奥のほそ道 の商品レビュー
オーストラリア軍の軍医であったドリゴは、太平洋戦争中に日本軍の捕虜となりタイとビルマを結ぶ鉄道建設に従事させられる。その戦前、戦中、戦後を描いた作品。太平洋戦争を舞台とした小説や伝聞はこれまで主に日本人またはアジア各国の人々からのものが多かったように思う。本書は連合国側から見た日...
オーストラリア軍の軍医であったドリゴは、太平洋戦争中に日本軍の捕虜となりタイとビルマを結ぶ鉄道建設に従事させられる。その戦前、戦中、戦後を描いた作品。太平洋戦争を舞台とした小説や伝聞はこれまで主に日本人またはアジア各国の人々からのものが多かったように思う。本書は連合国側から見た日本兵の言動が綴られており、日本人では書きにくい内容も率直に述べられている。著者の父親が捕虜となり生還した経験から書き上げたとのこと。大戦を経験した方が高齢になっていくが、近年その子や孫世代が資料や伝聞をもとに本書のような物語を多く発刊しているような気がする。やはり当事者が思い起こしたり綴ったりするのは相当な苦痛を伴うだろうし恐らく多くの方はできない。当事者の周囲の方たちによってこのように文学で様々な角度から大戦を記憶に留め、一人一人が自分で考えて行動を決定し過ちを繰り返さず平和な日々が続いていくといいなと思う。
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泰緬鉄道の建設に捕虜として動員されたオーストラリア兵たちの惨状。第二次大戦中の軍の蛮行というのは、国、場所を問わずだが、それでも日本人として恥じることは多いし、そもそも人の尊厳を顧みることができないような状況を作ってしまう戦争そのものの悪性を考えることも多い。この小説はその悪性、...
泰緬鉄道の建設に捕虜として動員されたオーストラリア兵たちの惨状。第二次大戦中の軍の蛮行というのは、国、場所を問わずだが、それでも日本人として恥じることは多いし、そもそも人の尊厳を顧みることができないような状況を作ってしまう戦争そのものの悪性を考えることも多い。この小説はその悪性、惨状を伝えることのみにとどまらず、被害、加害の枠組みを超えて、自分の意思とは無関係に戦争に巻き込まれた人間たちの、“心の惨状”が描かれている。 オーストラリア側では、過酷な捕虜生活を生き抜いた医師が、ボタンの掛け違いのような不毛な結婚生活に自己嫌悪、戦地での過酷さと戦後の日常の落差に心の均衡を失い、口を閉ざす。日本側でも、多くの敵兵捕虜を死に追いやった兵士が自分の行為を振り返るも、天皇陛下のため、祖国のためという大義にしがみつき、死の間際まで、自分が生きた意味を見出せない。 時や場所を行き来しつつ描かれる人々の内心は、善悪を越えて生々しく、あまりに重い内容で読み進むのにかなり時間がかかったが、この大作がなぜ戦争小説の最高傑作と評価されているのかが、全身に沁みわたっていくような読書時間だった。
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オーストラリア小説を読みたいと思って選んだので、泰緬鉄道の話だとは知らずに読み始めた。恥ずかしながら泰緬鉄道と捕虜の強制労働のことはこの作品で初めて知った。 過酷な戦中の体験はもちろん、戦後の日本のこと、そして戦争が忘れられ、記憶が上書きされ、人々の心の中に残した痕跡までが、鮮...
オーストラリア小説を読みたいと思って選んだので、泰緬鉄道の話だとは知らずに読み始めた。恥ずかしながら泰緬鉄道と捕虜の強制労働のことはこの作品で初めて知った。 過酷な戦中の体験はもちろん、戦後の日本のこと、そして戦争が忘れられ、記憶が上書きされ、人々の心の中に残した痕跡までが、鮮やかに描かれる。 主人公のドリゴやオーストラリア人捕虜、日本人兵士の視点で語られる物語を読んでいると、なぜこの戦争の泥沼から誰も逃れられなかったのか、少しわかった気がする。 文句があるとしたら、ドリゴが(特に男性的視点で?)かっこよすぎることくらいか。優しく、勇気があって、繊細で、影があって、男にも女にもモテて、最後は火の中を命をかけて家族を救いにいくって、なんか出来すぎ設定では?と、ひねくれ読者の私は思ってしまいました笑 テーマがテーマなので仕方ないけど、女性はあまり主体として出てこない作品です。
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これは大変な本だ…読み始めからそう感じた。 読了した今、感想を書くには足りない…。 展開するシーンが次々と入れ替わるが、どこか物憂げで乾いていると感じる。 何かに渇望しているような、そんな感じを持ちながら読み進めました。 日本人が侵略した国でやってはいけない事をした、それを直視...
