地下鉄道 の商品レビュー
黒人奴隷社会の小説を読んだのは初めてだった。最近読んだ「ジェイムズ」も「八月の光」も黒人差別問題を扱った小説だったが、それは「白人社会の中で差別されるマイノリティとしての黒人」を扱っていたが、この小説は違う。 19世紀前半、アメリカ南部で綿花のプランテーションが盛んだったころ...
黒人奴隷社会の小説を読んだのは初めてだった。最近読んだ「ジェイムズ」も「八月の光」も黒人差別問題を扱った小説だったが、それは「白人社会の中で差別されるマイノリティとしての黒人」を扱っていたが、この小説は違う。 19世紀前半、アメリカ南部で綿花のプランテーションが盛んだったころ、労力として買われ、白人の「所有物」だった大勢の黒人奴隷…彼らには彼らの独自の社会があった。 プランテーションのなかに黒人奴隷の住む小さな小屋が沢山建っていた。その小屋と小屋の間のたった二平米ほどの土地を自分達の食料自給のために耕す権利をめぐり、黒人同士が争う。この小説の主人公コーラは孤児になってしまったが、祖母の代から引き継いだその小さな「畑」を守るために子供ながら腕っぷしの強い男性奴隷と闘った。その結果、コーラは頭がおかしいとされ、「ホブ」と呼ばれる奴隷社会の中でも爪弾きにされた女ばかりが集められる小屋に行かされた。 奴隷同士仲間ではあるが、生き延びるためには雇い主のお気に入りになったり、監督官になったりして、仲間を売るような行動にも出る。白人支配人は黒人奴隷が「一致団結」することを認めない。絶望的な環境から逃亡を試みれば、すぐに捕まり、皆の前で「見せしめ」として虐殺される。 ある日、コーラは一人の奴隷仲間のシーザーに一緒に逃亡しようと誘われる。シーザーはじつは「地下鉄道」と呼ばれる秘密の組織があることを打ち明けた。それは、南部の黒人奴隷を自由州である北部へ逃亡するのを助ける組織であった。この組織は実在したらしく、「地下鉄道」はコードネームで、逃すための奴隷は「積荷」、その輸送を助けるのは「車掌」、奴隷を匿う部屋は「駅」と呼ばれた。実際にはこのころまだ地下鉄は走っておらず、あくまでコードネームとしての「地下鉄道」であったが、この小説はフィクションなので、本当に奴隷の逃亡に秘密の「地下鉄道」が使われている。 「車掌」である白人の家の床板を外し、暗い階段を降りると秘密の「駅」があり、走ってくる機関車の荷台に乗って運ばれる。いつ誰がどうやって掘ったのか分からないトンネル。本当に自由州に到着出来るのか分からないが、乗るしかない。すごいロマンがある。 ジョージア州のプランテーションから逃れて地下鉄道に乗って降りたある州は、黒人にも人間らしい生活を認めていた。教育を受けたり、健康診断を受けたり…けれどそれが「表の顔」であることが分かり、再び「地下鉄道」に乗って降り立った州は、最悪の州だった。増え続ける黒人に恐れをなした白人たちはプランテーションもアイルランド人などを雇って経営し、「黒人」は存在そのものが悪で、見つけられただけで絞首刑、黒人を匿った白人も密告されて絞首刑だった。 また、たとえ自由奴隷が許された州にいっても、黒人の「逃亡」そのものは違法であったので、「奴隷捕獲人」はどこまでも追ってきた。 一度は奴隷捕獲人に捕まりながらもまた運良く「地下鉄道」の「車掌」と出会い、降り立った州は、奴隷開放論者が経営する近代的な農場で黒人が活き活きと働ける夢のような地。そして毎週進歩的な集会が開かれるのだが…。 どこまで行っても結局自由は奪われ、鎖に繋がれる。コーラを助けた黒人も白人も無残に殺されていく。 ディストピア小説。今でもアメリカ人口の何分の1がいる黒人たちにとって、アメリカは夢の国などではなく、ずっとディストピアだったのか…。 いま「ディストピア」と書いて、まさに今のアメリカとアメリカを巡る世界情勢のことが頭に浮かんでしまった…。 「世界はそもそもの初めから冷酷であり、日々より冷酷になっていく。ひとが死を望むようになるまで使い尽くそうとする」 私は本当に運良く、生まれた時からずっと幸せだったが、ディストピアに生まれ、ディストピアに死んでいく人たちが世界にどれほど多いことか。私ももしかしたら、たまたま幸せな駅にいるのかもしれない。人生を走る機関車の線路は本当は険しく、何処まで続いているのかも分からない。明日は「ディストピア」の駅に到着するかもしれない。その時に愛する人の手を離さないように、頑張ろう…。
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難しさはあるし、人名も多いが、読み応えのある本。 奴隷がいたことは知っているが、人として扱われず、自由がない世界を本の中で味わって、さらにしんどくなった。 「自分のなかの奴隷の部分が人間の部分に追いつく前に、彼女は少年の前に膝をつき盾となっていた。」
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希望が見えたと思ったら、また地獄に引き摺り込まれる。その繰り返し。 「奴隷」にではなく、「黒人」に対しての残忍さには底がない。その残忍について、競い合うかのような州ごとの策略。黒人を匿った白人は、黒人同様の仕打ち。 ノースカロライナの自由の道。 逃げ切れたと思われていたメイベル...
