ゆりかごに聞く の商品レビュー
なんともいえずもやもやっとして不安な気分を掻き立てられてしまうミステリ。でも読後感は穏やかです。 過去に死んだはずの父が生きていて、しかもとある事件に関わっているのかもしれない、というのっけからの不穏な展開。そこに自分の子を愛せない人たちの悲痛な思いが絡んで、感情移入するとかなり...
なんともいえずもやもやっとして不安な気分を掻き立てられてしまうミステリ。でも読後感は穏やかです。 過去に死んだはずの父が生きていて、しかもとある事件に関わっているのかもしれない、というのっけからの不穏な展開。そこに自分の子を愛せない人たちの悲痛な思いが絡んで、感情移入するとかなりつらい読み心地です。たしかにいくら血が繋がっていても、すべて分かり合えるなんてありえないはずなのだけれど。「血の繋がった親子の愛情は絶対」という固定観念に縛られることの息苦しさがたまりません。逆に血が繋がらない親子での愛情ももちろんあるのだけれど。どちらがいいだなんて、一概に言えるものじゃないよなあ。どちらにせよ人それぞれでしょうに。 しかし。最大の被害者は愛されなかった子なのね……あまりに悲しくてつらい物語。ただし、救いもあると思いたいです。
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+++ 新聞社で働く柳宝子は、虐待を理由に、娘を元夫に奪われていた。ある日、21年前に死んだはずの父親が変死体で発見され…。遺留品には猟奇的殺人事件の大量の記事の切り抜きと娘に宛てた一通の手紙。「これからも見守っている」。宝子は父の秘密を追うことになるが、やがてそれは家族の知られ...
+++ 新聞社で働く柳宝子は、虐待を理由に、娘を元夫に奪われていた。ある日、21年前に死んだはずの父親が変死体で発見され…。遺留品には猟奇的殺人事件の大量の記事の切り抜きと娘に宛てた一通の手紙。「これからも見守っている」。宝子は父の秘密を追うことになるが、やがてそれは家族の知られざる過去につながる。一方、事件を追う刑事の黄川田は、自分の娘が妻の不貞の子ではないかと疑っていた。 +++ 親になるとはどういうことだろう。母性は人のなかにいつ芽生えるものなのだろう。父性はどんな条件でどの段階で芽生えるのだろう。そんな、人の生にまつわるあれこれを考えさせられる物語である。親に愛されること、子を愛すること。それは誰にでも無条件に与えられるものではないのだということが、本作を読むと痛いほど伝わってきて、胸が締めつけられる。さまざまな命の扱われ方を考えさせられる一冊でもある。
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究極の問い。 「私は誰」 人間って自分の親が誰と誰か、って絶対に自分じゃわからないんだよね。 母親だって子どもを生んだ瞬間に入れ替えられたらわかんないし。DNAで調べても絶対に間違いないって答えはないわけだし。 それでも「親」だ「子」だ、と思って一緒に過ごしているから親子だと思っているだけで。 一緒にいるから似てもくるしなじんでも来る。そんななかで、突然その根拠が揺らいだら…その不確かさって本当に怖い。自分の根幹が揺らぐ感じ。 母親はこうあるべき、母親としてこうするべき、そういうたくさんの「べき」の中でおぼれそうになる女性って本当に多いと思う。 母親である前に、一人の女性であり、母親であると同時に、一人の働く人でもあり。そのいくつかの自分と、こうある「べき」自分のギャップ。 子どもを産んだ瞬間に「母親」として生きることを求められる、でも、自分は「母親」であるだけではないんだ。という声に出せない叫びの一番奥を目の前に叩きつけられたような気がする。
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