これは大変な本だ…読み始めからそう感じた。 読了した今、感想を書くには足りない…。 展開するシーンが次々と入れ替わるが、どこか物憂げで乾いていると感じる。 何かに渇望しているような、そんな感じを持ちながら読み進めました。 日本人が侵略した国でやってはいけない事をした、それを直視するのも辛かったけどこの鉄道のことは戦記でもあまり取り上げられないものだったと思う。 タイトルもすごいけど、その使われ方の理由がわかると人間のやったことは…と沼に落ちるようだ。 この手の本は何度か繰り返し読むと鮮明になるそんな本だと思う。
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泰緬鉄道がこのような悲惨な状況下で作られていたことを初めて知った。衝撃を受け続けた物語、様々な人間の心の奥底について考えさせられた。悍ましく印象に残ったページは、医学部の石山教授による若き米兵の生体解剖、取り出した心臓が秤の上で震えていたという記述に、背筋が寒くなった。惨状に慄き...
泰緬鉄道がこのような悲惨な状況下で作られていたことを初めて知った。衝撃を受け続けた物語、様々な人間の心の奥底について考えさせられた。悍ましく印象に残ったページは、医学部の石山教授による若き米兵の生体解剖、取り出した心臓が秤の上で震えていたという記述に、背筋が寒くなった。惨状に慄きながらも、読み進めていくことで、心が穏やかに落ち着ける物語になっていて不思議だった。良い本に出会えたことに感謝。 読了後、映画レイルウェイを観てみようと思った。
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凄まじい本だった。圧倒的。まず描写力がすごい。体験した本人しか書けないんじゃないかと思うような、各人の具体的な感触、思考の流れ、感情。臨場感ありすぎ。 物語の構成も凄い。語られていく断片が徐々にパズルのピースのように埋められていき全貌を露わにし新たな意味を表す。 父親の経験を基に...
凄まじい本だった。圧倒的。まず描写力がすごい。体験した本人しか書けないんじゃないかと思うような、各人の具体的な感触、思考の流れ、感情。臨場感ありすぎ。 物語の構成も凄い。語られていく断片が徐々にパズルのピースのように埋められていき全貌を露わにし新たな意味を表す。 父親の経験を基に12年をかけて書かれた本。この本には血肉があり、何人もの個人的な叫び、痛み、疑問があり、人類全体の持つ闇、結局のところ暴力とは何なのか、人が人を虐げ続けることとは何なのか、という恐怖や絶望もある。 そして欺瞞や、一つの嘘が人間を壊してしまうということも。 これからもこの本に書かれている一つ一つの文章について考える必要があると思った。
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1943年、タスマニア出身のドリゴは、オーストラリア軍の軍医として太平洋戦争に従軍するが、日本軍の捕虜となり、タイとビルマを結ぶ「泰緬鉄道」(「死の鉄路」)建設の過酷な重労働につく。そこへ一通の手紙が届き、すべてが変わってしまう……。 本書は、ドリゴの戦前・戦中・戦後の生涯を中心...
1943年、タスマニア出身のドリゴは、オーストラリア軍の軍医として太平洋戦争に従軍するが、日本軍の捕虜となり、タイとビルマを結ぶ「泰緬鉄道」(「死の鉄路」)建設の過酷な重労働につく。そこへ一通の手紙が届き、すべてが変わってしまう……。 本書は、ドリゴの戦前・戦中・戦後の生涯を中心に、俳句を吟じ斬首する日本人将校たち、泥の海を這う骨と皮ばかりのオーストラリア人捕虜たち、戦争で人生の歯車を狂わされた者たち……かれらの生き様を鮮烈に描き、2014年度ブッカー賞を受賞した長篇。
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凄い深みのある作品。 感想もさらっと出てこない。 前半、場面や時間があちこちに移るので読むのに苦労するが、後半それが繋がりだすと俄然物語に引き込まれていく。読み終わると再度前半を読み返して理解を深めていくことになる。 戦争の虚しさ、残酷さは他の無数の作品で語り尽くされてはいるが、...
