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ユートロニカのこちら側 の商品レビュー

3.6

21件のお客様レビュー

  1. 5つ

    4

  2. 4つ

    4

  3. 3つ

    7

  4. 2つ

    2

  5. 1つ

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2024/02/03

第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作にして、小川さんのデビュー作。北米を舞台にした目新しい感覚のディストピア小説だ。 冒頭にアシモフの「ロボット工学三原則」が書かれていてそれに惑わされてしまったが、『ロボコップ』のような暴力的な世界ではない。むしろ穏やかで“楽園”と呼ぶにふさわ...

第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作にして、小川さんのデビュー作。北米を舞台にした目新しい感覚のディストピア小説だ。 冒頭にアシモフの「ロボット工学三原則」が書かれていてそれに惑わされてしまったが、『ロボコップ』のような暴力的な世界ではない。むしろ穏やかで“楽園”と呼ぶにふさわしいものだ。だが、その世界のなにが問題かに気づくと空恐ろしい。現代の延長としての「あり得る未来」を創造したという意味で先見性があった。 翻訳調の文体は読みやすいとは言えず、登場人物も平板な印象だが、作家・小川哲の原点がここにある。

Posted byブクログ

2023/11/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

すべての情報管理が進んだ社会という感じで、伊藤計劃『ハーモニー』やオーウェル『1984年』、ブラッドベリ『華氏451度』などを思い出しながら読んだ。 不自由がなくなると、自由というものがなくなり、欲求が満たされると欲求は存在しなくなる。そんな社会では意識はいらなくなる…というような、静かなディストピア感が浮かび上がってくる。 映画館を出た時の感覚は、言語化されてみるとけっこう共感できた。 ==== どこか夢の中にいるような気分だった。ユアーズで過去への冒険をして以来、外の世界に対する焦点がぼやけているような感じだ。質のいい映画を観た後にはいつもこういう気分になる。二時間ほど別世界に閉じこめられ、映画館から出るといつの間にか外は暗くなっている。まっすぐに見えていたものが曲がって見え、曲がって見えていたものがまっすぐに見える。つま先から広がる薄闇、冷たい北風、なんとも思っていなかったネオンサインや町を行き交う人々が、どこか尊くてかけがえのなあいもののように感じられる。現在という瞬間が、絶え間なく続く過去と未来の連続の中で、何か特権的な地位を持っているように思えてくる。(p.100) 「自由とは不自由という堅固な牢獄からの脱獄者である。もし牢獄がなければ、自由は何の肩書も持たない」 人間は、不自由からの解放という形でしか自由を認識できない。不自由がなくなれば自由もなくなる。完全に欲求が満たされれば欲求は存在しなくなる。意識がなくなれば、無意識もなくなる。(p.246) 「忘却が本当に恐ろしいのは、自分が忘却したという事実さえ忘れてしまうことなんです。みんな、都合よく生きるために都合の悪いことを忘却しようとします。忘却するために、別の楽しいことで頭の中をいっぱいにしようとします。そうやって、自分が何かを忘却したという事実すら忘れ去ろうとするのです。次第に、意図せずとも不都合なことは忘れてしまうようになり、最後には、不都合なことはそもそも目に入れないようになってしまいます。罪の原因になりそうなものを、自分の周囲から徹底的に排除するんです。気持ちのいい言葉だけを耳にして、世界が自分の望むように回っていると思い込むんです」(pp.300-301)

Posted byブクログ

2023/09/12

「眼鏡をかけろ、自由を探せ」 個人情報と引き換えに完璧な生活が約束されるアガスティアリゾート ユートピアが実はディストピアだった属フワッと系SFでした フワッと系って何よ?って思われるでしょうが説明が面倒なので語感で察してほしい やれば出来る子ですあきらめないで そしてフワ...

「眼鏡をかけろ、自由を探せ」 個人情報と引き換えに完璧な生活が約束されるアガスティアリゾート ユートピアが実はディストピアだった属フワッと系SFでした フワッと系って何よ?って思われるでしょうが説明が面倒なので語感で察してほしい やれば出来る子ですあきらめないで そしてフワッと系SFとは相性があまり良くない 僕ってほらアウトボクサーじゃん?(知らんわ) スピードで相手を翻弄しつつ、相手の射程外からパンチを当てる 焦った相手が大振りしてきたところをカウンターで仕留めるっていう戦い方ね なので足を止めて打ち合うようなベタ足のインファイトは苦手なんよ フワッと系SFとか純文学ね え?伝わらない?あきらめないで! やれば出来る子だから もうちょっと言うと読書におけるインファイトっていうのは 理解しようと何度も読み返したり、言葉を調べたり、付箋を貼ったり、メモを取ったりという行為ね 作品と正面から向き合ってボコボコに殴り合う読書法です 良い悪いではなくて得意不得意の話ね なので、なんか良くわからんかったけど面白かったなぁ〜という矛盾たっぷりの感想で締めたいと思います

Posted byブクログ

2023/04/09

設定が面白そうだと思い読んでみたけれど、なんだか難しい話だった。舞台がアメリカで翻訳調なのも、少し読みづらかった。 結局、監視下では幸せに暮らせないということなのかな。個人情報の提供もほどほどにと。 でもスマホからどこにどれだけの情報が提供されているのか、実際わからないし怖いよな...

設定が面白そうだと思い読んでみたけれど、なんだか難しい話だった。舞台がアメリカで翻訳調なのも、少し読みづらかった。 結局、監視下では幸せに暮らせないということなのかな。個人情報の提供もほどほどにと。 でもスマホからどこにどれだけの情報が提供されているのか、実際わからないし怖いよな…

Posted byブクログ

2023/01/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

『仕事をせずに暮らすため、プライバシーを捨てますか?』 先日、直木賞を受賞した小川さんが、アメリカを舞台に、高度情報化社会の近未来を描いた作品。視覚や聴覚を含めた個人情報がすべて筒抜けになったら、何が起きるのか?その先に、ユートロニカ【永遠の静寂】は訪れるのか?

