こうしてイギリスから熊がいなくなりました の商品レビュー
もうこの世界観がたまらなく好き。 出会えてよかったと思える1冊でした。 ピーターラビットやバディントンを生んだ国のお話なんですが、皮肉の中にペーソスが盛られていて叙事詩のように響きます。 粗いタッチで描く挿絵も魅力的でした。 本編を読む前に訳者のあとがきから読むと歴史的背景もわ...
もうこの世界観がたまらなく好き。 出会えてよかったと思える1冊でした。 ピーターラビットやバディントンを生んだ国のお話なんですが、皮肉の中にペーソスが盛られていて叙事詩のように響きます。 粗いタッチで描く挿絵も魅力的でした。 本編を読む前に訳者のあとがきから読むと歴史的背景もわかってきます。 イギリスでは11世紀に乱獲により熊が絶滅していたとかそれどころか、スポーツとしての狩りが流行して固有種の動物は絶滅してるようです。 また、自然林が国土の2%しか現存してない実情から見ても深刻な問題なんですよね。 そんなことを前提に読んでみるとこの寓話は心に響いてきました。 食物連鎖の頂点にある熊が暮らしていける環境は、自然が豊かにあることが条件だってわかってくるんです。 同じ島国の日本なんですが森林率からゆうと世界屈指の森林大国。町中に出没するとニュースで騒がれたりもしますが、熊が森林の生態系を支える重要な役目も果たしていることから「森の守護神」と称されることもあります。 私の体験では、山で熊に5回程あったことがあるのですが幸い危害にあったことはないです。10mの至近距離で遭遇したこともありますけどその時はフリーズしてしまいましたが、沢のほうへと降りて行ってくれました。 ある時は夢中で何か食べてる熊を見つけて、しばらく観察してたこともあります。(腰が抜けて動けなかった) 熊って近眼らしく私に気づかなかったようでした。(風下にいたこともあって) 驚かさない程度に人の気配を感じてくれた熊は藪の中に去っていきました。 臭いには敏感らしく犬よりも臭覚優れているとかで、人の気配を察すると何処か行っちゃうんです。 ただ出会い頭に会っちゃうと熊もビックリするみたいで攻撃してきたりあるようなので、いそうな場所では熊鈴付けて歩いてるんですけどね。 おっかなビックリなんですけど、 共存できる環境が残されているとゆうことは素晴らしいことだって感じます。
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『真夜中は埋葬とどこか似ており、まるで重い岩のように、どの家にもゆっくりとのしかかっていった。そうして過去を覆い隠し、未来を遮ってしまうのだ。希望も目標も、すごすごと立ち去ってしまった。そして、そうしたものが消えている間、世界はぐるりと様変わりするのである』―『Ⅰ精霊能』 唐突...
『真夜中は埋葬とどこか似ており、まるで重い岩のように、どの家にもゆっくりとのしかかっていった。そうして過去を覆い隠し、未来を遮ってしまうのだ。希望も目標も、すごすごと立ち去ってしまった。そして、そうしたものが消えている間、世界はぐるりと様変わりするのである』―『Ⅰ精霊能』 唐突だが、ヒトの業[ごう]の深さ、ということを思う。もちろん他人事とは言い切れない後ろ暗さを感じながら。人が醜さに如何に惹かれていたかをこれでもかと証拠立てて示したエーコの文章を最近読んだこともあり、ミック・ジャクソンの「こうしてイギリスから熊がいなくなりました」の中で書き連ねられるヒトの欲深さ、醜悪さ、残忍さのようなものを単純ににやりと笑って読み飛ばすことが出来ず、着地点を見失った気分になってしまう。呻吟した挙句、例えば「香水」の著者でもあるパトリック・ジュースキントの「ゾマーさんのこと」を思い起こさせる、と言ってみると、ようやく、何か腑に落ちるような気になる。 とはいえ、この本の中で展開するのはどちらかと言えば寓話的な物語。短い九つの章からなる頁数も多くない本で語られるのは、如何に熊がイギリス人によって酷い目に遭わされてきたかを、熊を擬人的に扱うのみならず知性を持った存在として昔話風に(ただし文明批判めいた口調で)語る物語。