日本の同時代小説 の商品レビュー
秋の新刊ですぐ買ったのに積読のまま年を越してしまい、新年の読書はじめの一冊に。 年末の読書欄近況によるとこの書き下ろしのために一年かかりきりだったという渾身の同時代文学史。作品の本質や値打ちを見抜く目は当代随一かつおもしろく読ませる筆力も天下一品の著者だけに、よく整理されており読...
秋の新刊ですぐ買ったのに積読のまま年を越してしまい、新年の読書はじめの一冊に。 年末の読書欄近況によるとこの書き下ろしのために一年かかりきりだったという渾身の同時代文学史。作品の本質や値打ちを見抜く目は当代随一かつおもしろく読ませる筆力も天下一品の著者だけに、よく整理されており読みやすく、1960年代からの50年の小説作品を通してその時代の空気を知り、また時代ごとの社会状況から文学を知ることができる。 この本をとっかかりに読んでみようと思える作品がぞろぞろ出てきてしまう危険な読書案内ともいえる。
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新書編集者は「みんなの〈同時代文学史〉」と帯文句に書いているが、著者の主張としても、客観的にもそうではないということは明らかであり、編集者の勇み足というべきだろう。 「文学史」と銘打ったならば、日本思想史に近づいてしまうのは、加藤周一「日本文学史序説」を読むまでもなく運命であり...
新書編集者は「みんなの〈同時代文学史〉」と帯文句に書いているが、著者の主張としても、客観的にもそうではないということは明らかであり、編集者の勇み足というべきだろう。 「文学史」と銘打ったならば、日本思想史に近づいてしまうのは、加藤周一「日本文学史序説」を読むまでもなく運命であり、だからこそ、世の研究者は同時代文学史を書くのを避けて来た。しかし、70ー90年代がもはや歴史として語られ出した今、こういう本が出るのは、時間の問題だったと思うし、その第一弾としては誠実なものだったと思う。 西欧小説とは独自路線を貫いて来た「私小説」の伝統が、60年代から否定されて、変形し、綿々と続いていること。プロレタリア文学が、否定されつつも、推理小説やお仕事小説の中で、見事に復活していること。左翼の否定から始まり、会社人間を否定し、男の論理を否定し、凡そその時代を代表する多くの権威を否定しながら世代交代してゆく小説家の姿は、そのまま戦後史の世相史と重なり、多くの示唆をもらった。一方、その表面の変化の底で蠢いている地殻の変動や全体を俯瞰する視点は、ここでは書かれない。そこまでは新書では扱えないし、そもそも文学史ではない以上無理があるだろう。 びっくりしたのは、思った以上に私は60ー80年代の小説を読んでいた。あの頃は有名文庫を追うだけは追っていた。それでまだ基本的な流れは把握出来ていたのだ。でもそのあとは無数の支流に分かれる。著者は、「女性作家の台頭」「戦争と格差社会」「ディストピア」とひとくくりにしているが、果たしてそのくくり方が正しいのか、私には評価出来ない。細かい処では、いろいろ示唆を貰った良書である。 2018年12月読了
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[図書館] 読了:2018/12/24 斎藤節は健在なのだが、出来るだけたくさんの作品を見ていくためなのか、一つ一つの作品評が短くて物足りないなぁと思った。もっとバシバシ斬ってほしい。 とはいえここまできれいに1960〜2010年代の文学史を整理し切ったのは見事な偉業と思う。 ...
[図書館] 読了:2018/12/24 斎藤節は健在なのだが、出来るだけたくさんの作品を見ていくためなのか、一つ一つの作品評が短くて物足りないなぁと思った。もっとバシバシ斬ってほしい。 とはいえここまできれいに1960〜2010年代の文学史を整理し切ったのは見事な偉業と思う。 p. 6 近代小説の主人公が「ヘタレな知識人」「ヤワなインテリ」ばかりなのは、近代の男子にとって人生の目標は「立身出世」。そんな時代に「文学を志す」とか「作家を目指す」とかは、ほぼドロップアウトを意味する。彼らの中には、自分は出世コースには乗れなかったという劣等感と、自分はそこらの俗物とはちがうという尊大な反抗心が宿る。屈折した性格は当然主人公にも感染する。 p. 71 「人生経験の少ない若い作家の多くは青春小説でデビューしてきます(それしか書くことがないからです)。」
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ざっと1冊の本でまとめてくださったのがうれしい。 もっと細かく書かれたものも読みたい。 大好きな斎藤美奈子さんの本だが、この頃新刊キャッチ力が衰え、上野千鶴子さんが褒めておられて、え、そんな本出たんだと知った。
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新聞の新刊広告をみて即日購入。斎藤美奈子の視点は好きなのだ。1960年代から2010年代まで、時代の空気がこうで、だからその時代にこの文学が生まれた、とまんべんなく文学書を解説。わりと普通な感じで期待した毒舌感はあまりなかった。 2018.11.20購入
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1960年代以降の日本小説史を10年ごとに区切って紹介する。前書きにあるように明治以来の小説の歴史は中村光夫が纏めており、その続編を意識したらしい。あまりにも多くの作家が登場し、その代表作の訴えるもの、世に与えたインパクトを列挙していくが、著者の整理力には感服する。10年ごとの...
1960年代以降の日本小説史を10年ごとに区切って紹介する。前書きにあるように明治以来の小説の歴史は中村光夫が纏めており、その続編を意識したらしい。あまりにも多くの作家が登場し、その代表作の訴えるもの、世に与えたインパクトを列挙していくが、著者の整理力には感服する。10年ごとの集約は圧巻である。60年代は知識人の凋落、70年代は記録文学の時代、80年代は遊園地化する純文学、90年代は女性作家の台頭、2000年代は戦争と格差社会、10年代はディストピア社会を超えて。考えてみればヤワなインテリが主人公の小説は60年代までは主役だったことを忘れていたほど、思えば遠くへ来たもんだの心境である!巻末には349名の登場する作家名が並ぶ。時代を反映した小説の数々は未読のものが当然ながら未だ多い。ぜひチャレンジしたい。
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確かに国語の授業では文学史を習ったわけで、だから読んだこともない作家や本のタイトルを覚えていたり、あらすじまで知っていたりする。読んだことないのに! でも文学史はどっちかっていうと文学の歴史というか昔のことを学ぶわけで、自分が生きてきた時代とか読んできた本のことをこうしてまとまっ...
確かに国語の授業では文学史を習ったわけで、だから読んだこともない作家や本のタイトルを覚えていたり、あらすじまで知っていたりする。読んだことないのに! でも文学史はどっちかっていうと文学の歴史というか昔のことを学ぶわけで、自分が生きてきた時代とか読んできた本のことをこうしてまとまった形で時系列にしてくれたものって新鮮です。さすが斎藤美奈子。読みやすいし相変わらずキレのある文章。 しかしこれだけたくさん紹介されてるけど、読んだ本なんてほんの一握りだな。。。これをブックガイドにして来年はもっと読もっと。読んだことないのにあらすじ知ってる本が増えても自慢にならんし。
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あくまで小説を読むためのブックガイドとして。 しかし半世紀を通覧する文学史は、著者の軽やかな文体に支えられて展開していて、それ自体読んでいて楽しくなる。 とりあえず何冊か読みたい本を見つけた。
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