海の見える理髪店 の商品レビュー
心の底から「いい小説を読めたなあ」と思った一冊です。短編ながら人生の苦みや喪失を、そしてその先にある小さな光や転機を描き切った粒ぞろいの作品。 表題作の「海の見える理髪店」は素晴らしい出来の作品。理髪店の店主の穏やかな語りで、店主の人生が語られます。 戦前から平成という時代にま...
心の底から「いい小説を読めたなあ」と思った一冊です。短編ながら人生の苦みや喪失を、そしてその先にある小さな光や転機を描き切った粒ぞろいの作品。 表題作の「海の見える理髪店」は素晴らしい出来の作品。理髪店の店主の穏やかな語りで、店主の人生が語られます。 戦前から平成という時代にまたがって語られる店主の波乱万丈な人生。それぞれの時代の空気感を描きつつ、店主の巧みな語り口にのせられ読み進めるうちに、時に緊張が走り、そして温かい気持ちに包まれる。 どこか郷愁を誘う語り口、人生の数奇さを思わせる話の展開といい文句のつけようのない短編でした。 「いつか来た道」は画家の母から逃れ16年たった娘が、久しぶりに母親に会いに行く短編。「時のない時計」は父の形見の古い時計を修理してもらう中年の男性が主人公。 いずれも人生に惑う年。そして親への微妙な距離感。それを表現しつつ、その感情がいかに変化していくか。劇的なことが起こるわけではないけれど、主人公たちの気づきの瞬間というものが、劇的でないからこそ、読んでいる自分たちと身近に感じられて、どこかホッとした気持ちになれる気がします。たぶんこの身近さこそが、荻原さんの真骨頂なのかなと思います。 最後を飾る「成人式」は感動的な短編でした。表題作に負けない名編だったと思います。娘を喪い空虚な日々を過ごす中年夫妻。そんな彼らの元に亡くなった娘への振り袖のDMが届き… 娘への思いと生活の空虚さが切々と沁みる中で、二人が取った思いがけない行動。そこから物語は荻原さんらしいユニークさもあって、なにより二人が企んでいる様子が楽しくて、話が一気に明るくなり、読んでいる自分も楽しくなってきます。人の温かさと再生の様子に、ほんのりと心に火が灯されるような感覚になりました。 とにかく前半と後半の対比が見事! 喪失と再生をこの短い短編に、この濃さで描けるのが本当にすごいと思いました。 大げさにドラマチックに描くのでなく、あくまでしみじみと染み入るように描く人どこかにいそうな普通の人々の喪失と再生。名手荻原浩さんの技と優しさが詰まった一冊だったと思います。 第155回直木賞
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私や両親やお隣のおじさんや、町中ですれ違う誰もがそれぞれの人生の主人公なのだと思い出した。 平凡でつまらない人生にもそれぞれの過去があり、選んだり選ばなかったりした結果があって、道を作ってるんだ。 ふと、亡くなった祖父は何を考えて生きていたのか知りたくなる。 祖父も時計屋で、小...
私や両親やお隣のおじさんや、町中ですれ違う誰もがそれぞれの人生の主人公なのだと思い出した。 平凡でつまらない人生にもそれぞれの過去があり、選んだり選ばなかったりした結果があって、道を作ってるんだ。 ふと、亡くなった祖父は何を考えて生きていたのか知りたくなる。 祖父も時計屋で、小さな店を独りで経営していた。 会えば「野菜をしっかり食べろ。ジャングルでは野菜がなくて肉しか食べれなかったから、みんな病気でバタバタ死んでいった」とそればかり話していた南方帰りの祖父の言葉には、どれほどの過去があったのだろう? この一連の話のように、知る機会があればよかったのに。
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「押し入れのちよ」が面白かったから購入。 めちゃくちゃよかった~。 表題作の「海の見える理髪店」は正直ふつうだったけど、「いつか来た道」「成人式」は非常によかった。ほんとうによかった。 「いつか来た道」 芸術家の母をもつ主人公が、弟からの「会ってやってよ、ママに」という連絡によ...
「押し入れのちよ」が面白かったから購入。 めちゃくちゃよかった~。 表題作の「海の見える理髪店」は正直ふつうだったけど、「いつか来た道」「成人式」は非常によかった。ほんとうによかった。 「いつか来た道」 芸術家の母をもつ主人公が、弟からの「会ってやってよ、ママに」という連絡によって久しぶりに帰省するという物語。 母と絶縁状態だった主人公は実家への帰省に気乗りしない。しかし久しぶりに家にかえると、変わり果てた母がいて……という展開。 親孝行な僕(笑)としては、「老いた親」という設定がもうダメだった。切ない。けっこう残酷な展開。でも最後には救いがあるのがよかった。 「成人式」 中学生の娘の死を忘れることができない両親の物語。 成人式っていうタイトルから予想される展開をめちゃくちゃ裏切ってくれる。本文でよかった箇所を抜粋すると以下。 『たぶん、私たちは、同じところを揺れてばかりの悲しみのメーターを、どこかで大きく振り切らねばならないのだ』 悲しみにくれる夫婦が、訪れることのない亡き娘の成人式をきっかけにすこしだけ前進する、そんな物語は優しく、読後はあたたかい気持ちになれた。
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短編集。 どれも最後のオチに続きがあるようで面白かった。また、家族や人生について触れられてるものが多いと感じた。描写がとてもリアルで読んでいる時にその情景が頭の中にはっきりと思い浮かぶような書き方だった
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冒頭の「海の見える理髪店」はすごく好きで、最後は少し涙目になりながら読んでいたけど他の短編は個人的にちょっと微妙でした。かなり救いのないようなエンディングが多かった気がする短編集でしたが、救いがないわりには伝えたいメッセージがよくわかりませんでした。私の読解力が足りないのかな。。。
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家族と再生や再出発をテーマとした短編集。表題作と「時のない時計」が小物を元に過去を振り返り自己を見つめ直す話なのに対し、他の短編は一発アイディアで勝負している印象を受けた。とても読みやすくさくさく進む文体でリズム感があった。
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どの話も素敵です。 そして、家で読んで良かった。涙、我慢しなくてよかったから。 全部いいけど、『遠くから来た手紙』が一番好き。不思議な雰囲気も、私の故郷の方言も。
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オムニバスかと思っていたんだけど、違った。やはり『海の見える理髪店』が一番良かった。続いて『成人式』かな。
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優しいだけじゃなくて重い話もあるんだけどやっぱり優しい。 どれも好きだし、 最後の成人式もとても良い話
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語り手によって、語り口や世界観がはっきりと変わるからすごい。多色なアンソロジー。 特に、女性の語りがリアルで生き生きしていて、作者女性なんじゃない?
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