海の乙女の惜しみなさ の商品レビュー
この短編集の表題作もオールタイムベストな一編。 「静寂」という章から始まる短編は、それと同じように美しいと思える音楽が流れるなかで読みたい。そう思ってお気に入りのMIX TAPEを再生して、頁を捲る。 終盤に差し掛かった人生から、思い出すままに振り返る記憶。「青春時代から旅...
この短編集の表題作もオールタイムベストな一編。 「静寂」という章から始まる短編は、それと同じように美しいと思える音楽が流れるなかで読みたい。そう思ってお気に入りのMIX TAPEを再生して、頁を捲る。 終盤に差し掛かった人生から、思い出すままに振り返る記憶。「青春時代から旅してきた道のり」、「しつこく残る昔の後悔と最近の後悔」、悔悟、失敗。死についても。そこには勿論哀しみもあるはずだけれど、同時に静寂のような平穏さと自然なユーモアがある。穏やかで少しニヤつけるようなとても良い読み心地なのだった。それは多分、人生に幾つもあった諦め、あるいはそこから辿り着いた達観といってもいいようなものから滲み出る、発せられるような気がしている。諦めることで得られるものも確かにあるのだ、と最近考えていたことをここでも思う。 どんなきっかけやタイミングであれ、不意に思い出される記憶、思い出は特別なものなのだ。寸前まで忘れていても、この小説を読むたびに思い出す“出会い”の記憶、思い出もやはり特別だ。5年前のその時から諦めてしまったことを少しだけ思う。そうしたことで得られたものはあっただろうか、あったような気がする。あって欲しい。その時の記憶は年々美化されている気がするけれど、それでも、あの一瞬は特別で魔法みたいで「宇宙の謎に目配せされるという奇妙な瞬間」だった、そう思いたい。 文章、物語と記憶を行き来し、そのあわいを漂いながら読み終わる。MIX TAPEは2回裏返したから今はまたA面が流れている。いつものように、さらに少しだけ強く素晴らしいなと思った。そしてまた、いつものようにわからなかった。 記憶とともに、”今“にあるとてもたくさんのことも書かれているから、全体の主題を見出すことは難しい、見出す必要もない、人生のようにわからない短編小説。それは「何を描く物語でもないのに、それでも」というか、だからこそ「実に感動的なの」かもしれない。わからないからこそ、無理にわかろうとすることなく、何度も大切に繰り返し読みたい、思い出と結びついた、それ自体も思い出みたいな短編小説。やっぱり大好きだ。 そして、一時だけ舞い戻るあの街、ニューヨークの描写も最高だ。「なぜかは分からないが私はその店に行き、トッピングを全種類載せたホットドックを二つと、怪しげなコーヒーをひとつ買い、それからなぜ買ったのかが分かった。最高にうまかった。ナプキンまで頬張りそうになった。愛しのニューヨーク!」これも最高なセンテンス、憧れのニューヨーク! いちばん好きな翻訳家の藤井光さんをはじめて意識したのもこの一冊からだった、というのも特別な短編集。
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遺作、とか老境、ていうキーワードが読む前に目に入っちゃったせいで必要以上に先入観にとらわれてしまったなー、てのは多分にあると思うのだけど、どれもやさぐれと詩情がいい感じにないまぜになっていて最高でした。 なかでも、ぽいような、ぽくないような、やっぱりぽくなくないような「ドッペルゲ...
遺作、とか老境、ていうキーワードが読む前に目に入っちゃったせいで必要以上に先入観にとらわれてしまったなー、てのは多分にあると思うのだけど、どれもやさぐれと詩情がいい感じにないまぜになっていて最高でした。 なかでも、ぽいような、ぽくないような、やっぱりぽくなくないような「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」が特に好き
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あー…久しぶりに夜更かししてまで読んじゃった…最後の話めちゃくちゃゾッとしたけど惹きつけられた。ちょっとエドガーアランポーぽかった。 読んでるときはそうでもないんだけど、読み終わったあとに、特に労働してて辛いときに急に彼の作品の中に戻りたくなった。なんだか魂に寄り添って、もみほぐ...
あー…久しぶりに夜更かししてまで読んじゃった…最後の話めちゃくちゃゾッとしたけど惹きつけられた。ちょっとエドガーアランポーぽかった。 読んでるときはそうでもないんだけど、読み終わったあとに、特に労働してて辛いときに急に彼の作品の中に戻りたくなった。なんだか魂に寄り添って、もみほぐしてくれるようなところがあると思う。それは心の弱さという言葉で表されるものなのかもしれないけど、だとしてもこの作品があり、そして私とこの作品の間に生まれたそのような感情関係があることが、もっとほんとうのことだと思う。ありがとうデニスジョンソン、と言いたくなる、ありがとうありがとう…
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タイトルにひかれて読んだけど、重苦しい印象が強い。ヘミングウェイっぽいなと思ったら訳者のあとがきでもそういうふうに書かれていたので納得。 麻薬の更生施設にいる男がいろんな人に宛てた手紙(実際に書いているかは不明)で構成される「アイダホのスターライト」は、こんなに書いているのにイン...
タイトルにひかれて読んだけど、重苦しい印象が強い。ヘミングウェイっぽいなと思ったら訳者のあとがきでもそういうふうに書かれていたので納得。 麻薬の更生施設にいる男がいろんな人に宛てた手紙(実際に書いているかは不明)で構成される「アイダホのスターライト」は、こんなに書いているのにインクが減らないだとか、ここを出るときには文字がうまくなっているはずだ、という皮肉というか、ジョークがうまい。
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5篇を収めた短篇集だが、まあ、よく人が死ぬ。別に暴力的な描写があるわけではなく、淡々と語られる中で自然に。それが人生というわけか。どれも独特な世界観をもっていて甲乙つけがたいが、最後を飾る「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」が一番好きかも。プレスリーに関する驚愕の陰謀を扱った作...
5篇を収めた短篇集だが、まあ、よく人が死ぬ。別に暴力的な描写があるわけではなく、淡々と語られる中で自然に。それが人生というわけか。どれも独特な世界観をもっていて甲乙つけがたいが、最後を飾る「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」が一番好きかも。プレスリーに関する驚愕の陰謀を扱った作品で、ほかの作品とはちょっと異質な感じだった。
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