「文系学部廃止」の衝撃 の商品レビュー
昨年話題になった「文系学部廃止」と言うタイトルに興味を持って手にとってみた。文系学部廃止自体に関する内容は第1章のみで、大部分はその背景の解説。実際には文科省通知は「廃止」などとは言っていないし、通知の内容はずいぶん前から既に発表されていた内容であるし、世の中を騒がせたのは不勉強...
昨年話題になった「文系学部廃止」と言うタイトルに興味を持って手にとってみた。文系学部廃止自体に関する内容は第1章のみで、大部分はその背景の解説。実際には文科省通知は「廃止」などとは言っていないし、通知の内容はずいぶん前から既に発表されていた内容であるし、世の中を騒がせたのは不勉強なマスコミとそれに乗っかった知識人であるのが実態なんだが、なぜその様な騒ぎとなったのかその背後にある本質、この20年間の大学を取り巻く状況についての解説と分析が非常に参考になる。大学の現状とその危機感は本書に書かれている通りだと思う。文系の著者としては「文系は役に立たないけど価値がある」というのではなく、「文系は(長期的に)役に立つのだ!」と言うことを主張している。その論拠として、そもそものヨーロッパにおける大学の成り立ちと変遷を解説しているのだが、リベラルアーツとは何か、教養教育とは何か、日本の戦後の一般教養教育というものがどのように変遷してきたのか、その解説が非常にまとまっていて分かりやすく、個人的には非常に興味深かった。役に立つとはある目的を達成するための手段としての有用性と、その目的自身を設定、価値の軸を設定するための有用性があり、前者は短期的で理系的、後者は長期的で文系的と著者は主張している。理系的な”役立つ”は短期的で、設定された目的を達成するための手段に過ぎない、と言われると個人的には反論したくなるが、もちろんそう言う部分もある。本書後半では今後の大学がどうあるべきかと言うことを論じているのだが、そのほとんどは既に文科省が各大学を誘導しようとしている方向とほとんど変わらないし独自性は感じられないのが残念だった。その議論の前提には、グローバル化は避けられない、今後もどんどん進行していく、という仮定があると思われるが、本当にそうだろうか。昨今の世界の状況を見ていると時代はされに別の方向に向かいつつあるように思うのだが。
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東京大学の吉見副学長による『大学とは何か』の続編。タイトルの「「文系学部廃止」の衝撃」以上に読みごたえがあった(2015年の“騒ぎ”はマスコミの不勉強と煽り)。 「大学は、国に奉仕する機関ではない(p64)、人類的な普遍性に奉仕する(p66)」 「国・文科省に大学危機の打開で中核...
東京大学の吉見副学長による『大学とは何か』の続編。タイトルの「「文系学部廃止」の衝撃」以上に読みごたえがあった(2015年の“騒ぎ”はマスコミの不勉強と煽り)。 「大学は、国に奉仕する機関ではない(p64)、人類的な普遍性に奉仕する(p66)」 「国・文科省に大学危機の打開で中核的な先導役となれる力がもはやない(p134)」 あとがきでは「今日の大学は、一般に思われている以上に劣化している(p151)」と述べられている。 自分なりに「大学を再定義」しながら、コトにあたっていこう。
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「文系学部廃止」といったニュースがいかに歪曲されていたか、また世間の人々が「文系学部を役にたたない」と思っているか、その背景がよくわかった。文系の有用性を「長い期間でみれば役に立つ」と定義づけているが、そんなに長く待てない人たちばかりになってしまったことが何よりも問題。長文を読む...
「文系学部廃止」といったニュースがいかに歪曲されていたか、また世間の人々が「文系学部を役にたたない」と思っているか、その背景がよくわかった。文系の有用性を「長い期間でみれば役に立つ」と定義づけているが、そんなに長く待てない人たちばかりになってしまったことが何よりも問題。長文を読む気力もなく、すぐにリターンをもとめる人たちに対して、この言説は果たして有効だろうか。
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文系学部廃止の通知騒動をきっかけとして日本の大学の展望について論じる。大学だけの改革では何も変わらない気がする。ダブルメジャー,ダブル&マイナーの仕組みは面白いかもしれない。
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「大学の文系学部は廃止されるのか」という風評に流されず、丁寧にその風評の由来を解説し、文系学部を含めたこれからの大学のあり方を提言している。 やや引用が気になるが、真摯に問題をとらえんがためのことであろう。
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<目次> 第1章 「文系学部廃止」という衝撃 第2章 文系は、役に立つ 第3章 二十一世紀の宮本武蔵 第4章 人生で三回、大学に入る 終章 普遍性・有用性・遊戯性 <内容> タイトルと内容はちょっと違って、文系学部が中心だが、大学そのものの生き残り策を提案している本...
