「本をつくる」という仕事 の商品レビュー
「『本をつくる』という仕事」稲泉連 ノンフィクション。紙の色。 「ぼくは『本』という形あるものが好きだ。」。 僕が本をつくることに関わる仕事に就いたのも、あとがきにあるこの一言に尽きる。 本は、文化を支える媒体であり、研ぎ澄まされた表現であり、人を内省に向かわせる薬であり、暴...
「『本をつくる』という仕事」稲泉連 ノンフィクション。紙の色。 「ぼくは『本』という形あるものが好きだ。」。 僕が本をつくることに関わる仕事に就いたのも、あとがきにあるこの一言に尽きる。 本は、文化を支える媒体であり、研ぎ澄まされた表現であり、人を内省に向かわせる薬であり、暴力装置を監視する武器であり、コミュニケーションの手段であり、そしてひとりひとりの大切な財産だ。 考察すればいくつも、本の持つ魅力や特性が出てくるけれども、正直なところそれは後付けであって、モノとしての本のない生活が考えられないということだけかもしれない。 目的のある読書というのが苦手で、もちろん嫌いなわけではなく自己実現欲求としてあるんだけれども、やはり本との向き合い方は、その世界に没頭できるかどうかで決まってくる。 その没頭感を与えてくれるのが、本という媒体の完成度であり、身体性であると思う。 本書はそうした身体に馴染む本を「つくる」人々に焦点を当てたルポルタージュ。一貫して感じたのは、本に携わる人々がつくっているのは、その中身に表現されている文章や物語を届けるための(文字通り)媒体である、という意識であること。 これは、最終章で取り上げられている児童文学作家の角野栄子さんも例外ではないと思う。 人間は、実際に会って話をして、という対面のコミュニケーション以外にも、文字を介した非対面のコミュニケーションの世界を持っている。 本は、そうした非対面コミュニケーションのなかでも、より影響力のある書き手が、より多くの人々に対して表現する、という手段に特化してきた。 情報通信機器とはまだまだ並存していくと思うし、インターネットが普及すればするほど、本を無意識的に好きだという人々には、その良さが際立ってくる。 そうした「傍にある本」をつくり続けていくために、僕はまだまだ本に関わって生きていきたい。 (4)
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一冊の本は「文字体」、「装丁」、「紙質」、「校閲」、「海外との販売代行」など様々な分野で様々な人が魂を掛けた芸術作品である。 「文字体」はより読者の心を摑む文字にする為に数万文字を一文字ずつデザインし、指摘を受けつつも全てこなす。担当した人は文字の更新に7年の歳月を要したと言...
一冊の本は「文字体」、「装丁」、「紙質」、「校閲」、「海外との販売代行」など様々な分野で様々な人が魂を掛けた芸術作品である。 「文字体」はより読者の心を摑む文字にする為に数万文字を一文字ずつデザインし、指摘を受けつつも全てこなす。担当した人は文字の更新に7年の歳月を要したと言っていた。しかしまた充実した7年間であったとも言っている。今打っているこの文字も一文字一文字デザインしてくれた人達がいてこそである。さらに昔は手彫りで掘っていた時代もあり驚きである。 「紙質」は昔酸性紙が主であった為長期保存が効かずボロボロになるものが多かった。長期保存する為に中性紙を使用しなければならないがコスト、時間が掛かり大変であった。また、「紙」は縦繊維と横繊維があり、ページをめくり易いのは縦繊維である。そうした読者への気配り、技術の進歩にも魂を賭けていた。 「校閲」は菅田将暉、石原さとみ主演のドラマ「地味にすごい」で校閲部門の人々の仕事ぶりを描いていたが、校閲の人達は本当に命がけだと思った。校閲は原作者の作品を最初に見て誤字脱字、矛盾がないか添削するいわゆる赤ペン先生である。しかし、見落とし等の抜けがあり、間違ったまま出版すれば最悪絶版の危険性もある。地味な部署だが本当にすごい部署だと思った。 「装丁」は本の表紙等のデザインで、本の顔だと思う。装丁する本を一読し、また取材をし、その本の魅力を最大限に引き出すデザインをする。技術、感性のスペシャリストと思った。 「海外との販売代行」は「タトル・モリ」という会社が海外に出向き、日本人にウケそうな洋書を翻訳し、出版し、また日本作品を世界に輩出している。洋書で代表的なものは「フォレスト・ガンプ」「氷の微笑」「シックス・センス」等。こうした人達が居なければ海外の良い作品を見れず、また日本アニメのように日本の良さをアピール出来ない。 本は時代の現れでもあり芸術である。江戸時代の本棚、中世ヨーロッパの本棚、そして現代の本棚、それぞれの時代にそれぞれの技法で作られており、感じるものもまた違う。 普段何気なく手に取る一冊の本、その本が本棚に並ぶことは多くの人達の歴史、努力の積み重ねであり、素晴らしい事である。「君達ほどう生きるか」の本を読んだ時に自分1人の存在は周りと切っても切り離せない存在だとあった。食べ物、着るもの、全てにおいて作る人、そして着る、食べる自分がいること、本についても同じで繋がっている。今回は本の制作過程を見たが、一冊の本の見方が変わり、より大切にしようと思った。
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著者の仕事観の本ではなく、外からはなかなか認知されない本にまつわる職についている人、数名を取材した本。 書体デザイン、製本マイスター、活版印刷屋、校正校閲などなど。さらっと読み。
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本は決して、作者が文字や絵を書いて、それを印刷すれば出来上がりというわけではない。内容を誤りのないものにするためには校閲の作業が必要だし、印刷された「紙の束」を本にするには製本や装丁が要る。そもそも、文字の形(フォント)や本の紙にも色々な種類があって、それはそれぞれ本のために誰か...
