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未成年 の商品レビュー

4.3

27件のお客様レビュー

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2019/03/26

短編のような叙情性と余韻のある中編だった。 この時代における宗教と意味をめぐる構成に感じ入るものがあった。最終盤のコントラストの強い描き方は見事。 悔恨。それはやり直せないから深く突き刺さる。 故障を繰り返す配管は、自分にとっての人生のメタファー。安楽死を選んでしまう父は、自...

短編のような叙情性と余韻のある中編だった。 この時代における宗教と意味をめぐる構成に感じ入るものがあった。最終盤のコントラストの強い描き方は見事。 悔恨。それはやり直せないから深く突き刺さる。 故障を繰り返す配管は、自分にとっての人生のメタファー。安楽死を選んでしまう父は、自分の意のままにならない他人の他者性のシンボルだとわたしは感じた。 #興味深い表現 ・彼の態度には、ユーモアには、知能の高い人にありがちな不謹慎さがあった。

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2017/11/12

ほんの一瞬の出来事が与える影響。 初めは宗教と法律の両者の中で生命の尊厳をいかに扱うべきか、みたいな読み方をしてたんだけど、読み終わるとそういう大きな背景の中で、小さな行動で結果が決定づけられることが印象に残った。

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2017/04/22

『未成年』というタイトルからはもっと軽妙で気軽な内容を想像していたが、読み始めたら深みと普遍性のある内容で、それでいて文は多彩で感銘を受けた。イアン・マキューアンという作家は記憶に留めておきたい。 翻訳は、ぱっと見読めない漢字がちらほらあってストレスを感じる部分があった。

Posted byブクログ

2016/11/20

生命か尊厳か。 そんな難しい選択に、あくまで合法的な判断を下す裁判官フィオーナ。私生活では夫との関係に悩まされる彼女が、輸血を拒む少年と出会う。 少年の融通のきかない真っ直ぐな熱意が、何よりも尊いものに思えた。

Posted byブクログ

2016/07/26

イアン・マキューアンという作家はよく知っていると思っていたが、映画「つぐない」を見た後、原作の「贖罪」を読んだことがあるだけだった。 ただ、その1作の印象が映画を含めて強かったので、何作も読んでいる気になったようだ。 先に「あとがき」を読みかけてしまったので、悲劇に終わると知っ...

イアン・マキューアンという作家はよく知っていると思っていたが、映画「つぐない」を見た後、原作の「贖罪」を読んだことがあるだけだった。 ただ、その1作の印象が映画を含めて強かったので、何作も読んでいる気になったようだ。 先に「あとがき」を読みかけてしまったので、悲劇に終わると知ってしまい、ちょっと後悔した。 読まなくても、ハッピーエンドになるはずもないのは予想できただらうか。 読み方としてはどうかと思うが、終盤まで、私の中でははずっと、裁判官と少年の問題より、初老の夫婦の危機の問題の方が前面に出ていた。文字を追う真剣さも後者の方が圧倒的に強かった。

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2016/06/04

家ですべき仕事がたまりながらも、図書館に返本に行くついでに棚を見たら、出会ってしまい、連れ帰ってしまった。本好きの友人が熱烈なレビューを書いていたし、とある勉強会でも大絶賛する人の声を耳にしていたからである。 とはいえ、電車の中でさえ仕事の資料を読むべきで、読書する隙間はない…の...

家ですべき仕事がたまりながらも、図書館に返本に行くついでに棚を見たら、出会ってしまい、連れ帰ってしまった。本好きの友人が熱烈なレビューを書いていたし、とある勉強会でも大絶賛する人の声を耳にしていたからである。 とはいえ、電車の中でさえ仕事の資料を読むべきで、読書する隙間はない…のに、食事をした友人にもまた「面白いよ」と勧められた。これはもう、読むしかない…と読み始めたら…ああ、もう離れられなくなってしまった。 子どもはないものの、大勢の甥や姪に囲まれ、親族とも密な関係を保っている初老(一歩手前)の夫婦には寂しさというものはあまりなく、よい関係を保っていた、はず、なのに…夫からの爆弾発言で足元が崩れるような思いをしている女性裁判官。 そこに、宗教的な理由から輸血を拒む少年と両親を相手取り、病院が強制的に輸血を進めようとする案件が持ち込まれる。 物語の筋はこれ以上は詳しくは書かないが、マキューアン初心者の私は、その心理描写の巧みさに舌を巻き、あっという間にとりこになった。 この主人公に自己投影するには、私はまだもう少し年齢が足りないのだが、それでも手に取るように共感してしまう。 仕事にプライドを持ち、仕事を愛し、仕事によってアイデンティティを保つ賢い女性の心の内を覗いてみると、私ともあなたとも変わらない、言葉で説明しきれない不安、不満、焦り、その他のすべてを持ち合わせている。 特に、熟練のピアノ愛好家でもある彼女の、最後の演奏シーンは圧倒的である。物語の結末については賛否両論出てきそうだが、私は好きだ。

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2016/05/14

裁判官としての葛藤はもちろんのこと,それ以上に素晴らしいのは夫婦間の危機の中での心理描写だ.また宗教と法律と医療のそれぞれの信念のぶつかり合い,考えさせられるところが多かった.

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2016/05/02

人間が人間を裁くということ。人間の弱さと可能性はあらかじめ定められた宗教や法律を超える時がある。裁く人間と全知の神に翻弄される人間。

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2016/03/28

どんどんページをめくらせる面白さと、深く考え込まずにはいられない重い問いかけをあわせ持つ、さすがマキューアン、という一冊。 宗教を(とりわけカルトを)批判するのはたやすい。しかし、宗教的迷妄から自由になったとして、それに代わりうる確かなものを私たちは持てるのか。誰しも何かの価値...

