軌道 の商品レビュー
2005年に起きた福知山線脱線事故。 脱線してマンションに列車が突っ込み、見るも無惨な様子で横たわる様子を今でも覚えている人は多いと思う。 この事故で100名以上の命が失われたわけだが、そのある遺族が遺族という枠を超えて、JR西日本と一緒になって本気の組織改革を成し遂げる様子が描...
2005年に起きた福知山線脱線事故。 脱線してマンションに列車が突っ込み、見るも無惨な様子で横たわる様子を今でも覚えている人は多いと思う。 この事故で100名以上の命が失われたわけだが、そのある遺族が遺族という枠を超えて、JR西日本と一緒になって本気の組織改革を成し遂げる様子が描かれている本である。 この事故はたただのヒューマンエラーではない…以下の4つの要因が複雑に絡まり合って起こってしまった、偶然ではなく必然的に起こった事故だと訴えている。 ① 高速化を追求しすぎたが故の無理なダイヤ編成 ② 非常ブレーキ蔵置(ATS-P)の設置遅れ ③ 安全管理体制 ④ 日勤教育(過度な罰を与える不適切な社員教育) この4つの問題も最終的に根っこは同じところに行き着くわけだが、それが旧国鉄時代に培われてしまった隠蔽体質である。この組織風土が一番の問題だった。 自分も比較的大きな会社に勤めているので、組織風土が簡単に変わるものだということは良くわかっている。これを事故の遺族とともに変えていく姿、取り組みというものは非常に心打たれるものがあった。 今でこそ、不適切な社員教育やヒューマンエラーを責め立てるような犯人探し、吊し上げ的なことをする会社は少なくなってきていると思うが、このJR西日本の事故後の歩みがその一翼を担っていることは間違いないだろう。 失敗することを攻めるのではなく、失敗することを前提にしてシステムや環境、ルールを整備していくことの大切さを改めて感じた。 組織に属する人間であれば、読んで損はない本だと思う。非常に勉強になった。
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JR西日本の福知山線脱線事故。 平成17(2005)年4月25日のこの事故を知らない人も多いだろう。 けれど私は今でも覚えている。 テレビで見た、マンションに激突して大破した列車を。 どうやったら線路を走る電車がマンションに激突できるのか、どうしても理解できなかった。 これは、妻と妹をこの事故で亡くし娘も重症を負った、淺野弥三一(やさかず)氏の、被害者感情をひとまず横に置いて、事故の原因を究明し、再発防止策をJR西日本と考えていくまでの闘いの記録である。 もともと淺野氏は都市開発・都市計画を生業としていたのだけれど、その時に軸足は計画をする側ではなく生活する人の側に置くことを決めていたのだという。 だから雲仙普賢岳の噴火の際や阪神淡路大震災など多くの災害復興にもかかわってきた。 そんな淺野氏が、今度は当事者として、JR西日本に事故原因を究明し、再発防止を促すのは遺族の責務だと思った。 なんと強い人なのか。 JR西日本はあくまで運転士個人のミスであるとの見解を崩さなかった。 それこそ何年も。 しかし、人的ミスは結果でありそのミスを引き起こしてしまった原因こそが問題なのだということを、遺族たちのネットワークグループの要求だけではなく、各国の事故検証なども踏まえたうえで対応を変えていく。 聞く耳を持とうとしていく。 分割民営からのJR西日本は、利益追求、効率重視路線のうえ、会社に君臨するひとりの存在があり、ある意味独裁状態だった社は、ものをいうことのできない風通しの悪い職場だった。 井手正敬という発足時の副社長(事故当時は会長)、ゆるぎない権力者が頑なにヒューマンエラーを口にすれば、それが遺族の心を逆なでしようとも、社を挙げてその路線に進むしかなかった。 そんな中、多分尻拭いさせるつもりで、JR西としては初めての技術者出身の社長が現れる。 山崎正夫は遺族と直接話をすることで、会社の膿を出し、エラー防止のシステムを構築する方に舵を切る。 人事も経営も知らない、右腕もいない山崎は、結局途中で社長の座を追われるような失態を犯してしまうが、彼の残した方針を基に、少しずつ会社と遺族が対話をしていく様は胸が熱くなる。 組織は違えど私自身、個人で話すといい人なのに組織を守るためには冷酷な振る舞いをする人たちを身近に何人も見ている。 だからこの山崎氏の行動や、そのあとに続いた人たちはすばらしいと思う。 結果、ある程度の安全対策は行われたのだけれど。 安全ではない列車に乗りたい人なんていないのだから、経営する立場としても安全は重要だ。 が、当たり前になってしまった安全には、注意を払われないことが往々にしてある。 社員一人一人の維持していく努力なしに安全はない、ということが忘れられてしまいがちだ。 最後に書かれた新幹線の異音・異臭事件がそれを物語る。 1951年の列車火災事故。ドアが開かず乗客が脱出できなかったため100人以上の死者を出す。→非常ドアコックの設置が義務化 1962年、脱線多重衝突事故により死者160人、負傷者296人を出す大惨事→ATS(自動列車停止装置)の設置 2001年ホームから転落した人を救助しようと2人が飛びありたところに電車が侵入し、3人死亡→ホームドアの設置 当たり前のように設置されている安全のための設備も、こうした事故がきっかけになっている。 起こしてはいけない事故ではあるが、起きてしまったらそれを二度と起こさないようにするのが起こした側の義務だ。 それは、個人に責任を転嫁して厳罰を与える、ということでは決してない。 そんなことをしても事故はなくならないということを訴え続けた淺野氏をはじめとする人々の胸の内を思うと、頭が下がる。
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事故で大切な人を失った遺族について生々しい現実を教えてくれた。読んでいて本当に胸がつまる思いだった。同時に当時のJR西日本という企業に対しての不信感も込み上げてくる。 不幸にも遺族となった浅野氏の懸命な行動が凝り固まった官僚主義の企業に変化をもたらした。自身も辛い中にあっても「...
