地下鉄道 の商品レビュー
ほぼ一気読み。奴隷制時代の米国、人名と州が交互に来る章(米国の週に土地勘がないので地図で確認)、特に州のパートが当時の社会の様子や奴隷の状況を綴っているのだが、子どもの頃「ルーツ」を見ていて覚悟していたつもりでも、時にはそれ以上に辛い描写に本を閉じ、でも目をそらしてはいけないと読...
ほぼ一気読み。奴隷制時代の米国、人名と州が交互に来る章(米国の週に土地勘がないので地図で確認)、特に州のパートが当時の社会の様子や奴隷の状況を綴っているのだが、子どもの頃「ルーツ」を見ていて覚悟していたつもりでも、時にはそれ以上に辛い描写に本を閉じ、でも目をそらしてはいけないと読み続けた。人物のエピソードがどれも意外で驚きに満ちていて効果的。フィクションだが現実にこれくらい劣悪な環境だったのだろう。とても人間を扱っているとは思えない。逃げ出した女主人公がたびたび奴隷狩りにつかまり、助かるのだろうかとひやひやしながらページをめくる。こうした背景を持って米国は発展し、その背後には英国を中心とした奴隷貿易があり、そしていまだにその問題を抱えているのだとてきたのだと、読了して少しばかり違った目で彼の国々に思いをはせる自分がいた。見事な構成・内容だった。ここに扱われている問題が黒人問題だけでなく他の差別問題や、現代の米国で起こっている不法移民やイスラム教徒のへの国の対応だったとしても通じるような、とても普遍的な内容を持っていろんなことを示唆している一冊だと思う。ピュリッツァー賞納得。原文もこうしたリズムだろうか。ぐいぐい引き込まれた。何か所か今は使用が控えられる所謂"差別用語"的な言葉が出てくるが、それが効果的。良い訳だった。ただ1箇所だけ疑問。115ページの17行目、「勘定」は「感情」ではないだろうか。 映画化されるそうだが黒人が残酷に扱われる様子を見る自信がない。
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19世紀前半のアメリカ、ジョージア。10歳ごろ、脱走により母を失った奴隷の少女コーラは、新入りの青年奴隷から地下鉄道を使った逃亡計画を持ちかけられる。一旦は断った彼女だが、農場主がより残忍なテランスに代わったため、彼と同行することを決意する。ところが農園を出て間もなく、同じ年頃の...
19世紀前半のアメリカ、ジョージア。10歳ごろ、脱走により母を失った奴隷の少女コーラは、新入りの青年奴隷から地下鉄道を使った逃亡計画を持ちかけられる。一旦は断った彼女だが、農場主がより残忍なテランスに代わったため、彼と同行することを決意する。ところが農園を出て間もなく、同じ年頃の少女ラヴィ―が後をついてきた。やむなく3人で行動することになったが、野豚刈りの猟師たちに出くわしてしまう。ラヴィ―はさらわれ、コーラは青年の頭に石を叩きつけて逃げた。すぐに悪名高い奴隷狩り人リッジウェイが後を追い始める。二人は、「駅」へと案内してくれるフレッチャーの元へとたどり着き、「地下鉄道」の列車に乗る。 自由を求めて逃亡する少女と、それを助ける人々、妨げる人々の姿を通じ、真の自由とは、混乱の世界の中で人のあるべき姿とは、を問いかける。 奴隷逃亡を手助けする組織を表す「地下鉄道」を実在のものと仮定して描かれたフィクション。 *******ここからはネタバレ******* 独特の文体で、一文が短く接続詞も少ない。 また、登場人物が多いにもかかわらず人物紹介欄がない。登場してから15ページ以上後になって少しずつ説明される人物もあり、慣れるまで苦労した。 事実をもとに書かれたものらしく、残虐な場面が多い。「地下鉄道」に本当に列車が走る場面では、史実を基にしたフィクションから一気にファンタジーの世界に入ってしまった。 事実も多く含まれているのであろうが、特にリッジウエイとの攻防などでは、かなりのエンターテイメント要素を感じ、史実の重みが損なわれているように感じる。 これが白人作家であれば、微妙な立場に立たされていたかも知れないと思うのは、私だけであろうか? 中学生以上のおススメ本の候補になるかと読んでみましたが、これは大人向けの本です。
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逃げる物語。途中でどんなことがあっても、あきらめない あきらめないことはいいことなんだろうか、と考えながら読んだ。犠牲が大きすぎる。自分も他人も。 これを書いて出版して賞が取れるアメリカってすごい。 日本で、例えばアイヌ人とか大陸の人とかが、虐待されて差別されて逃げたという小説書...