Posted byブクログ

2021/12/27

――  此処は、どちら側なのだろう。  さてこれを、いつまでディストピア小説として読んでいられるのかが心配なところである。そういうところも含めてポスト・ディストピア小説、と銘打たれているのだろうけれど、果たして本当にポストなのか。もしかしたらこれって手前なんじゃないだろう...

――  此処は、どちら側なのだろう。  さてこれを、いつまでディストピア小説として読んでいられるのかが心配なところである。そういうところも含めてポスト・ディストピア小説、と銘打たれているのだろうけれど、果たして本当にポストなのか。もしかしたらこれって手前なんじゃないだろうか。  ディストピア建造中?  未完成のディストピア、って書いてみてまぁディストピアの時点で完成はしてないよな、と一旦落ち着いたわけですが、こういう、現行の法やシステムに則って世の中がディストピア化していく途中、というのもぞっとしない。  リゾートという形で現出するディストピア。あるいは、一見理想郷にも見えるアガスティア・リゾートを抱え込んでしまったその世界全体がもう、ディストピアと云えるのか。  リゾート以外でも情報等級、であるとか情報のやりとりはされている様子なので、ある程度の管理社会にはなっているようだけれど…云々、って、そういう過程を見られるのが特に面白かったです。  なんつーか、ディストピア作品って所謂「こんな社会は嫌だ」ってテーマよりも、こうならないために我々に何が出来るのか、という要素のが強くなってきてるのかもしれない。管理社会が既に荒唐無稽でなくなっているいま、例えば管理社会ネイティブ、被監視ネイティブみたいな存在さえ簡単に想像出来て。それは畏れ、を想像することが難しくなっていくことになるのかしら?  自分を監視する視線の消失=神の消失、と繋げていいのかどうか。  しかしどちらかと云うと、ここで描かれるリゾートの適合者はむしろ、狂信者の態度に似ている。だとすると適合出来ない皆は不信心になるのか? いま既に神は消失していて、技術が神の姿を模しているのか。  いやー、お天道様が見てるぜオラ、くらいのがいいかなぁ…  ☆3.8。面白かったです。

Posted byブクログ

2021/03/19

世界観が素晴らしい。作者の頭脳明晰なことが際立っている。近未来を予測させる内容で、非常に面白く読ませて頂いた。

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2020/05/28

アガスティアリゾート マイン社が運営するサンフランシスコ沖合の特別提携地区。そこは住人が自らの個人情報(視覚や聴覚、位置情報などのすべて)への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証される。 しかし、大多数の個人情報が自発的に共有化された理想の街で...

アガスティアリゾート マイン社が運営するサンフランシスコ沖合の特別提携地区。そこは住人が自らの個人情報(視覚や聴覚、位置情報などのすべて)への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証される。 しかし、大多数の個人情報が自発的に共有化された理想の街での幸福な暮らしには、光と影があった。 リゾート内で幻覚に悩む若い夫婦、潜在的犯罪性向により強制退去させられる男、都市へのテロルを試みる日本人留学生。 SFの新世代を担う俊英が、圧倒的リアルさで抉りだした6つの物語。 そして高度情報管理社会に現れる【永遠の静寂(ユートロニカ)】とは。 第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作 (あらすじより) 十二国記後、すっかり冷めてしまった読書熱。 ようやく回復してきた! 1ヶ月くらい風邪も引いてたし…

Posted byブクログ

2020/04/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 少し心が辛くなるような話が多いが、テーマ性が強く、非常に面白かった。マイン社の技術やアガスティア・リゾートを中核として、様々な登場人物の視点から、多面的に描写していく。キャラクター同士の交錯、そして時代の進行とともに変遷していく世論の描き方が面白かった。  特に、ゆっくりと浸透していく技術や作中で描写された世論にはリアリティがあって、世界の前提からして違うハーモニーと比べるのはナンセンスかも知れないが、実際に意識の消失が起こるならこういう風になるのかもと思った。  派手さはないけど、扱うテーマは面白く、情報端末が広く普及した現代だからこそ、身に迫るものを感じた。  もう少し、SNSを通じた意見の発信(とりわけドーフマンが批判されたときとか)を取り入れるとより地続き感が強まったようにも思う。ただここは、意識して省いたのかもしれないし、あまり決定的に評価が変わる部分でもない。  SFコンテストの選評がついているのも、個人的には面白かった。

Posted byブクログ

2019/06/12

進化する機械、即ちAIに様々な危惧を抱く風潮があるけれど、それを扱うヒトの心はどうなるかという声は聞かれない。 高度に進化したAIによってあぶりだされる犯罪を犯す「かもしれない」可能性。それを信じたヒトが、犯罪を犯さない「かもしれない」可能性を殺す。 ヒトの心理における揺らぎのよ...

進化する機械、即ちAIに様々な危惧を抱く風潮があるけれど、それを扱うヒトの心はどうなるかという声は聞かれない。 高度に進化したAIによってあぶりだされる犯罪を犯す「かもしれない」可能性。それを信じたヒトが、犯罪を犯さない「かもしれない」可能性を殺す。 ヒトの心理における揺らぎのようなものを制限し、方向づけてしまいかねない指標をAIは提出し、ヒトはそれを使って自らを固く縛っていく。 どれほど便利なものであろうともそれは全て道具であり、使う者の心が問われる。 自律的であり、自由であり、健やかであることに、ヒトはどこまで向き合えるだろうか。

Posted byブクログ