「文系学部廃止」の衝撃 の商品レビュー
2015年にメディアを騒がせた「文系学部廃止」の報道を受けて、その報道の誤りの背後にある、「文系は役に立たない」という常識そのものに対する問いなおしをおこなうとともに、これからの大学のありかたについての提言をおこなっている本です。 著者は大学史を簡単にたどり、「リベラル・アーツ...
2015年にメディアを騒がせた「文系学部廃止」の報道を受けて、その報道の誤りの背後にある、「文系は役に立たない」という常識そのものに対する問いなおしをおこなうとともに、これからの大学のありかたについての提言をおこなっている本です。 著者は大学史を簡単にたどり、「リベラル・アーツ」や「教養」、さらに現代の大学においてしばしば言及される「コンピテンス」などの概念が、どのような経緯によって生まれてきたのかということを明らかにするとともに、人類的な普遍性に奉仕し、普遍的な価値を追求することが大学のほんらいの使命であることが確認されています。そのうえで、目的合理性とは異なる、人類的な普遍性をもつ価値そのものを問う文系の学問は、むしろ「役に立つ」のだという主張が展開されています。 後半には、現在の大学改革の方向性を批判し、著者自身の考えるあるべき大学のかたちについての具体的な提言が示されています。こうした提言がどれほど実現可能性をもつものであるのかということはわかりませんが、日本の大学が進むべき道に悲観的な読者にとってもポジティヴな展望を示したいという著者の思いは伝わってくるように感じました。
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https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB20668526
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巷で耳にする"そんなん学んで何になるの"という言説に漠然とした不安を抱えている文系学習者にお勧めしたい一冊。文系の知が役に立つことを述べてくれるだけでなく、個人的には文系の論文の構成について詳しく述べているので、論文作成時にも役立つと思う。 吉見先生のゼミ、時...
巷で耳にする"そんなん学んで何になるの"という言説に漠然とした不安を抱えている文系学習者にお勧めしたい一冊。文系の知が役に立つことを述べてくれるだけでなく、個人的には文系の論文の構成について詳しく述べているので、論文作成時にも役立つと思う。 吉見先生のゼミ、時間があれば参加してみたいな〜!今期のシラバスも凄かったそうな
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「文系は役に立たないからいらない」「文系は役に立たないけれども価値がある」という議論を批判している。「文系は必ず役に立つ」らしい。「価値の軸を創造する力」「既存の価値を相対する力」が文系の知にはあるようだ。 私は文系人間だが、べつに価値がなくてもいいし、役に立たなくてもいいと思っている。でも、下り坂の日本でこれからの時代を生きていく子どもたちが今までと同じ感覚で安易に文系を選択することはあまりよいことだとは思えない。 いろいろな考え方があると思うが、大学に関する議論はそこに勤める人間の食い扶持ではなくて日本の将来や学生のことを第一に考えてほしい。
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理系と文系の「役に立つ」の違いは分かったが、じゃあ文系が理系のように稼ぐには(キャリアを作るには)どうしたら?たしかに理系の研究するなら若い方がいいのかもしれないが、最初に理系を学んで、社会人経験積んでから文系、というのがなんだかな。周りにも大学生(18~20歳に入学した、一般的...