デイヴィッド・ロバーツによる挿絵もブラックながらもユーモラスなタッチで、「絵本」という雰囲気さえ漂う本書だが、ジャクソンの筆致は文明人ぶっている我々が如何に酷いことをし続けてきたかをそこはかとなく皮肉っていて、一皮むけば今でもそういう本性は変わっていないのだということを意識させる。軽い気持ちで読むと後からしっぺ返しを喰らうかも知れない。 こういう本を読むと、物語の正しい使われ方、とでも言うような妙なことを考えてしまうのだが、どことなくミヒャエル・エンデの「モモ」と通じる思想を感じもするジャクソンの文章に、倫理めいた調子はない。しかし、余程露悪的な性格の持ち主でない限り、イギリスから駆逐されてしまった熊に託された様々な差別の隠喩を読み取ってしまうのが自然なことだろう。ただ、それに気付いたからと言って、それを反証的に取り上げて多様性だの共存だのという言葉で自らの立場を守るべく語ってみても余り意味はない。ヒトにはそういう一面があるのだということを自覚する以外の教訓はないのだ。それは決して過去の非文明人がしたことではなくて、文明人を名乗る自分たちの未来における評価でもあるのだ、と心しておかねばならないこと。短いけれど響く人には響く本だと思う。
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『10の奇妙な物語』に続いて2つ目のミック作品 相変わらず不思議でおかしいくてどこか切ないお話たちでした あとがきに書かれている英国と熊(も含めた野生動物)の関係を読むと また最初から読み返したくなります デイヴィッド・ロバーツによる挿絵も秀逸ですので 物語とあわせて楽しめると思...
『10の奇妙な物語』に続いて2つ目のミック作品 相変わらず不思議でおかしいくてどこか切ないお話たちでした あとがきに書かれている英国と熊(も含めた野生動物)の関係を読むと また最初から読み返したくなります デイヴィッド・ロバーツによる挿絵も秀逸ですので 物語とあわせて楽しめると思います
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めっちゃ好きな雰囲気だった…。 人々に恐れられ、見世物にされた彼らは、ある夜を境にイギリスから姿をくらましてしまった…。 デイヴィッド・ロバーツの愛らしくも禍々しい熊と民衆が語る、絶滅してしまう以前の熊たちの物語。
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2021.1.16市立図書館 ツイッターにて松崎有理さんおすすめ。 原題は「イングランドの熊たち」、熊をめぐる8つの連作短編(寓話)集。黒一色のイラストが味わい深い。 ショーン・タンの「セミ」に似た印象がある。「サーカスの熊」「下水道の熊」「市民熊」と読み進むにつれ、熊たちは人間...
2021.1.16市立図書館 ツイッターにて松崎有理さんおすすめ。 原題は「イングランドの熊たち」、熊をめぐる8つの連作短編(寓話)集。黒一色のイラストが味わい深い。 ショーン・タンの「セミ」に似た印象がある。「サーカスの熊」「下水道の熊」「市民熊」と読み進むにつれ、熊たちは人間未満のようにあつかわれた人間、虐げられた下級労働者や移民のメタファーなのではないか、と思えてくるような…そこにいるのに人間にはなぜかみえていなかったり都合よく曲解されていたり… 訳者あとがきによると、実際にイギリスの熊は娯楽(動物虐待的なブラッド・スポーツ)の対象として、また食料や毛皮の原材料として乱獲されたために絶滅したという話で、その贖罪の物語とみてもいいのではないか、という解説は腑に落ちる。 人間の相棒と組んで潜水夫として大きな仕事をしつつ自分の感情を押し殺したまま失跡する熊ヘンリー・ハクスリーをえがいた「市民熊」が心に残った。水の底の風景の描写が美しくて、アニメか何かでみてみたくなった。
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・イギリスの作家ミック・ジャクソンの作品。薄い158pに8つの短編。 ・短編集。表紙のくまとタイトルに惹かれる。装丁もうすいグレイッシュブルーでかなりすき。 ・これはイギリスで絶滅してしまったクマに捧げる大人のための寓話。 ・文章が素敵。イラストは、イギリスのデイビッド・ロバーツ...
