ウエストウイング の商品レビュー
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ネゴロ、フカボリ、ヒロシ。 会社員ふたりと小学生。本当だったら出会う可能性のない3人が、ビルの忘れられたような空間ですれ違いながら出会う。仕事や勉強からの、ほんの少しの隠れ場所。全編通して名前は知らない誰か同士だ。 三人ともなんとなく先を見通せず、それでもなげやりになはならず、日々を生きている。このぎりぎりな真面目感が好きだ。同じビルに集う人たちも魅力的。 すごく大きな出来事は起こらない。とも見えるけれど、実際に起こったら確実に人生を終えるまで覚えていそうなことが起こる。その描かれ方がやっぱり面白いなと思う。何が起きても、世界も自分もどうにかして対処し、そのときもその後も淡々と時を刻んでいくんだ、という強烈なメッセージ。 いちばんの大きな出来事は何より、隠れ場所の古い配水管にたまった水から発する菌を吸った3人が、徐々に体調を崩していくことだ。隠れ場所はついに発見され、未知の菌騒動となり、3人は検疫で陽性となってしまう。入院で隔離される3人。ビルも解体されそうに。 自分の責めではなくとも、奪われていくこと。ここも本当に淡々と奪われていく過程が描かれる。そんなときも、時は同じように刻まれる。一緒に絶望的になる。 絶望からのラストの解放感。やっぱり劇的ではないところが最高だ。3人が顔を合わせる。隠れ場所の人たちかなと推測しあう、でもそれを明かすなんてことはしない。ビル解体のための重機は動かない。 3人と一緒にほっと息をついて物語を終える。やっぱり最高だ。
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津村さんの作品は、これまで楽しく読んできた。 長編はこれが初めてかもしれない。 解体が噂される古びた雑居ビル「椿ビル」が舞台。 そこに入っている会社の事務員ネゴロ。 給料が安く、嫌みな上司や困った後輩に翻弄される以外は不服もないが、そのぬるさに不安も感じている。 そこに入っ...
津村さんの作品は、これまで楽しく読んできた。 長編はこれが初めてかもしれない。 解体が噂される古びた雑居ビル「椿ビル」が舞台。 そこに入っている会社の事務員ネゴロ。 給料が安く、嫌みな上司や困った後輩に翻弄される以外は不服もないが、そのぬるさに不安も感じている。 そこに入っている学習塾に通う小学六年生のヒロシ。 去年いじめにあったせいで、母は母子家庭で大変なのにヒロシの中学受験を望んでいる。 ヒロシは絵を描くことに才能があり、勉強には全く身が入らない。 母親の心配をうっとうしがりながらも、母親の意思を理解し、それに合わせていこうとする大人な面を持っている。 そして、そこに入っている検査会社に勤める若手サラリーマンのフカボリ。 社会人生活も数年目で仕事に大きな不満もないかわりに、特段熱意も感じていない。 一人暮らしの家をシェルターのように感じている一方、ふと一人で暮らしていることに不安を感じたり、結婚についてもやもや考えたりしている。 こんな三人が、それぞれの持ち場からビルの倉庫の物置に息抜きにやってくる。 三人は直接顔を合わせることがないまま、そこにあるものを貸し借りしたりして、お互いの存在を知っていく。 水害が起こったり、そのせいで給水タンクの水が汚染され検疫の対象になったり、取り壊し工事がはじまりそうになったりと、いろいろな事件が起こる。 そして最後に、三人はお互いの存在と顔が一致する形で出会うことになる。 …ということなのだが。 私が津村さんの作品に惹かれるのは、自然なところ。 プロットや語りの技術で読者をひきずりまわしたり、ドラマチックなできごとが連続するするような派手派手しいことがないことが好きなのだ。 自分の読む状況がよくなかったせいかな? 他の本を読む合間に、切れ切れの時間で読んでいったせいで、あまり集中しきれなかったことがあるのかもしれない。 けれど、豪雨で屋上の貯水タンクが壊れ、雨水が入ったことでビルに菌が蔓延するという件がどうも腑に落ちない。 タンクの水が飲み水になっていたというならわかるけど。 雨水で病原菌が蔓延するなら、普段雨が降るたびに病人が出てしまうことになる。 これまで読んだ作品に比べ、ちょっと自分の波長には合わなかった気がする。
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面白かった。津村先生の長編の物語です。 特別な事件やハラハラするような出来事は起こらないのですが、日常をこんなに面白く物語に出来るのが好きで、他の作品も好きだなと感じています。 今回も登場する人物それぞれに物語があって、ネゴロが新人に対して感じる苛立ちや ヒロシの大人な考え方や絵が上手なところ、はたまたフカボリの不幸な出来事に立ち合ってしまう体質など、、読んでいてクスクスと笑ってしまいました。特に、地下道が水没してしまった際に「渡し」がいるというシーンが可笑しかったです。 3人は最後まで出会わずに終わってしまうのかと思いましたが、無事に会えてビルを遠くから見守るような姿が想像できました。消しゴムはんこをヒロシから貰ったときのシーンも心を打つような感じがして印象に残りました。
