ビリジアン の商品レビュー
何億年か前の海は山になって、そして高島屋の階段になった。(44) 家でテレビを見た。白い着物の侍が大勢の人を斬ってすべてが解決した。(60) 生温かい風が、カーテンのあいだから吹き込んできた。その度に、長く重いカーテンは昆布みたいに揺れた。(110)
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この小説(『小説』という鋳型に嵌め込むのもどうかと思う、解説も言っていたように連作散文詩という方が妥当)は、あえてジャンル分けをするとすればそれは心境小説という事になるかと思う。 古いカテゴライズで、有名所で言うと志賀直哉の『城の崎にて』、芥川龍之介の『蜃気楼』等々が挙げられると...
この小説(『小説』という鋳型に嵌め込むのもどうかと思う、解説も言っていたように連作散文詩という方が妥当)は、あえてジャンル分けをするとすればそれは心境小説という事になるかと思う。 古いカテゴライズで、有名所で言うと志賀直哉の『城の崎にて』、芥川龍之介の『蜃気楼』等々が挙げられると思うが本作はこれらをすべて千切り捨てている。柴崎友香のセンスが段違いなのだ。 同様に同世代作家も確実に差をつけられていて、保坂和志なんぞが待ってくれと言った所で、一生追いつけない位置まで柴崎友香は来たのだな、と再認識させられる傑作、怪作。 この頃で言う、心に〈刺さる、差さる〉表現がこれでもかとてんこ盛りで、文庫本でせいぜい200ページあるかないかだが、連載ものにしたってこれは書くのに相当、難渋したろうと思わせるものだ。 わかる人にだけ開かれた小説であり、わからない人には何の配慮もない小説だが、現代文学のエッジに位置する事は間違いない代物。
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- ネタバレ
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色縛りの連作。 実は緑よりも赤のほうが登場している印象あり。 というのは、地の文が「微温的緑」のままだからこそ、火や火事や血や夕焼けの赤が衝撃的なのだろう。 そいえば語り手も相手も結構熱い台詞を吐いている(どうやったら、ら、かっこよくなれるんかなって、とか、意思があればどこにでも行ける、とか)。 緑と赤の落差、微温と熱の落差、が本全体を不穏にしている。 そして、やはり文体の凄まじさ。 徹底的に過去形しか使わない「寝ても覚めても」と同じ系列だ。 そしてまた、記憶。 決してその時期だけにフォーカスしているわけではなく「その数年後にこうなったからこのときはこうだった」といった行き来も、なきにしもあらず、なので、視点が浮遊しっぱなし。 それが緩さではなく凄みに達するのが、文体の効果ということか。 さらにまた、生活のディテール。 どうしてそんなものに着目して記述できるの、という驚きが、さりげなく組み込まれて、唯一無二の読後感を引き出す。 唐突に出てくる海外ミュージシャンがだいたい関西弁で気さくなのは笑ってしまう。
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非常に難しい作品でした。 1つ1つの章は独特の目線と周囲との調和を気にしない一風変わった女の子のエピソードなのですが、全体を構成する意味、時折登場するアーティスト、前後する時制など、解説を読まなければ消化できませんでした。 少し時間が経ってから再読する必要があるかな。
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大阪が舞台という事で前々から気になっていた作品。 著者と同世代で同じく大阪育ちなので、10代の主人公・解の目を通した大阪の街の当時の様子を懐かしく思い起こせました。 1本10ページ程度の短編集で、時間軸はバラバラ。 その構成が解の記憶のあやふやさを際立てていると思います。 唐突...
大阪が舞台という事で前々から気になっていた作品。 著者と同世代で同じく大阪育ちなので、10代の主人公・解の目を通した大阪の街の当時の様子を懐かしく思い起こせました。 1本10ページ程度の短編集で、時間軸はバラバラ。 その構成が解の記憶のあやふやさを際立てていると思います。 唐突にリバー・フェニックスやマリリン・モンローが大阪の街に現れて、大阪弁で解と会話しているところあたりも、記憶というよりは空想なのかなと。 特にこれといって大きな事件が起こるわけでもなく、主人公も仲良く遊ぶ子はいるけどクラスでは孤立しがちで……といった、まあ平凡と言える人物なので、大阪という土地に愛着のない人には入っていきにくいかも。 個人的にはノスタルジーをたっぷり味わえて気持ち良く読めました。
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文学ですね。 大阪の少女の小学校から高校時代の記憶が、それぞれ数ページの文章でで順不同に語られる。8㎜で撮影された日常風景を、思いつくまま再生した感じ。そこに何かのイベントや転機があるわけでもなく、ただ淡々と丁寧に。時折奇妙な心象風景が混ざりこんだりする。 鮮やかに主人公の少女・...