・イギリスの作家ミック・ジャクソンの作品。薄い158pに8つの短編。 ・短編集。表紙のくまとタイトルに惹かれる。装丁もうすいグレイッシュブルーでかなりすき。 ・これはイギリスで絶滅してしまったクマに捧げる大人のための寓話。 ・文章が素敵。イラストは、イギリスのデイビッド・ロバーツ。 ・精霊熊 ・罪食い熊 ・鎖につながれた熊 ・サーカスの熊 ・下水熊 ロンドンのもっとも恥ずべき秘密の一つは、19世紀のほぼ全般にわたり下水道に熊を閉じ込め、報酬も与えないまま下水道作業員および清掃員としてこき使っていたという事実。 くまから宝石を奪ったジミーのそのご。 ・市民熊 1920年には熊のような見かけの男がイーストアングリア地方のホテルに雇われているという報告が二件、別々に上がった。 潜水士にいったいなにがおきたんだろ。 たれが熊やったのか? ・夜の熊 人の世から追い出された熊。 ・偉大なる熊 なんか、神話みたいなはじまりの文。 ・熊をベースに社会問題にも切り込んでる!?
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短編集。連作短編集。 奇妙な物語でした。そして普通に面白い。 イギリスの熊が絶滅したのは本当らしい。 なかなか深い。 「精霊熊」「罪食い熊」「下水熊」など、好きな作品が多々。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ミック・ジャクソンの『10の奇妙な物語』で惹かれ、今回は熊を主題に取り上げた短編集を拝読。 派手さは無いが、読後ににやりとしてしまう、シュールなファンタジー短編。テイストはビター系。 個性の行き届いた一冊として、星5をつけた。 ジャクソンの作風は、「グロテスクでないエドワード・ゴーリー」とでもいうべきか。残酷で搾取に満ちた世界を、そっけなく 「……という状況でした。」 と語ってのける。 虐げられやすい職業や環境に置かれたキャラクター(本作では熊)へ向ける作者の視線は、どちらかといえば同情的なものではあるが、その表出は抑制されている。 主人公たちが抑圧から脱出、あるいは開放される前に、必ずと言っていいほどの『小さなざまあみろ』が仕掛けられている。 ……が、これもまた、派手さはない。 ないのだが、情景描写といい、戯画化された人間たちへの皮肉っぽい表現といい、作家の感性が行き届いた物語は、印象をきちんと残してゆく。 ルーシー・ワースリーの『イギリス風殺人事件の愉しみ方』には、UK(主にイングランド)の人々が如何に殺人と殺人犯を娯楽化していたかが判る。 これとは別に動物虐待(現代では、という注釈が付く)もまた、ブラッド・スポーツとして娯楽化されていた。熊に犬の群れをけしかけるショウ『熊いじめ』などが作中に登場する。熊はまた、別の時代では聖性を帯びた生物とさえ見られていた。 こうした往時の史実を織り交ぜながら、ファンタジーの体裁で語られるのは、先に述べたような虐げられやすい職業や環境に置かれた『熊』を、抑圧から脱出、あるいは開放される物語である。 最後の一篇を読み終えた時、これは熊版『出イングランド記』ともいうべき、熊に捧げた聖書なのではないかという感慨すら抱いた。 落ち着いた感じの文体を好む人には、ぜひお勧めしたい一冊である。
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寓話の短編集のような形をしています。狩猟のし過ぎで野生動物が減ったら、国外から動物を輸入して狩猟を続ける、そんな風土をユーモアな寓話を通して批判しているようです。読み始める前に、巻末の「あとがき」を先に読むことを強くおすすめします。
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イギリスが島国であり、イギリスには野生のクマがいないということは、なにかの折に聞いて知っていました。この本はそんなイギリスからどうしてクマがいなくなってしまったのか、という大人のための童話。殆ど人間同様に人間のそばで暮らしていたクマたちは、精霊と恐れられたり、サーカスで働いたり、...
イギリスが島国であり、イギリスには野生のクマがいないということは、なにかの折に聞いて知っていました。この本はそんなイギリスからどうしてクマがいなくなってしまったのか、という大人のための童話。殆ど人間同様に人間のそばで暮らしていたクマたちは、精霊と恐れられたり、サーカスで働いたり、下水道に閉じ込められて労役につかされたりしています。8つのそれぞれのストーリーで最後にクマたちが取った行動は…。これをユーモアやアイロニーと捉えるか、人間の傲慢さを感じ取るか、人によって思うことは違うのかもしれません。たっぷりのデイヴィッド・ロバーツのイラストが時には微笑ましく時には哀愁を帯びて物語を引き立てます。期待通り、8つの奇妙な熊の物語を堪能させていただきました。奇妙な味系のお話がお好きな方は期待を裏切らないと思います。是非手に取って欲しいです。
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