12人の蒐集家/ティーショップ の商品レビュー
『プロハスカは切った自分の爪を蒐集していた。このコレクションを始めたのは、八歳のとき、初めて自分で手の指の爪を切ったときからだ』ー『2-爪』 西洋人の想像する悪魔の好む色と言えば黒と相場が決まっていそうなものだけれど、この本に登場するのは黒く染めた絹糸で仕立てた上着に当たる光の...
『プロハスカは切った自分の爪を蒐集していた。このコレクションを始めたのは、八歳のとき、初めて自分で手の指の爪を切ったときからだ』ー『2-爪』 西洋人の想像する悪魔の好む色と言えば黒と相場が決まっていそうなものだけれど、この本に登場するのは黒く染めた絹糸で仕立てた上着に当たる光の反射が強くて少し紫がかっているのが気になるといった風情の悪魔。日本人にとっての紫と西洋人にとっての紫とは想像されるものに違いはあるのだろうけれど、その色が示す高貴な徴は見間違いようがない。人というものは洋の東西を問わず案外同じようなイコンを押し戴いているものなのかも知れないと思う。例えば高さや苦さに対するイコンが共通するように。それが、どんないにしえのトラウマに裏打ちされているものなのかは知らないけれども。 そんな紫色で大見得を切ったような出で立ちでありながら、ここに登場する悪魔はどれも深みがない。いったい悪魔というものが複数存在しているものなのか実は複数の顔をもつ一つの個体なのか知る由もないので、一般化すべきなのか否かは定かではないが、どいつもこいつも余りに単純だ。悪魔のようにずる賢い、などという比喩もある程に本来悪魔という奴は狡猾である筈だとの一人勝手な思い込みは脆くも崩壊する。これじゃあまるでオレオレ詐欺みたいなものじゃないか、騙される方に一分の非もないとは言い切れないのじゃないか、と誰に向けてよいものか分からぬもやもやがわき上がる。星新一のショートショートの方がもっとひねりが利いているぞ、悪魔さん。ひょっとすると、これがのほほんとした辺境の蝦夷の末裔である自分などには知る由もない西洋的ユーモレスクという奴なのか。コレクションをコレクションする話に漸く胸のつかえが取れたような妙な安堵を覚えた。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
11人目の蒐集家までは、それぞれの趣向も凝らしてあって、でもってムラサキの挿し色も利いてて、ふむふむ、で、どーなるの、トリは⁈と期待MAXだったのになあ。 (。-_-。) ティーショップも話の展開は中々起伏に富んでて読ませるんだけど、やっぱり尻つぼみ〜そういうヒトなのか、この作家。ユーゴのヒトだそう。
Posted by
幻想的なおとぎ話 面白かったけど、東欧のボルヘス、ていう帯には、そうかな???て感じ。 先入観で印象操作されるからぴんと来ないキャッチフレーズつけないほうがいいのに。
Posted by
不思議な味の作品集。阿刀田高(例えば『街の観覧車』)、星新一作品を連想。12の奇妙な蒐集(家)にまつわる物語(連作形式)で、自らが奇妙な蒐集にのめり込んで自分を見失うに至る話、または奇妙な蒐集家の方から言い寄られる(品物の譲渡を乞われる)話がならぶ。どれも水準作以上の出来映え。...
不思議な味の作品集。阿刀田高(例えば『街の観覧車』)、星新一作品を連想。12の奇妙な蒐集(家)にまつわる物語(連作形式)で、自らが奇妙な蒐集にのめり込んで自分を見失うに至る話、または奇妙な蒐集家の方から言い寄られる(品物の譲渡を乞われる)話がならぶ。どれも水準作以上の出来映え。物語にはそれぞれ(登場人物の周辺の)どこかしらに紫色おびた色彩のものが含まれている(通奏低音)。その色は象徴的に表されて不吉・不穏を醸し出している。蒐集という行為に憑かれ、運命を絡めとられた人物たちの異様な様に惹きつけられた。 連作とともに収録されている中編「ティーショップ」はたいした秀作で、登場人物たちそれぞれの語る物語の連鎖、その自在(錯綜や円環)さに幻惑と眩暈を覚えた。物語られ、そしてそれに浴するという魅惑。小説(物語)の本質を巧く捉えたユニークな秀作。
Posted by
奇妙な話。 各話が最終話につながるのだけど、そこにどうつながったのか、理解できなかった…奇妙なまま読み終えてしまった…。 小川洋子の『薬指の標本』を彷彿とさせる。
Posted by
何かをコレクションするってのは何故なのだろう。どういう心理なのだろう。と思わず考え込んでしまう。蒐集癖のある人々が登場するが、普通という幅から少し外れた処にいる人々のコレクションは、やはり少し奇妙な結末を招くのだろう。ユアグローとかアンドリュー・カウフマンではなく、ツヴァイクかホ...
