氷の轍 の商品レビュー
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自分はこの作品、文句無しに好きだ。 またしても女刑事で、しかも辛い出自があり「凍原」のような感じなのか?と思ったが、こちらは母と二人の姉妹の人生とそれに絡む人間を彫り深く描いたお話をミステリーという形をとり、とてもうまくまとめられていると思う。 よく桜木さんは「来し方」と使う気がする。 人それぞれの来し方をどう捉えるかは、当の本人しか分からないものであり、良きに計らったつもりでも結局は独り善がりで、それ故の悲劇だったのであろう。 幼い姉妹が林檎の木箱で海峡を渡り、北の大地の凍原をリヤカーに乗せられ運ばれる。後にできる轍と行く末、タイトルの意味がわかると泣きそうになり、「砂の器」の親子とも重なった。 真由の血の繋がりのない母親が、とても存在感がある。 桜木さんの作品、未読が残り数冊になってしまい、大切に読んでいきたいと思う。
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これは、ミステリーの形を借りた純文学だと思う。 謎解きが主眼なんじゃない。 人が生きていくこと。 絆。血。しがらみ。一人で立つこと。支え合うこと。 人生とは選択の連続であり結果であることが、この年齢になると怖ろしく迫ってくる。 自分の不幸をどう乗り越えるか。 宗教にすがる人もひともいれば、感受性を鈍らせていく人もいる。 本当に必要なもの以外をそぎ落として、最後に残ったものを、自分はどうやって守っていくか。 新興宗教の信者たちに対して書かれた “なににつけ他人の意見で自分を肯定したいのが彼らの言う「道」なのだとすれば、群れなくては何も解決できない。” というところに付箋をつけたのだけど、読み終わってみたらその2行前の方がテーマだったのかなと思った。 “「世の中なんでも、真面目に考えてりゃいいってもんじゃないぞ。それがただの免罪符だったらどうするんだ。真面目さにふりまわされると、自分が何なのかわからなくなるだろう」” 善意であることが免罪符になっていたのではないか。 他者に対する善意のつもりだったけど、ひとりよがりのそれは自分を救うためのものだったのではなかったのか。 年を取って、ひとりが淋しいと思うのは、この先もひとりなのかと思ってしまうのは、罪ではない。 けれど、それを見つめることなく、自分の孤独に気づくことなく、他者の幸不幸をはかろうとしたのが過ちの一歩だったのが哀しい。 桜木柴乃は初読みでしたが、釧路の空気というか情景を書くのがとてもうまい。 気温は低いのに湿度が高くてべたつくような空気。 8月の末に過去形でしか感じることのできない釧路の夏。 日本3大夕日の町である釧路の、大きな朱色の夕日。 釧路と札幌の言葉遣いの違いなんかもさりげなく書かれていて、彼らのセリフにリアリティを感じました。
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ドラマ化されたが、内容はだいぶ違う。ドラマも面白かったが、小説は小説でよかった。 あらすじ 北海道の東で、80歳の男性の死体が発見された。被害者は青森市出身で、元タクシー乗務員だったが、若い頃、歓楽街で働いていたらしい。独身にもかかわらず、釧路の市場にあるカマボコ店から頻繁に取り寄せていたことから、店主の女性を調べる。捜査する大門真由は、実父が別の女性との間にもうけた子で、墓に捨てられ、養女となった。定年間近の先輩刑事・片桐と捜査を開始する 前に読んだ桜木ミステリーでも思ったけど、寂しさと静かさがみに染みる。北海道と青森では、おなじ北の方にしても、気温と風土に違いがあって、それも面白い。虐げられてきた姉妹の人生の捉え方が違うってのも分かりやすく、余計にやるせない感じがした。
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桜木紫乃さん、初めまして。 内容も興味深かったけど、文章がとても素敵だった。 書きとめて残しておきたいような表現がたくさんあって、この人の文章をまた読んでみたいと思う。
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大門真由と片桐周平が釧路の海岸で発見された遺体に関する捜査を展開する過程で,制御が難しい人の感情の扱い方の一方法を見出す物語だ.兵藤恵子が最後の方で「感情の希薄さに落としどころ見つけるのも,生きる作業のひとつじゃないかと思うんですよ(p344)」と語っているのは,貧困な環境下で子...