どんどんページをめくらせる面白さと、深く考え込まずにはいられない重い問いかけをあわせ持つ、さすがマキューアン、という一冊。 宗教を(とりわけカルトを)批判するのはたやすい。しかし、宗教的迷妄から自由になったとして、それに代わりうる確かなものを私たちは持てるのか。誰しも何かの価値を信じて生きているわけで、そうである以上、独善性からは逃れられない。生きているかぎり、「正しさ」や「意味」を追求することはやめられないだろうが、真摯に考えれば考えるほど、それは苦しい行いになる。 主人公の女性裁判官が関わる裁判の事例が、それぞれに興味深い。正義とは何か、きわめて具体的に考えさせられる。中心となるのは、エホバの証人の信者による輸血の拒否の問題だが、判決に至る思考の過程が丹念に描かれていて、納得の判決となる。だがしかし、それがどんなに精緻な論理で貫かれていても、信者の少年の魂を救うことはできないのだった。この皮肉で冷厳な事実が胸に突き刺さる。 主人公は仕事に忙殺される一方で、夫との問題を抱えているのだが、ここにもマキューアンらしいひねりがある。主人公は裁判官としてはきわめて優秀なのに、身勝手な夫の言い分に動揺する姿は若い娘さんのよう。(夫は、多忙な彼女が「7週間と1日」ベッドを共にしていない事を責め、堂々と浮気を認めさせようとする。なんともまあ…。)このあたりの描写が円熟の筆だなあと思う。

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2016/03/16

今興味のある作家のひとりであるイアン・マキューアン。 普段だと購入派のわたしは出費を抑えるために文庫を待って購入するのだが、マキューアンの作品の多くが文庫化されていないようで、文庫化された「贖罪」は何故か現在入手が出来ない。そこで今回は奮発して、文庫を待たずに購入してみた。 すご...

今興味のある作家のひとりであるイアン・マキューアン。 普段だと購入派のわたしは出費を抑えるために文庫を待って購入するのだが、マキューアンの作品の多くが文庫化されていないようで、文庫化された「贖罪」は何故か現在入手が出来ない。そこで今回は奮発して、文庫を待たずに購入してみた。 すごいわたし。贅沢本読みさん。 女性裁判官フィオーナは、裁判官として様々な問題に向き合うと共に夫との夫婦関係の問題も抱えている。 そんなフィオーナの元に、信仰のために輸血拒否をする少年アダムについての審理が持ち込まれる。成年に僅かに月数の足りないアダムは、知的で思慮にも満ちている。この審理のためにアダムと会うことにしたフィオーナは、アダムと話し自分の考えをまとめる。 この作品に興味を持ったのは、やはり信仰と生死の問題という内容に惹かれてだった。 わたしはこの少年の信仰である‘ エホバの証人’ について個人的には知識はない。以前別の書籍の感想の際に述べたように、キリスト教とエホバの証人とを混同されたかたに気持ち悪がられて辟易したという程度で、だからといってエホバの証人について知ろうと思ったこともない。 ただ、信仰とは生きる支えでありより良く生きるための拠り所と考えるわたしにとって、信仰のために命を失っては本末転倒ではないだろうかと思ってしまう。勿論、個人の信仰に他人が軽々に口を出すべきではないので、こういう考えを家族以外に伝えることは基本ないのだが。 実際に日本でも‘ エホバの証人’ の患者が子供への輸血を拒否するという事件はあったように記憶している。その結果どうなったのかなど記憶にはないのだけれど。 こういう問題は医療や法曹の世界に関わるひとにとっては、非常に大きな問題となってくるだろう。信仰は個人的な問題であるため、一概にこれが正解と言えるものではないだけに大変難しいことだろう。 この作品でフィオーナが出した答えは一体どういうものだったのか、興味のあるかたは是非ご自分で読まれるといいと思う。 本作では他にシャム双生児の結合部離断術に関する問題もフィオーナは扱っている。 このことも以前、ベトちゃんドクちゃんという腰の部分で結合された少年のどちらかの機能が低下したかで離断するしないという報道があったと記憶している。 ベトちゃんドクちゃんの映像に衝撃を受けたと共に、ひとりの命のためにひとりの命が失われるということの是非に速やかに答えを出さなくてはならないという難しい決断に自分なりに頭を悩ませ考えたりした。 この問題も考え方は様々で、元々はひとりとして考えるというものもあるだろうし、心臓など一部臓器は共有しているものの頭部が別れていることからふたりは別の個性を持つひとつの身体という考えもあるだろう。 わたしとしては、明らかにどちらか一方の機能が低下し、それを補うためにもう一方がより負担をし結果命をも失うというのは余りにも惨いとも思える。だからといって、さっさと離断してしまえと言い切れる程後悔なく自信を持って言えるかというとそうでもなく。 この問題でもフィオーナの出した答えに興味があるかたはご自分の目で確認をされると良いだろう。 ひとつだけ言えること、裁判官って大変だ。 裁判官だってひとりの人間であって、神ではない。法律に基づいて決めるだろうけれど、信仰や命についてこうするべきだなどと言い切れるものではないだろう。 わたしには務まらない仕事だなと、敬意をこめて思う。 フィオーナの家庭での私人としての顔と裁判官としての公人の顔、このふたつの側面からフィオーナの心情を描いていく。 夫との問題だけでなく、裁判で関わったアダムとの問題も抱えて悩み惑うフィオーナ。 フィオーナがどういった結論を出していたのなら良かったのか。 いつものように無駄のない美しいマキューアンの文章で、生きるとは何か、信仰とは何か、また、人間の成長や成熟が描かれ最初から最後まで読者ひとりひとりに考えさせる深い一冊。

Posted byブクログ