理系と文系の「役に立つ」の違いは分かったが、じゃあ文系が理系のように稼ぐには(キャリアを作るには)どうしたら?たしかに理系の研究するなら若い方がいいのかもしれないが、最初に理系を学んで、社会人経験積んでから文系、というのがなんだかな。周りにも大学生(18~20歳に入学した、一般的な意味の)の時には文系だったけど、看護学校入り直したり会社で勉強してSEなってる文→理の進路を行く人も存在する。文系でも「短期的に」役に立てることがないとなかなか就職が厳しいのだよ。神の役に立つ、地球社会の未来に役に立つ、立派なお題目だけど、まず自分が自立できるだけの金を稼ぐのに役に立つ学問を学びたい。 でも、「経済成長や新成長戦略といった自明化している目的と価値を疑い、そういった自明性から飛び出す視点がなければ、新しい創造性が出てこない」には納得。常識を疑う訓練をする、ことが大学進学を決めた大きな理由だったから。 理系…目的が既に設定されていて、その目的を実現するために最も優れた方法を見つけていく目的遂行型、短期的に答えを出すことを求められる 文系…「役に立つ」ための価値や目的自体を想像する価値創造型、長期的に変化する多元的な価値の尺度を視野に入れる 18歳~20歳、30代前半、定年後60代で大学で学ぶ。理想的だけど、先立つものが・・・とくに30代前半なんて、4年も行くのはかなりの時間的ロスな気も。仕事はブランクなるし、子育てとかぶると大分厳しい。大学1,2回生のような大人数一方講義だとビデオやオンラインでいいわ。課題や同級生との交流があるからその場に言って学ぶ意味があるのであって。 <参考文献> ・マックス・ウェーバー『プロ倫』『職業としての学問』 ・坂口安吾『堕落論・日本文化私観』 ・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』
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2015年の文科省通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」が出て、「文科省は文系学部廃止を企んでいる」という解釈が瞬く間に広がった。2013年の国立大学改革プランで示された文言の焼き直しに過ぎなかったにも拘らず、である。 この原因は、この「通知」の文脈的な理解ができずに文章の字面だけで記事を書いて平気なマスコミ記者たち、あるいは関連資料に当たることも記事を系統的に検証することもなく、マスコミ情報を前提に議論を始める一部の大学人やメディア言論人の劣化に一因がある。もう一つ「文系は役に立たない」という認識が広まっていたことも大きい。 「文系は役に立つ」が本書の主眼である。 この点では広田照幸氏の発言が印象的である。「哲学なんかこそ、実は新しいアイディアの宝庫なんです。現象の本質を抽象的な概念で論理的に考える訳ですから。長い目で見れば、そうした思索こそが、あたらしいアイディアを生み出す。そういう意味では、『経済効果』から見ても、ちゃんと意味はある」。つまり、目的遂行的には理系的な知が役立つが、「価値創造的」には、文系の知こそが、長く広い未来のために役立つといのが、著者の主張である。 ただ、昨今の新自由主義的経済の中では、結果がすぐに、しかも成果を数値化して示すことが求められるなかで、文系的な知の重要性が評価されにくいのは事実かもしれない。さらに、数ある大学の中・下位校、特に多数を占める文系の学部教育のお粗末さが、「文系不要論」に拍車をかけているように思われるのである。 この著書では、大学人やマスコミなどが混同(誤解)している用語を整理していることも重要だ。人文社会系、教養、一般教育、リベラルアーツの定義がされないために、大学教育改革の論点が定まらないことが多いからだ。 ○リベラルアーツ(Liberal Arts): 11、12世紀に誕生した中世の大学教育における言語系の三学(文法学、修辞学、論理学)と数学系四科(代数学、幾何学、天文学、音楽)を指す(著者は「音楽」を芸術系に分類しているが、ここでの音楽は現在でいう物理学と解すべきである)。リベラルアーツは、リベラルに思考する技法、つまり、私利・私欲、因習、社会通念、偏見、迷信、先入観、そして功利性から解放された(liberal)、普遍妥当性のある価値や概念(真理)を見出し、理性的で論理的な思考でもって正しい問題解決策を導く技法(arts)を身につけるための科目群と考えるべきであろう。 ○教養(Culture):19世紀以降の「国民国家」の形成(ナショナリズム高揚)が背景。近代産業文明のなかで、国民の人格の陶冶・涵養をするために過去の伝統との結びつきを強調。「文化=教養」を通じた国民主体と国家の一致という考え方がある(p.83)。 ○一般教育(General Education):大学教育のユニバーサル化とともに、一般大衆に向けて機能する基礎教育の必要性とともに登場。異なる専門分野を総合する力を身につけ、未来的な課題に立ち向かう能動的な知性を具えた市民の育成を目指す。アメリカにおける大学院の発展が背景。 ○共通教育:1990年代以降の大学改革の流れの中で登場。従来の一般教育に加えて、スキル科目(コンピュータ・リテラシーや実践的英語能力)が含まれる。グローバル化社会や情報社会を生き抜くスキルを身につけることを目的とする。 第四章「人生で3回、大学に入る」では、あまりにも理想的すぎるはと思われる記述が散見された。大学で学ぶ費用が高くなっている中で、その費用を投資しても、少なくとも2回目、3回目の入学では回収できる期待がほとんどない。そもそも今の日本の社会では、大学入学のため退職しようものなら、再就職のときにより良い条件で雇用される可能性は低い。単に趣味で学びたいという人もいるかもしれないが、あまりにもコストがかかる趣味である。知識を得るのであれば、書物や学会、インターネットでも十分可能である。そもそも、大学のレベルでは一方的な講義形式が主流であるし、数少ないゼミでも、中身の深い議論が期待できないからだ。 東京大学の教授の著書だけに、中身が濃く読み読み応えがある章(1~3章)と少し現実離れしているのではないか思われる章(4章)が併存している、そんな印象であった。
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2015年6月の文科省による「国立大学法人等の組織・業務全般の見直し」通知から始まったメディア報道の騒動から解き明かし、「理系」偏重と「文系」軽視の傾向がこの時に始まったものでないことを分かり易くひも解いてくれる。遠く岸内閣時代の松田文部大臣の説明にさえ、そのことがでてくるという...