希望が見えたと思ったら、また地獄に引き摺り込まれる。その繰り返し。 「奴隷」にではなく、「黒人」に対しての残忍さには底がない。その残忍について、競い合うかのような州ごとの策略。黒人を匿った白人は、黒人同様の仕打ち。 ノースカロライナの自由の道。 逃げ切れたと思われていたメイベルの最期。 各人の最期。 アメリカはどこも信用できない。カナダなんだと強く思う。 そして今。トランプの振る舞い、その賛同者支援者を見ていると、アメリカの根底は大して変わっていないのではないかと思わざるを得ない。
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つい「差別や迫害なんて悪の所業」と批判するだけに終始してしまいがちだけど、実は白人の側にも、罰則や世間の目があって、誰かを踏みつけにして(もしくは誰かに嫌な役回りを押し付けて)繁栄を享受することが社会全体として肯定される構造になっている。 そしてその繁栄が脅かされるとより苛烈に自...
つい「差別や迫害なんて悪の所業」と批判するだけに終始してしまいがちだけど、実は白人の側にも、罰則や世間の目があって、誰かを踏みつけにして(もしくは誰かに嫌な役回りを押し付けて)繁栄を享受することが社会全体として肯定される構造になっている。 そしてその繁栄が脅かされるとより苛烈に自分ファーストになっていく。 決して違う国の違う時代の話ではなく、最近よくこういう光景見るよなと思えてならない一冊だった。
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2016年刊行。 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞など多数の賞を受賞したアメリカでのヒット作。 舞台は19世紀前半、奴隷制が残るアメリカ。 主人公のコーラは十歳そこそこの少女。 ジョージア州にある綿花プランテーションの3代目黒人奴隷として苦痛に満ちた生活を...
2016年刊行。 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞など多数の賞を受賞したアメリカでのヒット作。 舞台は19世紀前半、奴隷制が残るアメリカ。 主人公のコーラは十歳そこそこの少女。 ジョージア州にある綿花プランテーションの3代目黒人奴隷として苦痛に満ちた生活を送っていた。 ある日、コーラは新入りの少年奴隷シーザーに誘われ農場から逃亡を試みる。 コーラ、シーザー、コーラの友達ラヴィーの三人は、夜中に農場を抜け出し、広大な沼地を必死で進む。 一晩不眠で進み、やっと沼地を抜けた三人は、脱走に気付いた農場が雇った白人の捜索隊に見つかってしまう。 捜索隊との格闘の末、ラヴィーは捕まってしまう。コーラとシーザーは何とか逃げ延びるが、その際にコーラが誤って白人の少年を殺害してしまう。 コーラとシーザーは、奴隷の逃亡を支援する組織に所属する白人の若い男、サムの手引きによって北部に延びる非公式の鉄道「地下鉄道」に乗り、サウスカロライナに逃げる。 サウスカロライナで新しい身分と仕事、教育を与えられたコーラとシーザーは平穏を享受する。 コーラは逃亡奴隷を寛大に受け入れるサウスカロライナに感謝していたが、ある日政府が進める恐ろしい計画に気づいてしまう。 それは、黒人の婦女子に不妊治療を秘密裏に施し、黒人の人口を抑制するという実験だった。 コーラとシーザーは直ぐに地下鉄道を使って更に北へ逃げようとする。 しかし、コーラを執拗に追う奴隷狩りのリッジウェイが迫っていた。 以上が序盤のあらすじ。 物語は更に続き、コーラの逃亡劇が主に描かれる。 長い小説であり、冗長な部分も多くて読みやすい作品ではない。 だが、アメリカの闇の歴史を正面から捉えて描き切った本作は非常に濃密な作品であると思った。 本作は基本的に虚構だが、実際に逃亡奴隷だった人たちへのインタビューを基に描かれており、その描写の多くは史実に基づくものであるらしい。 