タダイマトビラ の商品レビュー
「タダイマトビラ」 これは難しいことを。 恵奈の母親は母性に倦んでいた。家のことは作業として淡々とこなすだけ、恵奈と弟の啓太に愛情を注ぐことはない。そんな母親を避けるように父親は意図的に家に居なくなり、啓太は、より母親の愛情を求め、そして、失望していく。そして、恵奈は「カゾ...
「タダイマトビラ」 これは難しいことを。 恵奈の母親は母性に倦んでいた。家のことは作業として淡々とこなすだけ、恵奈と弟の啓太に愛情を注ぐことはない。そんな母親を避けるように父親は意図的に家に居なくなり、啓太は、より母親の愛情を求め、そして、失望していく。そして、恵奈は「カゾクヨナニー」という密やかな行為で、抑えきれない「家族欲」を解消する。 恵奈は、高校に入り、家を逃れて恋人と同棲を始めたが、お互いを家族欲の対象に貶め合う生活に恵奈は気づいてしまう。この時の恵奈が受けた衝撃はとんでもないものだっただろう。恋人が恵奈に求めていたものは啓太が母に求めていたそれであり、そんな啓太を恵奈は鬱陶しがっていたわけだから。恋人との関係は啓太との関係よりある種濃いのだから、受けたインパクトはとてつもない。 テーマは家族。人が帰る所は本当に家族であるのかを現実的に幻想的に、そしてホラーチックに書き上げているのは、流石と感じる。ただ単に現実的に書くだけでなく、現実的だからこその怖さがあったり、理想的な家族との乖離を幻想的な手段で終結させたり、一般的な家族がテーマの小説とは違う。蟻を潰す辺りはホラーなんだけど、結局この行為が、家族とは何かに対しての解になっていて、扉に続いていく。ここのくだりは印象的。 また、個人的には表現の仕方が凄いなと。ニナオとのカゾクヨナニーという表現によって、一気に「ああ、これは普通の家族ものじゃないな」と。オナニーという性欲解消を家族に対する欲の解消という観点で表現し直すのは凄い。 村田沙耶香とは、王道になりがちなテーマを変わり種にしちゃうな、と改めて感じた一冊。
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家族とはいえ、他人は他人なのに、血縁関係があるからこそ、色々ややこしくなるのかな。 予想を超える展開。どちらかというと得意ではない物語だったが、スラスラ読めてしまう。
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「コンビニ人間」がとても好きだったので読んだ1冊。 メモをとり、付箋を貼りながら丁寧に読んだ。一つ一つの言葉選びや主人公の思考はどれも印象深かった。 生命感のある物質の描写、経血や涎などの体液の描写が頻出するので、淡々とした語り口ながらもどこか生々しく不気味。 浩平が激しくカゾクヨナニーをしてからの急展開に強く引き込まれると同時に、主人公の思想についていけなくなってくる。が、主人公が最後に見出した「本当の家族」の形や、そこへ着地していく様が不気味ながらも面白かった。 「私たちは取り替えられていく。今まで消えてきた沢山のアリスと沢山の私が溶けた大気の中で、私は呼吸している。」 123頁 母がインナーチャイルド療法に失敗して2人で爆笑するシーン 主人公が爆笑したときの感情が難解で何度も読んでしまう。 「母は私たちを虐待するのを我慢しているのかもしれない。そう思うと顔の筋肉がますます持ち上がり、笑い声は止まらなかった。」 「人のいい母の辛抱強い努力によるものなのだろう。」 「この家で朽ちていく失敗者の母を思うと、笑いがこみあげてしょうがなかった。」 180頁 「この人、私でカゾクヨナニーしてる!」で思わず笑ってしまった。カゾクヨナニー、キラーワード過ぎるな。 恵奈、人におかずにされることがそんなに嫌か? ただ、確かにこのシーンの浩平のセリフは気色悪い。 主人公の語り口による洗脳か、カゾクヨナニーする人間達の生々しい描写が原因か、 カゾクヨナニーする浩平や伯父や家族達等、世間的にみれば「普通」なものが異質に感じてくる。 家族だから、血が繋がっているから愛情を持たなくてはないけないのか?という疑問は共感できたし、ただ母親としての任務を果たそうとする母親も主人公の「家族」への不信感もなにもおかしなことではないと私は思う。 「粘ついた糸」「水色」「真っ黒な穴」「ドア」 上記の言葉が頻出だったのが印象的で、一つ一つの言葉の使われ方を確認していきたい
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才能がありすぎというか、やっぱり村田さんの書くお話は良い意味で本当に怖いよな……ぶっ飛んだ設定でも、自分とは違う価値観でも、描写が落ち着いていてお上手だから「あれ?怖い気がするけど、おかしいのはこれを怖いと思うわたしなのかな?」って思っちゃうんだよな………読んでいて心地良い作品で...
