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サイクス=ピコ協定百年の呪縛 の商品レビュー

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27件のお客様レビュー

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2020/11/16

高校世界史で「帝国主義列強の理不尽の象徴」として学ぶサイクス・ピコ協定。旧オスマン帝国の領土を、そこに住む民族に全く配慮せず英仏(露)で線引きして植民地化。しかし著者はその捉え方は(間違っていないとしても)一面的と考える。 まず以って、サイクス・ピコ協定はそのままの状態ではほと...

高校世界史で「帝国主義列強の理不尽の象徴」として学ぶサイクス・ピコ協定。旧オスマン帝国の領土を、そこに住む民族に全く配慮せず英仏(露)で線引きして植民地化。しかし著者はその捉え方は(間違っていないとしても)一面的と考える。 まず以って、サイクス・ピコ協定はそのままの状態ではほとんど発効していない。著者は、むしろそのあとのローザンヌ条約、セーヴル条約への短期間の変遷の意味に着目する。詳細は略するが、要は列強も(自らのエゴは当然ありつつも)何はともあれ「つかの間の平穏」をのぞんだのであり、その時々に優勢だった勢力の主張を追認する形で次から次へと条約を改定していったのだ(次々と支配権を確立した少数民族に配慮したローザンヌ、それを平定して統一国家となったトルコに配慮したセーヴル)。 「・・・この三つの協定・条約には、それぞれに別個の根拠があり、それぞれに異なる難点を抱えている。これらの協定・条約は中東の問題の原因というよりも、むしろ、オスマン帝国の崩壊後に中東の社会が抱えた困難な条件に対して提示された、三つの異なる対処の方法なのである。三つの協定・条約は、中東問題の困難さを、それぞれに示している。これら三つの協定・条約と、それが結ばれた経緯の中に、近代の中東に国家と国際秩序を形成するという、今もなお結論の出ていない問題への、これまでの試みの成功と失敗がいずれも含まれている」(P.46) 今現にシリアで起きている大規模な難民問題を少しでも立体的に理解したいと思う人々にとって、必読の書と思う。

Posted byブクログ

2018/12/13

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛。池内恵先生の著書。現代の中東問題の根源は遥か昔にイギリスとフランスとロシアによって結ばれた秘密協定にある。中東問題、イスラム問題、イスラム国問題は多くの人にとって理解するのが難しい問題だけれど、本書を通じてこのような問題が発生...

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛。池内恵先生の著書。現代の中東問題の根源は遥か昔にイギリスとフランスとロシアによって結ばれた秘密協定にある。中東問題、イスラム問題、イスラム国問題は多くの人にとって理解するのが難しい問題だけれど、本書を通じてこのような問題が発生している歴史的な背景を学べます。

Posted byブクログ

2018/11/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

単純に諸悪の根源とも言い切れない、地域の入れ子状の複雑さ、多様さがよく伝わってきた 当時の中東に国家と社会を形成できる主体があったか疑わしいあたり、近代国家のあり方を中東に押し付けるのが欧州の傲慢さに感じられる その上セーブル自体も自立が困難なものであった 難民の流出が、問題の解決に近づくというのは、なるほど言い得て妙だなと思う 国の利益のために、他国の紛争を続けさせるというのも、紛争のリアルさが読み取れる

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2018/11/04

1916年サイクス=ピコ協定(第一次世界大戦後、オスマン帝国の支配地域をどのように分割し統治するかの、イギリスとフランスによる取り決め)→1920年セーヴル条約(アナトリア各地で現地の勢力が進めた実効支配を、列強や周辺諸国が認め、恒久化しようとした)→1923年ローザンヌ条約(ム...