ただし、本書のタイトルである「地下鉄道」というのは、本来は奴隷を農園から逃げることを支援する白人たちの秘密組織の呼び名であり、小説に登場するような南から北に延びる文字通りの「地下の鉄道」は実際には存在しなかった。 当時のアメリカの技術水準でこのような大それたものを非公式に作ることなど当然できないので、当たり前ではあるが、この舞台装置としてのフィクションがあることで、この小説が真実と虚構との絶妙なバランスを保っている。 また、この小説のメイン・テーマは勿論コーラたちの逃亡劇の描写であるが、コーラの母親との確執もひとつの軸として描かれる。 コーラの母、メイベルは、コーラがまだ幼かった頃に農場を単独で脱走し、リッジウェイから唯一逃れた奴隷だった。 コーラは母親が自分を置いていったことに対してコンプレックスを抱いており、同時に誇りに感じている(後者は明確に述べられないが、私はそう感じた)。 母親に対するこの複雑な感情故に、コーラは強固な意志と反骨心を持っている。 さらにリッジウェイの執念を掻き立て、ストーリーに因果という深みを与える効果をしている。 (終盤でメイベルは実は、、という描写が付け加えられているが、私はこれは事実ではなく、コーラの願望ではないかと思った) 世界中で翻訳され、米国の著名な賞を多数取った本作は、その前評判に恥じないクオリティだった。 本作で描かれるアメリカの呪われた歴史は、たった百数十年前に事実としてあったことだ。 これは、人間は自らが信じる正義さえあればここまで残酷になれるという証左である。 我々は、この闇をタブーとして扱うのではなく、教訓として胸に刻むべきだ。 「フィクションを経由せずに、他者の痛みが理解できるとでも?」 円城塔
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メモ→ https://x.com/nobushiromasaki/status/1914266518512451830?s=46&t=z75bb9jRqQkzTbvnO6hSdw
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アメリカの歴史を踏まえた上でのフィクション。舞台は19世紀前半のアメリカ南部ジョージア州の大規模農園(プランテーション)。15歳の少女コーラが主人公。 この小説は逃げる事、生きのびるために必要な事を描いた小説。当時はまだ南北戦争前で、北部と南部では、黒人の扱いが大きく異なっていた...
アメリカの歴史を踏まえた上でのフィクション。舞台は19世紀前半のアメリカ南部ジョージア州の大規模農園(プランテーション)。15歳の少女コーラが主人公。 この小説は逃げる事、生きのびるために必要な事を描いた小説。当時はまだ南北戦争前で、北部と南部では、黒人の扱いが大きく異なっていた。 コーラはシーザーの誘いに乗る形で逃亡を図る。そこからが長いながい逃亡の始まりとなった。黒人を庇えば殺されてしまうかもしれない。そういう状況の下で、黒人を逃す組織である地下鉄道の駅を守る人々が存在した。コーラは何度も捕まったり、彼女を助けるために動いた人々が死ぬのを見た。それでも生き抜こうとする姿に勇気をもらえる。 南部の白人たちは恐怖から黒人を抹消しようとする。プーチンもこれと同じだな、と思った。 アメリカの黒歴史だが、作者はいろいろな本などを参考にこの物語を構築した。そして、ピュリッツァー賞、全米図書賞など7つの賞を受賞した。そういうところが懐が深いというか素晴らしい国だと思う(^-^)
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ジョージアの農園で苛烈な奴隷生活を送っていた少女コーラは、仲間のシーザーに誘われて地下鉄道で逃亡する。 途中、ユートピアと見せかけたディストピアや名実どおりのディストピアを通りながら、捕まったり、逃げたりを繰り返す。 彼女を助けた人たちにも、残酷な運命が待っていた。 あくまでフィ...