2015年6月の文科省による「国立大学法人等の組織・業務全般の見直し」通知から始まったメディア報道の騒動から解き明かし、「理系」偏重と「文系」軽視の傾向がこの時に始まったものでないことを分かり易くひも解いてくれる。遠く岸内閣時代の松田文部大臣の説明にさえ、そのことがでてくるという。文系は大学にとってはお金がかからず、学生を集められるということから私学がそれを歓迎していたというおまけには、苦笑いまでしてしまう。つまり大学とは何かそのものが問われるテーマであるとの説明。「文系は役に立たないが、価値がある」という議論ではなく、「文系は必ず役に立つ。それは今後の経済成長に貢献するという手段的な有用性に限定しない。価値の軸の変化を予見したり、先導したりする価値創造を可能にし、長く役立つ教育」をアピールする。長期的には理系以上に役立つ、ことの主張である。しかし、国立大学の教員人数の8割を理系が占め、その結果、学長も理系が多いとの現状はお寒い次第である。もう一度、大学は「国家や企業社会に奉仕するのではなく、人類的な価値に奉仕する」ことを確認し直す必要があるだろう。12世紀から始まる中世の大学に始まる「リベラルアーツ」と19世紀の欧州の国民国家から始まる「教養教育」、20世紀の半ばからの米国の大学のユニバーサル化に淵源がある「一般教育」の3つの比較は分かり易い。
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タイトルがキャッチーすぎて、コアな人文系の人々が敬遠するのではないかと心配してしまうけれど、とても読みごたえのある良い本だった。 教養とリベラルアーツの違い、文・理の区別の歴史的背景、文系は社会にとって長期的に役に立つということ、未来の大学像などなど、文学部の学生としては興味深...
タイトルがキャッチーすぎて、コアな人文系の人々が敬遠するのではないかと心配してしまうけれど、とても読みごたえのある良い本だった。 教養とリベラルアーツの違い、文・理の区別の歴史的背景、文系は社会にとって長期的に役に立つということ、未来の大学像などなど、文学部の学生としては興味深い話題ばかり。 日本の文系軽視の問題だけでなく、現代において「学ぶこと」の価値とは何かというところまで深く掘り下げているので、文系や大学関係者だけでなく、あらゆる人に読んでほしい。
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文系学部云々以前に、 大学とはどういうものだったのか、 どういうものなのか、等々、 今まで深く考えずに述べていたことの中で 実はこういうことだったのかと気づかされることも多く、 大変勉強になりました。
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文系と理系を対立させて、理系にばかり予算がいくという構造に根本的な問題があるとの考えから、それを変えるために、まずは分離の統合的、融合的な分野をつくっていくべきだなどと主張されている。 文系学部廃止論を増殖させたのはマスコミ。 人類的な価値とは、坤為地ではグローバルな価値という...
文系と理系を対立させて、理系にばかり予算がいくという構造に根本的な問題があるとの考えから、それを変えるために、まずは分離の統合的、融合的な分野をつくっていくべきだなどと主張されている。 文系学部廃止論を増殖させたのはマスコミ。 人類的な価値とは、坤為地ではグローバルな価値ということになるから、大学はグローバルな価値と国民社会を媒介していく役割を担う。 人文社会科学の様々な知は、その本質において、まさにそうした複数で流動的な価値を問い、観察し、分析し、創造していく視座や方法として、19世紀から20世紀にかけての哲学や歴史学から社会学までの形成されてきた。
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