2. 4つ

    3

  3. 3つ

    4

  4. 2つ

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2023/11/26

短編集14編 閉塞感のある状態,先の見えない不安,ただ死刑かそうでないかの通知を待つ不確かな現在,妄想と願望と現実が混在してただ怯えている. またお城のような豪華な精神病院に囚われている人々を切り取った表題作 読むほどに暗くなるが,今のこの自分も突き詰めてみれば多かれ少なかれこの...

短編集14編 閉塞感のある状態,先の見えない不安,ただ死刑かそうでないかの通知を待つ不確かな現在,妄想と願望と現実が混在してただ怯えている. またお城のような豪華な精神病院に囚われている人々を切り取った表題作 読むほどに暗くなるが,今のこの自分も突き詰めてみれば多かれ少なかれこのような不安を奥底に持っていると気付かされる.

Posted byブクログ

2023/11/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

表題作が特に好みだった。散りばめられた断片を集めていくうちに全体図が見えてくるのがたまらない。 この静かな絶望と悲しみをたたえた人々の、変わり映えのしない長い一日。壊れてしまっていたり、一歩を踏み出せず停滞するしかない苦しみの檻の中にいて、毎日絶望を繰り返す。まるで時が止まったような錯覚をする。こんな永遠のような日々が何故だかとてつもなく愛おしく思えてくるのが不思議だった。 表題作以外では、圧倒的な権力と対峙している無力な人という構図が印象的で、また別種の絶望感に支配されていた。細部は語られても実際何があったのか、具体的には分からない点が想像を掻き立てる。 全体を通して、登場人物たちにはおそらく愛情が必要なのだと思った。そしてそれを冷静に見つめていた作家のまなざしを感じる。

Posted byブクログ

2022/10/15

I~VIIIの8編からなる連作短編集「アサイラム・ピース」。 「アサイラム・ピースⅣ~Ⅷ」は、後半の4作にあたります。 外界での生活に未練を断ち切れない4人の患者の絶望が描かれています。 一作一作が、頭の中に映像が浮かび上がってくるような見事な情景描写。 例えていうならば、繊細...

I~VIIIの8編からなる連作短編集「アサイラム・ピース」。 「アサイラム・ピースⅣ~Ⅷ」は、後半の4作にあたります。 外界での生活に未練を断ち切れない4人の患者の絶望が描かれています。 一作一作が、頭の中に映像が浮かび上がってくるような見事な情景描写。 例えていうならば、繊細なクリスタルガラスで作られた工芸品。 まぎれもない芸術です。 全ての説話は、最後の数行で描き出される絶望に向かっていくようです。

Posted byブクログ

2021/05/22

「アサイラム・ピース Ⅷ」以降、「終わりはもうそこに」「終わりはない」は良かったが、前半はあまりハマらなかった 読み終えてみれば、全体の構成としては納得できるけれど…… 鬱の描写はリアルだった 脈絡のない神経質さもかなり納得できる ただ実際に鬱状態にあった人、そして私みたいにい...

「アサイラム・ピース Ⅷ」以降、「終わりはもうそこに」「終わりはない」は良かったが、前半はあまりハマらなかった 読み終えてみれば、全体の構成としては納得できるけれど…… 鬱の描写はリアルだった 脈絡のない神経質さもかなり納得できる ただ実際に鬱状態にあった人、そして私みたいにいま鬱が落ち着いている人にとっては、リアルな描写はリアルなだけで、読み物としてはあまり魅力的じゃないのかもしれない 自分の過去の日記を読むぐらい淡々と読んだ あとがきの皆川博子の解説は、ずば抜けて良かった

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2021/05/01

「痛んでいるのは脳そのものなのだ」 優しい光が病棟を包む。 鈍く唸る頭の中の機械。 キリキリとーー 不安と絶望で押し潰す。 悶え苦しむ、静謐。 「この世界のどこかに敵がいる。執念深く容赦のない敵が。でも、私はその名を知らない」 ///// 終生ヘロインを常用し、不安...

「痛んでいるのは脳そのものなのだ」 優しい光が病棟を包む。 鈍く唸る頭の中の機械。 キリキリとーー 不安と絶望で押し潰す。 悶え苦しむ、静謐。 「この世界のどこかに敵がいる。執念深く容赦のない敵が。でも、私はその名を知らない」 ///// 終生ヘロインを常用し、不安と狂気の泥水の中でもう一つのペルソナを文学に掻き付けたアンナ・カヴァンの切実で苦しい、痛みを伴う幻想短編集。 極限の断崖に立ち尽くし、しかしなぜこれがこんなにも美しく惹きつけるのだろう?と困惑する。

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2021/01/03

13の短編と表題作。表題作のみ70ページ超だが、これも病院収容にまつわる連作八編で構成され、それぞれが独立したエピソードとして読めるため、実質は21の短編。ボリュームとしては一話平均で10ページを切る短さ。 全体に強い閉塞感と孤独を漂わせる夢のような物語が集められている。主人公...