<目次> 第1章 「文系学部廃止」という衝撃 第2章 文系は、役に立つ 第3章 二十一世紀の宮本武蔵 第4章 人生で三回、大学に入る 終章 普遍性・有用性・遊戯性 <内容> タイトルと内容はちょっと違って、文系学部が中心だが、大学そのものの生き残り策を提案している本。日本の社会がやや末期的状況の中、その一つが大学教育だ。定員割れの大学・学部が多くなり、とんでもないレベルの大学生(我々の時と比較して)が多くみられ、だからなのか卒業後の就職もおぼつかいない。策は、授業改革(私の嫌いなアクティブ・ラーニングを含めて=私は嫌いだが、大学教育には必要だと思う、や教養課程の再構築)・入試改革(入りやすく)・就職改革(卒業しにくく)。さらに一斉入学から就活、終身雇用にもメスを入れ、就職後、30歳くらいで再度、60歳過ぎでもう一度、大学で学び直すことを提案している。 文系は即効性のある「知」ではないが、絶対役に立つ、という言もとっても賛成である。
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文系は役に立つ。 約に立つための価値や目的自体を創造する価値創造型として役に立つという主張だが、イマイチピンと来なかった。 これで文系廃止論に対抗できるのかどうか不安である。
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一般論に関する説明はわかりやすかったんですが、著者オリジナルの考え方の部分の説明が、わかりにくかったです。 個人的には、「文系は役に立つ」の説明について、かなり物足りないというか、我田引水な印象を受けました。 結論に違和感はないのですが、説明の過程には、かなりの違和感を覚えま...
一般論に関する説明はわかりやすかったんですが、著者オリジナルの考え方の部分の説明が、わかりにくかったです。 個人的には、「文系は役に立つ」の説明について、かなり物足りないというか、我田引水な印象を受けました。 結論に違和感はないのですが、説明の過程には、かなりの違和感を覚えました。 著者の他の本も読んで、もう少し理解を深めてみたいと思います。
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もとより国立大学の成り立ちが理系中心の教育をする場であり、産業の推進に親和性のある経済学等の社会科学系があとに続き、次いで教員養成が続き、人文系の分野はそういう文脈で並べられると、数値としての成果が出しにくい。今回の通知は決して文系学部廃止をうたっている訳ではなく、大学が社会への...
もとより国立大学の成り立ちが理系中心の教育をする場であり、産業の推進に親和性のある経済学等の社会科学系があとに続き、次いで教員養成が続き、人文系の分野はそういう文脈で並べられると、数値としての成果が出しにくい。今回の通知は決して文系学部廃止をうたっている訳ではなく、大学が社会への貢献や成果を要求されたときに、文系学部が何を持ってその結果を示すのか、そもそも結果とは何かを繰り下げていった本でした。今や大学は何をするところか、その価値について、世間一般からも地位をおとしめられている危機感を感じる中で、著者の授業「アタック・ミー」など、結局のところ、まだまだ大学は個人の教員の努力と工夫で魅力を高めている部分が大きいと思いました。
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東大副学長による文系理系を超えた大学論・学問論。リベラルアーツ、教養、一般教育の違いが新鮮である。リベラルアーツは中世の大学における(実用な学に対する)自由な学をいい、文理両方を含んだ。教養は国民的規範となる古典的な知をいう。一般教育は戦後米国から輸入された横断的カリキュラムであ...
東大副学長による文系理系を超えた大学論・学問論。リベラルアーツ、教養、一般教育の違いが新鮮である。リベラルアーツは中世の大学における(実用な学に対する)自由な学をいい、文理両方を含んだ。教養は国民的規範となる古典的な知をいう。一般教育は戦後米国から輸入された横断的カリキュラムである。名物授業「吉見俊哉 を叩きのめせ」(Attack me)の狙いや実態の記述も面白い。
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