私はあなたの記憶のなかに の商品レビュー
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「父とガムと彼女」母親がいない時に世話をしてくれていた母親のような友達のような初子さんは父の愛人だったのか。年取って気がつくことってありますね。 「神さまのタクシー」寮で同室の先輩は風紀委員のように生活のルールに厳しかった。しかし彼女が好きになった人はヤンキー系。彼女が退学になったときに寮則をやぶって挨拶に行く。 「水曜日の恋人」《イワナさんは母の恋人だった。私は、母にふられた彼と遊んであげることにした。》 「空のクロール」泳げないのにう水泳部に入り、トシヨリが溺れてるみたいとクラスの部活メンバーの女の子から壮絶ないじめにあう。靴箱にいろんなゴミが入ってる。その描写の念入りなこと。こういう追い詰めていく感じは角田光代は凄みがあります。最後、街中の落書きポイントに彼女のケータイナンバーを書いてまわる。 「おかえりなさい」アルバイとチラシを配っていると、ある家のお年寄りが子供と勘違いしているのかおかえりといって、毎日ごちそうをしてくれる。この本の中では一番好き。一つのユートピアなんですね。 「地上発、宇宙経由」メール不得手の専業主婦が、昔の恋人にメールをするがアドレスを間違えて、受け取った大学生がなりきって返事をくれる。 『メールを送る空中の電波みたいなものが、全部ショートしたとして、日本じゅうの携帯電話が不通になったとしたら、いったいどのくらいの関係がそれとともに消えちゃうかしら』が印象的。 「私はあなたの記憶のなかに」表題作。タイトルの言葉を書き置きして離婚した妻を思い出の場所を巡ることで追っていく。 記憶をテーマにしている8作品とのことで、そうだったのかと後で聞いて思う。通して一つのテーマが浮き上がるということはないけど、それぞれがフシギでリアルな存在感をもって少し息苦しい物語世界、リアルな世界を生きている。激しい物語は一つくらいで切り口もいろいろで角田光代の懐の深さを感じられる作品だった。どうやってこんな物語や人物を思いつくのだろう。
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父とガムと彼女 猫男 神さまのタクシー 木曜日の恋人 空のクロール おかえりなさい 地上発、宇宙経由 私はあなたの記憶のなかに
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8編からなる短編集。 様々な初出媒体から集めたため、共通するテーマはとくにない。 いじめや詐欺、離婚などを背景に、登場する人たちはどこか大切なものが欠落していて、寂しさをまとう。そのため、楽しい読書とは言えないのだが、その寂しさが小さな欠片となって心の隅に残るような作品が多かっ...
8編からなる短編集。 様々な初出媒体から集めたため、共通するテーマはとくにない。 いじめや詐欺、離婚などを背景に、登場する人たちはどこか大切なものが欠落していて、寂しさをまとう。そのため、楽しい読書とは言えないのだが、その寂しさが小さな欠片となって心の隅に残るような作品が多かった。 でも、やはりこの作者なら、どっしりと重みのある長編を読みたい。
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・K和田くんはたとえてみれば消しゴムのような男の子だった。他人の弱さに共振して、自分をすり減らす。共振された他人は、K和田くんのおかげでか、もしくは時間の力でか、自己治癒力でか、そのうちたちなおってふたたび世のなかに向き合い同化する。けれどK和田くんは、いつまでもすり減ったままなのだ。自分とは露ほども関係のないことがらに傷つき、うなだれ、気力を失い、そしてそのまま、たちなおることができない。それなのにまた、だれかの痛みに共振し、さらにすり減る。元に戻るすべを知らないまま。それがK和田くんだった。 ・恋愛においてもっともつらいことは、拒否ではなくて、意志のない受容である。そして、自分が彼にとって何ものであるのかを、けっして規定してもらえないことだ。 ・十二時を過ぎても、深夜一時をすぎても、彼は帰ってこなかった。 ケーキ、食っちゃおうか、私は言った。息がしろかった。うん、食っちゃおうよ、と、なぜだかK和田くんは泣きそうな顔で言った。それで私たちは箱を開け、ろうそくに火をともし、ちいさな声で彼の生誕をたたえる歌をうたい、ろうそくを吹き消して手づかみでケーキを食べた。