逃げる物語。途中でどんなことがあっても、あきらめない あきらめないことはいいことなんだろうか、と考えながら読んだ。犠牲が大きすぎる。自分も他人も。 これを書いて出版して賞が取れるアメリカってすごい。 日本で、例えばアイヌ人とか大陸の人とかが、虐待されて差別されて逃げたという小説書いて、きちんと評価されるだろうかとちょっと考えた。日本ってこういうのあまり表に出さない気がする。
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19世紀前半のアメリカ南部には、奴隷たちを秘密裏に、命がけで北部に逃がす組織が存在した。地下鉄道、と呼ばれるその組織を、本作では本当に地下に鉄道を走らせていた、として描いている。設定はフィクションなのだが、伝わってくる黒人奴隷たちの苦しみは本物で、読んでいてとても息苦しかった。特...
19世紀前半のアメリカ南部には、奴隷たちを秘密裏に、命がけで北部に逃がす組織が存在した。地下鉄道、と呼ばれるその組織を、本作では本当に地下に鉄道を走らせていた、として描いている。設定はフィクションなのだが、伝わってくる黒人奴隷たちの苦しみは本物で、読んでいてとても息苦しかった。特に処刑のシーンの残虐さには読むのをやめたくなった。逃亡奴隷と関わっていることが知られたら処刑されるかもしれないのに、それでも彼らを助けようとする白人がいたことが本当にすごいと思う。最後のメイベルの物語に救われた。
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奴隷制度の時代の南部アメリカ、綿花農園で奴隷として暮らすコーラは、北へ逃げようとシーザーに誘われる。最初は拒んだコーラだが母メイベルが幼かった自分を残して逃げたことなどをきっかけに、シーザーと逃亡する。地下にあるという北へ続く鉄道に乗り貨物車で北を目指す。逃げる途中で追っ手の白人...
奴隷制度の時代の南部アメリカ、綿花農園で奴隷として暮らすコーラは、北へ逃げようとシーザーに誘われる。最初は拒んだコーラだが母メイベルが幼かった自分を残して逃げたことなどをきっかけに、シーザーと逃亡する。地下にあるという北へ続く鉄道に乗り貨物車で北を目指す。逃げる途中で追っ手の白人少年について瀕死の怪我を追わせたことが奴隷狩りの追っ手に拍車をかける。農園主はコーラに賞金をかけ遠く離れた州の新聞にも載せた。二転三転する過酷な逃亡劇が続く。 これでもか、というほどに続く困難な状況。悲惨を極める白人たちの仕打ち。何度読むのを止めようかと思ったが、コーラのストーリーがどうなるのか気が気でなく読み進めた。 コーラは自由を手にいれるのだが、その代償や失ったものを思うと素直に喜べなかった。
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これは予想外に面白い。 逃亡奴隷たちを助けるため地下鉄道が存在した、という架空の設定なんだけど、 正直ここまでエンタメ要素が強いと思わなかった。 奴隷制時代のお話なので、読むのが辛くなるような場面も多々ある(ひどいとか哀しいとか軽々しく言うことすら申し訳なくなる)にも関わらず、展...
これは予想外に面白い。 逃亡奴隷たちを助けるため地下鉄道が存在した、という架空の設定なんだけど、 正直ここまでエンタメ要素が強いと思わなかった。 奴隷制時代のお話なので、読むのが辛くなるような場面も多々ある(ひどいとか哀しいとか軽々しく言うことすら申し訳なくなる)にも関わらず、展開にスピード感があって飽きさせない。 主人公の逃亡劇の合間に挟まれる各登場人物の物語もとても良く、挟むタイミングもまた絶妙にいい。光も闇も、なにもかもぜんぶ抱えたラストもいい。 ザ・小説を読ませてもらいました。
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「おれの主人は言った。銃を持った黒んぼより危険なのは、本を読む黒んぼだと。そいつは積もり積もって黒い火薬になるんだ!」ー本文343ページより
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母親から置き去りにされた少女コーラが,ジョージアからサウス・カロライナ,ノース・カロライナ,テネシー,インディアナ,そしてミズーリから自由の地へと逃亡する物語であり,人々との出会いと悲しい別れによって成長していく物語である.かなりひどい暴虐と殺戮の南部の歴史をあからさまに書いてい...