大門真由と片桐周平が釧路の海岸で発見された遺体に関する捜査を展開する過程で,制御が難しい人の感情の扱い方の一方法を見出す物語だ.兵藤恵子が最後の方で「感情の希薄さに落としどころ見つけるのも,生きる作業のひとつじゃないかと思うんですよ(p344)」と語っているのは,貧困な環境下で子供を手放すことが頻繁に起こっていた時代を生きてきた人間が持っている,どうしても払拭できない感情から出てきたのだと感じた.遺体が滝川信夫と判明し,北原白秋の「白金之獨樂」が事件の手がかりになり,米澤小百合など多くの人物が登場するが次第に犯人へ焦点が絞られる過程が楽しめた.
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80歳の老人の謎の死を巡り、いろいろな人物の想いが巡るミステリー。若い女刑事真由とその相棒の片桐、そして老人と関係のあった人々。真由を初めなんの憂いも悩みもない人生を歩んで来た者はいない。むしろできればそっとしておいて欲しいと願うような背景が多かったりする。自分の出生が穏やかでな...
80歳の老人の謎の死を巡り、いろいろな人物の想いが巡るミステリー。若い女刑事真由とその相棒の片桐、そして老人と関係のあった人々。真由を初めなんの憂いも悩みもない人生を歩んで来た者はいない。むしろできればそっとしておいて欲しいと願うような背景が多かったりする。自分の出生が穏やかでない真由だが、明るく前向きな母に支えられなんとか納得しながら前に進んでいる。葛藤しながらも母への感謝を忘れない真由の生き様は潔い。エピソードの中では踊り子キャサリン嬢の来し方が一番心に迫った。揺るぎない筆致で迫るラスト。老人に合掌。
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北海道の釧路の千代ノ浦海岸で年老いた男のしたいあ、発見されるのだが、、、、 被害者は、タクシー運転手80歳で、札幌から来ているのに、ジャケットも着ていない麻の半袖の着衣に、大門真由は、不審に思うのであった。 主人公の 大門真由は、父親は、警官の実父であるが、母親とは、血のつながり...
北海道の釧路の千代ノ浦海岸で年老いた男のしたいあ、発見されるのだが、、、、 被害者は、タクシー運転手80歳で、札幌から来ているのに、ジャケットも着ていない麻の半袖の着衣に、大門真由は、不審に思うのであった。 主人公の 大門真由は、父親は、警官の実父であるが、母親とは、血のつながりがない、養女となっている、 今回のこの小説では、青森、北海道の我が子を育てる事の出来なかった母親が、泣く泣く、幼子を手放して行ったいきさつが、事件となっている。 何か、どんよりとした雪雲のような中を推理していくかの如く、人買いや、場末の一座の悲しい物語が含まれており、生涯独身、身寄りも失った男が、精一杯、昔の思い出と、幼かった子供を、好きであったその母親に会わせてやりたいと、思う気持ちが仇になっている。 自分の思い込みが、唯一正しいと感じていても、人それぞれ、自分のことで、周りの背景を消しながら生活をしてきた者にとって、過去の出来事は、琴線に触れるようなものである。 音を立てて欲しくないのである。 北原白秋の「白金之獨樂」の贈呈した本が、自分の手元に帰って来た時に、自分の人生も、残りの年数の間にどこかで、昔の思い出とつながりたい思いが、あったのであろう老人。 私も、京都の鳩居堂が、好きである。 ここの便せんで、手紙をしたためたのは、やはり、居ずまいを正しながら、考えた末に手紙を出したという、作者の思いが込められている。
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なにか映像化されたものを少しだけ見て、本を読んで見たいと思い、図書館に予約していた本。 映像の記憶は、暗くて重い。だったのに読んで見たいと思ったのはなんでだろう?と思いつつ、読みはじめたら一気読みでした。 事件の体ですが、事件解決というより、ひとの歴史です。 遣る瀬無い生き方...
なにか映像化されたものを少しだけ見て、本を読んで見たいと思い、図書館に予約していた本。 映像の記憶は、暗くて重い。だったのに読んで見たいと思ったのはなんでだろう?と思いつつ、読みはじめたら一気読みでした。 事件の体ですが、事件解決というより、ひとの歴史です。 遣る瀬無い生き方と白秋の詩が合っていて印象的。
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きっかけとなる、殺されてしまった老人がかわいそうに思うほど、女性たちのことがメイン。それがまた、釧路の気候や主人公をはじめとした人となりで深く読み入った。どうかな?と思うところもあるものの、やはり桜木紫乃は好きだなあ。
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釧路の湿った気候が小説から読み手の 肌に直接感じられる様だ。 淡々と話しは進められていくが 血生臭なくすべての真相が悲しく切ない。
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