事故で大切な人を失った遺族について生々しい現実を教えてくれた。読んでいて本当に胸がつまる思いだった。同時に当時のJR西日本という企業に対しての不信感も込み上げてくる。 不幸にも遺族となった浅野氏の懸命な行動が凝り固まった官僚主義の企業に変化をもたらした。自身も辛い中にあっても「遺族の責務」といい、ここまでの事をやってのけた。 安全と利益追求のバランス。鉄道会社には強く求められること。安全なしでは鉄道を走らせる資格はないが、安全に投資するためには稼がなくてはならない。そのバランスを崩すと事故が起こる。安全が最も重要なことは当たり前なのだが経営者にとってこの両立は難しい事なのだろうと思う。 しかし、安全に対する意識を磨くことは金がなくても出来る。本書で語られた元トップ井出氏の安全に対する考えは、現在の鉄道業界では非常識である。ヒューマンエラーは起こるものという前提に立たなければ事故は決して減らない。その前提がなければ人がミスしないでやれば良いの一言で片付いてしまう。だとするとヒューマンエラーをバックアップするハードメンの投資も行われるはずもない。 鉄道マンは決められたことを正確に行うことを常に求められている。一方それを逸脱する事を躊躇してしまう。しかし、異常を感じた時、安全に対して不安に思った時、勇気を出してそれができるか。それができる鉄道マンであって欲しい。
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組織論として読んでいて引き込まれる。 失敗学、リスクマネジメントなどとよく言われるが、これをすればよいという対策はなく、時代ごとに変わる対策を常に取り続けていかなくてはならない。 また、やらなかったからと言って悪さが顕在化することは小さい。そのため、効率化の名のもとに考えることが...
組織論として読んでいて引き込まれる。 失敗学、リスクマネジメントなどとよく言われるが、これをすればよいという対策はなく、時代ごとに変わる対策を常に取り続けていかなくてはならない。 また、やらなかったからと言って悪さが顕在化することは小さい。そのため、効率化の名のもとに考えることが許されず、重要性も理解されない。 最後の章まで読み応えがあり、そして憂鬱な感覚が残った。予防的な処置をすることは、人の直感とは相容れない部分なんだろうな。
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父親が鉄道会社に勤務しており、鉄道には少なからずの思いがあったため、当時6歳だった僕は、ニュース番組で福知山線脱線事故の様子を見て衝撃を受けた。 それから時がたち、大学院のレポートで「自分が興味を持つ工学システムにおいて、過去の事故やトラブル情報がどのように安全性向上に活かされて...
父親が鉄道会社に勤務しており、鉄道には少なからずの思いがあったため、当時6歳だった僕は、ニュース番組で福知山線脱線事故の様子を見て衝撃を受けた。 それから時がたち、大学院のレポートで「自分が興味を持つ工学システムにおいて、過去の事故やトラブル情報がどのように安全性向上に活かされているか述べよ。」という課題が出題され、鉄道事故について調べることとなった。そして当時衝撃的だった福知山線脱線事故について調べるためこの本を読むことした。 悲惨な事故の様子,遺族の一人である淺野弥三一氏がいかにして行動を起こしていったか,JR西日本内部の体質をいかに変えていったかということが極めて中立的に書かれている。当時JR西日本の相談役であった井出正敬氏1人の責任と短絡的に結論を出すのではなく、徹底した利益追求に伴って生じてしまった会社全体としての問題と根拠を持って筋道を通した結論を出している。 現在、いたるところででコストカットや便利性を求めた行動が行われているが、将来そうした行動をするときはその裏に生じてしまうことをしっかりと考えて行動していきたい。
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2005年4月25日、JR西日本管内福知山線で起きた脱線事故のノンフィクション。 奥さまと妹を亡くされ次女が大ケガを負った、淺野氏。事故直後から、事故や遺族に対するJR西日本の姿勢に疑問を持ちはじめる。 そして私的な感情は差し置いて、真っ正面から巨大組織にぶつかり、組織の問題...