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老朽化した雑居ビルを舞台に、そこに通う人々のあれこれを書いた話だけれど、こういうテーマで想像する小説とは手触りが違った。 トラブルが起きてもあくまでも地味で、湧き起こる興奮もなく、主人公三名はいつも頭の中で静かに考えるタイプだし、盛り上がりそうな場面でも作者は決して盛り上げる様子がない。最後まで何もない小説と言ったら語弊があるかもしれないけれど、あえて平静に描かれる日常は自分の日常にも近くて、無理なく馴染んでくる。これはとても高度なことが行われている気がする。 ヒロシ視点の時は特に、ハッとするようなことが書いてあり、彼に教わることが沢山あった。まだ子どもだけれど大人の部分があって、それは両親が離婚して母親の元で暮らしている事情からそうならざるを得なかったのかもしれないし、もともとの気質なのかもしれない。はじめは「小学生か」とあまり興味が出なかったはずなのに、ヒロシの存在がこの物語に必要不可欠であることは確かだと思った。 最後まで読んでみて、なんて言ったらいいのか分からない気持ちになって、でも「このまま生きてみてもいいのかも」とぼんやり思うような、そういう話だった。生活が続くことって、きっとこういうことなんだ。
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あ、良かったな。これ三者の邂逅は出会いにまで繋がらずに終わるのか?と不安だったけどラストも良かったな。俺からするとこれは早熟な少年が主人公で彼の物語だったんだけど、読む人によって違うんだろな。うん。いいな津村記久子。こう言うのが読みたかったんだよ。すごく良かったな。ビルオーナーと...
あ、良かったな。これ三者の邂逅は出会いにまで繋がらずに終わるのか?と不安だったけどラストも良かったな。俺からするとこれは早熟な少年が主人公で彼の物語だったんだけど、読む人によって違うんだろな。うん。いいな津村記久子。こう言うのが読みたかったんだよ。すごく良かったな。ビルオーナーとしても思うところ沢山あったな。
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途中ちょっと飽きる感じもあった。なんでそこ描写したん?とかもちょこちょこ。けど総じて、そこそこ面白かった。いろんな人が出てきて、それぞれに仕事や日常があって、「椿ビルディング」で交わる感じが。あとがきは×。
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面白かった。平凡な会社員、平凡な小学生の日常でありながら非日常。冷静に考えて、水没した地下道をたまたま見つけたゴムボートで渡すアルバイトが急に発生するとか、子供が作った歯茎のオブジェとか、ありえないわけではないけど独特でくすっと笑える要素が散りばめられている。ネゴロもヒロシもとて...
面白かった。平凡な会社員、平凡な小学生の日常でありながら非日常。冷静に考えて、水没した地下道をたまたま見つけたゴムボートで渡すアルバイトが急に発生するとか、子供が作った歯茎のオブジェとか、ありえないわけではないけど独特でくすっと笑える要素が散りばめられている。ネゴロもヒロシもとても賢い。エリートが集まる進学塾では落ちこぼれのレッテルを貼られるヒロシも、そこの講師に下に見られる椿ビルディングの勤め人であるネゴロも、賢くて機転がきいて、人の価値は一面的に決められるものではないと思う。アヤニノミヤさんやノリエさんやミソノさんや、古びて家賃の安い椿ビルディングで店を出す人々一人ひとりにバックグラウンドがあって、その人生が窺い知れるのも面白くて、生き方も価値観もそれぞれに生き生きとしていた。生きるってこういうことやなぁって感じ。
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津村さんらしい特に大きな事件が起きない淡々としたストーリー展開。 でもところどころクスッと笑えるし登場人物に愛着がわく。 津村さんの感性が羨ましい。 平凡な毎日やつまらない仕事も津村さんの目で見たら面白く感じられそう。
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なぜか未読だったが、たっぷり味わい尽くして満足。解説は松浦寿輝氏、津村さんの素晴らしさを余すところなく伝えてくれてこちらも満足。津村さんの文章は読むこと自体が快感になる。好きな箇所は無数にあるが例えばP377--- 背の高い女の看護師で、何くれとなくいかつさを発揮しては、ネゴロを...
なぜか未読だったが、たっぷり味わい尽くして満足。解説は松浦寿輝氏、津村さんの素晴らしさを余すところなく伝えてくれてこちらも満足。津村さんの文章は読むこと自体が快感になる。好きな箇所は無数にあるが例えばP377--- 背の高い女の看護師で、何くれとなくいかつさを発揮しては、ネゴロをばつが悪い気分へと追い込んでいた。---なんてところぞくぞくする。その前にこの看護師に関して、「外の血っていう貼り紙スゴイですね」「私が書きました」みたいなやりとりがあるのだがこの伏線があっての引用部分でニヤッと笑ってしまうのだ。あとこの作品の登場人物の中では小学生のヒロシが特にいとおしい。
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ちょっと長く感じたけどやっぱり心地良い読後感。津村さん。 登場人物みんな嫌味がなくてほんと好き。
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