何かをコレクションするってのは何故なのだろう。どういう心理なのだろう。と思わず考え込んでしまう。蒐集癖のある人々が登場するが、普通という幅から少し外れた処にいる人々のコレクションは、やはり少し奇妙な結末を招くのだろう。ユアグローとかアンドリュー・カウフマンではなく、ツヴァイクかホフマンに近い感じのちょっと不思議な話はとても面白い。
Posted by
“軽やかな不条理”訳者解説の一節が的を射ている。蒐集家に関する12の短編には、物足りなさ(オチの弱さ)を感じる作もあったが、最後の1篇で感じた薄ら寒さはそれまでの物語があってのものだ。コレクションというものの儚さ、コレクターという人種の恐ろしさを感じる。中篇「ティーショップ」も少...
“軽やかな不条理”訳者解説の一節が的を射ている。蒐集家に関する12の短編には、物足りなさ(オチの弱さ)を感じる作もあったが、最後の1篇で感じた薄ら寒さはそれまでの物語があってのものだ。コレクションというものの儚さ、コレクターという人種の恐ろしさを感じる。中篇「ティーショップ」も少し不思議な物語だ。物語を愛する人間が陥りそうな都会のエアポケットを、軽妙なテンポと絶妙の展開で見せてくる。強い印象を残す話ではないが、読み終えた後の秘密を共有した感は愉悦。
Posted by
著者はセルビアの作家で英語圏で注目されているというのでこれは無視できないと思い手に取ったが、なんとすばらしい!とっても不思議な世界に連れて行かれる短編12編+中編。ハードカバーで表紙のビジュアルなどブックデザインも内容にぴったりで秀逸。このデザインはおそらく著者自身もよろこぶので...
著者はセルビアの作家で英語圏で注目されているというのでこれは無視できないと思い手に取ったが、なんとすばらしい!とっても不思議な世界に連れて行かれる短編12編+中編。ハードカバーで表紙のビジュアルなどブックデザインも内容にぴったりで秀逸。このデザインはおそらく著者自身もよろこぶのではないか。不思議といっても、後味の悪い不条理なお話が続くわけではなく、人情話ではないけどなんだかいい話、笑える話などのバランスがよくて、読んでいてたのしい。 著者は70年代に主に英語圏のSFをユーゴスラビアに紹介する仕事をしていたという(翻訳だけでなく出版も)。その後40代になってからオリジナル作品の執筆を始めたとか。著書は20冊ほどにも及び、ほとんどが同じ人によって英訳されているようだ。ジヴコヴィッチさんの作品をもっと読みたいのでさらに翻訳が出るのを熱望。
Posted by
++ 「フシメ」 に ++ サラッと読んでしまいましたが、 残ったものが 何かしら と
Posted by
12編の連作短編と中編一本が収録されている。 「12人の蒐集家」はAかBかとオチを考えながら読んでいたら、Cだったという展開に圧倒されっぱなしだった。 「ティーショップ」はひとり旅をしている女性が、ティーショップでお茶を注文したら、とんでもないことに! しかし、夢のある素敵なお茶...
12編の連作短編と中編一本が収録されている。 「12人の蒐集家」はAかBかとオチを考えながら読んでいたら、Cだったという展開に圧倒されっぱなしだった。 「ティーショップ」はひとり旅をしている女性が、ティーショップでお茶を注文したら、とんでもないことに! しかし、夢のある素敵なお茶でした。 どの作品も独特な匂いのするものばかりで、久しぶりに充足感を感じた。
Posted by