母親から置き去りにされた少女コーラが,ジョージアからサウス・カロライナ,ノース・カロライナ,テネシー,インディアナ,そしてミズーリから自由の地へと逃亡する物語であり,人々との出会いと悲しい別れによって成長していく物語である.かなりひどい暴虐と殺戮の南部の歴史をあからさまに書いていて,今もまだ引きずっているアメリカの人種差別の根深さ,大元がここにある.命をかけて黒人を助ける白人がいる一方で黒人を密告する黒人もいる.地下鉄道にたくされた自由への道が,時には閉鎖されてしまうことにもなるが,それでもこの地下鉄道の響きの中に自由への光が消えることなくあるのだと信じられる,そんな物語だった.
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逃げることについての小説。 19世紀後半、ジョージアのプランテーションにすむ15歳の少女コーラは奴隷。 おなじく奴隷の青年シーザーにある時逃亡を持ちかけられる。 奴隷州から自由州へ。 州境を越えて北へ逃げれば自由になれる決まりだつた。 いつまでも追いかけてくる奴隷狩人リッジウェ...
逃げることについての小説。 19世紀後半、ジョージアのプランテーションにすむ15歳の少女コーラは奴隷。 おなじく奴隷の青年シーザーにある時逃亡を持ちかけられる。 奴隷州から自由州へ。 州境を越えて北へ逃げれば自由になれる決まりだつた。 いつまでも追いかけてくる奴隷狩人リッジウェイ。 こんな時代があったのかとも思うけど、差別はいろんなところに残っている。
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最初から最後までつらい。容赦ない。読み終わって、ふらふらしている。 途中、「なんでこんな苦しい物語を読んでるんだ」と思ったりもしたけれど、読まずにはいられない。一度知ってしまった主人公コーラの物語、その後を知らぬままでいることなんて、できない。 南北戦争、ひいては奴隷解放より30...
最初から最後までつらい。容赦ない。読み終わって、ふらふらしている。 途中、「なんでこんな苦しい物語を読んでるんだ」と思ったりもしたけれど、読まずにはいられない。一度知ってしまった主人公コーラの物語、その後を知らぬままでいることなんて、できない。 南北戦争、ひいては奴隷解放より30年も前の話だ。 奴隷の少女、コーラは逃げる。「地下鉄道」という(実在はしなかった)文字通り、地下を秘密裡に走る鉄道に運ばれて。コーラの所有主は少女を捕獲するために腕利きの奴隷狩人を雇う。 働いていた農場での状況も悲惨だったが、逃亡先でコーラが目にする黒人たちの惨状たるや、読みながら目をそらしてしまうほどだ。 膨大な量の資料にあたって奴隷の生活場面を描いたという作者。「人間が、人間に対してどうしてこんなに残虐になれるのか」と背筋が冷たくなるのだが、こういうことは現代においてもなくなっているわけではない。 要するに、「自分とは異世界」と思ってしまえば、もはや「自分と同じ人間」ではないわけだ。 あの国はああやってできてきたのかと慄然とする。 ベトナム人の視点からベトナム戦争を描いた『シンパサイザー』にも驚かされたが、そもそも恥ずかしながらわたしはかの国についての知識がなかった。 だがこちらは米国である。行ったことはないし、ことさら好きな国でもないが、いやおうなしにさまざまな情報が向こうから飛び込んでくる国だ。それが、ここまでの残虐な歴史があったとは、知らなかった。本を読んでいる最中には「アメリカ」という響きすら冷たく残酷に聞こえるくらいである。 『すべての見えない光』について、わたしは戦時にあって「人間の善意のうつくしさを描いた」と書いたのだが、これは圧倒的に「人間のむごさ、残虐さ」を描いたと言っていい。だがしかし。 やはり、ある、人間の善意はある、どこにでも。泥の水たまりの上にひとひらの白い雪片が降るように、そして溶けていくように。そこも描かれていたことは救われた。
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