寒すぎて、ケーキの味などまったくわからなかった。手がふるえて、口のまわりにやたらとクリームがこびりつき、私とK和田くんは幾度 も笑った。笑い転げた。。空のかなたがしろく染まるまで笑っていた。 ・「お大福、食べる?」 何を言われたのかわからず黙っていると、女の人は手招きをした。手招きをされるままに近づくと、彼女は腰にかけた手ぬぐいで手を拭き、ぼくに向かって包みを差し出した。 「お大福、食べなさいよ。キクヤさんのはおいしいから」 そういうと、お墓の前の段に腰掛け、隣に座るよう手ぶりで示し、包みをほどく。プラスチックのパックに、白い大福が整列していた。なんとなく断るのも気が引けて、ぼくは彼女の隣に腰掛け、言われるまま大福をひとつつまみあげて口に運んだ。 「大福が食べたいなあって、あなた、それが最後の言葉ですよ。もっといろいろあるだろうに。長いあいだありがとうでも、向こうで待っているからなでも、何かこう、私に言うべきことがあるだろうに、お大福だもの。あなた、人間ってのは、案外つまんないことしか考えていないもんなのねえ、死ぬ間際になっても」 この人、知り合いだったっけ、と思ってしまうような親しげな口調で老婦人は言い、大福を続けざまに二個食べた。 ・そうしてふと、ずっとこうだった、と思いつく。そう、ずっとこうだった。母親におぶわれていた小さなときから、ランドセルを背負って坂道を駆け上がっていたころから、隠れて煙草に火をつけたときから、ぼくはそもそもひとりで、民宿の部屋みたいにからっぽだった。だれかを、あるいは何かをさがすように、追うように日を過ごしてきた。 きっと妻もそうだ。母親の腕で眠った赤ん坊のころから、退屈な授業を聞き流し窓の外に目を向けていたころから、ちいさなアパートで体温の残る布団を干していたころから、ずっときっとひとりで、ひとりであることを忘れようとするみたいに日を送っていた。 ・ひょっとしたらぼくらは本当にひとりかもしれない。だれといても、どのくらいともにいても、ひとりのままかもしれない。けれど記憶のなかではぼくらはひとりではない。ぼくの記憶から妻を差し引いたらこの八年間はぼんやりと白い曖昧な空白になる。格子窓のレストランを、桜の咲く墓地を、夜行列車の振動を、きらめく海沿いの道を思い出すとき、そこにはつねに妻がいる。 妻の記憶にはぼくがいる。今、ひとりだとしても、あるいはだれかをうしなったとしても、ぼくらの抱えた記憶は決してぼくらをひとりにすることがない。
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かつてあの人と一緒に過ごした時間や光景は記憶の中に隠れ潜んでいる。 普段は忘れてしまっていても、ふと匂うガムやシャンプーの甘ったるい香りが記憶を甦らせてくれることもある。 「記憶」に纏わる、泣きたくなるようなとても切ない短編集。 特に『父とガムと彼女』『水曜日の恋人』『地上発、宇宙経由』が好き。 中でも印象深いのは、人と人との縁についての下り。 縁や運命を「得体の知れない洞窟のようなもの」とし、縁や運命のない関係を「平穏」と捉える考え方に共感した。 時に縁や運命は、人を見えない糸で縛り付ける威力があるように思う。 そして表題作。 「さがさないで、私はあなたの記憶のなかに消えます」 書き置きを突然妻から受け取り、記憶をヒントに妻との思い出の地を一人さ迷い訪ね歩く夫。 無事妻に辿り着けたのか、とても気になる。
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短編8作品。 印象に残ったのは、最後の表題作「私はあなたの記憶のなかに」 誰かの記憶が訪れた風景のそこかしこにあって、一人ではないよって。 「おかえりなさい」は、年老いた老婆が記憶の中で若き日の自分を誰かと認識し、頬を染め紅を引いていた、そのように自分たちもなれると思ってたんだよと…別れる妻に話す。 「空のクロール」「神様のタクシー」は中学生。 どの作品も、いつかの景色を切り取ったような感じ。 なんだかぼんやりした不思議な感じの1冊でした。
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もう会えなくなったり亡くなったりしていても 記憶の中にしっかりと生き続けている人たちがいる。 愛おしかったり、感謝していたり のどに刺さった小骨ように、いつまでも胸にひっかかっていたり。。。 どんなに後悔しても、今更感謝してみても 記憶の中の人たちには届かない。 だからこそ主人公...
