未成年 の商品レビュー
宗教上の理由から輸血を拒否する少年と、生活上の危機にある女性裁判官。二つの物語が平行して進行してゆく。すっきりした文章で裁判のシーンもわかりやすい。未来を手にしたはずの少年、ラストが胸にしみる。
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仕事と家庭での葛藤が人間らしさを感じさせる。ただ、少年が関わるところは興味深く、結末も考えさせるところがあったが、家庭のいざこざは少しどうでもいい感じもした。特に夫関連の話はなくてもいいような気がする。主人公と少年だけでもっと盛り上げて欲しかった。
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イアン・マキューアンは何作か読んでいるのだけれど、私にとってはどうもとらえどころがない。決定打がないというのか、こういう人、こういう作品、と形容することが出来ない。 なのに、出るとつい手にとってしまう。 まず、有能な女性裁判官と大学教授の夫という設定がいい。60前の2人は、まあ...
イアン・マキューアンは何作か読んでいるのだけれど、私にとってはどうもとらえどころがない。決定打がないというのか、こういう人、こういう作品、と形容することが出来ない。 なのに、出るとつい手にとってしまう。 まず、有能な女性裁判官と大学教授の夫という設定がいい。60前の2人は、まあ世間的に言って初老に入りかけていると言っていいだろう。その夫から「フィオーナ、わたしたちが最後に寝たのはいつだったと思う?」「わたしは59だ。これが最後のチャンスなんだ」と言われる。「死ぬ前に一度情熱的な関係を持ちたい」と若い女に走る初老の夫に、読んでいる私はつい吹いてしまった。しかも夫は妻と別れるつもりはなく、若い女との関係を認めてくれと言うのだから、まあ虫がいいよね。 大学教授という社会的地位がある夫が60前に望むのがそれかい、というのと、いくら有能だろうと社会的な地位があろうと結婚して何十年たとうと、夫婦の関係というのはつまるところこういう下世話で赤裸々なところから離れられないのかな、というのと。 そこに、輸血を拒否する18歳前の少年が登場してくる。先の夫婦の関係があるからこそ、この少年の純さ、少年とのシーンが納得もされ、生きてもくる。 ちょうど書評があった。↓ http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2016021400015.html 私は「意思と生命とどちらを尊重すべきか」というテーマとして読まなかった。 月日は人を成熟させないんだな、というのが最も大きな感想だ。60歳前だろうが18歳前だろうが、ただ経験量の違いがあるだけで、本質的な違いはない。それは大した違いとは言えない。それがよくわかった。
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日本経済新聞社 小サイズに変更 中サイズに変更 大サイズに変更 印刷 未成年 イアン・マキューアン著 人生の機微映す小説の醍醐味 2016/1/17付日本経済新聞 朝刊 人生にとって、フィクションとは何か。イアン・マキューアンという熟練の小説家による『未成年...