本は決して、作者が文字や絵を書いて、それを印刷すれば出来上がりというわけではない。内容を誤りのないものにするためには校閲の作業が必要だし、印刷された「紙の束」を本にするには製本や装丁が要る。そもそも、文字の形(フォント)や本の紙にも色々な種類があって、それはそれぞれ本のために誰かが作ったものだ。 本は、特に紙の本は、そんな多くのプロフェッショナルたちの仕事で成り立っている。これはそんな人々に焦点を当てた本だ。 自分は電子書籍はあまり得意ではなくて、コレクション的な意味も含めて紙の本が好きなのだけど、その割に、本がどのように作られているかということにはあまり目を向けていなかったような気がする。だから、本が絶版になったというような話を聞くと、「データはそこにあるのだから、絶版なんて言わずに刷ればいいじゃないか」と思っていた。文字通り、刷ればそれで本ができると漠然と思っていたのだ。でも、違う。私たちが欲しいのは本であって、紙の束ではない。それが本になるには、また多くの手をかける必要がある。 売れない本は絶版になってしまう。残念なことでもあるけれど、それは、本というものが多くのプロフェッショナルの仕事を経て生まれてくることの裏返しなのだと分かった。 様々な仕事が本書では取り上げられているけれど、自分が一番好きなのは新潮社の校閲部を紹介している章。ある作家さんが、新潮社の校閲はすごい、と言っているのを見たことがあって、興味があった。どちらかというと「古き良き時代」のことについて多く語られてはいるけど、総じて校閲という仕事の意義や使命について熱く語られている。校閲は出版社の良心だ、と。校閲が、単に誤字脱字のような明らかな誤りだけでなく、ストーリー構成の矛盾点までも指摘する仕事だとは知らなかったので、驚いた。 この本を読んだ後に、古本屋で昭和10年代とかの本を目にする機会があった。当然活版印刷で、装丁も豪華というわけではないけれどどれもとてもこだわりを感じられる作りだった。自分がその時見たのは価格にして数百円だったけど、それでもだいぶ興奮したので、『ビブリア古書堂』シリーズなんかで高価な古本を犯罪を犯してでも手に入れようとする人に、初めてちょっと共感できた気がする(笑) 本は文庫本も良いけれど、本書を読んだ後は、より個性の出る単行本を読みたくなる。本屋さんで製本や装丁に着目したフェアなんか組んでくれると面白いのになあ、と思った。本好きは読んで損のない一冊だと思います。
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本というのは不思議なものです。嗜好品のようでいて、世の中ではとっても重要なものと認識されてもいて、意識して手に取らない限り一生関わらない本が大多数を占める。それだけ沢山の本があるのに街中で本読んでいる人なんて一握りで、誰が消費しているのやらさっぱり分からない。本作りに携わっている...
本というのは不思議なものです。嗜好品のようでいて、世の中ではとっても重要なものと認識されてもいて、意識して手に取らない限り一生関わらない本が大多数を占める。それだけ沢山の本があるのに街中で本読んでいる人なんて一握りで、誰が消費しているのやらさっぱり分からない。本作りに携わっている人は(売り手も含め)殆ど求道者のような扱いで、とてもじゃないけれど経済活動しているように感じられない。 一部の話題の本や映画化された本以外は本当に地味に展開されていて、本好きではない人にアピールする方法なんて思いつきもしないです。そう考えると王様のブランチって大事だなと思います。 そんな中で、まさに本作りの裏方中の裏方から、書き手まで本を作り事に関する手が沢山描かれています。 紙までは何とか認識していましたが、書体迄作らなければならないという所で頭叩かれたようなびっくりが有りました。そうだ、本もPCも携帯もまず字が全部作られ登録されていない限り使えないんだと思ったらば、この駄文を何気なく打っている事が申し訳ない位です。何万語という字を一つ一つ検証するなんて考えもしませんでした。 紙も今となっては中性紙が普通ですが、ここ数十年に確立した技術なんですね。その技術が有ればこそ読めているんだと思うと、ひたすらひたすら感謝感謝です。
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たしかに、またとない貴重なエピソードもある。 しかし、この本の魅力はインタビュアーである著者の本を作る人への敬意にあり、そこから醸し出される、香り立つ文章が、なんともいえず、切ない、大切なものに出会ってしまった感情を呼び覚ますのだ。 どの仕事人も素敵。何度もこみあげるものがあっ...