凄い深みのある作品。 感想もさらっと出てこない。 前半、場面や時間があちこちに移るので読むのに苦労するが、後半それが繋がりだすと俄然物語に引き込まれていく。読み終わると再度前半を読み返して理解を深めていくことになる。 戦争の虚しさ、残酷さは他の無数の作品で語り尽くされてはいるが、著者は声高らかに戦争の反対を訴えるわけでもなく、日本軍の残虐行為を非難するわけでもなく、虐待する側、される側双方の戦前、戦後の人生を描いていく。 著者は相当日本文化を研究したんだと思う。 日本の俳句を絡めて極めて興味深い作品になっています。
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P383に「少しばかり言葉を食べてしまった」と意味のよくわからない文章がある。原文で相当する文章は "just eaten half a word"。イディオムかと調べてみたが、やはりよくわからない。
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内容にも作者についてもまったく何も知らず、ただ表紙が美しいという理由で気楽な感じで図書館から借りてきた。そしてウキウキと表紙をめくって、インドシナ半島の地図を見、そこで初めて戦時の日本軍の話だと気づいた。 あ、やばい、心構えが必要な本だ!と慌てた。 著者は日本人ではない、というこ...
内容にも作者についてもまったく何も知らず、ただ表紙が美しいという理由で気楽な感じで図書館から借りてきた。そしてウキウキと表紙をめくって、インドシナ半島の地図を見、そこで初めて戦時の日本軍の話だと気づいた。 あ、やばい、心構えが必要な本だ!と慌てた。 著者は日本人ではない、ということは、きっと容赦ない内容なのだろうと思い、NHKサイトのアーカイブから、近そうなインパール作戦あたりのドキュメンタリーを4、5本見て、日本側の事情をおさらいし、少し意識をそっちに向けてから読み始めた。 他国の残虐な行為について読むのと違って、日本人のホロコースト的な行為について読む時、とっさに客観的でいられない弱い自分がいるということに最近気づいた。だからこういうワンクッション置く儀式は、私にはとても重要。 でも、そんな儀式は必要ない本だった。 神のような公平さで描かれていて、ちょっと驚いた。裁くことが目的の本ではないということを、非常に強く感じた。 戦争について書く本は、当然ながら戦時中の話に終始することが多いのだけれど、この本は、終戦後から当事者たちが死ぬまでの、長い時間の経過を描いていることがとても印象的だった。 泰緬鉄道建設で起こった出来事がもちろん物語の中心であり、その物語じたいに激しく凄まじいものがあるのだけれど、それだけじゃなく、その後、時間がどんな風に彼らの戦争体験と人生を変化させていったのかまでが丁寧に描かれている。初めて読むタイプの戦争だと思った。 読み終わって二日たった今も、登場人物たちのそれぞれのリアクションについて考えていたりする。 特に、オオトカゲの人生ついては私には思いもよらなかったという意味でショックで、彼のこともきちんと描いている作者の公平さに驚嘆した。 訳者があとがきで紹介されていたBBCドキュメンタリー「Richard Flanagan:Life After Death」も続けて見たが、すごく良かった。非常に興味深かった。 この本のクライマックスシーン、300人が3人の残虐行為をただ茫然と見守っていた、というところについては、著者が幼いころから繰り返し聞いてきた彼の父親の実体験がベースになっているとドキュメンタリーの中でフラナガンは述べていたが、あのシーンや晩年の父親の姿について語る著者本人の言葉を聞いていると、この本が全くもってジャッジメンタルでない理由がなんとなく理解できるような気がした。 ただ、チラリと挿入されていた捕虜たちの痩せてボロボロになった身体の実際の映像は、本を読み終わってほっとしていただけに、ふいうちに遭ったように驚かされ、激しく動揺した。あれが日本軍がしたことなのか、と文字では理解できていなかった自分に気づいた。 なお、ドキュメンタリーではフラナガンのほかの著書についても触れられていて、なんだか全部読みたくなった。Gunns社とそれに絡む政治家たちのことなどは全然知らなかったので、思った以上に骨太な人なんだなぁ、とビックリした。
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