日本経済新聞社 小サイズに変更 中サイズに変更 大サイズに変更 印刷 未成年 イアン・マキューアン著 人生の機微映す小説の醍醐味 2016/1/17付日本経済新聞 朝刊 人生にとって、フィクションとは何か。イアン・マキューアンという熟練の小説家による『未成年』において、その問いは新しい息吹を与えられた。引き締まった文体による法廷劇と家庭のドラマを通じて、ひとりの女性の心の揺れを取り上げつつも、巧みな比喩や、音楽の描写を織り交ぜて人生の機微を描き出す優雅な筆致は、小説の醍醐味を存分に堪能させてくれる。 高等法院家事部で勤務する裁判官フィオーナ・メイは、六十歳を前にしたある日、夫から年下の愛人を作りたいと打ち明けられる。夫の性生活を受け入れてともに暮らしていくべきか、彼と別れるべきか。人生の岐路は思いがけなく訪れる。 物語のもうひとつの中心となるのは、白血病を発症しながらも宗教的な理由から輸血を拒む十七歳の少年という法廷の事案である。一方で、自己決定を行える年齢の十八歳にはわずかに満たず、他方で成熟した知的能力を見せる少年は、成人とみなすべきなのか、そうでないのか。法的にも曖昧な状況の中で、少年の容体は刻一刻と悪化していき、フィオーナはここでも決断を迫られる。 本作で描かれる裁判官の世界は、法廷とその周囲で完結している。意見の応酬も判決も、法廷の外に持ち出されることはなく、判決文は裁判官仲間での論評の的となる。法曹界とその外には、明確な境界線が引かれている。 しかし、白血病の少年に関しては、決断を下すためにフィオーナは病院に出向いて少年と面会する。こうして境界線を越えたことで、彼女は自らの裁定が生んだ現実の結果を突きつけられることになる。私生活での選択と、法廷での裁定は、こうして彼女の目の前で交錯する。 現実はしばしば多様であり、両義的である。そこに、生命の価値や、個人の尊厳といった基準を用い、法廷は裁定を下す。決定という行為は現実に対する介入であり、ときには真実を裏切る。少年をめぐる法廷劇は、法の世界が必然的に含み込むフィクションの要素を明らかにする。 一方で、小説というフィクションは、何らかの決定を下すことはない。決断を迫られ、苦悩し、そして前進していくひとりの女性に対し、小説は価値判断を下すのではなく、そのドラマを包み込むようにして見つめている。ひとりの人間を裁くのではなく、共感をもって見守るという、物語の持つ強さを、『未成年』という小説は改めて教えてくれる。 原題=THE CHILDREN ACT (村松潔訳、新潮社・1900円) ▼著者は48年生まれの英国の作家。著書に『贖罪』(全米批評家協会賞)、『甘美なる作戦』など。11年エルサレム賞。 《評》同志社大学准教授 藤井 光 このページを閉じる NIKKEI Copyright © 2016 Nikkei Inc. All rights reserved. 本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。
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主人公の女性裁判官。 もう一度ときめきたいと言い出した老夫とのプライベートな面倒に巻き込まれたタイミングで、エホバの証人信者の輸血ケースで信仰と生命の問題に直面させられる。 そう、人生に於いて、コトは常に順序良くやって来てくれる訳ではない。だから日々の些事を疎かにする事なく、一つずつとちゃんと向き合って、丁寧に対処しなくちゃいけないんだ。
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宗教上の理由で輸血を拒むの少年のお話、というので読んでみたんですが、どちらかというとメロドラマ風な? そんなわけで私の期待とは少し違ったけれど、法で人を裁くということのシビアさや、裁判官として人を裁くことの重みが、ひしひしと伝わってきた点は面白かった。 読みながら、(もうすでにすっかり忘れてたけど)裁判員制度やだなーって思った。職業として自分で選んだわけでもないのになぜそんな事せにゃならん。法で人を裁くことと国民感覚に隔たりがあるのは当たり前。裁判自体が非日常なんだから。そこに国民感覚を入れることがそもそも不自然な気がする。
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私生活に問題を抱える初老にさしかかりそうな女性裁判官と宗教的理由で輸血を拒否するあと3ヶ月で成人と認められる瀕死の少年。 宗教的・倫理的問題ももちろん語られるのだけど、それ以上にこの2人の物語であることにジーンとする。 裁判のケースとしてくくることは可能なのかもしれないけれど、そ...
私生活に問題を抱える初老にさしかかりそうな女性裁判官と宗教的理由で輸血を拒否するあと3ヶ月で成人と認められる瀕死の少年。 宗教的・倫理的問題ももちろん語られるのだけど、それ以上にこの2人の物語であることにジーンとする。 裁判のケースとしてくくることは可能なのかもしれないけれど、その後ろにはそんな風にまとめることのできない人の数だけ、星の数だけの物語が存在する、ということを小説で表明している。
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