2005年4月25日、JR西日本管内福知山線で起きた脱線事故のノンフィクション。 奥さまと妹を亡くされ次女が大ケガを負った、淺野氏。事故直後から、事故や遺族に対するJR西日本の姿勢に疑問を持ちはじめる。 そして私的な感情は差し置いて、真っ正面から巨大組織にぶつかり、組織の問題点を浮かび上がらせ体質改善にまで導いたノンフィクション。 これまで個人の問題として精神論で捉えがちだった事故原因を、収集・科学的分析を加え「ミスは起こりうる」という前提で組織の再構築を促していく。 これを時系列にまとめ、淺野氏のそれまでの仕事の仕方とシンクロさせ、なぜそこまでの情熱を維持して巨大組織を変えることができたかを分析している。
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最悪の大事故の原因は、企業風土・膠着的な組織がもたらした? 【感想】 なぜ、福知山脱線事故は起こってしまったのか。それには、JR西日本の膠着的な企業風土が起因していた。短期的な賞罰教育と、常に内向きの理論で意思決定を行ってしまう大企業。そのために、過去にあった事故から、再発防...
最悪の大事故の原因は、企業風土・膠着的な組織がもたらした? 【感想】 なぜ、福知山脱線事故は起こってしまったのか。それには、JR西日本の膠着的な企業風土が起因していた。短期的な賞罰教育と、常に内向きの理論で意思決定を行ってしまう大企業。そのために、過去にあった事故から、再発防止の仕組み・育成方式を作り上げることができていなかった。自社の責任から目を背け、外部や特定の個人に問題を擦り付けようとした。作中に筆者も取り上げているが、まさに「失敗の本質」で語られているような、旧日本軍的な空気による支配・意思決定が横行する組織となってしまっていたのである。107人もの死者をもたらした未曽有の大事故は、その空気的な企業風土が最悪の結果として結実したと言える。 【本書を読みながら気になった記述・コト】 ■大企業の組織的風土を変革していくことの難しさ。保守的になり、社会や消費者のことに目を向けられなくなる難しさ ■家族の大切さ。福知山脱線事故によって、大切にしていた家族を突然失った。家族のハブとなっていた母が亡くなってしまい、子どもや夫の関係性がより希薄になってしまった。家族の中に暗い影が落ちたこと ■事故でパートナーを失った女性が、後追い自殺をしてしまったこと。大切な人を亡くす辛さ。誰にでも起きうることだが、本当に辛く、苦しいものである ■独りで生きていく寂しさ、辛さ。最後は皆独りで死ぬことになる。そのこtに、どう向き合うか
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「決められたことを決められた通りにやれば、基本的に事故が起こらない」とされる鉄道の世界。一見当たり前のように聞こえるが、毎日何百本と走る列車で、毎回毎回1人1人確実に実行するためには、会社がどのように安全に向き合うかが強く問われていると感じた。 鉄道他社には、いまのJR西と異なる...
「決められたことを決められた通りにやれば、基本的に事故が起こらない」とされる鉄道の世界。一見当たり前のように聞こえるが、毎日何百本と走る列車で、毎回毎回1人1人確実に実行するためには、会社がどのように安全に向き合うかが強く問われていると感じた。 鉄道他社には、いまのJR西と異なる安全への思想・対応を持っているところもあるようだ。「絶対安全」がないからこそ、どちらが正しくどちらが間違っているとも言い難いかもしれない。しかし、今後の行く先を注意深く見つめて安全とは何か常に考え続けることが大切だ。
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仕事のために読んだ本ですが、一つの大企業のノンフィクションとして非常に読み応えがある。 遺族の苦しみと企業の論理が対峙する、それは企業にとって支援者であったはずの利用者が被害者となることで裏切りとなって強烈に跳ね返る。 いくら原因を追求しても癒されないことは分かっているけど、...
仕事のために読んだ本ですが、一つの大企業のノンフィクションとして非常に読み応えがある。 遺族の苦しみと企業の論理が対峙する、それは企業にとって支援者であったはずの利用者が被害者となることで裏切りとなって強烈に跳ね返る。 いくら原因を追求しても癒されないことは分かっているけど、追い求めずにはいられない被害者。それが企業人にも一個の個人として正面から向き直る愚直さが突きつけられる。 サラリーマンという不思議な生態に疑問を感じさせる一冊。
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