1916年サイクス=ピコ協定(第一次世界大戦後、オスマン帝国の支配地域をどのように分割し統治するかの、イギリスとフランスによる取り決め)→1920年セーヴル条約(アナトリア各地で現地の勢力が進めた実効支配を、列強や周辺諸国が認め、恒久化しようとした)→1923年ローザンヌ条約(ムスタファ・ケマルらが設立したトルコのアンカラ政府が、セーヴル条約受け入れを拒否。トルコ独立戦争を戦い、フランスやソ連軍に対して有利に戦闘を進めて、個別に条約締結に持ち込んだ)

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2018/11/03

サイクス=ピコ協定を銘打って、池内先生が書かれているので、面白そうと思い手に取りました。 冒頭で池内先生が指摘されているように、サイクス=ピコ協定は大国による密約で悪でしかないもの、と私も思っていました。悪ではないわけではないですが、オスマン帝国崩壊に際して、1つの「解決策」とし...

サイクス=ピコ協定を銘打って、池内先生が書かれているので、面白そうと思い手に取りました。 冒頭で池内先生が指摘されているように、サイクス=ピコ協定は大国による密約で悪でしかないもの、と私も思っていました。悪ではないわけではないですが、オスマン帝国崩壊に際して、1つの「解決策」として考えられたものだという視点を本書によって得られました。 皮肉なことにアラブの春によって、再び中東が混迷する中、欧米が手をこまねいている間にロシアが進出してくるという、100年前と同じような構図ができている、というのもなるほど、というお話でした。 国民国家を前提とした国境の線引き、というのはかなり破綻した考え方だと最近とても感じていますが、では中東の国々はどのような形になると中東の人々にとって”最善”といえるのか、本書を読むことでますます難しい問題に思えてきました。

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2017/08/23

「オスマン帝国なんてぶっ潰して、あいつらの領土を山分けしよう ぜ」とイギリスが持ち掛けて、「そりゃいい考えですな、旦那」と フランスが合意したのが1916年のサイクス=ピコ協定である。 その協定の詳細な解説かと思いきや違った。私も現在の中東の 混迷を考える時、この協定を...

「オスマン帝国なんてぶっ潰して、あいつらの領土を山分けしよう ぜ」とイギリスが持ち掛けて、「そりゃいい考えですな、旦那」と フランスが合意したのが1916年のサイクス=ピコ協定である。 その協定の詳細な解説かと思いきや違った。私も現在の中東の 混迷を考える時、この協定を頭に置いているのだが、著者はこの 協定だけが本当に中央混迷の根源なのだろうかと疑問を提示し、 中東の歴史や地政学、複雑に交錯した民族模様や国家間の関係 を解説した書だった。 サイクス=ピコ協定単独ではなく、セーブル条約・ローザンヌ条約 の3つをセットとして考えなければならぬと著者は説く。もうここで 躓きましたよ。私はセブール条約とローザンヌ条約を調べるところ から始めなければならなかったもの。 確かにサイクス=ピコ協定がすべての根源だとするには、この協定 内容がすべて守らていなければならない。でも、それ自体が無理。 だって、子供が考えても「それは無理だろう」っていう約束ばかり しているのだも、イギリスは。 サイクス=ピコ協定の前年、「アラブ人の国を作るのを認めてやる からこっちの味方になってトルコと戦え」とメッカの太守であった フサイン家との約束である、フサイン=マクマホン協定があるで しょう。 そうしてサイクス=ピコ協定の翌年には「ちっ、戦争にお金がかかっ て財政がピーンチ。あ、ちょっとお金貸してよ。貸してくれたらパレス チナに住んていいよ」と、ユダヤ人コミュニティのリーダー的存在で あったロスチャイルド家と約束したバルフォア宣言があるでしょう。 「うわ、どれも守れないわ。しゃあない。新しい条約作って線引きしな おそう」で、セーブル条約とローザンヌ条約が出来たのね。って、こん な理解でいいのか、私は。 イギリスにしてみたら自分たちは痛くも痒くもないから、どんな無理な 約束でもしたんだろうけれどね。でも、やっぱりこの三枚舌外交は 問題が多いと思うんだよね。 百年の呪縛は解けるどころか益々混迷を深くしているように思える。 ただ、本書で著者が書いているように難民が流出していることで 少数民族の問題がある程度解決に向かっているという面もある。 本当はあってはいけないことだけれど。 結局は力でしか状況は変えられないのかな。アメリカとロシアの仲介 でシリア内戦の、2度目の停戦合意が取り付けられたのはつい先日。 それなのに、反政府勢力の地域にロシア軍が空爆だよ。 大国の思惑に翻弄されるのは、いつも一般の市民なんだよね。どれ だけ血が流れて、涙が流れたら和平が訪れるのかな。 読んでいて余計に出口が見えなくなってしまったので、私はやっぱり イギリスの三枚舌のせいにしたくなったよ。