ジョージアの農園で苛烈な奴隷生活を送っていた少女コーラは、仲間のシーザーに誘われて地下鉄道で逃亡する。 途中、ユートピアと見せかけたディストピアや名実どおりのディストピアを通りながら、捕まったり、逃げたりを繰り返す。 彼女を助けた人たちにも、残酷な運命が待っていた。 あくまでフィクションだが、史実に基づいたエピソードも多い。 残酷な描写に怯むが、むしろ現代だからこそ知らなければならない歴史なのだと思う。 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞、カーネギー・メダル・フォー・フィクション受賞。
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19世紀アメリカで、黒人奴隷たちの逃亡を助けた「地下鉄道」と呼ばれる秘密組織があったことを知った。「もし本当に地下に鉄道があったら…」 著者のifから生まれた物語はとても読み応えがあった。 綿花農園に売られた祖母のアジャリー、消えた母のメイベル、みなし子になった15歳の奴隷少女...
19世紀アメリカで、黒人奴隷たちの逃亡を助けた「地下鉄道」と呼ばれる秘密組織があったことを知った。「もし本当に地下に鉄道があったら…」 著者のifから生まれた物語はとても読み応えがあった。 綿花農園に売られた祖母のアジャリー、消えた母のメイベル、みなし子になった15歳の奴隷少女コーラへと話が繋がっていく。 10歳までに人生の喜びを根こそぎ奪われ、奴隷であることの意味を教え込まれる。重いテーマに何度も読む手が止まった。 シーザーから逃げようと誘われ、地下のトンネルに降り立つコーラ。蒸気機関車が現れると物語は大きく動き始める。 「列車が走るあいだ外を見ておくがいい。アメリカの真の顔がわかるだろう」駅長のランブリーが言った言葉の意味を知りたくて最後まで一気に読んだ。 地図で逃亡ルートをなぞっていくと、アメリカの広大さにあらためて気付かされた。ジョージアから逃げてサウス・カロライナに着く。黒人の待遇改善に努める理想的な州に見えるが、実は黒人の数を増やさないように医師が断種の手術を行なったり、黒人が梅毒の研究材料にされていたりと… 州境を一つ超えたノース・カロライナ。屋根裏に閉じ込められたコーラが目にしたものは…あまりの残虐な行為に言葉を失う。 アフリカから拉致され綿花農園で働かされた黒人奴隷たち。綿花という機関を動かす燃料にされた奴隷たちの数が膨れ上がれば、受けてきた仕打ちに報復する日が必ずやってくると、恐れを抱く白人たちのさらなる弾圧は止まらない。 暗闇の中を蒸気機関車はどこに向かって進むのだろう。いつ振り落とされるかもわからない。煙を吐き揺れながら走る蒸気機関車に同乗して、コーラと共に州をめぐるうちにアメリカという国の輪郭が徐々に見えてきた。登場人物一人一人の描き方も上手くて、特に奴隷狩り人のリッジウェイはキャラ立ちしていた。 映画も是非観てみたいと思う。 ☆4.5
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アメリカ合衆国建国期から南北戦争前までの奴隷制に焦点をあて、過去の記録や証言をもとに書き上げられたフィクション。三角貿易と綿花のプランテーションが最盛期を迎えた時代。アフリカ奥地から無理やり連れてこられ、奴隷船にぎゅうぎゅう詰めにされてる図は教科書でも習うが、南部のプランテーショ...
アメリカ合衆国建国期から南北戦争前までの奴隷制に焦点をあて、過去の記録や証言をもとに書き上げられたフィクション。三角貿易と綿花のプランテーションが最盛期を迎えた時代。アフリカ奥地から無理やり連れてこられ、奴隷船にぎゅうぎゅう詰めにされてる図は教科書でも習うが、南部のプランテーションでは後期ローマ時代よりも残酷な私刑や処刑が横行していたとは、その野蛮さに驚かされる。アメリカの黒歴史、恐ろしい物語だった。
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