たしかに、またとない貴重なエピソードもある。 しかし、この本の魅力はインタビュアーである著者の本を作る人への敬意にあり、そこから醸し出される、香り立つ文章が、なんともいえず、切ない、大切なものに出会ってしまった感情を呼び覚ますのだ。 どの仕事人も素敵。何度もこみあげるものがあった。
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本をつくる人々をテーマとした本 こちらの本、本好きとしてすごく面白かったです(*^^*) 第一章は大日本印刷「秀英体開発室」に勤める伊藤正樹さんの話し 二万三〇〇〇字に及ぶ文字の全ての基本として試作される漢字十二文字 国 東 愛永 袋 霊 酬 今 力 鷹 三 鬱 書道の世界にある...
本をつくる人々をテーマとした本 こちらの本、本好きとしてすごく面白かったです(*^^*) 第一章は大日本印刷「秀英体開発室」に勤める伊藤正樹さんの話し 二万三〇〇〇字に及ぶ文字の全ての基本として試作される漢字十二文字 国 東 愛永 袋 霊 酬 今 力 鷹 三 鬱 書道の世界にある「永字八法」という言葉 「永」の字には点、横画、縦画、ハネ、左払い、右払いといった漢字の基本パーツが含まれている 他の字も同じように書体を制作する際の基本形となる字 第二章 製本マイスターさんのおはなし 第三章 活版印刷屋さんのおはなし 活字を拾う職人さんの凄さ 第四章、新潮社の校閲部に定年まで勤めた矢彦孝彦さんのおはなし 五味康祐、池波正太郎、松本清張、井上ひさし、司馬遼太郎など作家たちの原稿の直し方 第五章 すべての本は紙だった 三菱製紙 洋紙事業部 中村禎男さん 『読者の方々はその本の中身を買っているわけで、書店で紙を買っているという意識はないでしょう。でも、彼らはみんな僕らがつくった紙を見ているんです』←単純にそうだよね!と感嘆! 1980年代初頭、10年以上の歳月をかけて 数十年という寿命しかなかった『酸性紙』から 300年から500年という品質が保証された『中性紙』への転換を行った 現在の紙の寿命は全然意識していなかった。改めてきくと凄い! 第六章 装幀家さんのおはなし 第七章 海外の本の架け橋 『タトル・モリ エイジェンシー』とそこで働いているエージェントのおはなし 第八章 『魔女の宅急便』の著者 童話作家、絵本作家 角野栄子さんのおはなし
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
紙の本・電子書籍 みなさんの好みはどちらですか? どちらもメリット・デメリットをいくつもあげられますが、私は紙の本が好みです。 その理由は、めくる時の紙の質感が好きであるから、紙の本の装丁は本の内容と結びついている気がするから・・・。あげだしたらきりがありません。 この本を通して、私は更に紙の本の魅力を感じることが出来ました。なぜなら、この本を通して1冊の紙の本を作りあげるプロたちの技と心意気に強く魅せられたからです。紙の質感・文字のフォント・装丁(以下略)そして著者…1つ1つのプロが本気で向き合って1冊の紙の本は出来上がっているのです。普段なかなか気付けないプロたちの仕事ぶりに心を止めることで、電子書籍派のあなたも、紙の本を手に取りたくなるでしょう。
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「たとえお金をかけなくても、宝石みたいな本はつくり手たちが必死に手間と時間をかけて工夫すれば、つくれるはずなんや。それを見て「こんな本をつくりたい」と思う人がいる限り本は残っていくやろ。そのためにはやっぱり紙の本が美しくなければあかんのですよ」 (P.186)
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○活字-秀英体を作った人 大日本印刷伊藤正樹さん ○ドイツで学んだ製本マイスター 松岳社青木英一さん ○活版印刷工房 FIRST UNIVERSAL PRESS溪山丈介さん ○校閲者の矜持 元新潮社矢彦孝彦さん ○本の紙 三菱製紙八戸工場日比野良彦...
○活字-秀英体を作った人 大日本印刷伊藤正樹さん ○ドイツで学んだ製本マイスター 松岳社青木英一さん ○活版印刷工房 FIRST UNIVERSAL PRESS溪山丈介さん ○校閲者の矜持 元新潮社矢彦孝彦さん ○本の紙 三菱製紙八戸工場日比野良彦さん ○装幀家 日下潤一さん ○翻訳本エージェント タトルモリ玉置真波さん ○絵本作家 角野英子さん 筑摩書房 『ちくま』連載
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