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2017/07/18

ちょうど知りたいと思っていた部分を、思っていたよりずっと深く教えてもらえた。 今の混迷の原因がサイクスピコ協定という単純な話ではなくて、もっと昔からの経緯の中の過程のひとつという話。

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2017/05/04

混迷する中東の歴史について、大国が切り分けたサイクス・ピコ協定だけが悪者なのか? 現代の国家では、あまりに細分化されすぎるとて、政治的・経済的・軍事的に自立困難となる。(沖縄を独立させたらどうなるか考えて見るとよくわかる。) では結局、民族とは何なのか? 言語・遺伝子的特徴、文化...

混迷する中東の歴史について、大国が切り分けたサイクス・ピコ協定だけが悪者なのか? 現代の国家では、あまりに細分化されすぎるとて、政治的・経済的・軍事的に自立困難となる。(沖縄を独立させたらどうなるか考えて見るとよくわかる。) では結局、民族とは何なのか? 言語・遺伝子的特徴、文化 の統合されたユニットと考えるべきなのだろうが、ユニットを構成する人員が少なすぎると経済的・軍事的に自立できず、どこかで別のユニットと共同して国を作る必要がある。 現在の中東の混乱は100年前の無理なユニット同士の結託の綻びとも言える。

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2017/04/01

 現在もシリアを中心とした中東エリアは戦火と混乱の中にあり、悲惨な状況が終わる気配を見せていない。  この地域の争いの大元の原因は、オスマン帝国の衰退と解体に見いだせるが、そのときのサイクスピコ協定が諸悪の根源であるとの世の評判は的確ではない、と作者は述べている。  その理由をそ...

 現在もシリアを中心とした中東エリアは戦火と混乱の中にあり、悲惨な状況が終わる気配を見せていない。  この地域の争いの大元の原因は、オスマン帝国の衰退と解体に見いだせるが、そのときのサイクスピコ協定が諸悪の根源であるとの世の評判は的確ではない、と作者は述べている。  その理由をその後の歴史をたどりながら紹介説明していて、本書の題名だとそこが主眼に思えるが、実はその後の地域の状況や現在の考察が主体になっている。そして、現在の様相はオスマン帝国が崩壊した頃に状況が似てきたのではないかと心配し、大国の影響力など大きな違いもあるが、今後の激変を予想というか懸念している。  本書は、なんで中東はいつも戦争しているのか?と感心ある人向けのいい入門書になっていると思う。

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2016/12/16

新しい職場であるNGOの先輩に薦められた本。現在のシリア難民の経緯を紐解く一助になる、サイクス=ピコ協定の経緯と詳細、そしてこの協定がいかに現在の中東情勢に影を落としているかを簡単に説明した本。セーブル条約による細かい民族や宗派へのトルコ領の割譲とローザンヌ条約によるトルコ国民主...

新しい職場であるNGOの先輩に薦められた本。現在のシリア難民の経緯を紐解く一助になる、サイクス=ピコ協定の経緯と詳細、そしてこの協定がいかに現在の中東情勢に影を落としているかを簡単に説明した本。セーブル条約による細かい民族や宗派へのトルコ領の割譲とローザンヌ条約によるトルコ国民主義を反映した国境線の策定を経て現在の中東があるが、情勢不安を抑制する手は果たしてあるのか。協定の話以外にも気になる三文字団体、PKK・PYD・YPG・KNCなどが簡単に説明されており助かった。領土を広げたいロシア、クルド独立を抑制するためシリア情勢を混沌のままにしておきたいトルコ、ISを抑えるために「テロ集団」を支援するアメリカなど、各国の思惑が錯綜する中での難民問題解決は気が遠くなる程難しい事を痛感した。結局害を被るのは一般市民なのに。

Posted byブクログ