平家物語 犬王の巻 の商品レビュー
題材がとても興味深くて手に取りました。 レイアウトが上下余白大きく、文字もかなり大きめ、したがって行間広め。読みにくい。とても読みにくいけれど、昨今の出版事情からしたら仕方ないのかなとそこは納得しました。 ですが本文の読みにくさは、こちら側ではいかんともしがたく。何言ってるの...
題材がとても興味深くて手に取りました。 レイアウトが上下余白大きく、文字もかなり大きめ、したがって行間広め。読みにくい。とても読みにくいけれど、昨今の出版事情からしたら仕方ないのかなとそこは納得しました。 ですが本文の読みにくさは、こちら側ではいかんともしがたく。何言ってるのか何書いているのかわからない。一つ一つの文章の意味はわかるけれど、つながりがぶつ切れてるところが多く、突然戻ったり省略したり表面的だったり。頭での補完が大変。書いた人だけがわかるプロットを読まされているような。題材はすごく面白いのに! なんとか最後まで読み、つまりこういうことね? というのはわかります。わかりますが。これを素案・原案として他の方が物語として仕上げたものが読みたいです。ドラマチックになる要素たっぷりなんだもの。 どなたかの解説でうまくまとめたものが巻末にあるにちがいない、それを頼ろうとしたらなんにもなかったし(書きづらいとは思うけど欲しかったなあ。どうしてこういう文体になったのかも含めて理解のたすけが欲しかった)。 題材面白いだけに、うーん……となりました。 もちろん本文を面白いと思われる方もおられるでしょうし、あくまでも個人の感想・覚書として記述いたしました。
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古川日出男著『平家物語 犬王の巻』読了。古川日出男という小説家が書き続けているもののひとつ、正史に対する偽史がある。 真っ当に向き合えば向き合うほどに歴史はリアルに捉えきれなくなっているから、正史に対しての偽史、あるいはパラレルワールドみたいな非リアルなものしか書けなくなっているとスティーヴ・エリクソンとの対談の時に言われていた。 この『犬王の巻』はもちろん訳した『平家物語』から生まれている。読みながら浮かんできたのは紫式部が怨霊として娘たちに憑いて『源氏物語』の続きを書かそうとした『女たち三百人の裏切りの書』だった。今作は琵琶法師が犬王という能楽師について語る、物語の語り部がいる。ふたつは近しいものがあるのがわかる。 古川さんが『平家物語』に取り組み初めてから語り部の存在が物語にはっきりと出てくるようになった気がする。 それはきっと、歴史とは勝者の都合のいい解釈や封印されたものないものにされて忘却させたものの上積みだからだろう。 敗者の真実や本当にあったことは歪められるかなかったことになる。偽史を書くとすれば失われてしまったことを語るものを召還するしかない。 『女たち三百人の裏切りの書』『平家物語』『平家物語 犬王の巻』という過去を描いた(訳した)ものには語り部がいる。2026年オリンピックすら終わった東京を舞台にした『あるいは修羅の十億年』にはいない。語り部は肉体をすでに失っているという存在であるのか。 『犬王の巻』は語り部と語られた者の話、犬王は『摩陀羅』のマダラのような宿命を背負っている。王になるべき者の父、前の王はやがて自分の立場を奪うことになる我が子を生け贄に捧げる。呪いが反転すれば祝いになる。ただ、父殺しの話ではない。すべてを手にいれても歴史が時の為政者と向かい合うときが来る。 正史と偽史についての想像力の小説。
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