もう会えなくなったり亡くなったりしていても 記憶の中にしっかりと生き続けている人たちがいる。 愛おしかったり、感謝していたり のどに刺さった小骨ように、いつまでも胸にひっかかっていたり。。。 どんなに後悔しても、今更感謝してみても 記憶の中の人たちには届かない。 だからこそ主人公たちは遠い昔の記憶を 大切なものでも扱うかのように時々取り出しては 愛おしみ そしてまた前を向いて、今を生きていくのだ。 『地上発、宇宙経由』・・・携帯電話のメールが通信手段として定着したての頃のお話。 携帯が無かった頃の心のすれ違いと 携帯がある時代のクスリと笑いたくなるようなすれ違いと、、、 どんな時代でも相手に向けて発せられる言葉と祈りの重さは同じなんだなと思うのでした。
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作者らしさを感じた短編集。穏やかな中に棘がちくちくあるような話(父とガムと彼女)から逆に棘だらけのような話(空のクロール)など。どれも個性的な話だった。ラストがはっきりせず終わるものが多かったせいか、読後にこの後はどうなるのかなと考えてしまうことが多かった。歯がゆくもあるけどそこ...
作者らしさを感じた短編集。穏やかな中に棘がちくちくあるような話(父とガムと彼女)から逆に棘だらけのような話(空のクロール)など。どれも個性的な話だった。ラストがはっきりせず終わるものが多かったせいか、読後にこの後はどうなるのかなと考えてしまうことが多かった。歯がゆくもあるけどそこが作者らしいのかな。
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「父とガムと彼女」、「猫男」、「神さまのタクシー」、「水曜日の恋人」、「空のクロール」、「かえりなさい」、「地上発、宇宙経由」、「私はあなたの記憶のなかに」の今までに書かれた8つの短編。登場人物等それぞれに繋がりはありません。過去の出来事を回想しているものが多いかな。どれもしっか...
「父とガムと彼女」、「猫男」、「神さまのタクシー」、「水曜日の恋人」、「空のクロール」、「かえりなさい」、「地上発、宇宙経由」、「私はあなたの記憶のなかに」の今までに書かれた8つの短編。登場人物等それぞれに繋がりはありません。過去の出来事を回想しているものが多いかな。どれもしっかり、ほど濃く書けてて、読み入ってしまった。角田さんは神奈川出身だったのか。「水曜日の恋人」は数十年前の、自分の馴染みがある街が描かれており、そこで懐かしさを感じたのだけれど、それもあってか中高の頃の感情を思い出し、すっかりこの世界を味わえた。高校生の感情を書いていたり、男性が主人公のものもあり、回想、孤独、もう2度と会わない人へのメッセージ、角田さんの幅広さを感じた、思った以上に良かった。
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2018/7/24 読んでいて、なんだかそわそわする。 わたしは誰かの記憶のなかにいるのかしら? わたしがたまに思い出すあの子やあの人、げんきかな。
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