才能がありすぎというか、やっぱり村田さんの書くお話は良い意味で本当に怖いよな……ぶっ飛んだ設定でも、自分とは違う価値観でも、描写が落ち着いていてお上手だから「あれ?怖い気がするけど、おかしいのはこれを怖いと思うわたしなのかな?」って思っちゃうんだよな………読んでいて心地良い作品ではないけど、どんどん引き込まれてしまう。解説の文章にあった、「異物」を「異物」のまま受け入れられるだろうか、という表現がとてもしっくりきた。村田さんの本は、甘い砂糖でコーティングなんかせず、ぼやかしたりせず、確かに異物なんだけど、決して違う世界だとは思えないんだよなあ。そこがまた怖い。 わたしにとっては読みたくなるときと読めないときの差が激しい作家さんです。わたしの脳が異物を求めてるときは読みたくなる。本当に本当にすごい人だと思う。いろんなお話を書いていただきたいです。
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家族について考えるきっかけになる。ラストシーンにはあんまり意味がないように感じる。家族的なものへの違和感と対比させるための真っ白な現実味のない世界観、生命体?としての人間に向かって、まっしぐらに後半は転がり落ちていく。 対比させるものが、空虚というかフィクションすぎて、いまいち...
家族について考えるきっかけになる。ラストシーンにはあんまり意味がないように感じる。家族的なものへの違和感と対比させるための真っ白な現実味のない世界観、生命体?としての人間に向かって、まっしぐらに後半は転がり落ちていく。 対比させるものが、空虚というかフィクションすぎて、いまいち現実感がない。思想が薄い。なので現実サイドの方が印象強く、むしろ読み終わって家族のストーリーなのかな、という、現実の黒い線でしっかり書かれた部分が浮かび上がって見えた。 人によっては白い紙の上に砂糖で描かれた、おかしな世界の方に浸る人もいるのかもしれない。私にはその世界が読み取りにくかった。 最後の退場するところなど、随所に脚本チックなところがあり、作者の現実感のなさ、どうとでも受け取れる抽象度の高さが、作者の好みなのだろうかと思った。色彩表現が特徴的で、場面転換する前に三行ほど、いつも色彩の絡めた情景描写があり、主人公の心理展開が段階的に起こっていく。結果として、読者へのラストシーンへの心の準備になっているような気がしないでもない。 なので、そこが理解できないとラストシーンも意味不明になる。まあ、誰が読んでも意味は不明なのだが、小説として納得できない感じになると思う。 主人公が空色の鍵をアスファルトの床の上に落とすシーンで少し違和感があり、なんでこんな描写があるのか、と謎で思わず何度も読み返してしまった。後々そういう描写が増えたので、こういうものなのだと理解させながら読んだ。場面転換する前の描写を抜き出していくと、たぶん理論だっているのだと思う。 抽象度の高い演劇が好き、という人や女性なら、そこそこ読めるのではないかと思う。現実主義的な人や演劇の世界観に親しみのない人はポカンとして、小説って理解できないよね、と離れていってしまうかもしれない。 彼氏、めっちゃいい奴だったのに腹蹴られてかわいそう。なんか、女子やかつて女子だった人が意味不明な現実感のない世界に閉じこもるのはいいんだけど、現実で人を蹴飛ばした代償は受けろよという感情が芽生えてしまった部分に、自分の現実主義的な部分を感じつつ。 母親の性格のおかしさの説明が、会話に終始しており得に最初の方はどんな人間なのか理解しにくかった。会話以外の奇行がなかったから、たんたんとこういうおかしい人なんですよ、と説明を受けているようでイメージが沸き辛かった。 まあでもラストがあれなので、これくらい平面的な描写でちょうどいいのかなあ。彼氏との同棲だけがリアリティーを感じた。もし家族世界に再度おかえりすることがあれば、彼氏には、優しくしてあげてほしい。
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"コンビニ人間"における発想の突拍子無さを体験して、他の作品も読みたくなった本著者。本作が勧められているのは何度か目にして、上記の次に手に取ったもの。やっぱり独特ですね。題名からは全然予想できんかったけど、まさか全人類を否定してひっくり返してくるとは。彼氏をほ...