文学ですね。 大阪の少女の小学校から高校時代の記憶が、それぞれ数ページの文章でで順不同に語られる。8㎜で撮影された日常風景を、思いつくまま再生した感じ。そこに何かのイベントや転機があるわけでもなく、ただ淡々と丁寧に。時折奇妙な心象風景が混ざりこんだりする。 鮮やかに主人公の少女・山田解の姿が浮かび上がる。 しかし、それだけなんですね。何か特別な主題のようなものは感じられない。山田解は柴崎さんの記憶のようでもあり、そうなると一種の私小説ですかね。だから純文学。
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色彩と外人と10代の記憶を詰め込んだエッセイのような空想・妄想も絶妙に絡まるストーリー。 途中でサラッと衝撃告白があり、それにより最後の2編あたりはぐっときたし、なぜこのタイトルにしたかも理解すると切なく深い。 これの書き手の本当のシチュエーションは明らかになっていないが、この手...
色彩と外人と10代の記憶を詰め込んだエッセイのような空想・妄想も絶妙に絡まるストーリー。 途中でサラッと衝撃告白があり、それにより最後の2編あたりはぐっときたし、なぜこのタイトルにしたかも理解すると切なく深い。 これの書き手の本当のシチュエーションは明らかになっていないが、この手の小説なのでそこは読者の想像にお任せします、なのだろう。 なかなか面白かったし、この著者の文才を感じた。
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まさに記憶ってこういう感じ。 ある意味夢の中の世界のような。 事実とは異なって記憶の中で書き換わってるってこともあるよね。いるはずのないジャニスやリバーやらマドンナがポッといたり。しかも話す言葉は大阪弁(笑) 色も妙に原色じみていたり。 あと、なんか情景描写に親近感を感じるなぁと...
まさに記憶ってこういう感じ。 ある意味夢の中の世界のような。 事実とは異なって記憶の中で書き換わってるってこともあるよね。いるはずのないジャニスやリバーやらマドンナがポッといたり。しかも話す言葉は大阪弁(笑) 色も妙に原色じみていたり。 あと、なんか情景描写に親近感を感じるなぁと思ったら、著者とは世代的に近いみたい。関西に育ったってのもあるし。 読み終わって、はぁ面白かったってわけではないけど、嫌いではない。そんな感じ。
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単行本で読んだときのほうが、本自体が記憶の話だとわかりやすかった。表紙も、記憶に強弱がつく感じとかも。だけど、文庫本の方が集中して読めた。こないだの滝口さんの本も、記憶の話はおもしろいと思って読める。
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走馬灯。この小説をひと言で言い表すならこの単語が相応しい。視点は一人称、時系列はバラバラ、他者への感情移入はほぼ無し、10代の日記を思いつくままに並べたような小説だ。ティーンエイジャーならではの喜びや悲しみ、仲間と敵の区別、大人への畏れと蔑み、身近に存在しない者への親近感、摑みど...
走馬灯。この小説をひと言で言い表すならこの単語が相応しい。視点は一人称、時系列はバラバラ、他者への感情移入はほぼ無し、10代の日記を思いつくままに並べたような小説だ。ティーンエイジャーならではの喜びや悲しみ、仲間と敵の区別、大人への畏れと蔑み、身近に存在しない者への親近感、摑みどころのない自分に対する不安、痛みを感じている自分への距離感…。子ども時代を走馬灯のように描くことで、主人公の少女そのものを描いている。自分という存在を振り返るとき、誰もが同じような記憶を呼び起こすのではないか。絵の具の12色の緑は、なんで緑でなくてビリジアンなんやろ、みたいな素直な記憶を。
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