13の短編と表題作。表題作のみ70ページ超だが、これも病院収容にまつわる連作八編で構成され、それぞれが独立したエピソードとして読めるため、実質は21の短編。ボリュームとしては一話平均で10ページを切る短さ。 全体に強い閉塞感と孤独を漂わせる夢のような物語が集められている。主人公の被害妄想じみた内面を描いた作品も少なくない。表題作に限らず、全編を通して「アサイラム・ピース」をテーマに創作したと言われても違和感はない。やや寓話的で不条理な作風からは、カフカの小説も連想させられる。それぞれが自立した作品として完成しているというより、アイデアにある程度肉付けをした、構想の過程のようにも受け取れる。 第一篇の短編「母斑(アザ)」は、岸本佐知子編訳のアンソロジー『居心地の悪い部屋』にも収められている。ここで本書訳である山田和子氏以外の訳者を持ち出すのも失礼かもしれないが、岸本氏の作品のチョイスがお好みの読者に合う可能性は高い。

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2020/01/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

時折、大型書店に行く。 新宿、池袋、八重洲口、神保町など。 新宿の大型書店で、新刊で平積みになっているのを見て、気になって購入した。 奥付は2019年7月10日。 半年以上積読されていて、三日で読了した。 何の予備知識もない作家で、いわばタイトル買い。 レコードのジャケ買いに近かった。 そして、今回は大当たり。(僕にとっては) 収録二編目の「上の世界へ」はカフカの「城」や「審判」を彷彿させる。 不条理とも違う、ハッピーエンドのない世界。 時間を置いて、時々読み返したい。 そして、次には同じ著者の「氷」も読みたい。

Posted byブクログ

2020/01/26

ヘロインを常用し、書くことしかできなかったカヴァンの短編集。 苦しかった。読んでいてもう途中で投げ出そうかと思うほど、苦しかった。それでも最後まで読み切ってみると、苦しい中に見えてきた。カヴァンが描いたのは、実は人間誰しもが持つ心の闇なんじゃないかと。普通の人なら表出させない心の...

ヘロインを常用し、書くことしかできなかったカヴァンの短編集。 苦しかった。読んでいてもう途中で投げ出そうかと思うほど、苦しかった。それでも最後まで読み切ってみると、苦しい中に見えてきた。カヴァンが描いたのは、実は人間誰しもが持つ心の闇なんじゃないかと。普通の人なら表出させない心の闇。それをカヴァンはなんの躊躇もなく描いた、と言うか、描かずにはいられなかった。凄みさえ漂う心の叫びが、鋭い鋒をもって迫ってくる。

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2020/01/02

20世紀前半を生きたイギリスの女性作家、アンナ・カヴァンの短編集。国内では邦訳が絶版の状況が長く続いていたが、長編の『氷』が同じちくま文庫から出版さされて話題となったのを契機に、本作も文庫化の運びとなった模様。 作品はまさにカフカの再来ともいうべき、不吉で不条理に満ち溢れた世界...

20世紀前半を生きたイギリスの女性作家、アンナ・カヴァンの短編集。国内では邦訳が絶版の状況が長く続いていたが、長編の『氷』が同じちくま文庫から出版さされて話題となったのを契機に、本作も文庫化の運びとなった模様。 作品はまさにカフカの再来ともいうべき、不吉で不条理に満ち溢れた世界観。表題作である「アサイラム・ピース」では、精神病棟と思しき病院を舞台として、患者、家族らを主人公として、なぜそこに収容されているのかが不明なまま生き続けなければならない悲しさが描かれる。どの作品も、明確な結論は出ず、唐突に物語は断ち切られ、理性的なロジックでは読み解けない不条理さが常に残る不思議な作品群。

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2019/12/31

怒り、猜疑、拒絶、嫌悪、混乱。 あらゆるものに悪意を見て、憎悪してしまうその思考回路は、まさに精神病者のそれと同じで、 まるで、精神病者の見る幻覚をそのまま見させられているような感覚だった。 けれど、静謐な文章に浸るうちに、 次第に心がしんと静まっていく感覚も確かにあった。 ま...

怒り、猜疑、拒絶、嫌悪、混乱。 あらゆるものに悪意を見て、憎悪してしまうその思考回路は、まさに精神病者のそれと同じで、 まるで、精神病者の見る幻覚をそのまま見させられているような感覚だった。 けれど、静謐な文章に浸るうちに、 次第に心がしんと静まっていく感覚も確かにあった。 まるで、澄みきった水面を前にして心が落ち着いていくような。 それと同時に、水鏡に映る景色を見つめているうちに、 そのまま水底に引き摺り込まれるような気がしてくるみたいに。 asylumという言葉には、避難先、亡命先、安全な場所、そして精神病院という意味があるらしい。 ある人には、この小説たちは、ただの「精神病者の幻覚」でしかないのかもしれない。 けれど、ある人にとっては、これが精神の「避難先」にもなり得るのだろう。

Posted byブクログ