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深夜プラス1 新訳版 の商品レビュー

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24件のお客様レビュー

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2016/08/24

冒頭の1ページからラスト1行まで痺れる小説など滅多にあるものではない。冒険小説の名作として散々語り継がれてきた「深夜プラス1」だが、読者が年齢を重ねる程に味わい方も深くなる大人のためのエンターテイメント小説であり、陶酔感でいえば当代随一であろう。優れた作家のみが成し得る唯一無二の...

冒頭の1ページからラスト1行まで痺れる小説など滅多にあるものではない。冒険小説の名作として散々語り継がれてきた「深夜プラス1」だが、読者が年齢を重ねる程に味わい方も深くなる大人のためのエンターテイメント小説であり、陶酔感でいえば当代随一であろう。優れた作家のみが成し得る唯一無二の世界へとどっぷりと嵌り、惜しくも最終ページへと辿り着いたあとは、軽い恍惚感と心地良い余韻にしばし浸る。他の作品では今ひとつ精彩が無いギャビン・ライアルが遺した奇跡のような「深夜プラス1」。発表は1965年。新訳を機に再読する。 第二次大戦終結から二十年後。元レジスタンスの闘士ルイス・ケインは、無実の罪で警察に追われる実業家をフランスからリヒテンシュタインまで護送する依頼を引き受ける。護衛役となる相棒には、元シークレットサービスで欧州3位の腕を持つガンマン/ハーヴィー・ラヴェル。大西洋岸のブルターニュに到着した実業家と秘書を乗せ、目的地に向けてシトロエンDSは闇の中を疾走する。その先に待ち受けるのは、正体不明の人物に雇われた殺し屋たちの罠。予測不能の強襲に対し、ケインらは培った経験と技術で応酬する。 物語の構成は極めてシンプルで、黒幕となる人物も意外性としては低い。だが、複雑なプロットを排した故に、展開するストーリーの密度が濃くなっている。一瞬の判断で危険を察知/回避し、敵を如何に欺いて翻弄するか。プロの仕事に徹するケインとラヴェルの伎倆が燻し銀の輝きを放つ。 成熟しながらも過去への感傷を捨てきれない男のロマンティシズムが横溢し、独自の世界観を創り出す。主人公や脇役、端役に至るまで、その場/その状況に応じてぴたりとはまる言動をとるのだが、これが実にクールでスタイリッシュなのである。登場人物の信条やレトリック、銃器や自動車へのこだわりなど、本筋よりも細部を味わうことに喜びを見出す〝欲深い〟冒険小説ファンにとっては、読めば読むほど味が出るに違いない。殺し屋を「ガンマン」と呼称するところなど、懐古的でありながらも、舞台をヨーロッパに移した「ウエスタン」としても捉えることでき、新鮮な印象を残す。 キャラクターとして人気の高いラヴェルだが、ドライなケインに比してウエットな性格であり、中途からは殆ど役に立たない。硬い殻の中に弱さ/ナイーブな一面を持つラヴェルは、或る種の女々しさも併せ持つハードボイルドの世界を象徴する人物ともいえる。ハードに生きる男の理想像を描きつつ、ラヴェルのような鬱屈した人物を配置したライアルの巧さが光る。再び暴力の世界へと戻り、己を律することで仕事を成し遂げたケインの自信と誇り。ラストシーンにおいて、対極的に収束する二人のアイデンティティー。その対峙は一層際立っている。 名前から女性によく間違えられるらしいが、翻訳家・鈴木恵は男性である。翻訳の良し悪しを評価できる素養を私は持たないが、硬質ながらも単調な言い回しが気になる菊池光に比べ、よりしなやかでスマートな文章に仕上がっており、一人称であるからこその魅力を伝えている。 ソフィスティケートの極みともいうべき「深夜プラス1」。終幕をそのままに表したものだが、名作に相応しいタイトルを付けたライアルは、この時まさに神懸かっていたのだろう。

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2016/07/27

再読。まごうかた無き傑作。 表紙デザインの着眼がいい。モーゼル拳銃がこの小説のシンボルと言えるから。

Posted byブクログ

2016/06/11

20年ぶりの再読。キャラクター造形からストーリー展開、描かれる葛藤と矜持まで完璧な作品だ。 いつでも男は龍を追い求める。 それがひょっとしたら最後の龍である事を決して認めようとせず、戦いを挑んでしまうものなのだ。 ロヴェルとミス・ジャーマンが、最後の龍に巡り合わずに戦いを終わ...

20年ぶりの再読。キャラクター造形からストーリー展開、描かれる葛藤と矜持まで完璧な作品だ。 いつでも男は龍を追い求める。 それがひょっとしたら最後の龍である事を決して認めようとせず、戦いを挑んでしまうものなのだ。 ロヴェルとミス・ジャーマンが、最後の龍に巡り合わずに戦いを終わらせる事を主人公と共に臨んで止まない。

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2016/05/15

早朝、たまたまつけたNHKの「小さな旅」で新宿ゴールデン街をやっていた。そこに恐らく偶然に映された「深夜プラス1」の看板。今は亡き内藤陳さんのお店ですよね。 久しぶりにギャビン・ライアルなど読み返そうかと本棚を調べたらライアルは数冊あるけど肝心の「深夜プラス1」が無い。という訳で...

早朝、たまたまつけたNHKの「小さな旅」で新宿ゴールデン街をやっていた。そこに恐らく偶然に映された「深夜プラス1」の看板。今は亡き内藤陳さんのお店ですよね。 久しぶりにギャビン・ライアルなど読み返そうかと本棚を調べたらライアルは数冊あるけど肝心の「深夜プラス1」が無い。という訳でAmazonで発注。 ところが読み始めると、確かに何度も読み返した本ではあるのですが、それにしてもどうも記憶に新しい。調べたら2012年に読んでいましたね。 とは言え、名作は何度読んでも面白い。 しかし、3年前に読んだ本はどこに行ったのだろう。 ======================== 12-012 2012/01/31 ☆☆☆☆☆ 前回の感想を見ると、9年ぶりの再読のようです。 最初に読んだのは本当に若い頃でしたから、それにしては意外に日焼けしていないと思ったら、出張先(たぶんアメリカ)で買ってきた2冊目の本のようです。 下の感想に付け加える事はありません。 第2次大戦後の世界を描いた作品ですから確かに古びて来た。 しかし、やっぱり良いものは、良いです。 ======================== 03-048 2003/07/08 ☆☆☆☆☆ 何でこんな本が机の上にあるのだろう?不思議に思い考えてたら、出張の時に向こうで捨ててくるつもりで100円で買った古本でした。本当に久しぶりの再読です。今回は、出てくる銃や車をネットで調べながらゆっくり読み通しました。 自ら同名の酒場を経営するタレント内藤陳さんの「読まずに死ねるか!」で大きく取り上げられた作品ですが、それ以前から読み、気に入っていた本です。 2次大戦のあとの話ですから、さすがにシチュエーションは古い。しかし、なんと言ってもこの雰囲気は捨てられない。重苦しく、ハードボイルド。登場人物のセリフや行動の一つ一つがシニカルで格好よくって。。。 こうしたハードボイルドの作品は数多く発表されます。ほとんどはすぐに消えていく中で、この作品は長く行き残ってきました。そうは言っても、この作品もそろそろ寿命だと思います。でも、私の中ではまだ生き生きとした作品なのです。

Posted byブクログ