"コンビニ人間"における発想の突拍子無さを体験して、他の作品も読みたくなった本著者。本作が勧められているのは何度か目にして、上記の次に手に取ったもの。やっぱり独特ですね。題名からは全然予想できんかったけど、まさか全人類を否定してひっくり返してくるとは。彼氏をほっぽらかして家庭に戻ってからの急展開が衝撃的。その彼氏も、結局それっきりだし。物語が破綻する一歩手前の荒業。素敵。他の作品も読まなくちゃ。
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一緒に生きていくって、綺麗なことばかりじゃない。大変なことのほうがずっと多いけれど、それでもやっぱり、たまにはいいこともあるのよ
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主人公よりずっと年齢重ねたおばさんなのに、親近感があって、そんなわたしは、やっぱり人と違うんだと思ったり、でも、ここまでには行き着かなかったと反省したり、読んでいる間、ドキドキして、ゾクゾクして、そして、果てました。
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オナニーとは欲望の自己処理と知って、機能不全な家族に代わってカーテンにくるまってhshsすることをカゾクヨナニーと呼ぶことにした、とか、 水色のカーテンをニナオと名付けた、とか、 とにかくネーミングの面白さが抜群。 このカゾクヨナニーという概念とネーミングを思いついた時点で、作者としては勝ったも同然だ。 語り手の名前恵奈が胞衣(胎児を包んでいる膜および胎盤・臍帯)と同じ発音なのも明らかにダブルミーニングだろう。 ちなみにカゾクヨナニーが、インターミッションのごとく頻繁に行われるのも、実際のオナニーみたいで興味深い。 ところで初潮への嫌悪感は、「ギンイロノウタ」とは真逆。 なのにむしろセックスという行為自体にはすんなりと飛び込む。 そして閉じ籠る「ギンイロノウタ」に対し本作では「外に出る」(いろいろな意味で)。これも真逆だ。 恵奈がトビラやドアに固執するのは、母の子宮に帰りたいからだ。 なのに当の母は「インナーチャイルドを、撫でようと思ってもどうしてか血だらけになるまで殴っちゃうんだよね、ははははははははは」と言うほどの変わった人なのだ。 そして作者はよくある虐待ものとして描かない。 母親は決して悪意の塊ではない、自分自身も母親的になりかねない、なる可能性はある、誰もがああなり得るということを、割と突き放している。 「家族というシステムは、実はカゾクヨナニーシステムで、その中で皆、ヒトをバイブにして自慰を繰り返しているに過ぎないのだ」という達観を得てしまっては、もう誤魔化しの家族には戻れないだろう。 作者もあっちに行っちゃっており、読者をもあっちに連れて行っちゃう、極めて劇薬的に作用する小説なのだ。 ラストはビジュアル的には「グロテスクE.T.」だが、SFと解釈してしまっては野暮だろう。 内面の変容=進化=退化、によって世界がこんなふうに見えた、ということで、もうあっち側の視点なのだ。 アリス。アセクシャル。など少女的な趣味が盛り込まれているのも、あー今まで自分が着目していたものは間違いじゃなかったんだ、とも感じた。
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村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を遥かに超えるぶっ飛んだ超異色作です。ネットで見たら村田さんのニックネームは何と「クレイジー沙耶香」と書かれていて随分と失礼な話だなと思いましたが良い意味(?)で当たっているかもとも感じましたね。「カゾクヨナニ―」「カーテンのニナオ」「蟻のアリス」...
村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を遥かに超えるぶっ飛んだ超異色作です。ネットで見たら村田さんのニックネームは何と「クレイジー沙耶香」と書かれていて随分と失礼な話だなと思いましたが良い意味(?)で当たっているかもとも感じましたね。「カゾクヨナニ―」「カーテンのニナオ」「蟻のアリス」、まあ普通の感覚ではありませんよね。そして誰もが唖然とするこの結末は、究極の非カゾクヨナニーつまりはヒロイン恵奈の巨大な妄想の産物なのか、それとも彼女は新人類で次第に人間は蟻社会みたいな方向に進むのでしょうか?どちらも怖いですね。
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